第4話 『ステータス』
——"ブゥゥゥン"
ステータスウィンドウがポップされる音が響き、私はそれをじっと見つめる。
———————————————————————
【ステータス】
ルミナ[Level:1]
HP:100 MP:200
▷STR:【1】▷VIT:【1】▷INT:【1】
▷DEX:【1】▷AGI:【1】▷CRI:【1】
【保有ステータスポイント】
▷【5000】———————————————————————
うわぁ……。何これ?
英語は苦手ではないけど、略語すぎて全く理解できない。
私が目にしたことがあるのは、HPとMPくらいだった。
「HPとMPはレベルが上がると自動的に増えます。ちなみに【VIT】でもHP……【INT】でもMPは上昇しますよ」
……なるほど。MPの重要性は分からないけど、HPは間違いなく多い方が倒されにくいだろうし、これが重要になってくるかもしれない。
「あの、グイデさん。他のステータスについても教えてもらっていいですか?」
「——ステータスポイントを振り分けてください」
「だから、あの……他のステータスについても教えてほしいんですけど……?」
「——ステータスポイントを振り分けてください」
うぅ……。
このポンコツーーーッ!!!
さっきまで普通に話していたのに、急に同じ事を繰り返し話すようになる。
どうやらステータスの振り分けに際し、運営側が介入することなくプレイヤー自身に委ねて、オリジナリティに富んだキャラ作りをさせようとしているらしい。
初心者の私からしたら、そんな仕様は迷惑でしかないんだけど……。
ポップされたステータスウィンドウを閉じることもできず、ログアウトのボタンも表示出来ない。
強制的にログアウトすることは出来なくはないが、ここまでオートセーブされた形跡がなかったため、チュートリアルクリアのデータまで無かったことになってしまう可能性が高い。
「ぐぬぬ……。お兄ちゃんにも相談することが出来ないなんて……」
もはや覚悟を決めて、ステータスを振り分けるしかなかった。
まずはさっき確認できた【VIT】……これにはHPも増えるし、振り分けた方が良さそうだ。
……【STR】ってSTARのことかな? 星?
……【INT】はえっと、イント? イントロ?
……【DEX】は、あっ! デラックスかも!
……【AGI】はアジ? お魚釣れるのかな?
……【CRI】は栗? 調理が上手になるの?
うん。一生懸命考えても全く分からない。
せめて略語ではなく、正式名称で表記されていれば、英語表記でも理解できるのに……。
「もういくら悩んでも分からないし、私の名字の『
カーソルを合わせて、ステータスを振り分けていく。
「ステータスポイントを振り分けてください!」
「ステータスポイントを振り分けてください!」
「ステータスポイントを振り分けてください!」
「ステータスポイントを振り分けてください!」
「ステータスポイントを振り分けてください!」
ちょっと、グイデさん?!
今一生懸命、やってるもんっ!!
グイデさん、まさかすぎる鬼の猛攻。
何故か急かされ続けるため、大慌てでステータスを振り分ける。
———————————————————————
『初期ステータスの振り分けに成功しました』
———————————————————————
はぁ、やっとできた。
うん、どれどれ……っと。
———————————————————————
【ステータス】
ルミナ[Level:1]
HP:100 MP:200
▷STR:【5000】▷VIT:【1】▷INT:【1】
▷DEX:【1】▷AGI:【1】▷CRI:【1】
【保有ステータスポイント】
▷【0】———————————————————————
「あれ? もしかして私、やっちゃったかも?」
慌てすぎてしまったため【VIT】に振り分けるのを、すっかり忘れてしまってらしい。
「一度振り分けたステータスは、二度と戻せませんので気をつけて振り分けてくださいね」
ニッコリ微笑むグイデさん。
ちょっとそれ、今言ってほしくなかったよね!
普通それステータス振り分ける前に説明するよね?!
一生懸命頑張ってきた時間が、無駄になってしまったかのような喪失感を覚える私に、グイデさんは笑顔を崩さず冒険への案内を告げてきた。
「さあ、ルミナ様。いよいよゲームスタートですよ! 【
視界がどんどん真っ白に移り変わっていき、手を振りながら見送ってくれるグイデさんの姿が見えなくなっていく。
……はぁ。ステータスの件は悔やんでも、もう元に戻せないし、オープンフィールドってところで待ってくれてるお兄ちゃんに後で相談してみよっと。
気持ちを切り替え、目の前に超高画質のバーチャルワールドが広がることにワクワクしながら、私は真っ白の世界が明けていくのを待った。
……あれ?
何か揺れてる?
周囲はまだ真っ白で何も映っていないのに、身体が揺さぶられるような感覚がある。
え、何これっ?!
……ッ地震?!
「——ハッ!」
強制ログアウトさせられたため、急いで目を開けると、視界には電気の付いた自室の天井が飛び込んでくる。
「うぅ、眩しい……ってあれ……?」
「あれ? じゃないって!」
「え! ……って、おおおおお兄ちゃんッ!! どどど、どうして私の部屋にいるの?!」
どうやら地震ではなく、お兄ちゃんがログイン中の私を揺さぶり、起こしてきたらしい。
……ってことは、お兄ちゃんに寝顔見られた?
だらしない顔見られてたの?!
いやいや、それより私ブラしてないしッ!!
恥ずかしさから、顔が真っ赤に火照るのを感じつつ、急いで枕を抱き抱えるようにして胸元を隠した。
「るみなが全然オープンフィールドに来なくて、さすがに心配で起こしに来たんだけだから、そんなに慌てなくても……。それより、顔赤いけど熱でもあるのか?」
「ひゃ……んっ」
お兄ちゃんの大きくてひんやりとした手が、私の額に押し当てられ反射的に変な声が漏れてしまう。
「ね、ねね熱はないから! だ、だだ大丈夫だから!!」
「びっくりした。……まあ、多分大丈夫そうだな」
お兄ちゃんが自室にいるだけでも、ドキドキするのに、2人っきりで触れられていると思うだけで変に意識してしまい、私の心臓はもちそうになかった。
「それはそうと、何で来なかったんだ? 今何時だと思ってるんだよ」
「え、えっと……午前11時だね」
私はスマホで時間を確認して、もう1時間も経過していたことに驚いていた。
「いや、午後だよ! 午後! 何時間待ってもいないどころか、ずっとログインしっ放しだし、父さんも母さんも早くご飯食べなって言ってたよ」
「えええ……午後?! そんな時間経ってたなんて……。お兄ちゃんごめんね……」
まさか13時間も経過していたなんて……。
自分がどれだけチュートリアルにのめり込んで、楽しんでいたのか改めて驚かされた。
「いや、まぁ……るみなが楽しんでくれてたならそれでいいんだよ。その様子じゃだいぶハマってくれたみたいだし。俺もレベル上げに専念して『5』になったしな。多分初日の最高記録だぜ?」
「そ、そうなんだ。さすがお兄ちゃんすごいよ!」
あれ……レベル『5』ですごかったんだ!
グイデさん、レベル『20』分のステータスポイントしかくれなくて、ケチって思っててごめんなさい。
私の声がグイデさんに届くことはないが、心の中で謝罪しておいた。
「それで、るみは……職業は何にしたんだ?」
「んとね【
「これはまたマイナーなのを選んだんだな。まあサポートってところは、優しいるみならしいか」
優しいだって!!
聞いた? 聞いたよね??
お兄ちゃんに褒められちゃったよぉぉぉ!!
お兄ちゃんからの褒め言葉に、またまた顔が火照ってしまった。
「初期ステータスの振り分けは【DEX】が8割の【VIT】は2割って感じが理想だな。【
「へ、へぇ。そうだったんだ……。じゃなくて! ま、まあそんな感じにできたよ! やっぱり、で、デラックスとヴィットンだよね!」
「【
「う、うんうん……それそれ!」
せっかく相談しようと思ってたのに、デラックスとヴイットン違うし……。
まさか『器用さ』と『生命力』を表していたなんて。
「あのね、お兄ちゃん。ちなみに【STAR】ってすごいの?」
「すたー? ……って【
「あ、あはは……。だよね?」
【STR】……つまりは物理攻撃力のことだったんだ。
もはや恥ずかしすぎて、お兄ちゃんにすら真実を話すことが出来なかった。
13時間という貴重な時間も無駄には出来ないし、明日には大親友である紗里奈と【ユニークスキルオンライン】で遊ぶ約束をしているので、キャラを作り直している時間も無さそうだった。
うぅ、どうしよう……いや、でも待って!
お兄ちゃんと遊んでもらうなら、きっと攻撃もそれなりにできなきゃだよね……。
付与術でサポートできて、攻撃も強かったら、お兄ちゃんに褒めてもらえるかもしれないよ?
——よし、ならこのまま【STR】に振り続けちゃおっと!
【
この誰しもが絶対にしない組み合わせにより、後に運営やゲーム配信者、トップランカーを含めた全プレイヤーを揺るがす存在になってしまうことを、この時の私はまだ知るはずもなかった。
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【ステータス参照】
【STR】
⇒物理攻撃力UP
【INT】
⇒魔法攻撃力&最大MP値UP
【VIT】
⇒防御力&最大HP値UP
【DEX】
⇒射程距離延長(弓)・詠唱時間短縮(魔法)・スキル効果時間延長(全職業)
【AGI】
⇒素早さ及びアイテム使用速度UP
【CRI】
⇒クリティカルの威力及び発動率UP
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