第4話ハマらない歯車

朝を告げる音が部屋に鳴り響く。

僕は目覚まし時計を止め、体を起こす。

そうしたら、今日という1日を告げる役目を終えた時計は眠りにつく。

気分はあげらないし、あげられない。

正直、時計が羨ましい。

これから、監獄の中に行く僕を後目に一人眠りに着くのだ。

たった一つの無機物に嫉妬を抱く少年など、他には居ないだろう。

そんな事を考えながら朝の支度をする。

いつもの行為だ。

布団をたたみ、カーテンを開ける。

階段を降り、朝食の支度をする。

何らおかしくない毎日だ。

しかし、それは突然訪れる。

いや、わかっていた。

気づかない振りをしたかったが、さすがにそれは机の上にはいささか目立ち過ぎている。

それはたった一通の普通の手紙。

白く何の変哲もない手紙だった。

僕はその手紙を取る。

自分でも驚くぐらい冷静だった。

僕は手紙を開き、中を見る。


やあ、こんにちは、昨日ぶりだね。

昨日はごめんね驚かせて。

でも、あれぐらいしか伝える方法は思いつかなかったの。

君は私のことが気づいたかな。

気づいていなかったのなら、今ここで教えるね。

私はね、もう1人の君。

詳しく言うなら、君とはまた違うけど人生を共にするパートナー。

よろしくね、マイバディ。

ああ、君が心配してるであろう事は起きないよ。

だって、体の自由を奪うつもりも、壊すつもりも無いからさ。

私達は運命共同体なんだからね。

それじゃまた書くね。

追記

もし良かったら私宛に質問でも書いてよ。

分かる範囲内だったら答えるから。

そうだな。場所は...

このテーブルの上にでも置いといてくれ。

君が眠ったら読むからさ。

あとこれは二人だけの秘密な。


この手紙を読んで、僕は安心していた。

おかしなぐらい安心していた。

どうしてだろう、普通を望んだのに。

普通でありたかったのに。

僕は本当は心から望んでいなかったのか。

普通である事を、日常を過ごすことを。

いやそんな事はない。

今まで散々苦しんだじゃないか。

やっと戻った日常じゃないか。

それが壊されるかもしれないんだぞ。

積み上げたものが、やっと回った歯車が。

それなのにどうして、どうして安心しているんだ自分は。

その場に合った椅子にも垂れ込む。

都会とは思えないほどにカラスの声が外から聞こえてくる。

周りの生活音に消されず、ただしきりに聞こえてくる。

やけにうるさいその声は、僕を非日常に連れ込もうとする。

僕は手紙を丸めゴミ箱の中に入れた。

学校に行かないとな。

そう思ういパンを焼かずに食べる。

味のしないパンだ。

僕はパンを突っ込み制服に着替える。

パンを咀嚼しながら、時計を見ると7時を過ぎている。

急がなければ、僕は歯を磨きバックに教科書を詰め込む。

靴を穿き、ドアノブを押す。

...押せない。

家の外からは小学生と思わしき幼い話し声が聞こえてくる。

なんでだろう、怖い。

今までは普通だったのに、どうして。

自分は

どうしてしまったのだろう。

僕は一体この先に何を望んでいるのだろう。

その時、心の中にあった糸がふと切れてしまった。

解けて揺らいで落ちてしまう。







辞めよう。

今日は少し、おかしかっただけだ。

明日には、明日には治ってるから。

だから少し休もう。




美咲様へ


こんにちは、初めまして。

僕の中に貴方が居るなんてとても信じられませんが、いると信じてこの手紙を書きます。

質問は沢山ありますが、多分お互い分からない事だらけだろうと思いますので、簡単な質問だけさせていただきます。

まず、最初に貴方はいつ僕の中に現れたのですか。

具体的では無くていいので、大体でお願いします。

2つ目に、貴方は女の子?何ですか。

文章や名前からの推測ですが、間違っていたらすいません。

最後に、貴方は何故僕の前に現れたのですか。

私利私欲?それとも承認欲求?

あなたならいえ、僕ならこの世界の理不尽を知っているはずです。

それでも、出てきたのには理由があるのですか。

貴方は自分の意思で、この世界に生まれない事もできたのでは無いのですか。

質問は以上です。

運命共同体としてこれからもよろしくお願いします。

これは二人の秘密、だから破らないでくださいね。

マイバディ


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こんにちは僕、さようなら私 桜咲 人生 @sakurasakijinsei

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