プロローグ②
「発言を許可する……」
王様が発言を許可すれば、意識をはっきりとさせている生徒が次々と質問を投げ掛ける。
「まず、ここは何処なんだ? 召喚とは一体何のことなんだ?」
「此処は、我が統べる王国"エストラス"だ。我々は現在、かの魔王と呼ばれる忌みしき存在によって王国だけでなく世界が滅ぼされんとしかけている。
魔王の撃破など我一人でも十分なのだが、家臣の者が召喚の儀を行えと煩くてな。どうやらこの状況を解決出来るのは、召喚した勇者のみだと。
しかし、今召喚した者に……勇者など一人もいないでは無いか」
勇者が一人もいない? あの王様は既に全員の何かが見えているのだろうか? いや、というか普通の学生が突然勇者になるとか有り得ないか。
ってことはこの召喚は失敗したってことになるのか?
ここでまた一人質問を投げ掛ける。
「エストラス王国? 魔王だって? ふざけるのもいい加減にしろよ! 俺らはさっきまで学校にいたんだ。何がどうなってんのか先ずそこから教えろ!」
「蠅が五月蝿いな。まぁ良い。先程召喚と言ったが、これはお前ら側で言えば異世界転移だ。残念ながらお前らが知る何処の国でも我々の王国の名は何処にも見つからないだろう。ここは、お前らの知る"世界"では無い。異世界だ。
異世界が何なのかという疑問は無駄だ。いつまでも吠えていないで現実を受け止めろ」
さっきからつくづく嫌味な王様だな。でも本当にここが異世界だとしたら、もう受け止めるしか無いのだろうか? でも帰る方法は? 転移なら帰る方法あるんだろう?
さっき質問した生徒が狼狽えながら反論する。
「な、現実を受け止めろって……俺らはもう帰れねえってことなのか!? 見知らぬ世界で死ねってことかよ!?」
「帰る方法はある。お前らを召喚した我が家臣に頼めば良い。たが、頼みを聞いてくれるとも思えんがな。
今王国は兎に角戦力を必要としている。家に帰りたいと思う兵士はお前以外にも無数にいるだろう。だからこそ、お前だけを返すなどあの家臣がするとは思えない。
見知らぬ王に死ぬ気で仕えよ。こんなもの無理は承知の上だが、そんなことを思っている兵士など腐るほど見ているからな」
帰れるけど帰れない可能性が高いと。大体事情が分かってきた。まぁ、異世界ファンタジーてよくある展開だな。さて、俺も一つ質問しようか。これが小説でよくある異世界転移の展開ならアレがあるだろ。
「俺からも一つ質問だ。さっき勇者はこの中に一人もいないと言っていたが、それなら俺たちの召喚は失敗なのか? それとどうして勇者が一人もいないと分かるんだ?」
「ほう……良く話を聞いているのだな。それについては今答えよう。全員、"ステータス"という特殊魔法を唱えよ。これはこの世にいる全ての者が微小の魔力で発動できる情報開示魔法だ。
そこにはお前ら各自の称号とスキルが表示されるはずだ。スキルの数は千差万別。転移魔法による影響で、精神と肉体に何らかの変化が与えられているはずだ……」
そう言えば多くの生徒がステータスと唱えて行き、一気に場が騒めく。期待以下の結果だつたのかげんなりする者、何が表示されたのか分からないが首を傾げる者、きっと良い物だったのだろう喜ぶ者。
さて、俺も確認するか。
―――――――――――――――――――――――
称号:《万物の管理者》lv1
世界。有象無象森羅万象全てを管理する者の称号。神又は、
スキル:[開く]
―――――――――――――――――――――――
……え? 何これ? 管理者? いや待てよ。何かの手違いかこれ?
俺はスキルに書かれている『開く』をタッチパネルのように指で押すと、まだじんわりと残っている頭痛が更に酷くなるほどの無数の選択肢が現れる。一つの視界に映り込む情報量が多すぎるのだ。
俺はふとこれらを全てを知っているかのようなことを言っていた王様に視線を移す。
「あ……」
最初から見られていたのか。王様と完全に目が合った。ただ無表情でじっとこちらを見つめていた。全く何を考えているのかさっぱり掴めない。
目が合うこと3秒。ようやく王様は俺から目を離し、別の生徒へ視線を移した。
とりあえずまだ気付かれていないだろう。あまりにもこの称号とスキルはチートにも程がある。使いどころを間違えると本当に世界を動かしかねない。此処は隠し通そう。
えーっととりあえず今試せるスキルは……。
「《全ステータス開示》」
《範囲内全てのステータスを開示。全66人のステータスを開示》
今ここに居る全生徒と王の周りにいる兵士や家臣のステータスを開示してみた。
本当に千差万別の称号とスキルが表示される。物理に特化した称号や魔法に特化した称号。兵士に関しては全員に《王に仕える者》という称号と個人の称号を二つずつ持っている。
そして肝心の王様のステータスに付いては……何故か《解析不能》と書いてあった。どういうことなんだろうか? それと確かに全てのステータスを見てもどこにも勇者という称号を持つ者はいなかった。
この王国が求めているのは魔王を唯一鎮められる勇者だ。やはりこの召喚は失敗なのだろうか。
「さて、この中に勇者はいたか?」
誰も名乗りあげない。本当にいないようだ。そんな全員の様子に家臣と兵士たちが騒めく。
召喚は失敗か? 何故勇者がいないのか? これからどうすれば良いのだと。
「やはりな……。だが案ずるな。此処に一人も勇者がいなくとも何も問題は無い。さっきも言ったが、召喚なぞしなくても魔王なぞ我一人で十分。
全員、今すぐここから逃げるも良し、我が王国のために戦うもよし、大人しく我が王国でゆっくり暮らしたいと思うも良し。自由にせよ」
つまり俺たちは突然転移されたものの、結局役立たずで終わるということか。そんな理不尽で酷い結果があるだろうか。
そう王様が言い放てば、生徒は皆何も言わずに、ぞろぞろと王宮の外へ出て行った。俺もそれに釣られて出ていく。
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