第1話 王の権威

 どう考えも都合が良すぎる組み合わせは無技が細工したに違い無い。俺を含める四人の組み合わせ。無技と天野と玲。

 俺らは早速行動を開始する。天野は常にニコニコしていて、玲の《魅魔》が厄介かと思えば、無技は陽気な性格故か、魅了されているのか分からない程に通常運転で俺は少し安心する。


「それで? これからどうするんだよ。なぁ無技。どうしてこんな組み合わせになったのはけど、何か決めてんのか?」


「んー? あぁ、とりあえず王様が言ってたことみんなはどうするよ。俺はこの称号があるから、何かと上手く行くだろう。王国のために戦うぜ」


「いやもうその時点でこのグループ解散の危機じゃねぇか。まぁ俺は退屈するからお前と一緒に行くが……」


 やっぱり何にも考えていなかった。さっきのくじ引きの提案は本当に無技なりに頭を捻ってくれたんだろうな。


「ぼ、僕も王国のために戦うよ! 困っているひとがいるなら……ましてや国規模なんて僕の力が役に立つか分からないけど、国なら王国の民の人達もきっと苦労しているはずだ。少しでも助けになったらなって思うよ」


「ちょ、ちょっと! これ私も王国のためにって選ばなくちゃならないじゃない。はぁ……痛いのは絶対に嫌なんだけど。あぁ、そうだ。天野、私を守りなさい。ホントに面倒だから。でも一人じゃ動きづらいから一緒に行動するだけよ」


 《魅魔》め、早速称号の使い方を知りやがったな。ただ天野はどこまでも聖人だな。


「分かった! 良いよ。僕も戦うなんて不得意だけど、できる限り守るよ!」


「よし、満場一致だな。じゃ、王様の所に戻るか!」


◆◇◆◇◆◇


 俺はこれからの行動の意思を伝えるために王宮へ戻った。そうすれば玉座に座る王様は相変わらず真顔で待っていた。次は片手にワインが入ったグラスを揺らしながら。


「ほう、たった四人でもまさか命知らずが来るとは恐れ入った。此処に戻ってきたということは、我々のために戦うと決めたのだな? 良い。 ならば早速我から支給品をやろう。 一人金貨1,000枚と、王国一級品の装備を自由に選択し、王国内全ての施設をタダで使う権利をやろう」


「随分と羽振りがいいな」


「当然であろう。我々と共に戦うと決めたのならそれなりの覚悟を決めたと見た。例え無くともいずれその厳しさを知る……。だからこそ、すぐには死んでほしく無いのが本音だ。

 もしこれでも足りないと言うならいくらでも要求するが良い。

 異世界人諸君よ。別にお前らを特別扱いする訳ではない。しかしこちらとて早めに打ち解けて貰わねば困るからな」


 大体異世界転移して王様に出会えば、小説ではこんな良い王様なんてなかなかいない。そしてこの王様は絶対、俺たちがどんな称号とスキルを持っているか知っているはずだ。

 だからといって天野みたいなあまり戦闘に役に立たなそうなやつを役立たずといって放り投げない。兎に角俺たちを死なせないように気配りしてくれるとは。こんなパターンの王は始めてみた気がする。


 さて、俺はこれくらいの支給があれば十分だとは思うが……玲はなんの遠慮なく要求する。


「あら? どんな要求でもいいの? なら施設を無料にするだけでなく、王宮全ての利用権と、サポートしてくれるメイドを付けてくれるかしら。私はあくまでも動きづらいからこいつらと一緒に行動するだけ。戦うつもりは無いわ」


 王宮全ての利用権って……流石にそれは無理だろ。玲からすれば多分兎に角自由で居たいってところなんだろうな。


「良いだろう。本来なら立入禁止も含め全ての利用権を与えよう。そこで我々の何を知ろうが自己責任で頼む。それで我が部下の怒りを買ってもいいのならな。

 それと、メイドについても我に付いている優秀なメイドを四人全員に付けよう。何を望んでいるかは知らぬが、どんな無茶な指示でも彼女らは従う。死ねといえばその場で自殺してくれるほどにな」


 うわぁ、どう見てもこれ王様少し怒ってるだろ。さっきから嫌味という嫌味が聞こえてくるんだけど。てかメイドとか正直要らねぇわ。

 良くメイド服に魅了される奴らを見るが、全く理解出来ねぇ。それとどんな指示でも従うって下賤な男共の理想型だが、相手が同じ人間である限りは流石にそんなメイドに対しても気が引けるんだよなぁ。


「あら、てっきり断られると思ったのだけれど。貴方ってあまり人を大事にしないのね。どうして自分の指示を絶対に従ってくれているのか分からなくて?」


 おいおいおい。玲、そこまでにしとけ! 王様に説教とかどんだけ肝座ってんだよ……。あー、王様も眉間に皺すら寄ってねぇから何考えてんのかマジで分からねえ。


「面白いことを言うな。まるで我が欲のままに権威を使って部下を従わせているような言い方だな。だが残念だが、その考え方は間違っている。

 王たる者は、決して権力だけでは成り立たない。また威厳だけでは部下を率いることも出来ない。

 我が王国は他の国と違って貧しい者は一人もいない。全ては平等に。王もそれは例外ではない。王は民と同じ立場で声を聞き入れ、不満も全て応える。

 だからこそ我は部下から民から信頼を得られていると考えている。

 我々のことを何も知らずに我を説こうとするとはその度胸、大いに褒め称えよう。話は以上か?」


「えぇ。十分だわ。貴方のことは良く分かったもの」


「ならば話を戻そう。お前らには戦闘経験があるような感覚はしない。よって兵士の優秀な者を教官としてまずはお前らを鍛える。

 お前らの力では外にいる弱いモンスターでも死ぬ可能性がある。ここでしっかりと訓練をせよ。魔王なら我がいつかやるつもりでいるが、周囲の魔物退治はお前らとその軍に任せる。決戦まではまだまだ時間が多くある」


 魔王は王様が倒す一点張りかぁ……。本当にこの王様は強いのかな……。

 そんなことを考えていると、突如ゆっくりと王の間の扉が開く。そこには優しそうなおばあさんかいた。いやまさかな。こんなお婆さんと戦うなんてことはあり得ないだろう。多分俺の想像は放っておいて全く別の案件なんたろうな。


 お婆さんは終始背中を曲げてゆっくりと王様の前まで歩いてくる。


「アヴィアか。今日は何があった?」


「エストラス様。私の大事なミィちゃんが何処に行ったか知りませんか?」


「丁度話を終えた所だ。すぐに探しに行こう。我は猫のミィ探しに暫く留守をする。我が帰ってくるまでの話は全て保留にせよ」


 王様がお婆さんの猫探し!? なんて王様なんだこの王国は……王様の留守も兵士は笑顔で受け入れているし。


 そういう訳で俺らは王様が王の間を出て行った後、一人の兵士に案内してもらい、王宮の訓練場まで連れて行って貰った。

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