オタクっぽい大学生の10月のお話

いちのさつき

ハロウィンフェスタ参加者とオタク大学生

 10月上旬の休日。黒髪の男、大学生の仁喜はのそのそと起き上がって、習慣で〇INEの通知を確認していた。


「ん?」


中学生時のクラスメイトだったギャルの代表格の野村が彼宛にメッセージを送っていた。数年も連絡取っていない彼女から急に来た。内容はこのような感じである。


「ひっさしぶり。明日の朝10時に○○駅にあるファミレスでお茶しない?」


マルチ系にハマって、旧友に連絡するケースがあると聞くので警戒はする。ただ話を聞いておこうと、


「いいよ」


と送る辺りお人好しかもしれない。すぐに返事が来る。


「明日よろしく」


文章と同タイミングで、白くて丸いキャラが親指立てるスタンプが送られてきた。




 そして翌日の朝10時、○○駅にあるファミレスに入る。


「おーい。お人好し君。こっちこっち!」


他のお客様に迷惑かけない程度に声を出す明るい茶色の髪の女性が大声を出していた。仁喜の元に女性が来る。肩まで伸ばした髪。薄い化粧。肩を出した長袖の上着と膝より上ぐらいの短めのスカート、どちらもそこまで派手ではない。ただ顔を見たら、野村だと分かった。ギャルの格好をしていた中学生時代と違って、落ち着きのある印象である。


「中学の卒業式以来だね。全然変わってなくてマジ受ける」

「悪かったな! そう言うお前は結構変わったな」

「まあな。あとちょっとで結婚するし。でも根本は変わってねえと思うぜ。マジの

話」


結婚と言う爆弾が放り込まれながら、座る席まで移動する。


「紹介するよ。今同居してる応輔君」


ガタイが良い静かな男性は彼女の紹介を受け、腕を組みながら、お辞儀をする。


「中学時クラスメイトだった仁喜です。よろしく」


震えた声で名前を名乗った。


「ああ。よろしく」


その後ソファーに似た席に座る。


「で。野村、何で俺に連絡したのかは教えてくれるよな」

「ちょっと頼み事」


彼女の返答に、仁喜の眉間に皺が寄る。彼の表情を気にすることなく、彼女は話し始める。


「月末の土日にさ。ハロウィンフェスタやるじゃん?」


危惧していた事ではなさそうだ。


「お……おう?」


首傾げながら聞いていく。


「仲の良い友達と遊ぼうって話になったんだよ」


何処かのブランドらしき茶色の革の手提げのある鞄から広告の紙を取り出し、テーブルに置く。仁喜はその紙を見る。毎年恒例のお祭りハロウィンだ。遊ぶコーナーや屋台やヒーローショーなど。明らかに年齢層は子供向けのものばかりである。


「店で売ってるようなのだと映えないし、いざ服を作ろうってなるとさ。お手上げになったわけ。知ってるだろ? 私の家庭科の成績の低さ。主に裁縫がやべえの」

「このパンケーキとドリンクバーのでお願いします。知ってる。それがどしたんだ」


店の人に頼んだ仁喜はハロウィンの紙を野村に渡す。


「前から〇witterでアニメとかゲームとかの服作ってるの載せてるだろ? それで思い付いたんだよ。頼めばいいって」


仁喜はコスプレの衣装作りでちょっと有名だったりする。オタクと縁のない野村が何処で知ったかは不明だが、関係の無い人ですら知る機会があるのだろう。ネット時代ならではなのかもしれない。


「アカウント知ってるのはまあどうでも良いけど……衣装を作れってことかよ!?」


それよりも作らせることに問題だった。無料では作りたくないのだ。


「うん」

「いやうんじゃなくね!?」

「そりゃただでは頼まないよ。高校時代の美術のセンセーが言ってたんだよ。こういう人に頼むときは報酬支払えってさ。だから材料は私らで負担するし、ある程度のイメージは描いておくし、ソシャゲの名前は知らねえけど福袋って奴の金ぐらいは出そうと思ってる。5千までならカード買っとくからさ。お願い。ほんとマジで頼む」


微課金勢である仁喜にとって大助かりの条件だった。材料まで負担してくれるのはありがたいし、それぐらいあれば並大抵の福袋ガチャが可能だ。バイトしているとは言え、お金はいくら入っても困らないものだ。


「えーっと応輔さん、俺に任せても良いんですか」


恐る恐る確認する。応輔は静かに縦に頷く。


「ああ。服はお前に任せる。髪の毛と化粧は俺の専門分野だからな。その辺りは気にする必要はない」

「応輔は美容師だからね」


とても自慢げである。


「そういうことなのか。分かった。受けさせてもらうよ。とりあえずデザインどうこうは」

「これ!」


仁喜が最後まで言う前に野村がデザインの紙を出してきた。ポップなイラスト。魔女特有の紫色のとんがり帽子に淡い色のリボンがいくつも付いている。オレンジと紫のフリル付きのワンピース。腰辺りに蝙蝠の翼らしいものがある。つま先にオレンジ色のリボンが付いているブーツ。白とオレンジ色のボーダー柄のニーソ。某ソシャゲのキャラのハロウィンバージョンに似ているなと思った。その辺りは口にしないが。


「それと私のサイズ。これ知らないと作れないでしょ」


ついでにと胸などのサイズが書かれた紙も出していた。


「助かるけど……応輔さん、それでいいんすか」

「お前なら問題ないだろ。あかりから聞いてる。お人好しの女ヘタレで手が出せないとな」


地味に風評被害。


「ひっでえな!? 野村お前、誤解だって!」

「実際中学そんなんだったじゃん。好きな子いても告ってなかったし、遊びに誘わなかったし」


野村のダメ押しである。


「俺の心の傷えぐらないで」


少し弱い声を出す。


「あ……ごめんて。それでこれならどれぐらいで完成するの」


仁喜はスケジュール帳を見ながら言う。


「学校の合間にやるからな。来週の日曜ならいけると思う」

「オッケー。その日に試着しよう。場所は何処でやるの。やっぱ屋敷?」

「まあ俺の家になるよな。つか。ご先祖様が困惑するような発言はやめろ」


この日はハロウィン衣装を作る約束と試着の日を決め、終わりとなった。




 約束の試着日。江戸時代からある仁喜の家に野村がやって来た。木の門があり、瓦のある家の前に広い庭がある。祖母の趣味で日本風だったお庭がハーブ園と化している。


「おじゃましまーす。やっぱでっけえわ。ここ。屋敷で良くね?」

「良くねーよ。あれ。応輔さんは」

「仕事」

「美容師だしな。上がって」


家に入って、玄関に靴を置き、上がる。


「奥に服置いてあるから着替えてみて感想言って欲しい」

「はーい。どんなの……すっげえなおい」


ガラガラと、木とすりガラスで出来た戸を引いて、見た直後に反応していた。戸を閉め、着替え始める。


「なあ。人好し君、職人になるつもりねーの?」

「ならねーよ。俺より上なんて腐る程いるし、やりたいことあるからな」

「もったいなーい。じゃじゃーん。どーよ」


颯爽と魔女さん登場。様になってる。あとは美容師らしい応輔さんが手掛けていれば、より良くなるだろう。


「すげーな。ここまで似合うのってそうそうねえって」

「写真とかで良い感じになりそう。キャンディーをジャックオランタンに入れて配ってみっかな」


実に楽しそうである。


「楽しそうで何よりだ。着心地はどうだ? キツイとこねえか?」

「大丈夫! あとは靴下履けば……うん。良い感じ!」

「そうだ。野村、スマホ貸してくれ。撮るから」

「オッケー」


野村は鞄からスマホを取り出し投げた。


「ちょ!? 割れたらどうすんだ!」

「これぐらい問題ねえだろ」

「万が一の事があるだろうが! 悪い。操作さっぱり分からん」


機種が違うため、どれで撮れるのかさっぱりである。


「白いのタップすれば撮れるよー」

「あーそう言う奴だったか。はーい。3、2、1」


パシャリと撮る音が和室に響く。フラッシュが地味に眩しい。


「ありがとー。夜に見せよーっと」


スマホを渡したら、野村は大事そうにそれを抱えていた。


「美容師ってそんなに帰り遅いもんなのか?」

「今日が特別だって言ってた。勉強会って奴参加するんだってさ。あ。そだ。宣伝してもいい?」

「絶対ヤダ」


即答である。面倒ごとは控えたい一心である。

「それとこれ」


布などの材料費、林檎の絵のカードが仁喜の手の平に置かれる。


「作ってくれてありがと。めっちゃ助かったよ」


とびっきり良い笑顔を見て、仁喜は頬を赤くする。


「お……おう。楽しんで来いよ」


これにて大学生の仁喜君のハロウィンのお話はおしまい。ハロウィン当日は普通に大学の授業があり、フェスタ当日はバイトで忙しく参加出来ないからだ。


「え。もう終わり!? その後の話は!?」


と彼から文句が出そうなので少しだけ。


「メッチャ楽しんでたな野村」


仁喜は帰宅した後、ベッドでゴロリとしながら、〇ンスタでジャックオランタン作りや子供たちにキャンディーを配ってる様子を撮った写真を眺めていたとか。

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