第8話 『洞窟壊しちゃいました』
平日になると、学校が終わってからの【USO】ログインになるので、ゲームできる時間が限られてしまう。
今日はせいぜい遊べても2〜3時間というところかな。
お兄ちゃん……いや、大学生はいいなあ。
大学ではオンライン授業がメインのため、物理的に学校へ行く必要もなく、お兄ちゃんは朝から【USO】に没頭していた。
「お兄ちゃん、一緒に遊んでくれないかな。部屋勝手に入ったら怒られちゃうかな……」
ちなみにリサリサは今日は予定があり、一緒に出来ないとのことらしい。
一緒に遊んで欲しかった私は、こっそりお兄ちゃんの部屋まで移動して扉を開くと、隙間から部屋を覗き込んだ。
お兄ちゃんの姿は見えなかったが、薄暗い部屋の中で、VR機器の光がほのかに光っているのが確認できた。
やっぱりお兄ちゃん【USO】にログインしてるんだ!
お兄ちゃんと遊びたかったのに……ぐすん。
でも部屋からはお兄ちゃんの匂いがすごくしたので、一緒に遊べない分いっぱい吸い込んでおくことにした。
すんすん……すんすん……。
——はぁ。充電完了!
今日一緒に遊ぶことは難しそうなので、結局一人でログインし探索することに決めた。
***
「何回見ても、綺麗だしいい景色だなあ」
ログイン後、街からかなり外れた草原エリアの来たことがないところまで移動してみていた。
昨日はあれからスキルは手に入らなかったけど、色々試してみたら新しく手に入るかもしれない。
そんな期待から、私は散策を続けていた。
「あれ、こんなところに洞窟? 入ってみようかな」
灰色の岩石でできた小さめ洞窟だったが、薄暗くて中ははっきりと見えなかった。
少し不気味だったが、中の確認が出来ないからこそ、冒険心がくすぐられ、足を踏み入れてみることにした。
う……ッ。
洞窟の中って寒ッ!
両腕を前で組み、少しでも体温が保てるように身体を小さくしながら進む。
ただでさえ目立つ胸が、より大きく強調されるようで自分でも恥ずかしさを感じてしまった。
うん……周りに誰もいなくて、良かったよ。
でも、何で草原エリアに洞窟なんてあるんだろう……。
私が疑問に思い歩みを進める内に、洞窟内に異変が起こり始めた。
——キキキキキッ!!!!
な、何の音?!
気のせいじゃ、ないよね?
——キキキキキッ!!!! バサバサッ!
バサバサッ……?
……って何?!
暗闇に目が慣れていなかったため、しっかりと見えていなかったが、そこには至る所にコウモリ……コウモリ……コウモリ……。
コウモリが山盛り、盛り盛り、てんこ盛り。
数を数えることも不可能なほど、大量のコウモリが存在していた。
「コウモ……イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」
暗がりで黒いモノが見えてしまうだけで、恐怖でしかないため反射的に叫び声を上げてしまった。
コウモリたちはその叫び声を聴き、一斉に私の方へと襲いかかってくる。
——ガブガブ……ガブガブ……ガブガブガブガブ……。
洞窟から外に出ようと必死に走るも、その間にひたすらコウモリに齧られる。人生初のコウモリに齧られる体験……控えめに言わなくても最悪すぎる。
でもその我慢もあと少し。目の前に広がる外の明かりにすがるかのように、ラストスパートをかけ———るつもりだったが、足が全く動かない。
それどころか身体が言うことを聞かなくなり、その場で仰向けに倒れ込んでしまった。
「う、うそ……。何で?!」
急いで自分の状態を確認しようと、瞳をズラし画面左上に小さく載っているパラメータを見つめる。
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ルミナ[レベル5]
HP:150/200
MP:400/400
【状態異常:麻痺】———————————————————————
状態異常……麻痺。
私が動けなくなった理由は、どうやらコウモリに齧られた際に麻痺を付与されてしまったかららしい。
付与術師なのに、状態異常を敵に付与されてしまうなんて……皮肉すぎよ。
当然、動けなくなっている私はコウモリたちからすれば格好の的。追い討ちをかけるように一斉に襲いかかってきた。
「イタッ……イタイイタイッ……あぅ……」
HPはみるみるうちに減っていく。
128……104……99……76……51……37……15。
「ど、どど、どうしよう……」
動けない⇒噛まれる⇒麻痺付与される⇒動けない……。
ちなみに麻痺中はスキルも使用が出来ないらしく、完全に詰んでいた。
最悪のルーティンにハマってしまい、デスペナルティを覚悟した——その時!
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『ユニークスキル《ライフリカバリー》を会得しました』
『ジョブスキル《パラライズ・ショック》を会得しました』
『エクストラスキル《イルネスリバース》を会得しました』
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「や、やった! 新しいスキルだぁ。タイミングよすぎるよ!」
ユニークスキル《ライフリカバリー》の効果なのか、HPが自動的にみるみる内に回復していき、あっという間に全回復した。
こ、これで外に出られる!
そう思った束の間、身体がまだ動かないことに気が付いた。
「麻痺は……まだ解除されないの?!」
何としてでも攻撃を防ぐか、麻痺の効果を消さなければ動くことができない。
動けなければ、やられちゃう……。
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『エクストラスキル《イルネスリバース》の使用が可能です。使用しますか?』
《イルネスリバース》——自身に状態異常をかけた相手へ付与し返し、自身の状態異常を回復させるスキル。
【▶︎YES / NO】
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「これなら動けるようになるかも! YESしかないよ!」
麻痺は最後に噛み付いてきたコウモリに付与され、私は動けるようになった。
よしっ。続いて!!
「ジョブスキル《パラライズ・ショック》発動!」
《パラライズ・ショック》は字面的に、相手に麻痺を付与するものだと思ったので、洞窟を抜けるまでの時間を少しでも稼ぐために使用してみた。
コウモリたちはみるみる内に麻痺状態となり、自慢げに羽ばたく翼は意味を失い、床にボトボトと落ちていった。
単体付与かと思っていたが、どうやら《パラライズ・ショック》は、私を中心とした一定範囲に麻痺効果を付与するスキルらしい。
……めちゃくちゃ有能すぎない?
「ってそれより……気持ち悪いっ。黒いの床でモゾモゾしてるのキモすぎるよッ!」
大急ぎで洞窟の外に駆け出し、ようやく眩しく照りつける日差しの元に出ることができた。
こんな洞窟必要なの?
……絶対いらないよね?
——よしっ。壊しちゃおう!
魔法剣を手に、少し距離を取り洞窟目掛けてブンブン振り回す!
「《ルミナ・スラッシュ》《ルミナ・スラッシュ》———」
お得意のユニークスキルを《ルミナ・スラッシュ》を計7回使用すると、洞窟は跡形もなく吹き飛び、ついでに周辺の草木も根こそぎ綺麗さっぱりになり、ただの荒廃地帯が出来上がった。
『バイト・バットを倒しました』
『バイト・バットを倒しました』
『バイト・バットを倒しました』
『バイト・バットを倒しました』
『バイト・バットを倒しました』
『バイト・バットを倒しました』
『バイト・バットを倒しました』
・
・
・
・
・
・
『バイト・バットを倒しました』
『洞窟のヌシを倒しました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『SP獲得時に《グイデの恩恵》が発動しました』
『【ランダムスキルの巻物】を入手しました』
『コウモリの羽×385個入手しました』
『コウモリの牙×197個入手しました』
え……何これ。
洞窟壊しただけなのに、とんでもないことになっちゃった。
コウモリしか見えなかったけど、ヌシなんていたの?
私はログを見返しながら、入手していた【エクストラスキルの巻物】をアイテムBOXから取り出す。
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【ランダムスキルの巻物】
※エリア内の隠れヌシを討伐すると入手可能。
⇒ランダムでスキル入手可能です。一度使用すると元に戻せません。
⇒ジョブ・エクストラ・ユニークからランダムで排出されます。
アイテムを使用しますか?
【▶︎YES / NO】———————————————————————
やった! 詳しくは分からないけど、スキルが手に入るんだよね?
なら、もちろん使うしかないよね!
『エクストラスキル《エンハンススロウフィールド》を会得しました』
よ、横文字長ッ!!
えんはんすすろう……。
う、うん……とりあえず詳細だけでも確認しておこうかな。
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【ステータス】
ルミナ[Level:8]
HP:260 MP:520
▷STR:【6600】▷VIT:【1】▷INT:【1】
▷DEX:【1】▷AGI:【1】▷CRI:【1】
【保有ステータスポイント】
▷【0】
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【新スキル詳細】
(☆はバフ系及び攻撃スキル)
(★はデバフ系スキル)
★《パラライズ・ショック》【ジョブスキル】
⇒一定の範囲内の全てに麻痺効果を付与する。
⇒麻痺:移動制限・アイテム使用制限・特定スキル以外の使用制限。
⇒効果時間は【DEX】値により変化。最低5秒。
⇒再使用可能時間:3分
⇒消費MP値:30
★《イルネスリバース》【エクストラスキル】
⇒受けた状態異常の効果をそのまま相手に返す。自身の状態異常は完全に回復する。
⇒効果時間:5秒
⇒再使用時間:60秒
⇒消費MP値:50
☆《ライフリカバリー》【ユニークスキル】
⇒自身のHP値が一定値を割り込んだ際に、自動的に発動する。
⇒HPを全回復する。
⇒使用可能回数:1回 / 6時間
★《エンハンススロウフィールド》【エクストラスキル】
⇒敵単体の【AGI】を半減させる。
⇒効果時間:60秒
⇒再使用時間:5分
⇒消費MP500
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