第12話 『お兄ちゃんの実力』
——やった、やったよ!!
——あの『クリスタルゴーレム』を倒せちゃった!
「ルミナちゃんーーーッ!!!」
「わっ……アルマさん、ちょ、きゃッ!」
アルマさんは、大喜びで私の所まで駆け寄って飛びついてきた。
続けてキャベさん、ディル、ゴンゴンさんも笑顔で私のところに歩み寄ってきてくれる。
「お疲れ様だったな!」
「かぁ〜っ。まじ最高にかっこよかったぜ、ルミナっち」
「おいどん、ますますファンになったでごんすよ」
みんなが優しく声をかけてくれる。
「でも、きっと私だけの力じゃ倒しきれなかったです」
みんなが最後に後押ししてくれたから、私も諦めずに戦えたことを伝えた。
「ルミナちゃん……いい子すぎるわ。私が【
「えっ! いいんですかッ?!」
アルマさんの申し出は何よりも嬉しいものだった。
これでお兄ちゃんとのデートも、毎回オシャレしていけるよ!
フフフ……お兄ちゃん次のデートは期待しててね。
「それにしても、とんでもなく超レア武器を手に入れちゃったけど装備可能レベルが1500以上って程遠いわね」
「おれっちも超レア武器だったぜ。『クリスタルの魔法杖』って名前だけど、これもレベル1500以上でないと装備出来ないみたいだ……」
聞くと、全員各々の職業に合った超レア装備を入手したとのことだった。
レベル1500以上で装備可能——すなわち、本来であればそのレベルでないと討伐できないほどの強敵ということを意味していた。
ただ初心者の私には、当然そんなこと気付けるはずもない。
「私は装備出なかったです。素材アイテム……クリスタルの魔光石の塊でした……」
「そうなの?! ルミナちゃんそう言えば、武器も防具も初期装備のままだもんね……」
アルマさんに言われてよくよく考えてみると、装備関係は確かに未だ初心者装備のままだった。
見た目がそこまで変じゃないし、気にしてなかったけど、そろそろ新しい武器や防具を新調したいなあ……。
武器や防具を手に入れる方法は主に3つ。
○街でNPCがしているお店で買う。
⇒これは、現段階では初期装備に毛が生えた程度のものしか買えない。
○戦闘や宝箱で入手する。
⇒高レアが期待できる。それなりに良い場面に巡り合っているはずなのに、何故か武具だけはドロップしないよね……。
○【
⇒オリジナルの武具を造ってもらえる可能性が高い。フレンドはリサリサとお兄ちゃんだけ……。
……今度お兄ちゃんの友達に【
スキルの入手みたいに強く念じて手に入れば良いのに、さすがにそう都合良くいくはずもない。
「さて、遺跡に居続けるのもなんだし、外に出ましょうか。あまり長居しすぎると日が暮れちゃうからね」
アルマさんの申し出により、私たちは空っぽになった遺跡を後にし、茜色の夕陽が輝く草原エリアへと戻った。
——まさかこの後、あんなことが待ち受けているなんて、夢にも思わずに……。
***
「——眩しいッ」
遺跡から出ると、それまで地下の暗がりにいた影響で、視界に差し込んできた夕陽に対し、反射的に目を閉じた。
——ガサガサッ。
え……何ッ?!
痛ッ……。
私が目を閉じていた、ほんの一瞬の隙に何者かによって刀を突きつけられていた。
あまりに突然の出来事に反応出来ず、反射的に声を上げようとする。しかし、何者かは刃が首を貫いてしまうかの如く、より強く力を込めて阻止してきた。
「喋んなよ。お前らこの状況分かってんのか?」
ドスの効いた声で刀を持った男の人がそう話すと、何処からとなく30人のプレイヤーが現れ、囲まれてしまった。
「う……最悪ね。あなたたちは……噂の初心者狩りね……」
同じように刃物を突きつけられながら、そう話すアルマさんの言葉に『クエストハウス』で聞いた、初心者狩りの存在について思い出した。
この人たちが、私たちみたいな初心者を困らせてるのね。
許せない……。
「兄貴、見てくださいっす。女いますよ女!! はぁぁたまんねぇ。ヒャッホーーイ!!」
「お前も好きだな……。女共は好きにしていいぞ。男共はこの俺様が直々に痛ぶってやろう」
刀を構えている兄貴と呼ばれた男の発言に、キャベさんたちが身構える。
同時に、下品な発言をしていた男がアルマさんのことを押し倒し始めた。
「や、やめてよッ!!」
「うるせぇぞ! お前もそこの白銀の髪をした巨乳の可愛子ちゃんも、ここで好きにさせてもら———あべしッ」
アルマさんの危機に呆然と見ているだけではいられなくなり、ユニークスキル《ムーブポイント》で瞬間移動して、下品な男を蹴り飛ばした。
「ぱ、パンツが見え……(バタンッ)」
それが下品な男の最後の言葉だった。
「てめぇ、よくも俺様の仲間を倒してくれたな? おっと、ちゃんと周りは見た方がいいぜ?」
兄貴と呼ばれた男がそう話すと、周囲の仲間たちが勢い付いたようにキャベさんたちに刃をチラつかせる。
「ひ、卑怯だよ、そんなの……」
「卑怯もクソもねぇんだよ? これが大人の世界ってやつさ。それとおっぱい女、仲間やられた分はお前で楽しませてもらうぜ?」
「おっぱ——ッ……女子に対してそういう言い方しかできないんですか? 最低ッ!!」
「うるせぇ、そのおっぱい女を取り押さえてろ!」
なす術なく周りの男たちに両腕を押さえつけられ、完全に身動きが取れなくなってしまった。
振り解こうと思えば、解けるけど……。
でもそれをしたらアルマさんたちが……。
——どうしたら、いいのッ?!
私の動きが完全に止まったのを確認し、兄貴と呼ばれる男が近付いてくる。
——いや……いやッ。
——助けて……お兄ちゃんッ!!
心の中で強くお兄ちゃんを念じた時、
『ガチャ……ガチャン……』
どこかで聞いた事のある、鎧のような音が聞こえてきた。
「こんなところで大勢集まって、何か面白そうなことやってるね。俺も混ぜてもらっていいかな?」
その声は紛れもなく、大好きなお兄ちゃんのものだった。
「おにぃ———」
嬉しくなった私は『お兄ちゃん』と叫びかけたが、お兄ちゃんの仕草を確認して、すぐにやめた。
兜の口元と思われるところに人差し指を立てて、静かにするように促してきていたからだ。
「何だ貴様。見たところ初心者ではなさそうだが……。うちに新規加入の場合は、アジトでボスから許可証を貰うってのがルールだろ? 出せよ、許可証」
「いやぁ……それがないんだよね」
「おいおい、まさか失くしちまったのか?」
「いや……アジトが無いんだよね。さっき俺が潰してきたから」
お兄ちゃんのその言葉で、一瞬にして周囲にザワザワと動揺が走る。
兄貴と呼ばれた男も、さすがに驚きを隠せなかったようでボスに連絡を取ろうとしていた。
「嘘だろ……ボスに通じねえ。アジトには500人はいたはずだぞ?」
「あぁ、正確には513人だったな。その全てを俺が制圧しておいた。……ボスだけは真っ先に逃走したみたいだったが、それも仲間が今探しているし時期捕まるだろう」
「へっ……ホ、ホラ吹き野郎が。お前のその黒鎧……【
「だったら、試してみるか?」
「試すも何もそこから一歩でも動いたら、人質にしているそこのおっぱい女を真っ先に———」
その瞬間、お兄ちゃんの姿がほんの少しだけ揺らめいたように見えると、視界から完全に消えてしまった。
それと同時に、両腕を支えていた重みが急に無くなり体制を崩して倒れそうになったところを、すかさずお兄ちゃんが膝をついてお姫様抱っこしてくれた。
——お、おおおおにぃッ……お姫様抱っこォォ!
こんな状況なのに、心臓のドキドキが激しく高鳴ってしまう。
この距離はまずいよっ!!
お、おおおお兄ちゃんに心臓の音聞かれちゃうッ!
……って、あれ……でもさっきまで私、他の男に両腕を押さえつけられてたのにどうして……?
そう思い周りを見ると、兄貴と呼ばれた男以外全員が床に寝転がっていた。
「はぁ? ……ありえねぇ【
「あのさ、誰がいつ……【
「だってよ、貴様のその黒鎧の格好は……」
「これはな、ただのオシャレ装備だ」
お兄ちゃんがそう話すと、オシャレ装備の黒鎧を解除した。
中から出てきたのは、私と同じ白銀のサラサラショートヘア。透き通るように輝く灰色の瞳。そして漆黒柄でタートルネックのロングコートを羽織ったお兄ちゃんだった。
やばッ……お兄ちゃんの素顔だ。
白銀の髪の毛似合っててかっこいい……。
私がお兄ちゃんに見惚れている間に、兄貴と呼ばれた男は冷や汗をかきながら話しかけてきた。
「そ、その姿……【
「そうだよ。職業については半分正解の半分外れだけどな」
「ま、まさか……ユニーク職業ッ!!!」
「そういうこと。今更気付いても、もう遅いけどな」
お兄ちゃんの正体と実力を悟り、さすがの外道の兄貴もたじろいでいた。
「ヒ、ヒヒヒヒ。でもな『ナイトロード』さんよ。俺様のレベルは40……現在のレベルランキングのトップだぜ?」
レベル40ッ?!
私でも結構頑張ってやっと23なのに……。
さすがのお兄ちゃんも、レベル40が相手だと負けちゃうかもしれない……。
そう思い心配そうに見つめていると、お兄ちゃんは静かに口を開いた。
「残念だけど、このキャラは
「はぁ? じゃあ一体いくつなんだ……まさかレベル50とか言うんじゃ?!」
私も気になるお兄ちゃんのレベル。
口角が上がりニヤッと微笑むかっこいいその顔で、お兄ちゃんは驚きの数字を告げた。
「惜しいな。俺は———レベル2250だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます