第14話 『ナイトロード』

 これは、私がお兄ちゃんから後で聞いたお話。

 ——お兄ちゃんの物語である。



 ***



 ——時は少し遡り2222年2月2日。


「ようやく『ユニークスキルオンライン』が始まるな。るみなもゲームに誘えたし、最初に色々と準備しておかないとな」


 るみなは俺にとって、大切な妹だ。

 綺麗な黒髪に端正な顔立ち、たわわな胸にきゅっと引き締まった腰、その上天然で優しい性格。

 間違いなく世界一の美少女であると断言できる。


 仲の良い友達は俺のことを、シスコンだと冗談っぽく笑うけど……ここでハッキリと断言しよう。


 俺はるみなのことが大好きなシスコンなのだ!


 いつか本当に恋人として付き合い……結婚だってしたいと思えるほどに、大好きだし、大切に想っているのだ。

 ……おっと、少し語りすぎたな。


 俺は使い慣れた手付きで、VRゴーグルを装着する。


「時間だな。———オンライン、起動ッ!」


 眩い色彩の光線を浴びながら、VR世界にダイブしていく。

 そしてβテスト時と変わらない、真っ白のだだっ広い空間に辿り着いた。

 ……そう、ここは初期設定を行う場所だ。


「あら、βテストぶりですね。ナイトロード様」

「やぁ、グイデさん。久しぶりだね」


USOユニークスキルオンライン】の案内役であるNPCのグイデさん。相変わらず綺麗な容姿だ。


 もちろん、るみなには遠く及ばないけどな。


「ようやく、正式サービスの日を迎えることができました。βテスターの方は、保有されていたゴールドのみ引き継ぎが可能です。引き継がれますか?」


 ゴールドだけ?

 当然レベルも、ステータスポイントも全て引き継がせてもらおう。


「シークレットコマンド『AW24805』を実行」

「コマンド確認……承知致しました。ゴールド及びレベルとステータスポイントの引き継ぎを行います」


 俺が使用したシークレットコマンドだが、大抵のVRゲームにはこういう隠されたコマンドが存在するのだ。


 俺はβテストの際に存在するコマンドを自力で全て解読し、使えそうなコマンドだけを記憶しておいたのだ。


「現在のキャラクターはβテスト使用時のものです。こちらのアバターを使用しますか?」

「もちろん——NOだ! セカンドアバターを作成する」


 今のはアバターはβテストの時に作った、黒髪に紅眼のアバターだった。

 白とピンクが大好きなるみなは、必ず白銀の髪色を選択するだろう。


 兄妹なら髪色は揃えておかないとな。

 ……それに、るみなとお揃いの髪色がいいし。


 俺はセカンドアバターを、白銀のショートヘアと灰眼に登録し、設定を済ませた。

 るみなは眼の色をピンク系にしてくるだろうが、さすがにピンクの瞳にするのは、恥ずかしいのでやめておいた。


「さて、次は職業だよな」

「その通りですね。職業一覧を出しましょうか?」

「いや、必要ない。【暗殺者アサシン】で作成してくれ」

「承知致しました。以上で案内は終了です。最後に———」

「チュートリアルの案内……だろ?」

「……さすがですね。その通りです」


 この【USO】のチュートリアルは、ものすごく長い。

 それ故に全員が必ずスキップをしてしまう。


 だが、俺は知っていた。

 チュートリアルの初回クリア報酬が、とんでもなく破格のものであるということを。


「実は、グイデさんに一つ頼みがあるんだ」

「何でしょうか?」

「俺はこれからチュートリアルを受ける。その初回クリアボーナスを、妹に付けてやってほしいんだ」

「それは、妹さんをチュートリアルに参加させろってことですか?」

「そういうこと。頼めるか?」

「は、はぁ……。構いませんけど、妹さんの名前が分からないと」


 そう言えば初期状態からアバターを作成する際は、最初に名前の入力があるんだったな。


 るみなのことだし、きっと本名を入力するに違いないな。


「『ルミナ』という名前を登録して、アバターの髪色を白銀にしたら妹だと断定してもらって構わない」

「分かりました……。本当に妹さん想いなんですね」


 妹想い?

 ……いや、違うな。


「グイデさん、俺は妹のことが大好きなだけだッ!!」


 ドヤ顔で発言してみたが、流石のグイデさんもドン引きの様子だった。


「あ……はいはい、妹さんのことが好きなのは分かりましたから。早速チュートリアル会場に移動しますよ」


 もう少し、るみなのことについて熱く語りたかったが、グイデさんがそう話すと同時に、瞬間的にチュートリアル会場へと移動されてしまった。


「チュートリアルについての説明は……いりませんね」

「あぁ、大丈夫だ。とりあえず、各モンスター1000体ずつ倒してくるよ」

「そ、そんなにですか?! 獲得できる経験値量等は、確かに1000体が上限ですけど……最低でも丸2日はかかりますよ?」


 丸2日……?

 それはさすがにかかりすぎじゃないか?


「βテスト時に戦ったことのあるモンスターばかりだから、対処法は知ってるし———30分でサクッと終わらせてくるよ」

「はい? ……いやいや、何言ってるんですか? 30分なんて無理ですって! ぜーったい無理ですって!! 無理無理むりでーすっ!!」


 既に準備に取り掛かっている俺の背後で、グイデさんがひたすら『無理だ無理だ!』と声をかけてくる。


「まぁ、そこで大人しく見てなよ」


 俺はそう告げると、30分間明らかに常人を超える域の速度でモンスターを狩り続けた。



 ***



「———ほ、ほんとうに……30分で終わらせるなんて……」

「正確には29分42秒だな。まずまずといったところかな」

「いやいや完全に化け物ですよ……ナイトロード様……」


 やだなぁ。

 人間なのに化け物扱いなんてひどいな。


 βテスト時から少し時間が経っていたため、正直なところ心配だったが、途中から戦闘の感覚を完全に取り戻していた。


「今のチュートリアルで稼いだ数値を、通常の報酬で還元してくれないか?」

「分かりました。あくまで初クリア報酬は、ルミナさんに渡されるんですね」

「当然だ!」


 経験値、ステータスポイントを通常通りに還元してもらい、俺はβテスト時からの数値にそれを加える。


「うん。レベル2021か。これでシークレット職業への転職も可能だな」

「何でナイトロード様は、シークレット職業の解放条件まで知ってるんですか?」


 グイデさんは不思議そうに見つめてくる。


「いや、当然色々と自分なりに調べたからな」

「調べるって、普通のプレイヤーはそこまでのことできませんよ?!」


 そう言われても、本当に詳細な部分まで検証を繰り返し、総合的に予測した上でプランニングした結果なのだから仕方ない。


 俺は転職選択画面を開き、選択肢に載っている取得したかった職業を選択した。



 ———————————————————————

『転職が完了しました』

『シークレット職業への転職ボーナスにより、ステータスポイントが付与されました』———————————————————————



「よし。これで完璧だな」


 俺の満足げな雰囲気を見て、グイデさんも気になったのか質問を投げかけてくる。


「ところで、ナイトロード様は何に転職されたんですか? もしかして【剣聖ソードマスター】ですか? 【破壊王ブレイクキング】ですか?」

「んー。グイデさんには秘密かな」

「な、なんで何ですかー。教えてくださいよ。知りたいです知りたいです知りたいです知りたいですー!」


 必死に懇願してくるグイデさんを、俺は片手で軽くあしらう。


 確かに【剣聖ソードマスター】も【破壊王ブレイクキング】も一撃の火力に特化した、超攻撃職業だ。


 それでも俺は、圧倒的な速度と回避技術、そして手数の多さと数多の汎用性の高いスキルを使用できる【黒夜乃王ナイトロード】を選択した。


 まぁ、俺の名前と同じだったから選んだってのもあるけどな……。


 ただ、普段ならさすがの俺もここまで手厚く準備はしない。

 全てはどんなことが起こっても、るみなのことを守れるだけの力を付けておきたかったからだ。


 頼れるかっこいい兄ちゃんでいたいからな……。


「じゃあグイデさん、俺はそろそろ草原エリアに移動するよ」


 グイデさんは職業を教えてもらえず、未だに拗ねていたが、最後には頬を膨らませながらも手を振ってくれた。


「むー……いってらっしゃい!」

「あぁ、いってくる。妹のこと、よろしく頼んだよ」

「分かりましたよ。きちんと任されました」


 これで俺が事前にしてやれる準備は、終わりだな。

 るみなも初日からゲームを楽しんでくれたらいいな。


 グイデさんの姿が段々と薄くなっていく中、るみなのことを考えながら【USO】の世界へとダイブしたのだった。





 ———————————————————————

【あとがき】


 ここまで読んでいただきました、読者の皆様方……本当に本当にありがとうございます。


 感謝の気持ちをこの場で述べさせてください!


 次回より第2章となる『第1回イベント編』が開幕です!


 ルミナにとって初めてのイベントになります。


 オリジナルの装備を作ってもらうことと、お兄ちゃんとのリアルでのデートを賭けた闘い……。


 果たしてルミナは、ランキングトップ3位以内に入ることができるのでしょうか?!


 拙い文章ではありますが、ぜひ今後とも応援いただけると嬉しいです。———————————————————————







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