第52話 母さん達の過去③

第52話


聞き間違いかな?


聞こえてはいけない言葉が聞こえた様な…


「ごめん、誰と付き合ってるって?」

「え?私は雄介と付き合ってるの!だから、剣君とは付き合えない。本当にごめんなさい。」


今度ははっきりと聞こえた。


その言葉を認識してしまった。


嘘だろ…嘘だと言ってくれよ……


「ふざけるなよ…」

「え?剣君?」

「何でソイツなんだよ!あんな人を平気で裏切る様な奴を何で選ぶんだよ!人の信用を踏み躙る最低な奴を!」


思わず、叫んでしまった。


だが、それがいけなかった。


それが徹底的な亀裂となり、今でも続くシコリとなってしまった。


「ふざけないで!」

「なっ…」


パンッと良い音が響き渡る。


えっ…俺……叩かれた………?


「変な事を言わないでよ!貴方は雄介の幼馴染で友達だったでしょ!何でそんな酷い事を平気で言えるの!」

「いや…それは……」

「そんな事を言う人だとは思わなかった!もう顔を見たくない…さようなら……」


彼女が怒って当然だろう。


いきなり、自分の彼氏…自分の好きな人を罵倒されたのだ。


当然の反応、当然の態度だった。


だが、当時の俺にとっては理不尽そのものだった。


「鞘…」


その後はもう察しが付くだろう?


ここから、俺達は離れ離れとなった。


鞘と雄介は俺を避ける様になり、もう一人の幼馴染である結しか俺と関わらなくなっていった。


そのまま、時間だけが無為に過ぎていく。


傷も癒えぬまま、傷を見ようとしないまま時が過ぎ、本当に離れ離れとなった。


その後、大学で結に…


「好きです、剣くん。私と付き合ってくれませんか?」

「結…」


本当に嬉しかった。


離れていった鞘達の代わりに俺を支えてくれたのは結であり、俺は心の底から感謝していた。


でも、何処かシコリが残っている気がした…


「結…」

「はい…」

「俺と結婚してくれ!」

「…はい!」


そして、俺達は結婚して、子供が二人も生まれた。


その時、ちょうど産まれる時期が似通った別の夫婦と仲良くなった。


そこからは、自分達の子供を会わせて、遊ばせてあげた。


これで二人は幼馴染という関係となる。


ああ、素晴らしい関係だ。


せめて、願うのなら…


「俺と鞘みたいにならず、そのまま俺と結みたいになります様に…」


そうなれば、俺の娘は幸せになれる。


余計な傷を負う事も無く、平和に暮らせるだろう。


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「どうだ?ツマラナイ話だろう?」


と、お義父さんは皮肉じみた顔でそう呟いた。


続く

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