第2話霞原凪
「それじゃあ手を出してもらえる?」
セレーネの言葉に特に疑問も浮かばなかった凪は、言われた通りにセレーネの方へと手を出す。その手の指を絡めるようにして握り、凪の方を見るセレーネ。これにはさすがの凪も少し心が跳ねる…わけもなく、凪が意識しているか様子をうかがっているセレーネを真っ黒で微塵の光もない死んだ魚のような目で見つめ返す。
「……っ!やっぱあなたおかしいわ…」
これまで他の人に通用した行動や言動は凪には全く通用しないとセレーネは実感する。別に、凪とセレーネの相性が悪いわけではない。むしろ、セレーネとの会話は弾んでいる方だ。ただ、凪は生き物に全く興味がない、良く言えば生き物を一定のラインで平等に見ているともいえる。凪の場合はそのラインがかなり低いだけ。だから、たとえセレーネ以外の人が同じ行動をとったとしても、凪は全員に同じ対応をするだろう。
「あなたって…昔からそんな感じだったの?」
「そんな感じ…?」
「えっ…」
セレーネが驚く。
自分にすら興味がない凪には自覚という言葉は存在しない。ただ話しかけられたことに脊髄だけで返している。そんな感じで、クラスで浮いていた凪に心優しいクラスメイトが声を掛けてくれるが、凪の心無い言葉を聞き、結局は全員諦めることしかできなかった。
「はぁ~…。あなた、自分がどうして死んだか覚えてる?」
「見知らぬおじさんがナイフを持って突っ込んできたとこまでは覚えてる」
「ふ~ん…。まぁ、今はまだ言わないでおくわ」
そう言ったセレーネの言葉には少し悲しみを含んでいた。
「それって…ここで言えないほど大事なことなの?」
凪の言葉にセレーネがくすっと笑う。そして今度は真剣なまなざしで凪を見つめる。
「……なに?」
「あなた…初めて生き物のことに関して興味を持ったんじゃない?」
「……っ!」
凪は驚く。
今まで生き物のことに関して全く興味が湧かなかった自分が、少しだけ無意識に興味を持ったことに。
凪は初めての体験に驚きを隠せないまま固まってしまった。しかし、よくよく考えてみると、今のは完全に生き物に興味が湧いたのかぎりぎりのラインであることに気づく。ただ単に「ここで言わない意味があるのか」と。しかし、ここで意地を張ると面倒くさくなると思った凪は声には出さないようにする。
一方、凪の人間らしいところをやっと見れたセレーネは満足げな顔で凪を見つめる。それを見た凪、怒りや喜びといった感情はなく、やっぱりさっきのは勘違いだと断定する。
「霞原凪、さっきの感情を忘れないようにしなさい。そうしたら、あなたの悪いところも良い感じになるわ」
凪が心の中でそんなことを思ってるとは知らず、女神らしく心に届くことを言ったと思っているセレーネだった。もちろん、凪の心には一切届いてはいなかった。そんなことを知らないセレーネは珍しく自分の思い通りになっている(と思っている)現状にさらに上機嫌になる。さっきまでとは違い、今のセレーネは生きのいい魚ぐらい動く。
「そんなことより女神さん。早くそっちの世界に行かない?」
「え、ああそうね。では、行きましょー!」
セレーネがそう言うと、光の塊が2人を包み込み、ほんの一瞬で真っ白な空間から2人の姿は消えた。
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