プロローグ③

 俺のいるクラスは特にまとめ役という人間がいない。要は人気のある人や目立つ人が一人もいない。たた一応それなりの団結力はあり、現在クラスで王宮の外へ出たあと、町の一番大きな噴水広場にて集まり、個々で話し合いをしていた。


「ま、まずさ、みんながどんな称号とスキル手に入れたか公開し合わねえか?」


 集まるや否やまずは情報交換を先に思いつく生徒。ただその提案には誰も乗らなかった。何故かと言えばこのステータスは本来人に見せるには本人の同意が必要だということ。つまり完全に任意制であり、何らかのスキルで見破る以外に他人にスキルを勝手に見られることは無い。

 要はこの生徒は個人情報の全公開をしろと同じということになる。


「良い提案だけど、見せられないものは見せたくないというか……別に見せても支障はないんだけどね」


「じ、じゃあ称号だけでも良いや。とにかく今はお互いのことを知らないと安心出来なくねぇか? もしかしたらこのクラスで誰かを恨んでいる人もいるかもしれないし……! おお、俺は絶対に殺さないでくれよ……? まだ生きる希望はあるんだから……」


 この生徒の言うことは分かる。俺の学校で誰かが虐められているという話は聞いたことが無いが、人の恨みとはそんな簡単な物ではない。

 いくら恨んでも力が無くて仕返し出来なかった者や、殺したいほど恨んでももし手を出したらとり返しの付かないことになる。

 しかし、異世界に転移して今や日本の法律なんて此処には無く、しかも味方関係なく攻撃し"殺せる"世界なのだ。

 誰が誰を殺そうが、力ある者が上に立てる世界。たとえこの王国にそんな法律があったとてしても、今は皆自分の力に溺れそうになっているだろう。


 なんて発言をしてしまうんだ。この生徒の発言によって一気に場が疑心暗鬼になる。もう此処は俺が仲裁しよう。


「俺の称号は《畑耕す者》だ。みんなは?」


 どう考えても雑魚確定の称号。力がない者は殺される筋合いも無いだろう。弱い者が仲裁に向かえば、少しは気が和らぐかもしれない。誰もがヤバそうな称号を持っているわけではない。そんなことを気にしない人間もいるのだと思ってくれれば、それで良い。


「クロガネお前……マジ? そんだけ強そうな名前してんのに農民かよ! あははは! 因みに俺は《武を極めし者》だ。一見強そうに見えるけど、武術と武器を知れば知るほど、その時装備していた武器に攻撃力補正がつくってさ! てかこっちの方がお前向きじゃね?」


 無技ムギ タケル。かなり俺に良く話しかけてくる友達だ。何だか重い空気になった時に良くムードメーカーになってくれる存在だ。ただそれらの行動からたまに無責任だと感じられることがあるが、無技の性格故から以外と許されることが多い。


「ほら、別に危険じゃねぇだろ。 こいつとか農民だぜ? 役に立たなそうと思うけど、これで食料には困らねえかもな! あははは!」


 さらに俺の言いたいことを代弁もしてくれた。本当に良いやつだな。


「そ、そうだね。僕たち少し警戒しすぎたかもしれないな。たとえそんな人がいても見てくれる人もいるから……! ぼ、僕は《平和プレイヤー》だ。なんというか地味だけど、その人を本当に信頼出来る人なのか大体判断出来るんだ。

 スキルは情報開示魔法が入ってるんだけど、みんなのステータスを見ても全部『???』で表示されていて、ものすごーく曖昧な説明が書かれてるんだ。

 例えば無技君とかは、『武器を沢山知っているので戦闘時は役に立つかもしれない』ってね。

 それでクロガネ君は……『仲間にすれば大いに役に立ってくれるだろう』って……農民なんだよね???」


 天野アマノ マコト。クラスでも一番優しい性格をした奴だ。まるでそれは聖人そのもので、優柔不断とも言われがちだが、本当に悪い事はしっかりと区別できる良い子だ。

 顔立ちも何処か幼く、モテるというより女子から可愛がられるという微妙な立場にいる。


「え? あ、あぁ……農民だからな。多分この先以外と役に立つスキルでも覚えるんじゃないか?」


「はぁ……集まったのは良いけど私、こんなお遊びには付き合ってられないわ。異世界ですって? ゲームじゃあるまいし、早くこんな夢覚めてくれないかしら。

 どうせ夢なんだからいくらでも教えてあげる。私のは《魅魔》よ。えーと、男性ならどんな男でも強烈な魅了効果を自動的に与えるって……。

 最低な効果ね。さっきからどうりで男子の眼が怪しいと思えば……」


 神楽木カグラギ レイ。おそらくクラスメイトでその冷たさは随一。よって女子さえも友達がいないという実質悲しい運命を持つ女。

 しかし誰が見ても美しすぎる顔立ちと身体付きをしており、男子からは『決して触れてはならない』という規則が作られ信仰され、女子からは憧れの存在となっている。

 そんなことを本人はどう思っているかは定かでは無いが……。


 まぁ、俺はこの《万物の管理者》のおかげか玲のことはいつものクラスメイトに見える。

 だが、気付けば天野は見事に魅了されている。


「玲さんは『この人の存在はきっと貴方の癒やしになってくれるだろう』だって。

 別に僕はそんなにストレスとか溜まっている訳でもないから良いんだけど、玲さんの称号のせいなのかな……。玲さんって本当にかわいいよね! 今まで少し怖い人だと思って気づかなかったよ!」


 なんて眩しい笑顔なんだろうか。もしこれを他の男が言えば下心丸出しだったろうな。だが、天野からは全く悪意が感じられない。流石だ。


「あっそ……まぁ、嫌ではないわね」


 それから次々と皆自分の称号と主な効果を公開していく。それでもやはり絶対に教えないという奴もいたが、ついさっきまでのギスギスした空気よりかは打ち溶けたのではないかと思う。

 それから少し各々雑談をしていると、無技が一つの提案をする。


「よし、じゃあお前らこれからくじ引きだぁ! 流石にクラス俺ら45人で一斉移動は色々と不便だろ。だからくじ引きで一緒に行動するやつを決めようぜ。

 何故仲の良いやつと組ませねえのかって言うと、そうしたら外れたやつがそいつを憎むかもしれねぇだろう? 今は兎に角お互いのことを関係を良くするか、関係を気にしないようにするかだ。

 もし、こいつとは絶対に組みたくないとかがいたら俺に耳打ちしてくれ。運は運でもそこは考慮してやるからさ」


 良い提案だ。それに無技は本当に今の皆が思っていることをしっかり解決できるように考えている。普段はリーダーなんて欠片も感じなかったけど、今思えば無技にあるのはリーダーシップじゃなくて思いやりが最高だな。


 と言う訳で、俺は無技が用意した木の枝で作られたくじを引く。そして俺が共に行動する奴らが決まった。

 これは何ということか。まるで無技が操作したのか。俺との組み合わせは、俺と無技と天野と玲の四人になった。


 天野はなんとなく分かるが、何故玲も中に入れたのだろうか? 友達がいないと知ってるから? 俺と無技ならすぐに打ち解けるからか?


 まぁいいや。どちらにせよ無技と一緒なら退屈はしなさそうだ。


 そういう訳で、俺は三人と組み、どうにか俺の本当の称号かバレないように行動を開始するのだった。

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