第9話 EBINA
光は申し訳なさそうに龍の耳元で囁く。
「すみません。
もうすぐです。
ほら、そこの茂みの奥が私のジードルです。」
「そうか」
龍は、到着すれば光を離さないといけないと思うと、すこし名残惜しそうだった
「なんだろ。
鼻の下のばして」
後ろでアクアがグレーシーソフィに小声で悪態をつく。
「まあまあ。
でも、アクア、少しおかしくない?」
「え?」
「フーマの女性って、いい匂いがするって聞いたけど、あの人の匂いって何か違うような。
それに、あの人、何か変…」
「確かに…
気を付けたほうがいいわね」
2人は緊張した面持ちで龍に続く。
茂みを抜けると目の前に高い塀が現れる。
「プルート避けなの。
ジードルをぐるっと囲んでいるのよ。」
目の前の塀には門のようなものがあり、光はその門を一定にリズムで叩くと、ガチャリと中から鍵が外れるような音が聞こえる。
その外を聞いて、光は手を伸ばし、門を押すと、ギギーと門が内側に開いていく。
「さあ、中に入って」
龍達は言われた通り門をくぐると、そこは小さな商店街のようなところだった。
真っ直ぐ伸びた道の左右には片側に5軒ほど、廃墟を住居に改装したようで、廃墟よりはましな建物が並ぶ。
道の奥には、他の建物よりは大きく綺麗な建物が立っていた。
「あの正面の建物が、私の家よ。
あそこまで良いかしら?」
龍は頷くと、光に肩を貸したまま歩きはじめるが、直ぐに異様な雰囲気に気が付く。
各建物の入口付近にはフーマと思える男たちが、まるで廃人のように無償ひげを生やし、ぼやっとした目で龍達を眺めている。
「あれは?」
「あの人達は、病気や怪我で動けなくなって、ここで面倒を見ているのよ」
「病気?
怪我?」
「そうよ。
放っておくと命にかかわるから連れてきたのよ」
光はこともなげに言う。
少し進み正面の建物に近づくと周りに10数人ほど楽しそうに燥いでいるフェアリーたちがいた。
皆、思わず見とれてしまうほど美人でスタイルのいいフェアリーばかりだったが、全員、グレーシーソフィやアクアがつけているような首輪をつけていた。
「彼女たちは?」
「ん?
あのフェアリーたち?
あれらは、チーラのご飯でもあり、おもちゃよ」
「チーラ?」
龍が聞き直すと光は残忍な笑みを浮かべ龍の肩を振りほどき、龍を正面に見ながら2,3歩後ずさる。
「よう、光。
遅かったじゃないか」
正面の建物の中から声が聞こえ両手にフェアリーを携え、プロレスラーほどの大きな体つきの男がニヤニヤ笑いながら出てくる。
「そうね。
ちょっと邪魔が入って。
でも、お土産連れてきたわよ」
光はそういうとグレーシーソフィに視線を送る。
他のフェアリーたちとはまた違った清楚な美しさがグレーシーソフィにあった。
「ふふーん」
チーラと呼ばれた大男は気に入ったというような眼で、グレーシーソフィを舐めるように眺める。
「その横もか?」
チーラはアクアを見てつぶやく。
「まあ、なにかに使えるか。
で、この首輪の男がそいつか?」
チーラは龍の力を値踏みするように龍を見ると、取るに足らないと感じたのか、‟ふふん“と鼻で笑ったようだった。
「おい。
そのフェアリー、お前にゃーもったいないな。
俺のおもちゃにしてやるよ」
「な、なに?!」
龍は、チーラの一言にムッとする。
「龍!
だめ!
逃げて」
グレーシーソフィの声が木霊するときには、巨体にかかわらず動きが機敏なチーラがいつの間にか龍の目の前に迫っていた。
「え?」
そう思った瞬間、龍の眼にはチーラの棍棒のような腕が迫って来るのが見え、そのまま、ラリアットのようにチーラの腕が龍の首を刈る。
龍はその場で1回転するように体が宙返りをすると顔から地面に落ち、動けなくなる。
「本当に弱っちい奴だな。
危うく殺しちまうところだったぜ」
「気を付けないさいよ。
殺しちゃったら、折角連れてきたフェアリーも‟ボン‟だからね。」
光はそういうと龍を覗き込む。
「まあ、これで廃人が一人増えたわね」
光は面白そうに笑う。
「さて、こっちは楽しませてもらうか。
なかなか清純派のフェアリーは見当たらないからな。
どんな味がするか楽しみだ」
そういうとチーラがグレーシーソフィに近付き、そのか細い手を掴むと引っ張って建物の中に連れて行く。
「グレーシー…ソフィ…」
龍は、ぼやっとした目でチーラに引っ張って行かれる悲しそうな顔で龍の方に目をやっているグレーシーソフィを見つめる。
しかし、抵抗も出来ずに、チーラと、チーラに引っ張られたグレーシーソフィは建物の中に消えて行く。
チーラはグレーシーソフィを大きなベッドのある部屋に連れて行くと、ベッドの上にグレーシーソフィを投げ飛ばす。
「おい」
チーラは近くにいたフェアリーの一人に声を掛けると、フェアリーは笑みを浮かべ品を作りながらチーラに近づき、片方の乳房をチーラの方に向ける。
チーラは、そのフェアリーを抱き寄せると、その乳房に吸い付き、何かを飲んでいるように喉を動かす。
フェアリーの方は、吸われていながら恍惚の顔をしていた。
「ふう」
チーラはフェアリーの胸から口を離すと、フェアリーの体をどける。
「こいつの体液は、精力剤でな。
飲むと一晩中、何度でも女とやれるんだよ。
さあ、楽しませてもらおう。
まずは、お前の体液の味はどうかな。」
チーラは仰向けになっているグレーシーソフィの上に馬乗りになると、ビリビリとブラウスを引きちぎるように広げ、グレーシーソフィの綺麗な乳房を露わにする。
「うーん。
大きさはさほどないが、綺麗な形をしているな。
くくく」
チーラの周りのフェアリーは巨乳ばかりで、それに比較すると、グレーシーソフィの胸は可愛らしかった。
「どれどれ」
チーラはまず、グレーシーソフィの首筋に吸い付く。
「う…」
グレーシーソフィは眉間に皺をよせ、小さくうめく。
チーラはそれから舌を這わせグレーシーソフィの乳房を掴むと、その乳首を口に含み、吸い始める。
「くぅ」
チーラはフェアリーたちをおもちゃにしていただけあり、滅多の感じることのないフェアリーたちに快感を与える技を持っていた。
グレーシーソフィも乳首を吸われ、また、舌の先で刺激され、すこしおかしな気分になってくる。
「ちっ。
強情な奴だな。
体液は味もしないし、ぱいおつからも、何も出てこない。
まあ、いいか。
何度か俺のスペルマを体に入れれば、喜んで俺にブルームネクタや愛液を捧げるようになるってな。
今まで、たいていのフェアリーは2,3度くらいで、ひいひい言って俺にしゃぶりついてきたからな。
お前は、何度まで強情張れるかな。
けけけ」
チーラはそういうと、グレーシーソフィのズボント下着を脱がせ、下半身裸にして、自分もズボンを脱ぎ裸になる。
(龍、助けて…。
私、龍じゃなきゃ、もう嫌なの…)
グレーシーソフィの願いは、龍のダメージをよくわかっているグレーシーソフィとしては虚しい願いだった。
一方、外では龍が光に仰向けにされていた。
「さて、そろそろ中で始まっているわね。
あなたのフェアリーちゃん。
チーラに抱かれて、チーラの体液を体に入れられると、もう、チーラの虜になるわよ。
ここにいるフェアリーたち、みんなそう。
最初はカップルになっていたフーマの男に操を立てて、跳ねのけようともがくけど、結局、みんな嫌でもカップルの男のことなんて忘れてチーラのものになっているの。
あなたのフェアリーちゃんは、どこまで頑張れるかしらね。」
(グレーシーソフィ…)
楽しそうに話す光の言葉を聞きながら、龍は自分のふがいなさに唇を噛みしめる
「あら、まだ悔しがる元気が残っているの。
ふふふ
もっといいことを教えてあげる。
チーラの傍にいるフェアリーは性欲剤を出すのよ。
だから、チーラはそれを飲みながら1日中だってフェアリーを抱けるのよ。
うふ。
あのこ、何度まで耐えれるか賭けしましょうか?
でもその前に、あなたは、ここにいるほかのフーマたちと同じに死なないように廃人にしておかなくちゃね。
死んじゃうと、あのフェアリーの首輪も爆発して死んじゃうからね。
大丈夫よ。
痛くしないから。
逆に、いい気持になるわ
うふふふ」
(俺は…俺は…
二度と、グレーシーソフィをあんな目に合わせないと誓ったはずなのに…)
龍は、力が入らず、麻痺したように動かない体で、2体のプルートの代わる代わる犯されるように体液を啜られていたグレーシーソフィの悲しそうな顔を思い出し、絶望に駆られていた。
(くそ、体が言うことを聞かない)
光の口が半開きに開き、龍の唇を狙って迫って来る。
その口の中には、粘質系の白い液体が詰まっているようだった。
「そう言えば、あのちっちゃいフェアリーはどうした?」
グレーシーソフィの乳房や乳首を指や舌で弄んでいたチーラがその手を止め、顔を上げ、周りにいるフェアリーに声を掛けるが、皆、困惑した顔をするだけだった。
“ちっちゃいフェアリー”とはアクアのことだった。
チーラが胸の愛撫をやめると、グレーシーソフィは我慢していたかのように、小さく息を漏らす。
チーラの熟練した性技の前に、グレーシーソフィは気が行きそうになるのを必死で堪えていた。
「まあ、いいや。
どうせ、遠くには行けないはずだし、どこかに隠れているんだろう。
見つけて、使い道がなければ、プルートの餌だな
さてと」
チーラの残忍な目が横たわっているグレーシーソフィに向けられる。
チーラの両手がグレーシーソフィの両膝に伸びる。
グレーシーソフィは、チーラが何をするのかが容易に想像でき、膝を立て両ひざに力を入れる。
チーラは笑いながらその膝を掴み、左右に開かせようと力を入れるが、グレーシーソフィはそうはさせまいと力を入れ、抗う。
「おや?
フェアリーのくせにフーマの俺様に逆らうのか?
面白い」
グレーシーソフィ達フェアリーは、フーマに逆らえないよう遺伝子操作をされていたので、グレーシーソフィの抵抗は、フェアリーにしては稀なことだった。
しかし、グレーシーソフィの抵抗も遺伝子操作の影響からかチーラからすると微々たるものに過ぎず、徐々にグレーシーソフィの両膝は左右に開かされていく。
そひて、“フン”とチーラが力を込めると、グレーシーソフィの両脚は完全に開かれ、花弁があらわになる。
グレーシーソフィの花弁は、先ほどまでのチーラの性技のせいか濡れていた。
「ふふん」
チーラは鼻で笑うと、太い人差し指を無造作にグレーシーソフィの花弁の中に差し込み、花柱の中でぐりぐりと動かす。
「ぃ…」
グレーシーソフィは、小さく声を上げ、チーラの指の動きに合わせるように腰を動かす。
「ふーん。
なかなか、いい感度しているじゃないか。
余程、あの男とやり合ったか」
チーラはグレーシーソフィの花弁から指を抜くと、グレーシーソフィの体液の味を確かめるように、びっしょりと濡れているその指を自分の口に入れ、味わう。
「ふーん。
まだ、本気汁じゃないな。
味がほとんどしないか。
さて、本気になった時のお前の体液の味や効能はなんだろうな。
楽しみになったぞ」
恥辱を受け怒りに満ちた目をしたグレーシーソフィをあざ笑うかのように、チーラはグレーシーソフィの脚を開かせ、花弁に狙いを定める。
「…」
グレーシーソフィは初めてチーラの肉棒が普通の形でないのに気が付く。
チーラの肉棒は体に比例してか大きく太かったが、先端部分にくびれ、かり首がなく、たんなる肉の棒だった。
その先端にある切れ目から、白い液体が漏れているようだった。
グレーシーソフィは、それを見て身の危険を痛切に感じた。
(たぶん、チーラの言っていることは嘘じゃないわ。
あの変な液体を注入されたら、私も変になってしまうかも。
私が、おかしくなる前に、アクア、お願い。
私の首を切り落として」
迫りくるチーラの肉棒。
そして、一向に気配のないアクア。
グレーシーソフィは絶望の中、龍の笑顔を思い出していた。
「龍…、大好き…」
目をつぶり、抵抗できずチーラの肉棒が挿入されるのを覚悟したその時、けたたましい音でドアをぶち破り、一台のエアバイクが乱入してくる
「グレーシーソフィ!」
バイクに乗っているのはアクアだった。
アクアはバイクごと突入してくる。
「なんだ?」
チーラは驚いたようにグレーシーソフィから体を離し、アクアの方を向く。
その時、エアバイクの正面がチーラの顔を捉える。
「がっ!」
ゴツという鈍い音と主に、チーラの首があらぬ方向に曲がる。
アクアはチーラの構わず、上半身を起こしたグレーシーソフィの傍にバイクを止め、手を伸ばす。
「早く乗って!」
「うん」
グレーシーソフィは、アクアの手を握り、引っ張り上げられるとエアバイクの後部座席に座る。
「行くよ」
「うん」
アクアがエアバイクのアクセルを開いて、走り始めようとする。
「こら、待て!」
2人が声の方を振り向くと、鼻が陥没し、首が後ろに90度以上曲がり、誰が見てもただでは済まない状態のはずのチーラが、両手で自分の首を元に戻したところだった。
「あいつ、ゾンビか」
「アクア、構わないで逃げよう。
それと龍を助けないと」
「わかっているよ。
じゃあね」
2人は、チーラに背を向け、アクアがスロットルを全開にすると、エアバイクは二人を乗せたまま、窓を突き破り、建物の外に飛び出す。
その時、正面に仰向けに寝かされ、光が上に乗り、龍の口に自分の口から何かを入れようとしている姿が見えた。
「こ、こらー!
龍に何をするの!!」
アクアは大声で怒鳴り、クラクションを盛大にならす。
その音に驚いてか、光は立ち上がると飛びしざる。
「グレーシーソフィ、お願い」
「わかったわ」
アクアは、そのまま龍と光の間にエアバイクを走らせる。
グレーシーソフィは、体を横に倒し、手を精一杯伸ばし、龍の腕を掴むと、力一杯、引っ張り上げ、龍が振り落とされないように前抱きに龍を抱きしめる。
「捕まえた!
大丈夫」
グレーシーソフィが嬉しそうな声を上げる。
「よーし。
やあ、逃げるわよ。
ひゃっほー!!」
そう言ってアクアは、エアバイクを巧みに操り、入ってきた門から外に飛び出す。
「追ってこないかしら」
「さあ、わからない。
ともかく龍が心配だから、早く逃げよう」
「うん。
龍、かなり弱っている。
早く飲ませないと」
「そうね。
わかった…
?!」
アクアは急に茂みにエアバイクごと隠れるようにして、止める。
「どうしたの?」
「し!」
すると、前方から特殊な装甲車のような車が2台、アクアたちの横をすり抜け、光たちのいるジードルに向かっていく。
「あれは?」
「シルクチャイナの特殊部隊よ。
武装警察っていったところね。
おもに鎮圧が目的で、いろんな武器を持っているわ」
「その特殊部隊が、なぜ」
「さあ。
ともかく、やり過ごしたみたいだから、早くイングリッドのところに戻りましょう」
「うん、うん。
龍、もう少しだからね。
頑張ってね」
グレーシーソフィは龍の顔を愛おしそうに胸に埋める。
エアバイクは国道246号線に飛び出す。
イングリッドの車は見えなかったが、アクアはまるで見えているように、迷うことなく1点を目指してバイクを進ませ、大きな声でイングリッドを呼ぶ。
「イングリッド!」
「はいはい。
そんな大声出さなくても、聞こえているし、見えているわよ。
後ろのハッチを開けるから、そこから入ってちょうだい」
イングリッドの声が、アクアとグレーシーソフィの頭に木霊すると、いきなり目の前にイングリッドの車が後ろむきで出現し、後部ハッチが開いていた。
「わっ!
いきなり」
「きゃー」
龍を含めた3人は、減速もままならず、エアバイクのまま後部ハッチの中に飛び込む。
ドスン!
鈍い音がしたが、ハッチの中はクッションが利いていて、3人とも少し痛い思いをしたくらいで済んだ。
「もう、若いんだから。
行き成りバックで激しいこと」
「エロ婆」
イングリッドの言葉にアクアは小さく悪態をつく。
「何ですって!」
アクアの声が聞こえたのか、イングリッドの怒った声が聞こえ、後部ハッチのドアがゆっくりとしまる。
完全に締まりきると、室内灯が点灯し、アクアとグレーシーソフィは明るくなった室内を見回す。
そこは荷物室ではなく、厳重に密閉された小部屋だった。
「イングリッド?」
「あなたたち、相当やばいところに顔を突っ込んだわね。
もう、大急ぎでカーゴを改造して滅菌室を作ったわよ」
「滅菌室?」
「そうよ。
特にグレーシーソフィ。
その格好を見ると、入念に殺菌が必要ね」
イングリッドに言われ、アクアはグレーシーソフィの恰好を改めて見てみる。
グレーシーソフィは、全裸に近く、前が破られたブラウス一枚、申し訳なさそうに身にまとっているだけで、他はすべて脱がされていた。
「グレーシーソフィ…」
「大丈夫。
でも、危なかったわ。
最期の最後というところで、アクアが助けに来てくれたの」
「よかった」
アクアは、それを聞いて体の力が抜けたようだった。
「でも、油断できないわよ。
グレーシーソフィ。
あなたの体中、フーマの体液がびっしりと付着しているじゃない。
何があったか、細かに説明しなさい」
グレーシーソフィは光のジードルに入ってから、チーラに受けた恥辱のすべてを細かに話した。
その話を聞きながらアクアは顔をしかめて行く。
「こんなんだったら、あの時、完全に息の根を止めてやればよかった」
「アクアは、フーマの言うことを聞かなければならないっていう遺伝子操作の影響はないの?」
「え?
うん。
私、出来損ないの失敗作だから、影響ないみたい。
グレーシーソフィは、まだ残っているんだ」
「うん。
大分、薄まってきたようだけど、まだね」
「で、アクアは?
その格好なら、そんなにひどい目には合っていないみたいだけど」
イングリッドが話に割って入る。
「うん。
私は、チーラが出てきたところで、やばいと思って、こっそりとその場を離れて、何か逃げる道具がないかを物色していたの。
龍がチーラのラリアットを食らって、グレーシーソフィが建物の中に引きずり込まれたところを見て、もう、大慌てでね。
そうしたら誰かが乗って来たエアバイクが置いてあって、見張番をしていたフェアリーをたたきのめすのに時間が掛かっちゃった。
でも、一発でエンジンが掛かってよかったわ」
「フェアリーと揉めた?」
イングリッドの声が真剣になる。
「どこか、噛まれたり、体液を浴びたりした?」
「え?
ううん。
落ちていた木の棒で殴っただけ。」
「ちゃんと思い出しなさい!」
イングリッドの声が叱責に近かった。
アクアもどの声を聞いてふざけている場合じゃないと、必死思い出し、イングリッドに説明する。
「じゃあ、腕を掴まれたときに引っ掛かれたのね」
「うん」
アクアは頷き、腕をまくって見せると、確かに手首に蚯蚓腫れのような跡がついていた」
「で、龍は?」
「ラリアットを受けて昏倒してからは知らないけど…
でも、外に出た時、光が龍の上に乗っていてなにかしていた」
「な、なんですって!
まずいわね」
「ねえ、イングリッド。
どういうことだか、そろそろ説明してくれない?」
「いいわ。
マッソスポラ菌って知っている?」
「マッソスポラ菌?」
「それって、2000年の初めにアメリカで見つかった病原菌で、主にセミに感染し、感染したセミを操って広げていくって。
確か感染したセミの生殖器や腹部、尾部を食べ落として菌の胞子と入れ替える。
そして宿主は殺さずに操って他のセミの群れに入って菌を広げていく…
あ!」
「そう。
アメリカは、その病原菌をシルクチャイナへの兵器として、その病原菌が人体へ影響を及ぼすように改造して生物兵器をして作り上げたの。
それを、ここにばらまくことで、シルクチャイナへ感染を拡大させていこうとしているのよ」
「もしかして…」
グレーシーソフィが恐る恐る尋ねる。
「そう。
あの光っていう子と、そうね、そのジードルにいたすべてのフェアリー、フーマが感染していると思っていいわ」
「じゃあ、私たちも感染している?」
「感染者の体液が体に入らなければ大丈夫。
でも、ちょっとでも口に入ったり、粘膜に触れると危ないわ。
グレーシーソフィは指、突っ込まれたんでしょ?
口は?」
「ガードした。
順々に辱めて行くっていってた」
グレーシーソフィは眉をしかめた。
「じゃあ、まずは滅菌液の中で沐浴してもらうわ。
ちょうど、感染したフーマがいたので、その病原菌を抽出して、その菌を殺す方法を作っておいたのよ。
いまから、その中に滅菌液を流し込むから。
息はそのチューブを加えてくれれば酸素が出ているわ。
私がいいっていうまで、我慢してね。
それと、洋服は全部脱いで、そのカプセルに入れて。
超高温で灰にするから。
龍も裸にして、チューブを銜えさせてね」
アクアとグレーシーソフィは頷くと、龍を支持された通りに裸にし、自分達も裸になり、チューブを加える。
「グレーシーソフィ。
あなたは、その下にあるチューブを大事なところの中に入れて。
そこから殺菌液が出るから、指を入れられたところをちゃんと殺菌しないとね」
「うん」
グレーシーソフィは神妙な顔で頷き、チューブをとる。
それから、溶液が部屋全体に満たされる。
アクアやグレーシーソフィはチューブを加え呼吸をし、意識のない龍に注意を払いながら、じっと我慢していた。
それから、溶液が排出されると、滅菌効果のある風と光浴び続け、30分ほどかかって殺菌作業は完了する。
「最後のチェックよ。
採血して病原菌が体に入っていないことを確認するわ。
腕を出して。
少しだけチクリとするけど我慢してね」
二人はイングリッドが指示した椅子に座り、交互に目の前の机にある筒のようなところに腕を入れると少し腕が圧迫され言われたように一瞬チクリとするがすぐに感じなくなる。
そして腕を圧迫していた圧力が緩むと腕を抜くことができた。
「最後に龍ね。
二人とも支えて、龍の腕を筒の中に」
「はい」
言われた通り龍を抱えて、その腕を筒に入れるとすぐに採血が始まり、あっという間に終わる。
「5分ほどで結果が出るから、そこで待っていてね」
それだけ言うとイングリッドの声が途切れる。
「ふーん。
これがフェアリーたちの血液か。
成分的にずいぶんでたらめじゃないの。
想像していたよりひどいわね。
ま、汚染はされていないわね。
最後に龍の血液ね。
え?
…
これってクマムシの…」
検査の機械が目まぐるしく点滅し、イングリッドは集中して何かを調べているようだった。
「ねえ、グレーシーソフィ。
イングリッドは5分くらいって言っていたわよね。
もう、10分以上経っているんじゃない?」
「そうね…
何かあったのかしら…」
心配する二人を笑い飛ばすかのように、いきなりイングリッドの明るい声が聞こえてくる。
「お待たせー!
終わったわよ。
皆、陰性よ。
変なの貰ってこなかったから大丈夫」
イングリッドが全員陰性であることを告げると、奥のドアが開く。
「そこにあたらしい洋服があるから、すきなものに着替えてね。」
「遅かったわね。
何かあったの?」
「おっ!
さすが、アクアちゃんね。
鋭いわ。
でも、なんでもないわ。
久々だったので、ちょっと手間取っただけよ~ん」
「何かおかしい」
アクアが小さな声で呟く」
「そんなことより龍の容態の確認をするから、そのストレッチャーに龍を寝かせて。」
「そ、そうね」
2人が言われた通り龍をストレッチャーに寝かせると、龍の体に幾重にも光の帯が当たる。
「頸椎、損傷。
普通だったら、即効廃人ね」
「イングリッド!
龍が危険な状態だから、飲ませていい?」
グレーシーソフィが心配そうな顔で離しかける。
「当然。
いいわよ」
「うん」
グレーシーソフィはブラウスのボタンを外した状態で、胸を龍の口元に押し付ける。
「龍、噛まないでね。
飲んでね。」
優しい声でグレーシーソフィが耳元で話しかけると龍は何かを飲んでいるように喉を動かす。
グレーシーソフィはうっとりした顔で、龍の顔を眺めながら、髪を撫でていた。
飲み終わり、しばらくすると龍は目を覚ます。
「へぇ。
あの回復力、グレーシーソフィの力だけじゃないわね。
頸椎の損傷も治まってきている。
面白いわ」
イングリッドは独り言のようにつぶやいた。
「龍、大丈夫?
気分は?」
龍が目を覚ますと、グレーシーソフィの可愛らしい顔が心配そうにのぞき込んでいた
「グレーシー…ソフィ…?」
初めは茫然としていた龍だったが、直ぐにチーラに引っ張られて悲しそうな顔をして建物に入っていくグレーシーソフィの顔を思い出す。
龍は、がばっと上半身を起こすと周りをきょろきょろ見回す。
そして、グレーシーソフィをじっと見つめる。
「グレーシーソフィ、君は?」
「うん。
私は大丈夫。
危ないところを、アクアが助けてくれたから」
「アクアが…
危ないところを…」
「そうよ。
光に鼻の下を伸ばすから」
アクアは怒った声で龍を睨むと、それから何が起きたのか、相手はとんでもない化け物だったことを話して聞かせた。
「そんな中、俺は何もできなかったのか…
また、グレーシーソフィを守れなかった」
がっくりと項垂れる龍の頭をグレーシーソフィは優しく抱きしめる。
「ううん。
そんなに気にしないで。
相手が悪かっただけだから。
それに私も無事だったから、ね」
「そうね。
龍。
グレーシーソフィに悪いと思うなら、たっぷりと可愛がってあげなさい」
「もう、アクアったら、変なこと言って。
でも、私の…で元気になってくれればうれしいな」
「グレーシーソフィ?」
龍は顔を上げ、優しく微笑むグレーシーソフィを見上げる。
「いいの?」
「うん。
私は、龍がいいの」
そういうとどちらからともなく二人はしっかりと抱き合う。
グレーシーソフィの体からは瑞々しい優しい香りが漂い、その香りを肺の奥まで吸い込むと、全身に力がみなぎってくるようだった。
そして、龍はグレーシーソフィの首筋に顔をうずめる。
グレーシーソフィの首筋はしっとりとして、そっと舌で舐めるとほんのりと甘い果実のような味がし、五臓六腑に染み込んでくるようだった。
(俺はやっぱりグレーシーソフィが好きだ。
この娘を、アクアも守れるように強くなりたい)
龍の腕の中で可愛らしく嬉しそうに身もだえしているグレーシーソフィの体を貪りながら龍は強く念じていた。
寝室で龍とグレーシーソフィがお互いを確かめ合っている時、アクアは寝室出てリビングにやってくる。
リビングでは、アンドロイド型のイングリッドが、テーブルの上に並べたモニターを見ていた。
モニターは全部で3台。
右側は、サーモグラフィのように絡み合っている龍とグレーシーソフィの体温が色で表示され、心拍数や血圧などが表示されている。
真ん中は、レントゲンか超音波か、二人の体の中が映し出され、どもまで深く交わっているのかが一目でわかるように映し出されていた。
左は、アクアにもよくわからない数字の羅列でせわしなく数字が変わっていく。
「あら?
アクア、どうしたの?
グレーシーソフィの次に、龍の相手するんじゃないの?」
イングリッドがモニターから目を離し、アクアを見つめる。
「うん。
でも、しばらく順番は回ってこないから、遊びに来た」
「そうね。
確かにこの調子なら、2回は固いかしらね。
何か飲む?」
「ありがとう」
「グリーンティよ」
イングリッドは湯気の出るコップを持って来て、アクアの前に置く。
「で、どうしたの?」
「うん。
イングリッド、今日はいろいろと助けてくれて、ありがとう。
しかも初対面なのに」
「いいって。
私、あなたたちが気に入ったって言ったでしょ。
それにあなたたち二人は面白いわ。」
ちらりとイングリッドは真ん中のモニターを見る。
そのモニターでは、グレーシーソフィのもう一つの口が開き、ゆっくりと龍の陰茎を包み込んでいくところが映っていた。
「置いておく代わりに、いろいろなデータを取らせてもらうから」
「わかっているわよ」
アクアの真ん中のモニターを見ながら顔をほころばせて答える。
「それに、あのフーマ」
「龍よ」
「ごめん。
龍だけど、彼にも興味あるわ。
他のフーマにはない何かがあるわ」
「…」
アクアが黙ってうなずく。
「ねえ、アクア。
あなた、龍の体液が体に入って来た時、どんな感じ?」
「え?
ええ?!」
驚いた顔をした後、思い出したのか、顔を真っ赤に染め上げる。
「ねえ、どうなの?
気持ちいい?」
イングリッドが興味津々に乗りだし、アクアを覗き見る。
「そ、それは…
気持ち…いい…なんてものじゃない。
体中…、体中温かくなって、天にも昇るほどの体が軽くなって…
それで、体が蕩けそうな…くらい
いい気持…
て、何を言わせるの」
「あはは。
顔が真っ赤ね。
それも、大事な研究データよ」
「も、もう。
今日はおしまい」
「で、アクア。
話の本題があるのでは?」
「う…」
アクアは、一瞬言葉に詰まる。
「龍のことね」
アクアは観念したように頷く。
「今のままじゃ、だめよね。
私やグレーシーソフィが傍にいて守ることはできるけど、今日みたいなことがあると」
「そうね。
まずは、基礎体力をつけるところから始めないと。
それから、パワーを付けて行かないと、この世界じゃ生きていくのは難しいわね」
「イングリッドもそう思うんだ…
で、実はお願いがあって」
「いよいよ本題ね」
その日、龍の体のことを考慮し、龍の実家の跡地を見に行くのは次の日に回し、ただ、今の場所にいるとシルクチャイナの特殊部隊に見つかるリスクが大きかったので、とりあえず相模川を越え、本厚木の外れで246号から少し外れたところで宿泊することにする。
ミラージュ装置で外から車は見えないことに加え、特殊な電波と音波でプルートやフェアリーを近づけなかったのと、イングリッドは眠る必要がなく、常に監視をしているため、三人は何も気にせずゆっくりと休むことが出来た。
夜中、龍は目を開け、上半身を起こす。
その両横では、グレーシーソフィとアクアが龍に寄り添うように気持ちよさそうな寝顔を見せる。
龍はしばらくその場で考え事をしているようだった。
そして何かを決心したように頷くと、アクアとグレーシーソフィの額にキスをし、また、横になる。
すると、龍が横になるのを待っていたように、眠っている二人がくっついてくる。
2人の体から瑞々しいまた、ほのかに甘い香りが漂い、その香りを楽しみながら龍は眠りにつく。
それをイングリッドがじっと監視していたのを龍は気が付いていなかった。
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