第3話セレーネの世界
「一瞬のことだった」というのが正しいだろう。さっきまで凪の視界は真っ白だった。しかし、セレーネの「行きましょー!」の合図が聞こえ、何が起こるか分からない凪は一応身構える。その予定だったのだが、実際は凪が身構える暇もなく、気がつけば凪の視界は全く見覚えのない場所へと変わっていた。
何が起こっているか凪には理解できていなかった。しかし、驚いてはいない。セレーネの常識が凪には通用しなかったと同様に、ここでは凪の常識なんて通用しないことなんてセレーネに会った段階で分かっていたから。
「……」
「どうかしたの?」
にらみを利かせるような目で辺りを見渡す凪を横目で見ていたセレーネが気になって尋ねた。
「なんか…眩しい」
「まぁ…確かに初めてだとそう感じてもしょうがないわ。でも、ここはあなたの世界とは違って夜なんて存在しないから慣れて」
この世界を作った偉い人は暗いのが嫌いだったのだろう。凪がどこを見渡しても白・白・白で見てるだけで色覚に異常が出そうなレベルで目が痛くなる。さらには、所々にいるこの世界の住人の服も白色が多く感じる。
「この世界の住人は服装とか決められるルールでもあるの?」
「そうね…。別に破ったら罪が与えられるとかはないけど、一応はこの世界の法律みたいなものね」
「法律ね…」
「あなたの世界と全くもって違うってことはないと思うけど…やっていけそうかしら?」
「まぁ…。今のところは…」
「そう…」
この時、凪はセレーネが着ている真っ赤なドレスについて疑問に思ったが聞かなかった。ただ興味がないというのも少しはあったが、それ以上にセレーネ自身が聞いてほしくなさそうな顔をしていたから。
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