第16話 『イベント開始と新スキル』

 ——第1回イベント当日。


 ついにこの日がやってきてしまった。


 緊張でドキドキしながらログインして、イベント待機会場に移動する。


 うわぁ……。

 こ、こんなにたくさんの人が参加するのッ?!


 一箇所にこれほどのプレイヤーが集まるのを、初めて見たため圧倒されてしまう。


 緊張の表情を浮かべる者。

 ほのぼのと会話をしている者。

 真剣な表情で準備運動を行う者。

 楽しみでワクワクした表情の者。


 表向きは様々だったけど、みんな一貫して共通していることがあった。


 それは——第1回イベントを全力で楽しもうってこと。


 お兄ちゃんとのリアルデートが懸かってるけど、まずは楽しむことも大事だもんね!


 定刻となり、会場の真ん中に突然1人の女性が姿を現した。


 もちろん【USO】おなじみ、みんな大好きグイデさんだ。


「第1回イベントに参加される皆様……盛り上がってますかぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「「「いぇぇぇぇぇぇいいいいい!!!!」」」

「やる気満々ですかぁぁぁぁぁ?!」

「「「いぇぇぇぇぇぇいいいいい!!!!」」」

「私の名前はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「「「グイデさぁぁぁぁぁんんんん!!!」」」


 いやいや、グイデさん何してるのッ!!


 『してやったり!』と満面の笑みでドヤ顔をキメるグイデさんに対して、思わず心の中でツッコミを入れてしまった。


「さてと、いよいよイベントスタートになりますよ! 内容は事前に告知させていただいた通りのバトルロイヤル形式です———」


 イベントの確認事項についての話が、その後数分間に渡り続き、最後にイベント報酬について触れていた。


 100位以内に入れば、イベント報酬が受け取れるようになるらしい。


 10位以内だと報酬がグレードアップして、トップ3位までに入れば豪華すぎる景品になるとか……。


 難しいかもしれないけど、やっぱり目指すのは3位以内だよね。


 そう考えていると緊張が戻ってきてしまったので、右手をぎゅっと握り、胸元に押し当てて深呼吸を数回繰り返す。


 すぅー……はぁー。

 すぅー……はぁー。


 グイデさんの説明もようやく終わりに近付き、いよいよその時が始まろうとしていた。


「さてさて、皆さん! 準備はいいですか?!」

「「「オオオオォォォォォォォ!!!!!」」」

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1——第1回イベント……スタートですっ!」


 グイデさんのスタートの合図と共に、私を含めた全プレイヤーの周囲が光りに包まれると同時に、イベント本会場へと転送された。



 ***



「う……。どの辺りに転送されたのかな?」


 本会場に移されて、まずは周囲を警戒しながら景色を確認する。


 ここは……草原?

 でもあの近くに見えてるのって、大きな森だよね?!


 イベント会場はどうやら特別に作られたフィールドらしく、様々な環境を混同し用意されているらしい。


「とりあえず、周囲にプレイヤーもモンスターも居なさそうだね」


 いきなり戦闘になったらどうしよう……っと考えていたので、少し安心した気持ちになった。


「最初から目立つのは絶対に避けなきゃだよね。まずは4時間くらい身を潜めて……。そこから隙を見ながらポイントを稼い———」

「おい、お嬢ちゃん!」


 ひっ!!

 えっ?! 

 な、なに?!


 背後から声がしたので後ろを振り返ると、大柄で派手な装飾の施された豪華な鎧を装備したおじさんが立っていた。


「そんなブツブツ喋ってちゃ、ここにいますって言ってるようなもんだろ? ……ってまさか初心者なのか?」


 頭から足先まで、完全に初期装備であることを確認した上で問いかけてくる。


「初心者ですけど……。私に何か用ですか?」


 ど、どどどどうしよう!!!!!

 隠れてやり過ごす作戦だったのに、いきなり見つかっちゃったよ!!!


 言葉では冷静さを装ってるつもりだったが、内心はめちゃめちゃパニックになっていた。


「こいつはラッキー。見たところ無能な【付与術師エンチャンター】か? 先手必勝!! ポイントよこしなぁぁぁぁ」


 鎧のおじさんは左手に盾と右手に剣を持ち、迫ってきた。


 盾と剣ってことは【聖騎士パラディン】なのかな……。

 あわわわわ……私まだ心の準備が。

 何とか撃退しなきゃ……。

 ……って私まだ武器も手に持ってないよっ!!


 そんな私の慌てふためく様子を嘲笑いながら、剣を振り下ろしてきた。


「まずは1ポイントゲットォォ!!」


 反射的に剣を払い除けようと、無意識に左手を前に出してしまった。


 触れた刃の金属の冷たさを感じながら、左手が切断されると覚悟を決め、目をギュッと閉じた。


 ———ボキンッ!!!!


「は? ……なんだこれ!!」


 おじさんの慌てる様子に、ソッと目を開くと左手は何事もなかったかのようにくっついていた。

 もちろん痛みも全くない。


 あれ?

 でもさっきボキンッて大きな音がしたような……。


 目の前で真っ青になっているおじさんの視線の先を見てみると、何故か鋼の剣が見事に真っ二つになっていた。


「え……何これ?!」

「そ、そそそれは、こっちのセリフだぞ! 俺の大事な剣をよくもぉぉぉぉ……」


 おじさんの言葉から予測すると、どうやらこの剣を真っ二つにしたのは私らしい。


 ———ピコンッ。


 ポップ音が鳴り響き、私の前に小さなウィンドウが開かれた。



———————————————————————

『オリジナルスキル《武器破壊》を会得しました』


 ☆《武器破壊》

 ⇒【ルミナ専用スキル】

 ⇒PVP専用で相手の武器を破壊する効果を付与。

 ⇒自身より【STR】値が低い相手に対して常時発動する。———————————————————————



 イベント中でも、スキルが手に入るの?!

 しかも……何このスキル……強いッ!


 私が感心していると、おじさんは半べそをかきながら、盾を構えて殴りかかって来た。


「ぢぐしょぉぉぉぉ!!! 剣が無くても盾でぶん殴ってやるーー!!」


 この《武器破壊》って、もしかして……。

 ——盾も破壊できるかもっ?!


 私はすかさず武器を装備して、横殴りで迫る盾を魔法剣で受け止めた。


 ———バキンッ!!!!


 私の予測通り、盾も見事に真っ二つに割れてしまった。


「な、なんじゃそれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「えへへ、ごめんなさい。えいっ!!」


 丸腰になったおじさんに向けて躊躇なく剣を振り下ろし、見事に初ポイントを獲得できた。


「やった、やったぁ! ベテランっぽい見た目だったけど、実は私と同じくらいだったのかな? ともかくおじさんに勝てたよー!」


 ———————————————————————

『1ポイント獲得しました』———————————————————————



 まさかこのおじさんがトップランカーの1人だとは夢にも思わず、最初の戦闘を無事に終えることができてホッとしていた。


 次も同じくらいの相手だったら、何とかなりそうだよね。


 再度警戒しながら、周囲を見渡し隠れ潜める場所を探してみる。


 今いる草原エリアは論外だし、近くに見えてる大きな森は広そうで迷子になっちゃいそう。

 でも、森を超えないと他のエリアには行けそうにないし……うーん。


ひたすら頭を捻って、考えて……考えて……考えた結果、ある名案が思い浮かんだ。


「そっかぁ! ちょっと範囲が広いけど、この大きな森を全部消しちゃえば通れるもんね。えーいっ!」


 魔法剣を右手に握り、大きく縦に一回振った。


 もちろんスキル———《ルミナ・スラッシュ》を使って。


 ———————————————————————

『《ルミナ・スラッシュ》の熟練値が上昇しました』

『《ルミナ・スラッシュⅡ》に強化されました』

『《ルミナ・スラッシュⅡ》が発動されました』



 ☆《ルミナ・スラッシュⅡ》

 ⇒ルミナ・スラッシュの強化版。

 ⇒一度使用すると自動的に二発の斬撃が放出される。

 ⇒威力・範囲・飛距離が大幅にUP

 ⇒使用可能回数:10回 / 1日———————————————————————


 威力と範囲と飛距離が大幅に上昇した《ルミナ・スラッシュⅡ》は、圧倒的な破壊力を帯びた白銀の斬撃を二発放出する。


 同時に剣圧で暴風が巻き起こり、斬撃プラス剣圧による暴風で木々が根こそぎ消し飛んでいった。


あり得なさすぎる異常現象。

当然森に潜んでいた、プレイヤーやモンスターが対応できるはずもなく、悲鳴や叫び声、唸り声が周囲一帯に響き渡った。



——やがて、完全に沈黙状態となった森のフィールドは、影も形もなく全て灰塵と化してしまっていた。


 ———————————————————————

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

      ・

      ・

      ・

『ポイントを獲得しました』

『ポイントを獲得しました』

『現在の累計獲得ポイントは1891です』———————————————————————



 あわわわわ……プレイヤーいたんだ?

 しかも何このポイントぉぉぉぉぉ?!

 数字絶対おかしいよっ?!


 あれ……もしかして。

 私……やっちゃった?


 慌てふためく私の頭上に、突如現れる王冠のマーク。


 それはイベント開始から5分というタイミングで、ランキングトップ10位以内に入ってしまったことを表していた。

















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