第5話人間への印象(1)

 凪の隣へと戻ってきたセレーネは「行きましょうか」とだけ言い歩き出す。その後ろをついていくように凪も歩き始める。しかし、人生とは何事もうまくいかないもの、凪とセレーネ歩みはすぐ止められることとなってしまう。


 「お待ちくださいセレーネ様!」


 先程、セレーネに握手をしてもらっていた3人の少女のうちの1人が呼び止める。

 仕方なく2人は足を止め振り返る。


 「まだ何かあるんですか?」


 セレーネにしては少し言葉が強く、呼び止めた少女以外の2人は少し後退する。しかし、呼び止めた少女は後ろに引くどころか、どんどん距離を詰めてくる。途中、凪と少女の目が合う。変な性癖の持ち主なら興奮するレベルで睨まれる凪。もちろん凪にそんな性癖などなければ、睨まれたところで何とも思わない。対生き物の心理戦に関しては凪に勝てるものなどいない。いや、実際にはどんな勝負でも凪が相手では勝ち負けが存在しなくなるのだ。そんな、ある意味絶対的平和主義者の凪の前で少女は足を止める。


 「セレーネ様…。この者はいったい誰なんですか?」

 「この方は訳あって本日から私の下で働くことになった霞原凪です」


 おおよそ予想通りの質問が来る。セレーネはもともと考えていたであろう言葉で答える。あくまで目的や内容を含めない言い方で。


 「人間…ですよね?」


 そう言った少女はもう1度凪を見る。その目は軽蔑よりひどいものだった。


 「はぁ~…。あなたが思っているようなことはありませんから安心してください」

 「で、ですが…野蛮で暴力的だと言われている種族ですよ?」


 ここでようやく凪はどうして自分があんな目で見られていたのかを理解する。だからといって、いつも通り凪からは特に何もしない。本当なら人間の印象を少しでも良くするために行動するのがいいのかもしれない。しかし、凪は自分がどう思われようが興味ない。そんなことよりも、今後もここで生活するうえで、今起きているように、仕方なく生き物と関わらなければいけないことの方が凪を憂鬱にさせていた。できれば生き物と関わりたくない。それが霞原凪という男なのだ。


 「私はそんな噂話は信用していません」

 「で、ですが…」

 「そんなに私が信用できないですか…?」


 少し悲しみを含むトーンでそう言ったセレーネ。憧れの存在でもあるセレーネがそんなことをすれば少女は「うう…。わ、わかりました…」と認めるしかなかった。


 「ありがとうございます」


 今度はいつも通りの笑顔で礼を言うセレーネ。さすがの切り替えの速さに少女は戸惑っていた。いろんな人間と会話をしてきたセレーネにとっては言葉で気持ちを誘導させることも難しくはないだろう。

 我に返った少女がもう1度、凪を睨む。そして、勢いよく凪に向け指をさす。


 「私はあなたを認めません。もし、セレーネ様に何かしたら許しませんからね!」

 「……」


 少女はそう言い残し、後ろで待つ2人の少女の元へと戻っていった。


 「なぜか…あなたの生き物に興味がない理由少しわかった気がするわ」

 「……でしょ?」


 なぜか、すごく疲労がたまった2人も少女たちに背を向け歩き出す。

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