第5話 【過去の仕事.4】

髪をボリボリかきながらあくびをした。

「こんな早朝に一体何だってんだ…ふぁあ〜あっ…?って女の子じゃねぇか!!お前まさか…」


「バカか!そんなんじゃねぇよ!依頼主から頼まれて救出した子だよ。ただ現場に到着した時はこの有様だよ…」


カイルがどこか悲しげな目をしつつ

「そうか、でも今回は命あるだけまだよかった。…っと、お嬢さん、名前は?」


「……グラシアです」

それを聞いてニッと笑う。


「そうか、グラシアちゃんか。それにしても怖い中よく耐えてがんばったね、俺はカイル。君を助けたジャックの古くからの付き合いのツレだ。だから安心していい」


振り返り、カイルが棚のスキマから折りたたみ式簡易ベッドをひきずり出して設置してホコリを払う


「おいジャック。その子をベッドの上にゆっくり寝かせるんだ…で、少し待ってろ。イズミを呼んで処置の準備に入る。」


カウンター越しの木箱からキューブ製の小型浄水器を取り出してベッドの近くに置く、戸棚から革張りの茶色い長方形の箱を取り出し、中身をチェックしてそれも置く。


「状態にもよるが万が一があるからな。

【シリンダー】を使う」


ジャックが軽くひきつった顔で返した

「代金は高くつくかな」

「なぁに、古い付き合いだ。安くしといてやる」

右の手のひらを軽く上げてカイルがイズミを呼びに奥へ消えた。


────しばらくして。


イズミとカイルが来た。それも色々抱えて。治療に必要な薬品や道具だろう。

「よぉイズミちゃん。事情はカイルから聞いたかい?」


「聞いたに決まってるでしょ!…はぁ、私にくらいの子になんて事すんのよゼロ共はさぁ…!!」


「ゼロってか荒くれ側の…」

途中だったがキンキン声に遮られた。


「荒くれもゼロもみんな一緒でしょ!!あんなのがこの地方に大勢いるせいで被害報告がいつまで経っても減らないわよもう!ジャックさん、あんな奴らのモノ根こそぎ切っちゃいなさいよ!」


フッと笑ってしまった。笑う状況じゃないんだが。

「今回もしっかり切ってやったよ。それどころか始末してやったけどな、…それよりその子を診てくれないか?グラシアって言う今回の依頼者の娘だ」


「当たり前じゃない、ほらどいたどいた」

俺を押しのけると簡易ベッドへスタスタ向かい、近くに座った。


「私はイズミ。ここジャンク屋さんなんだけど診療所もやってるのよ。だから私にまかせてね」ニコッと笑うとグラシアも心なしか口角が上がった気がする。歳の近い女の子同士だとやはり安心するのだろうか?まぁこの辺りは若い子より野郎の方が圧倒的に多いしな


「じゃ、処置する前にちょっと身体を見るわね。はい、膝曲げてー。ちょっと恥ずかしいかもしれないけどそのままで」


相変わらず手際いいな…なんて思ってる時にこっちを見て強い口調で言った

「カイルさん、ジャックさん。悪いけど部屋から出てくれないかしら。一応鍵も閉めて。今から治療に入るわけだけどほら、デリケートな部分な訳だから配慮してほしいのよ。察して。」


デリケート…あっ、だよなぁ。


処置の内容を大体察した俺は棚から濾過器によって精製した水の入ったボトルを近くに置いてからカイルがいつもの落ち着いた口調で話す。

「すまないイズミ。後まかせていいかな?…頼んだよ」


ぐっと拳を上げて答える。

「私にまっかせなさーい!ほら、行った行った。鍵は私持ってるから大丈夫よ」


イズミに目で(頼んだ)とサインを送ってから俺たちはドアを閉めて鍵を掛けて二階へ上がり、カイルが飲み物を用意すると言って別室へ移った。

残った俺は部屋の窓近くの椅子に腰掛けて窓を見る。そう、見るだけ。


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