第9話 『お兄ちゃんと初クエスト』

 やばいよ、やばいよ……やばいやばいやばいよ。

 嬉しくてやばすぎるよ!!!


 嬉しさのあまり、自室のベッドで仰向けに寝転がりながら、枕に顔を埋めて手脚をバタバタさせていた。


 何が嬉しくてやばいのかと言うと、それはつい先程夕食の席でお兄ちゃんとご飯を食べていた時のこと……。


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「るみな……【USO】はいい感じで楽しめてるか?」

「うん、楽しんでるよ。今日もご飯食べてお風呂入ったら、ログインしてレベル上げしようと思ってるの」

「そかそか。……ちなみにログインは1人でか?」

「うん。急にどうしたの、お兄ちゃん?」

「いやぁ……。今日さ、俺と2人で一緒に遊ばないか? いいクエスト教えるからさ」

「お、お兄ちゃんと2人で?! ま、まぁ、誰かと遊ぶ約束はないし。お、おおおお兄ちゃんがそう言うなら、一緒に遊んであげてもいいよ?」

「よっしゃ。じゃあご飯食べてお風呂済ませたら、遊ぼうな!」

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 ……なんて一生懸命に平然を装って話したつもりだったけど、ドキドキしすぎて激しく動揺しちゃってたよね。


 だって、お兄ちゃんと2人っきりだよ?

 これってもうデートだよね?

 デートだよねっ!!


「顔赤くなってなかったかな。心臓ドキドキしてたの、お兄ちゃんにバレてなかったかな……」


 まだ身体の中でうるさいくらい、飛び跳ねている心臓の音を鎮めるため、胸に手を当てて深呼吸する。


 すぅ……はぁ……。

 すぅ……はぁ……。


【USO】で遊ぶため全く関係ないのだが、初デートだと意気込んで、お風呂での入念なお手入れに加え、白とピンクのレースの勝負下着を装着済みだった。


 さすがにお気に入りのクマちゃんがプリントされた下着だと、子供っぽいって笑われちゃいそうだもんね。


「あっ、そろそろログインしなきゃ。あっちの世界でも顔赤くなると出ちゃうし、気をつけないと。VR世界もリアルすぎて困っちゃうなあ……」


 まさかお兄ちゃんのことを、恋愛対象として大好きだなんてバレてしまえば、家族会議ものになってしまう。


 お兄ちゃんも迷惑するかもしれないし、私はいつも通りの妹を演じなきゃ。


「そう言えば、お兄ちゃんいいクエストを教えてくれるって言ってたけど、どんなクエストなんだろう」


 ワクワクウキウキしながら【USO】へログインし、待ち合わせ場所へと向かった。



 ***



 待ち合わせは草原エリアに立っている、とある大きな木の下でということになっていた。


 今日も変わらずに眩しく照りつける日差しの暖かさを感じながら、私は木陰で木にもたれかかるようにお兄ちゃんの登場を今か今かと待っていた。


「ルミナ、ごめん! お待たせ!」

「遅いよー。……ってお兄ちゃんなの?」


 私が驚いたのも無理はない。


 お兄ちゃんは漆黒のフルプレートの鎧に、漆黒の騎士の兜を装着していたのだ。


 陽光が反射して光り輝くほどに、磨かれた立派すぎる姿に目も心も奪われる。


 か、かっこいい……。


 けど、こんなガチガチの上級者装備をしているプレイヤーは、お兄ちゃん以外で見たことがない。


「お、どうだ? これすごいだろ?」

「お兄ちゃん、もしかして……課金したの?」

「えっと……まぁな……」

「いくらしたの?!」

「その……軽く30万円ほど」

「さ、さんじゅうまん?!」


 まだゲームが始まって1週間も経ってないのに、それはやりすぎだよ!!


「うっ……。ルミナの視線が痛いぞ……」


 むぅ……当然だよ。

 いくら貯めてきたバイト代で払ってるからって、散財しないかちょっと心配だよ。


「そ、それはそうと……。ルミナはいつもと変わらず可愛いな。白銀の髪色も似合っているよ」

「か、かかかか可愛い? ほんと?!」

「ほんとほんと!!」

「……えへへへ。嬉しいなぁ」


 ……はっ……しまった!! 

 課金の話、誤魔化されたし。

 しかも嬉しくてついデレってしちゃった。


 絶対顔赤くなっちゃった……も〜ッ!!


「ルミナ、何か顔赤くないか?」


 や、やっぱり!!

 ——お兄ちゃんが喜ぶこと言ってくるからだよーッ!


 ドキドキしないように深呼吸までしてきたのに、またまた心臓のバクバクが止まらなくなってしまった。


 ……ただそんな私にも、一つだけ不思議に思っていることがあった。


 どうしてお兄ちゃんは、急に一緒に遊ぼうって誘ってくれたんだろう。


 トップランカーとしての実力を維持し続けるには、僅かな時間も惜しいはずだし。私と一緒にいるより、レベル上げをしている方がきっといいはずなのに……。


 どうしても気になったので、クエスト発生ポイントの場所までの道中に聞いてみることにした。


「あのね、お兄ちゃん。どうして今日はデー……じゃなくて、一緒に遊ぼうって誘ってくれたの?」

「いや、まぁな……」


 お兄ちゃんはただ一言、それだけしか言わなかった。


「言えるかよ……。【USO】の掲示板でルミナに対しての変な書き込みを見つけたからって。ルミナのことが心配だから守りたいなんて……」


 首を反対側へ傾けて、ボソッと一言小さな声で話していたが、その内容を私は聞き取ることができなかった。



 ***



「ほら、ここが例のクエストの場所だよ」

「わぁ……大きな黒い岩と、女の人?」

「そうそう。その女の人に話しかけてみな」


 私が女の人に話しかけると、目の前置かれた黒い大岩のせいで道が塞がれており、大きなリュックサックが重くて運べなくて困っているので、運んで欲しいと言われた。


 続けてクエストのポップが表示される。


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【ボーナスクエスト: 女性の荷物運びの手伝え】

 ▷クエスト達成方法

 ⇒目的地まで女性を連れて荷物を運ぼう


 ▷クエスト報酬(①②③の全て取得可能)

 ⇒①SP100 ②10万ゴールド ③ R装備宝箱———————————————————————



「これって、報酬豪華すぎない?!」

「だろー? まぁこの回り道するのが結構時間かかるから、そう考えれば相応の報酬かもな」


 え……回り道しなきゃいけないの?

 それよりこの岩壊しちゃった方が速くない?


 目の前の黒い岩は確かに大きかったが、この前壊してしまった洞窟の方がもっと大きかったので、簡単に出来そうだと感じていた。


「あのね、お兄ちゃん。これってあの黒い大岩を壊したら、女の人簡単に通れるんじゃない?」

「え……いやいや、さすがにフィールドオブジェクトは破壊できない——」


 お兄ちゃんの話を聞かず、魔法剣を装備し《ルミナ・スラッシュ》と叫ぼうとした。……が、慌てて口を閉じる。


 お兄ちゃんの前で《ルミナ・スラッシュ》って言っちゃうの恥ずかしいよ……!!


 大人しく魔法剣をしまうと、素手のまま黒い大岩に近付き、グーにした拳に力を込めて思いっきり叩きつけてみた。


「えいっ!!!!!」


 ——グァァァァァァァァァァァァァァ!!!!


 突然黒い大岩から叫び声が上がったかと思うと、目の前で光のエフェクトが発生し、弾けるのと同時に消え去ってしまった。


『黒竜王ブラックベリルを倒しました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『SP獲得時に《グイデの恩恵》が発動しました』

『ユニークスキル《ドラゴンフォース》を会得しました』

『称号:【ドラゴンスレイヤー】を入手しました』

『称号:【竜王を継ぐ者】を入手しました』

『黒竜王のコア×1を入手しました』

『黒竜王の牙×2を入手しました』


 えぇぇぇ?!

 何これ……またまた変な通知が来たよ?


 黒い大岩だと思っていたものは、まさかのドラゴンが身体を丸めた姿だったなんて。


 どうやらお兄ちゃんにも討伐とレベルアップの通知が来たらしく、ただただ驚いた様子だった。


 兜越しだったが、焦りを隠せない様子で私の方に振り向いてきた。


「ぶっ、ハッハッハッハッ……。あの黒いのが【USO】の表紙にも出てる黒竜王だったなんてな。しかもルミナ、ドラゴン素手で倒すとか馬鹿力すぎだって」

「あうあうぅ……馬鹿力違うもん! たまたまだもん……。力なんてないもんーーっ」


 お兄ちゃんはどうやら、規格外すぎる私の行動を面白く感じたらしく、大笑いしていた。一方で、私は初デートで馬鹿力なんて言われたので、内心ショックだった。


 どうしよう……。

 ゴリラのルミナなんて思われてたら。

 もう遊んでもらえなかったらどうしよう……。


 そう考えるだけで、涙が自然と溢れて出てきてしまった。


「ちょっ、ルミナ泣かなくても。ほら、こっちおいで」

「だって……だってぇ……ぐすっ」


 私がお兄ちゃんの傍に寄ると、お兄ちゃんは籠手を外し優しく頭を撫でてくれた。


 ずるい……お兄ちゃん。

 ここで優しくするのは、ずるいよ……。


 せっかく深呼吸までして整えてきたのに、この時点で私の顔は、真っ赤になり火照ってしまっていた。


「ルミナと一緒だと、楽しいからな。またいつでも一緒に遊ぼうな」

「うん……うんっ! お兄ちゃん……だいす——」

「ん……? 大豆?」

「な、なんでもないよッ!!」


 あ、危ないッ……。

 ドキドキと身体の火照りで頭がポーッとしてたから、危うく告白しちゃうところだったよッ!!


 視界にポップアップされた【特別クエストクリア報酬】という、最も気にすべきところをそっちのけで、私はお兄ちゃんとの時間を堪能するように過ごしたのだった。



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【ボーナスクエスト: 女性の荷物運びの手伝え】

 ⇒『特別クエストクリア報酬に変換されました』


【特別クエストクリア報酬】

 ▷クエスト報酬(①②③の全て取得可能)

 ⇒①SP500②100万ゴールド ③ SR装備宝箱


『クエスト報酬を全て獲得しました』

『SP獲得時に《グイデの恩恵》が発動しました』———————————————————————


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【ステータス】


 ルミナ[Level:18]


 HP:460 MP:920


 ▷STR:【6600】▷VIT:【1】▷INT:【1】

 ▷DEX:【1】▷AGI:【1】▷CRI:【1】


【保有ステータスポイント】

 ▷【7000】———————————————————————


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【新スキル情報】


 ☆《ドラゴンフォース》【ユニークスキル】

 ⇒効果は称号:【ドラゴンスレイヤー】を持つ者のみに限定。

 ⇒全ステータス2倍。最低ステータスが一桁の場合のみ、2倍ではなくその数値を+自身のレベル分にする。

 ⇒効果時間:30分

 ⇒使用可能回数1回/ 1日———————————————————————



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【レア素材アイテム入手】


 ▷【黒竜王のコア】

 ⇒ユニーク防具を作成する際に使用が可能なレア素材アイテム。


 ▷【黒竜王の牙】

 ⇒ユニーク武器を作成する際に使用が可能なレア素材アイテム。

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