第5話 『Vtuberアイドル』

 ——【USO】ゲームスタート2日目。


 今日は、小学生の頃からの大親友で、今も同じ高校で同じクラスの『新堂しんどう 紗里奈さりな』と一緒に遊ぶ約束をしていた。


 紗里奈は『リサリサ』というかなり名の知れたトップVtuberアイドルで、よくゲーム実況もしているんだよね。


 時計を確認すると2222年2月3日(日曜日)の9時を指し示している。


「そろそろ紗里奈との約束の時間だし、ログインしちゃおっと」


 私は昨日と同じようにベッドで横になり『オンライン起動!』と叫んだ。



 ***



「わぁ……綺麗な街の景色」


 ログインした私の目に最初に入ってきたのはレンガの建物の並び立つ街。そして優雅な音を立て、水飛沫を上げる噴水。


 現代世界とは大きく異なる、古き良き時代の景色が高画質で再現されていた。


「感触も……ある。手触りも本物そっくり……」


 床に落ちていた小さな石を拾い上げ、にぎにぎしながら、その再現度の高さに驚かされた。


「る〜み〜な〜! 相変わらずいい触り心地だね」

「ひゃっ……ん、あんっ。……って紗里奈〜!!」


 後ろから突然現れた紗里奈は、挨拶代わりに私の胸を堪能するかのように揉み揉みしてきた。


 触られる感触もリアルなため、思わず甘い吐息が溢れてしまった。


「ごめんごめん! ルミナが可愛いからついつい。あとこっちで紗里奈は禁止!」

「もう、ついついじゃないよお……。えっとリサリサだったよね?」


 紗里奈……いや、リサリサは黒髪を水色のリボンでツインテールにしており、眼はアクアマリン色に染めていた。服は私と同じ初期のものだが、これまた黒と水色を基調としたものにしていた。


「リサリサは、相変わらず黒と水色が好きだね」

「そう言うルミナだって、白とピンクじゃない?」

「だね。やっぱり安定の!」

「うんうん、安定のだよね!」


 VRの世界なのに、普段の学校の時と同じように2人の時間は過ぎていく。やはりリサリサと一緒にいると楽しい。


「とりあえず、モンスターでも狩りに行く? レベル上げもできるし、色々レクチャーしてあげるよ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いしまーす(笑)」

「任せたまえ〜(笑) ……そうだ、既に動画は撮ってるんだけど、ゲーム実況動画として後で編集して配信してもいい?」

「え、もう撮ってるの? うぅん……」


 正直なところ、配信等は抜きで2人だけの時間を楽しみたかった。


 でもVtuberアイドルを一生懸命に頑張ってるみたいだし、友人として応援してあげた方がいいよね?


「分かったよ。でもアバターほとんどリアルなままだけど、顔バレちゃったりはいいの?」

「ありがとうー! うん、そこは平気。むしろトップVtuberアイドルの素顔に近い姿ってことで再生回数も稼げると思うし」


 なるほど……。

 確かにそういう考え方もあるのかな。


 動画で撮られていると分かると変に意識してしまって緊張で顔の強張りを感じてしまう。


 そんな中リサリサからパーティーの参加申請を受けると、私たちはオープンフィールドへ足を踏み入れた。



 ***



「え、えっと、ここがオープンフィールドの草原エリアになりまーす!」


 私は、目の前に広々と生い茂る、背の高い草を紹介するようにリポートした。


「ルミナ、実況は生じゃないからリポートしなくても大丈夫だよ? 音声は後で編集する時に入れるから!」


 えぇ?!

 ……ってことは私1人で草原見てはしゃいだみたいになるの?!


 そう考えると、ひたすら恥ずかしくなった。


「それにしても風は気持ちいいし、ちょっと走りたくならない? ルミナ、ちょっとあの大きな岩まで走ろ!」

「え、ちょ……ちょっと待ってよ!」


 合図もなく、急に駆け出すリサリサの後ろを必死で追いかける。2人の距離は縮まる事なく同じ速度で走り続けていた。


「このゲームのいいところだよね! 【AGI】へのステータス振りがなくてもリアルと同じ速度までなら走れるのって」


 私の中では走れることは当たり前だと思っていたが、どうやら他のゲームでは【AGI】にポイントを振り分けないとゆっくりとしか歩けないらしい。


 そんな設定の世界で同じポイントの振り分けをしていたらと考えると、少しゾッとしてしまった。


 目的の岩に辿り着き、上がった息を整えるべく深呼吸を数回繰り返した。


「あ! そう言えば、ルミナは職業何選んだの?」

「えっと……【付与術師エンチャンター】だよ」

「えっ……?!」

「だから、えんちゃ———」

「えぇぇぇぇ……よりによって最弱職業なんて選んだの?! 【付与術師エンチャンター】って最初に何もスキル使えないんだよ?」


 何でって言われても。

主要な役割は熟せそうになかったし、サポートくらいならできるかと思ったんだもん……。


 ……ってそれよりも、えっ?


 リサリサが最後に耳を疑うようなことを、言っていることに気付いた。


 ——最初に使えるスキルがないの?!


 私は慌ててスキル一覧の載ったウィンドウを開こうとした……その時!


「あっ、モンスターきたよ! 私、昨日でレベル4まで上がってるし、まずはお手本も兼ねて【死霊術師ネクロマンサー】の力を見せてあげるね!」


 突如光に包まれて現れたのは、チュートリアルでもお馴染みの猪モンスターである『ワイルド・ボア』。


 リサリサは持ち手が黒く、刃がギラリと銀色に輝く巨大な鎌を装備し『ワイルド・ボア』と相対した。





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【USO攻略兼雑談スレ】


 88:名無しの権左衛門

『おつー。初日のレベリング集計結果でてたな』


 89:ゴリザエモンの息子

『おつおつ。出てたな。トップはレベル5で今のところ3人か』


 90:たらこくちびる

『その3人の中にあのお方の名前もあったな』


 91:彼女募集中の冒険者

『……ナイトロードか。やっぱ【USO】でも無双するのかな』


 92:おむすびまんまる

『ナイトロード様の職業は【暗黒騎士ダークナイト】らしいです』


 93:名無しの権左衛門

『【暗黒騎士ダークナイト】ってパーティーで必要か?』


 94:たらこくちびる

『主要ではないけど、火力も高いしいい感じじゃね?』


 95:いちごみるく

『ナイトロード様応援してます。大好きです』


 96:彼女募集中の冒険者

『やっぱナイトロードモテるんだな。ってかいつも一緒にいるパーティーメンバーは可哀想だな』


 97:ゴリザエモンの息子

『何で?』


 98:彼女募集中の冒険者

『だって、それなりに強いはずだけど、結局ナイトロードが目立ちすぎて名前すら覚えられてない』


 99:いちごみるく

『ナイトロード様が特別なので仕方ないですよ』


 100:ゴリザエモンの息子

『ナイトロードをびっくりさせるほどのプレイヤーいないかな。ちょっと期待してる……』


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