第3話 実戦①

 俺は無技との模擬戦で危うく本当の称号がバレるところだった。天野の言っていた、称号所有者がスキルの全貌を理解していないなんてことがあるのかについてだが、俺が断言しよう。それは無いと思う。


 俺の称号でも分かることなのだが、異常な量が羅列するスキル欄を高速で下へスクロールすればまだ未獲得のスキルは表示されても灰色で表示され、効果も確認出来ない。

 つまり獲得済みのスキルにおいては称号所有者か理解出来ていないのは有り得ないことなのだ。しかし俺は違う。


 超単純明快。スキルが多すぎで記憶出来ないだけだ……。


 さて、次は天野と玲の模擬戦だ。俺と無技は側でそれを観戦する。


 天野はリーチは短いが攻撃はどの武器よりも速いダガー。それに対する玲はリーチは長いけど恐らく槍より扱いが難しいスタッフだ。どうしてあんな武器を選んだんだろう。


「両者構え……始めッ!」


「天野、貴方が本気で来るというのなら私手加減しないから……」


「う、うん。僕も手加減しないよ! じゃあ行くよ! えりゃああ!」


 天野。お前はそれで本当に武器の扱いをマスターしたと思っていたのか?

 天野は玲に向かって分かりやすく攻撃の宣言をすると、大声を上げて、目を瞑って折角のタガーを大きく振りかぶって突進していた。


 それに対して玲の反撃。その目は例え相手が天野だろうが関係ない。どう見ても人を殺してそうな暗くめちゃくちゃ怖い目をしていた。

 まず、スタッフの先端で天野のタガーを弾くと、スタッフを半回転。スタッフ反対側の柄で天野の右横腹に一発。

 次にさらにスタッフを半回転させて、タガーを弾いた方の柄で天野の左肩に一発。

 最後にスタッフを一回転させると、その軽い遠心力を収束させた鋭い突きを天野のみぞおちに入れた。


「ぐっ、うぁっ! がはっ……!? うううぅ、痛いよおおぉ……」


 素人の目には到底追えない素早い三連撃。最後のみぞおちのが一番効いたのか、天野はその場で倒れ込み悶え苦しむ。

 そんな少し可哀想な天野を見下ろすのは一切手加減をしないと言った玲の冷たい目だった。


「勝者、玲! 素晴らしい技だ! 何処かで習っていたのか?」


「いいえ、何も習っていないわよ。近づいてくる男を打ちのめすとか考えていたら身体が勝手に動いていただけよ」


「え……あぁ、そうなんだ」


 アルスさんもドン引きじゃねぇかよ。そういやクラスでは玲は男から崇められていたのは知っているけど、『触ってはいけない』ってこういうことだったのか。いやまぁ、男に弄られて喜ぶ女も嫌だな。


◆◇◆◇◆◇


 それから訓練と模擬戦を続けて一ヶ月が経った。天野の剣術もようやくまともになってきて、無技の大剣の扱いも様になってきた。

 そして玲は武器の扱いがずば抜けていることから隊長クラスの兵士と何度か模擬戦で戦っているが、どんなに鎧で固められた兵士も鎧の隙間も確実に突き、剣術で優秀だと言われた兵士も素早いスタッフ捌きにはつい来れず。

 さらには玲に魅了された巨体の兵士も金的を蹴り上げられるなど、玲の強さは圧倒的で結果は悲惨だった。

 全員実戦に出ても問題ないだろう。


 そんな頃に久しぶりに王様から呼び出しを受けた。それを聞いて俺と皆は王の間に赴く。


 王の間ではいつ見ても変わらない王様の姿があった。ただ一つだけ違うのは全身に黄金の鎧を纏っていた。俺達が王の間に着いたのを見ると、王様は立ち上がった。


「一ヶ月の訓練ご苦労だった。最初よりかは様変わりしたな。もう気づいているのだろう? そろそろ実戦に出てもいいのではないかと。

 我は許可する。これより実戦訓練を開始せよ。そして実戦を積みに積み、更なる力を求めよ。

 今日は我もお前らの護衛として付こう」


「え、王様の護衛をするんじゃなくて王様が俺達の護衛をするのか?」


「ほう? ならば今のお前らに我の護衛が務まるのか? 自身があるのなら前に出よ。我が直々に見極めてやろう」


 そうだよな。今のは失言だったか。王様が護衛に付いてくれるなんて意外だったけど、俺達に王様の護衛なんて出来る訳がない。

 そう俺は一人で納得するが、玲だけは違った。


「私、貴方の性格は知っているけど、力は知らないわ。相手の力を全く知らないのに護衛が務まるかどうかなんて知らないわよそんなの。

 貴方が直々に見極めてくれるなら話が速いわ。私の相手になりなさい。私が貴方の強さを確認してあげる」


 止めろおおおお! 戦いたくないって言ってたのはどこの誰ですかねぇ? てかまじでこの王様は絶対強いから! こうなったらもう止められない……。


「前に続きお前の姿勢はなかなか悪くないものを感じるな。ならばその口に免じて我の力を確認してもらうとしよう」


「何処からでも来なさい……」


 なんでこんなことになるのかなー? はぁ……。


 王を知らない玲と王様の戦闘は一瞬緊張が走ったが、勝敗は言うまでもなかった。そう玲はともかく俺が目の前で見た王の力は圧倒的と言うにも足りず、最早異次元の強さだった。

 玲はスタッフを構え王を見据えるが、もうその時点で、勝負は決まっていた。

 その時、一体何が起きたのか恐らく歴戦の兵士でも理解出来ないだろう。


 気づいた頃には王様は既に玲の背後に立っており、玲は硬直したままスタッフを床に落とす。


 そして王様が玲の背後でいつの間にか抜いていた剣を鞘に納めると無表情で言う。


「案ずるな。これは殺しの剣ではない。だが終わりだ。女、お前にはまだ我の護衛には心許ない。噂では聞いていたぞ。男に絶対に触れられたくないとな。勝負に負けることは悪いことでは無い。もしこれに少しでも悔しさを感じるならば、より精進せよ」


 そういうと王様は玲の背中に振り向き、右肩を素手で優しく叩くように触る。その瞬間。


「ぐあっ……!? あ……っ……はぁっ……!?」


 玲は胸を抑えて苦しみ始める。苦しむこと5秒。


「鼓動を許可する」


「はぁあぁっ……! はぁ、はぁっ……!」


 玲は大きく息を吸い込んで呼吸を整える。なんだよ今の……? 鼓動さえも制限出来るのかこの王様は。

 まぁ、玲も流石にこれで懲りるだろ。


「茶番が過ぎたな。ではこれより実戦訓練のための特別支給を渡そう。軽い怪我に至っては我が部下である治癒術師に任せよ。しかし今回の訓練は我が護衛に付くが、以降はお前らの同士の協力が必要不可欠となるだろう。

 その為の回復ポーションだ。特級回復ポーション5個と上級回復ポーション10個だ。

 これはお前らが万が一受けた傷を即座に回復してくれる薬だ。大怪我なら特級。軽い怪我なら上級。

 怪我は我慢しても何も意味がない。勿体ぶらずに躊躇わずに飲め」


 そういうと俺ら全員に腰巻きベルトと、それに付けられた細長い試験管を渡された。一つ一つの試験管の中には緑色の液体が入っており、コルクで栓をされて番号が張られていた。

 王様が言うには1番が特級。2番が上級らしい。


「準備は整ったか。事前運動ウォーミングアップするなり、精神統一するなりしろ。実戦訓練と言えど、実戦となれば、実際に血を流し激痛を伴うだろう。案ずるな。新兵で実戦と聞いた瞬間に恐怖に駆られ立ち上がれなくなる者もいる。

 そういう時は部下にメンタルケア専門の者がいる。恐れることは悪いことでは無い。それが人間だ」


 つくづくいい王様だな。だからこそやばい本性とか隠してないだろうな? この一ヶ月の間、王様の話を聞けばどれも良い話ばかりだった。不思議な程に悪い噂が無い。

 これだけの王だ。悪い噂はすぐにもみ消されそうだが、それでも国民の中に誰一人として王に不満を持つ者がいなかった。


「皆は大丈夫か?」


「おうよ! 準備万端だぜ?」


「うん。いつでもいけるよ」


「結局私も行くのね……」


 全員自身満々だ。魔物ってどんな奴らが出てくるか分からないけど、戦闘訓練より厳しくは無いだろう。


「では行こうか。初陣だ」


 こうして王様の声に付いていくように俺らは始めての実戦訓練に出た。

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