第2話 無意識

 王宮の訓練場。ここで俺らは王国のために戦うと言って王国の軍の仲間入りを選んだことで、外の魔物と戦う前に戦闘訓練することを命じられた。

 さて、この展開もよくある話だ。きっとその教官とやらは嫌に厳しくてすぐに人を見限るような性格をしているんだろう。


 そして、その教官が訓練場で待っていた。ゴツゴツした白銀の鎧を全身に纏い、頭部に兜は被らす晒している。髪は青色の青眼で、歳は恐らく20代前半か、とても若く見える青年だった。身長は余裕に180を超えていそうだ。


「待っていたよ。君たちが異世界から来たっていう人達かな? 僕はアルス。別に教官とかなんて呼ばなくて良いよ。僕も気恥ずかしいから……軽くアルスさんって呼んでくれ。

 さてと、早速訓練だけど……君達の来ている服は戦闘用ではないよね……?」


 第一印象は天野と少し似た感じがあるな。でも戦闘経験者という違いだけで勇ましさか全く違う。とりあえずは信用していいのかな?


「『正義と少年の夢溢れる騎士』ですか。よろしくお願いします! あ、僕達の服は学校の制服なので、戦闘用? では無いと思います」


 へぇ、天野の称号はこういう所では便利だな。どうやら天野の称号は相手の称号のイメージだけでなく性格まで多少は分析できるようだ。


「そうか。学園の制服なんだね。分かった。なら早速王様の言っていた王国の一級装備が置かれている武器庫へ行こうか。自由に選んで良いらしいからね」


 王国一級武器庫は訓練場のすぐ隣の部屋に有った。場所的にちょっと不用心さがあるけど、パスコードに指紋認証っていう二重ロックされてるから、セキュリティーは万全だった。


 そして一級武器庫。そこはまるで王の間とも差し替えのない煌びやかな装飾がされていて、全面真紅の四角い絨毯とシャンデリアの明るさがとてつもなく眩しい。一つ一つの武具全てがショーケースに納められていて、ケースのガラスも曇りや傷一つ無い。最早武器庫というより、飾り部屋だ。


「え、この中から選べって? 王様なんか間違えてないか?」


「王様の威勢の良さは良く疑われるよ。でもそれくらい王様は僕たちを信頼してくれているんだろう」


「なるほどねー。ところでさ、俺達は軍に入るつもりで一緒に戦うことを決めたけど、魔王は王様が倒すって何度も言うんだよな。あの王様ってそんなに強いのか?」


「あぁ、エストラス王の強さは規格外だよ。多分この王国全ての騎士が一斉に掛かっても簡単にやられそうだよ……王様には色んな実際の話があってね。英雄だとか、預言者だとか言われてるね。小さいな村では救世主だとか」


 一国の王様が呼ばれるような異名じゃあねぇな。でも半分信じられないけど半分信じる。だって俺の《万物の管理者》でさえもステータス開示出来なかったからな。一体どんな化物なのやら。


 そうして俺らはその武器庫からそれぞれ武具を選んだ。俺は無難にレザーアーマーとアーミングソードを選ぶ。流石は一級品なのか、革鎧のごわごわさは一切感じられず、肩も軽く非常に動きやすい鎧になっていた。

 アーミングソードも流石に刃引きされているが、鉄の重さが感じられなくとも、試しに振れば刀身に重心が乗るようで自分の身体によく馴染んだ。


 無技はただ格好いいと言う理由でフルプレートアーマーを選び、武器も等身大のクレイモアを選ぶ。最初はプレートアーマーの重さとクレイモアの大きさに振り回されていたが、これも称号の効果なのか、すぐに慣れていた。


 天野はチェーンメイルと刃渡り長めのダガーで鎧自体は意外に軽いようで、柔軟性にも優れ、長剣と違うダガーはリーチが短いが、戦闘は向いてないと自覚する天野は武器はそれで十分らしい。


 そして最後に玲はと言うと。本当に戦う気が無いのか。一級武器庫に置かれている中で最も地味な強度の高い布で織り込まれた赤基調の金装飾が施された兵士の服だった。

 聞けば兵士の階級の一級〜特級の兵士が日常で着込む服らしく、常に重い鎧を着ていられない時のために作られた服のようだ。

 一応後で全員にこれを配られる予定だったようなのだが……。

 武器は暴徒鎮圧用のスタッフだった。


「よし、みんな武具は選んだかな? 元から着ていた学園の制服はこっちで保管しておくよ。さぁ、訓練場で訓練開始だ!」


 俺ら全員が武具を選び、訓練場に行けば訓練内容はこのようだった。

 全員、称号の中にある何らかのスキルのおかげで筋力は補正されていたので筋トレは必要とせず、素振りとカカシ打ち、出来れば簡単な模擬戦をするという。


 素振りは武器庫から選んだ武器と同じ形の訓練用の木剣を使って行い、カカシ打ちは素振りを終えた後に全力で叩きまくるという方法だった。


 そうして訓練開始から二時間。全員武器を扱う基礎中の基礎はマスターしたようで、休憩時間中は特に無技が力任せに大剣をブンブン振り回して遊んでいた。


 休憩終了後はいよいよ模擬戦だ。ルールはとても簡単で相手に身体のどの部位でも良いので一回当てさえすれば即終了。また、例え攻撃を防いでも体勢を崩してダウンを取っても即終了。

 アルス教官が考えた出来る限り怪我の少ないルールらしい。


 そして俺の模擬戦相手は……無技だった。


「よりによってお前かよ。こんな細い木剣がその大剣を防げるのか?」


「ははは! クロガネ、俺は全力でやるぜ?」


「当たり前だ。俺も本気だ」


「両者、剣を構え。始めッ!」


 アルス教官の審判の合図が出される。俺は大剣を扱う無技に対してじっと攻撃の瞬間を待つ。長剣なら振りも速く軽いので今回の模擬戦はすぐに終わりそうだが、対して無技の大剣はリーチも広く、守りも硬いが振りは遅い。

 しかし、だからといって突っ込みでもすれば、無技の大剣によるフルスイングをまともに食らってみろ。木剣だろうが骨数本は折れるだろうな。

 だから俺は大剣の振りの遅さを逆手に取ってカウンターを狙うつもりだ。勿論、一回攻撃を当てたとしても勢いの止まらない大剣の振りを必ず避けなくてはどちらにせよ大怪我は必至。

 俺は真剣な目で無技を見据える。


 アルス審判の合図が合って先に動いたのは無技だった。恐らく力こそ正義の武器だと思っているはずだ。無技に色々と頭で考える技能があるとは思えない。さぁ、来い!


 動き出した無技は、大剣を両手でしっかり持つと、思いっきり前進しながら回転斬りを繰り出してきた。


「おらあああぁぁ!!」


「って、ちょま!?」


 カウンターを狙うとか格好付けていたけど、回転斬りはあまりにも隙がなさ過ぎる。この中に突っ込んでもいいが、もれなくフルスイングより恐ろしい遠心力全開の木剣が俺の身体を砕くことだろう。

 どうにか避けようと頭をフルで回転させるが、結局何も思いつかなかった。


「やばっ!?」


 無技の回転斬りの大剣が俺の胴体に迫ってくる。あぁ、俺呆気なく負けたわ……。そう思った瞬間だった。


《Object Error》


 完全に俺の身体に大剣が当たった。そう思って目を思いっきり瞑るが、数秒しても痛くも痒くも無かった。ふと目を開いて、無技の顔を見れは大層驚いた表情でなんと地面に尻もちを付いていた。


「え? え? 何が起きたんだ?」


「無技、俺は何を……?」


「止め! 勝者クロガネ! ……。今のは本当に何だったんだ?」


「ぼ、僕は見たよ! クロガネ君の身体に一瞬だけど《Object Error》って表示されたの……」


 俺は冷や汗をかいた。それはどう考えても《万物の管理者》の影響であると。俺はすぐに誰にも気づかれないように静かにステータスを開き、膨大な情報量のあるスキル欄を確認する。


 えーと、えーと、多分これか……?


―――――――――――――――――――――――

スキル:『破壊無効』

称号所有者に対する汎ゆる攻撃性のある衝撃、魔法を無効化する。又、精神攻撃にはが付く。称号所有者の管理者権限により効果をON/OFF可能。

―――――――――――――――――――――――


 これ、完全にバレたよな? いやどう言い訳すれば……そうだ!


「あー、そうだ。俺ほら、農民だからゲームのNPC扱いとかにされてんじゃねぇのかな? いやーステータスには書かれて無かったから気づかなかったわー」


 俺は徐にそのスキル効果をOFFにする。痛いのは俺も勘弁だけど、模擬戦にこれは反則だろ。


「……そうなのかな? 称号所有者が内容を完全に知りきれてないなんてことあるのかなぁ?」


「済まないアルスさん。これは俺を負けにしてくれ。称号の変なスキルによって何もせずに勝っちゃったけど、本来なら俺避けられてすらないから負けていたはずなんだ」


「わ、分かった。じゃあ、片方の棄権により勝者は無技!」


 ふぅ……一先ず安心したけど、さっきから玲の目線がめちゃくちゃ怖いんだが……。そんなに見つめても分からねぇだろ。やめてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る