第10話 『初心者パーティー』

 さて……どのクエストを受けようかなあ。


 お兄ちゃんとの初デートから数日後、私のレベルは『23』になっていた。


 お兄ちゃんの情報によると、街中には『クエストハウス』というクエストを発行してくれる場所があるらしい。


 クエストをこなすと、報酬も経験値も得られるので、私は『クエストハウス』に来ていたのだった。


「でも正直、どのクエストの報酬が良いか……全然分からないよね……」

「あ、あの……今お暇だったりしますか?」


 私がクエスト一覧の載ったボードを眺めていると、突然後ろから見知らぬ人に声をかけられた。


 後ろを振り返ると、狐の耳を付けた少し暗めの茶髪のボブヘアに、初心者装備の女性が立っていた。


 雰囲気的には20代前半の大学生くらいかな?


「いきなり声かけてしまってごめんなさい。私はアルマって言います……」

「あ、いえいえ。私はル———」

「実は、少し困っていて……。私たちのパーティーに入って、助けてもらえませんか?」


 ちょっと、私の名前遮らないでよ!


 アルマさんは急いでいるためか、私の話を遮るだけでなく、かなり早口で話してきていた。


「えっと……見ての通り私初心者なので、困ってるならベテランの方に頼んだ方が良いと思いますよ?」


 当然のことを言ったつもりだったが、アルマさんは何故か口をあんぐりと大きく開け、目を見開いていた。


「わ、私……変なこと言いましたか?」

「いえ、あなた初心者狩りのこと知らないんですか?」


 初心者狩り?

 ……初めて聞いたけど、すごく物騒な言葉。


「初心者狩り……は聞いたことないです」

「ならお願いします! キング、いえクイーンオブ初心者のあなたでないとダメなんです!! この通りです!!」


 クイーンオブ初心者って……ちょっと失礼だよッ!


 アルマさんは続け様に話を進めると、深々と頭を下げてきた。


 当然そんなことをされると目立つので、周囲からも何事かと冷たい視線に晒されてしまう。


「わ、分かりましたよ! 周りでみんな見てて恥ずかしいので、頭下げるのやめてくださいッ」


 正式にパーティーを組んで戦闘する経験も必要になる。せっかくの機会なので、ここで経験させてもらうことにした。


 私の言葉を聞くと同時に、明るい表情を見せたアルマさんは、私の手を掴むと『クエストハウス』の端っこの方に身を寄せていた集団の所まで案内してきた。


「はい、これが私のパーティーメンバーです」


 アルマさんがそう話す三人は、全員が男の人だった。


 えっと……。

 これってそういうお話じゃないよね?


 ナンパかと考え、警戒心を抱いたがどうやら的外れな考えだったらしい。


 男の人たちは、にっこりと微笑みながら挨拶をしてくれた。


「やっと見つかったか。俺は【聖騎士パラディン】のキャベ。よろしくな!」


 キャベさんは単発の緑色の髪の毛に、緑色の瞳。

 そして元より筋肉質なのか、チラリと見える二の腕はしっかりと鍛え上げられた筋肉が隆起していた。


「はいはいー! おれっちはディル。職業は【四大魔法師ウィザード】だぜ。あっちぃ魔法で焼いてやんよ!」


 うん。ちょっとウザいかなぁ。

 ディル……さんはオールバックの燃えるような赤色の髪に、茶色いマントのような服を着ていた。


「おいどんはゴンザレスっていうっす。おいどんのことはゴンゴンって呼んで欲しいっす。職業は【阻害策士トラップマスター】っす」


 これもまたキャラが濃い……。

 ゴンゴンさんは見た目はお相撲さんみたいな人。

 でも、顔はすごく優しそうで動物みたい。

 頭は……禿げている。


「みんなありがとう。そして私はアルマ。職業は【裁縫師ソーイングマスター】よ!」

「さ、裁縫師?!」


 聞いたことがない職業に、思わず反応してしまった。


「やっぱり驚くよね? 実はユニーク職業なんだよね」


 アルマさんが話すには、戦闘では荷物持ちくらいしかできないらしいが、おしゃれ装備の作成や下着等までオーダーメイドで作れるらしい。


 仲良くなったら、お兄ちゃんとのデート用に勝負下着をオーダーメイドできるかも……!


 ……なんて、不純な動機で私は尻尾を振ることにした。


「それで、あなたのお名前は? 可愛らしい女の子だし、ヒーラーさんだと嬉しいんだけど」

「えっと、私はルミナです。職業はごめんなさい……【付与術師エンチャンター】です」


 私の言葉を聞いて、全員が驚きの表情に変わっていった。


 あれ……【付与術師エンチャンター】だと、やっぱりまずかったかな。


 不遇職と連呼されているのを耳にしたこともあるので、パーティーの話も無くなるかと少し心配してしまう。


やがて沈黙に耐えかねてか、アルマさんが口を開いた。


「あのさ、ちょっと待って……ルミナって、あの最初にユニークスキルを会得した?!」

「えっと、そのルミナです」


 私の告白に、キャベさん、ディル、ゴンゴンさんは一斉に身を乗り出すようにし発言を始めた。


「ま、まじか!! かなり話題に上がってる超有名人じゃん」

「ちぇ、おれっちより目立つ期待の超新星スターかよ」

「おいどん、実はファンでした」


 えぇ……私ってそんなに有名になってたの?!


 私が不思議そうな顔をしていると、アルマさんは笑いかけてきた。


「自分が有名人なの知らなかったの? これも何かの縁だし、改めてお願いするわ。私たちのパーティーに一時的にでも参加してください」


 アルマさんたちの表情は、真剣そのものだった。


 変わった人たちだけど、悪い人では無さそうだよね……。

 私で力になれるなら、一緒に遊んでみたいかも。


「私の方こそよろしくお願いします」

『やった!!!』


 私のパーティー加入をメンバー全員が、大歓迎してくれた。


「あの、ところでどんなクエストを受けるんですか?」


 未だにパーティーの目的は分からないので、聞いてみると、アルマさんが得意げに答えてくれた。


「ふっふっふー。私たちのパーティーは見つけちゃったの!」

「見つけちゃったって……何をです?」

「シークレットボス——『クリスタルゴーレム』よ」


 ——シークレットボスって!

 ——強そうだし、戦うの楽しそう!


 両手を組んで、目を輝かせながら話すアルマさんの隣で、私の心も期待で踊っていた。


 ただ、この時の私は気付いていなかった。


前衛盾職業の【聖騎士パラディン

後衛火力職業の【四大魔法師ウィザード

サポート職業の【阻害策士トラップマスター

荷物持ち担当の【裁縫師ソーイングマスター

 ……そしてサポート職業【付与術師エンチャンター


 そうここにはパーティーの生命線であり、必須とされる存在……回復職業【大司教ビショップ】が存在していないことに。



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【ステータス】


 ルミナ[Level:23]


 HP:560 MP:1120


 ▷STR:【14600】▷VIT:【1】▷INT:【1】

 ▷DEX:【1】▷AGI:【1】▷CRI:【1】


【保有ステータスポイント】

 ▷【0】———————————————————————



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【USO攻略&雑談掲示板】


 571:彼女募集中の冒険者

『そう言えばさ、初心者狩りの被害増えてるらしいな』


 572:いちごみるく

『みたいですね。正直怖いです』


 573:ゴリザエモンの息子

『初心者が入手したレアアイテム奪ったり、痛ぶったりするヤバいやつらだよな』


 574:彼女募集中の冒険者

『そうそう。組織みたいになってるらしくて、かなり参加人数いるらしい』


 575:さすらいの旅人さん

『こんにちはです。何か裏では大ごとになってるみたいですね』


 576:ゴリザエモンの息子

『旅人さんこんにちは。噂ではトップランカーたちが動いてるとか?』


 577:いちごみるく

『ナイトロード様がきっと全部壊滅させてくれます』


 578:彼女募集中の冒険者

『それならいいけどな。被害がこれ以上広がる前に何とかして欲しい』

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