第6話 Return to NAKANO

それから、ミナが再生の箱に入って、4週間経とうとした時、サニャが神妙な面持ちで龍に話しかける。

「龍、お願いがあるんだけど…」

「なに?」

「たぶん、明日にはミナが出てくると思うの」

「わかるの?」

「うん。

 ミナの声が聞こえるの」

「よかったじゃないか」

「うん。

 それでね、出て来たらミナが嫌がろうが、すぐにいつものように、ブルームネクタを吸収して欲しいの。」

「え?」

「吸い込むのではなく、舐める方。

 そして、融合まで…」

「…」

「まだ、体が落ち着いていなくて、エネルギーもあまり吸収できないかも知れないけど、その分、私が頑張ってエネルギーを上げるから。

 ね、お願い」

サニャの祈るような瞳に見つめられ、龍は首を縦に振るしかなかった。


「嬉しい。

 そうだ、ミナだけど、たぶん、ふさふさの尻尾がついていると思うの。

 驚かないで、私の時みたいに上手にね」

「あ、ああ」

(そう言えば、ミナは嫌で自分で尻尾を切ったって言ったっけ。

 やっぱり、いやなんだよな。

 女の子だし)

龍はミナの話を思い出していた。

「あと…」

「あと?」

「うん。

 向こうのフェアリーが龍に会いたがっていると思うし、龍も戻りたいだろうけど、もう少し。

 ミナの尻尾が自然に取れるまでいてほしい…」

「自然に取れる?」

「うん。

 私のように。

 たぶん、1週間もかからないと思うの」

「ちょっと待った。

 さっき融合って言ったけど」

「うん。

 龍は私たちからエネルギーを吸収すると、必ず、私たちの体の中に体液を注入するでしょ。」

「え!

 ま、まあ…」

龍は何だか恥ずかしくなってくる。

その顔を見てサニャはクスリと笑う。


「私には、それが私をプルートの誘惑から断ち切り、また、いらない尻尾を取って元の体に戻してくれた気がするの。

 ううん。

 気がするじゃなくて、絶対そうに決まっている。

 だから、ミナにも同じことをしてほしいの。

 私の場合、1週間もかからずに尻尾がとれたわ。

 だから、せめて1週間。

 ミナが箱から出て来て1週間たっても尻尾が取れなかったら諦めるから。

 お願い」

「わかった。

 やってみよう」

龍は試してみる価値があるかと思って頷く。

その会話を聞いていたのか、そばにある再生の箱の中でミナが動いたようだった。


そして翌日。

いつの間にか箱から這い出たミナが箱の傍でぐったりと横たわっていた。

そして形の良いお尻には、サニャが言うようにふさふさした尻尾が生えていた。

「ミナ、大丈夫?」

気付いた3人がミナを取り囲み、心配そうに声を掛けるが、ミナは辛そうにうなずくだけだった。

サニャは、ミナの髪を撫でながら、龍の方を見て頷く。

「龍、お願い」

その言葉でミナは逃げようと体を動かそうとしていたが、サニャがミナの体を掴んで動けないようにする。

「龍、早く」

龍は少し気後れしながらも、裸で四つん這いになっているミナに近づく。

ミナも体からは、何度か嗅いだ魅惑的な香りがしていて、龍の性欲を掻きたてミナの後ろから抱きつく。

ミナは抵抗するように動こうとしていたが思うように動けず、背中に汗のようにほんのりとブルームネクタが浮き出てくる。

それに触発され、龍は背中に浮き出たミナのブルームネクタを舐めとると、ミナは体を反らし、その場で電気を浴びたように痙攣させた。

龍はミナの腰を掴み、持ち上げるように、四つん這いで腰だけ突き上げるような格好にさせ、ふさふさの尻尾を背中の方に押し上げると、あらわになったミナの花弁へ大きくなった花糸を差し込む。

入口は狭く抵抗があったが、構わず押し進むと、中はサニャの時と同様に柔らかなゼリーのような感触だった。

ミナの顔は見えなかったが、体から湧き上がる香りに触発され、龍はミナの中に一気に体液を放出すると、ミナはそれを受け入れ、まるで吸収するように体を脈打たせビクビクと震えさせる。


龍がミナから体を離し、押さえていた手をどけると、ミナは腰をゆっくり横たえさせ、しばらくすると、ゲホゲホと咳をすると口から黒い液体を吐き出す。

「だ、大丈夫か?

 つい、夢中になっていつものように」

「それがいいの。

 大丈夫」

おどおどする龍を見てサニャは笑顔を見せる。

「…よ…」

「え?

 ミア?」

「大丈夫」

そう言ってミアは上半身を起こし、横座りして龍を見る。

その眼には光が戻り、潤んでいた。

「ミア、大丈夫?」

「ええ、サニャ。

 あなたが言ったように、嘘みたいに体が調子よくなったわ」

ミアは,片手で体を支え、もう片方の腕を龍の方に伸ばす。

ミアの腕は、細く、綺麗だった。


龍がおずおずと近づくと、ミアは伸ばした手を龍の首に絡め、バランスを取りながら体を起こすと、脚を開いて龍の膝の上に座り、腕と脚を龍の体に巻き付けるようにして抱きつく。

龍も、ミアの背中にそっと腕を回し抱きしめる。

「嬉しい…。

 龍って、温かいね。

 気持ちいい…」

ミアは、甘えるように龍の胸に顔をうずめるようにしてつぶやく。

ミアの体から甘い心地よい良い香りがさっきより鮮明に香って来る。

「尻尾、驚いたでしょう?」

「いや。

 もふもふしていて気持ちいいよ」

龍は片手でミアのふさふさした尻尾を撫でる。

「もう…」

ミアの声は気持ちいいのか迷惑なのか、どちらでも取れる声をしていた。

「でも…今は…ごめんなさい…。

 何か…眠くて、眠くて…

 眠らせて…ね…」

それだけ言うと、ミアは龍の腕の中で気持ちよさそうな寝息を立て始める。

その夜、ミアは良い香りを振りまきながら龍の腕の中の特等席で気持ちよさそうに寝息を立てる。

サニャもフレイもアクアも皆、特等席はミナに譲って眠る。

外では、プルートが徘徊し、プルートの誘惑に負け、近寄ってきた哀れなフェアリーで晩餐を行っている。

しかし、龍の傍で寝息を立てているミナ、サニャ、フレイ、アクアは誰一人、目を覚ます者はいなかった。


翌日、龍が目を覚ますと龍の体を覆いつくすように四つん這いになって顔を覗き込んでいるミアの笑顔があった。

「龍。

 おはよう。」

「おはよう、ミナ。

 調子はどうだい?」

「信じられなないくらい元気。

 いつも箱から出ると1週間くらい体がだるくて、気分も憂鬱なのに」

ミナは嬉しそうな顔をする。

「龍。

 私のいない間、エネルギーが不足していなかった?

 それが心配だったの」

「自分じゃわからない。

 どう見える?」

ミナが箱に入っている間、サニャやフレイ、アクアが常に三人がかりでチャージしてくれていたので、龍としてはそんなに体調が悪い気がしなかった。

「うーん。

 だいぶ減っているかしら…

 心配していたほどじゃないけど…

 チャージしてあげる」

ミナはそう言いながら、少し恥ずかしそうな顔をして、顔を近づけ、龍の唇に自分の唇を重ね、そっと舌を入れてくる。

その柔らかい舌に龍は自分の舌を絡め、お互い舌を吸い合う。


ミアのほんのり甘いブルームネクタが舌を通して、体の中に入ると龍の体は勝手に動き出す。

覆い被さるように四つん這いになっているミナの腰を下から押さえながら押し上げると、ミナの首の辺りが龍の顔の前に来る。

そのブルームネクタで湿っているミナの首筋にしゃぶりつく。

「あ…」

ミアは顔を上げ、首筋をさらす。

それはまるで龍にしゃぶりついて欲しいかのように。

龍は首筋から肩、肩甲骨付近と丹念に舐めとり終わると、また、乳房が目の前にくるように腰を押し上げる。

目の前にミナの形の良い、柔らかそうな胸が揺れる。

その揺れにタイミングを合わせ、龍は乳首に吸い付く。

「あっ、だめぇ」

ミナの支えている腕が小刻みに震える。

そして、同じように腰を押し上げ、腹部、下腹部と徐々に押し上げ、とうとう龍の顔の前にミナの花弁がくる。

ピンク色の花弁が濡れて光っている。

龍はミナの腰を手前に引き、花弁にしゃぶりつく。

「いや。

 恥ずかしい…

 あ、いや…」

ミナは上半身を反らすようにし、自分から花弁を龍の顔の前に持っていき、体を震わす。

龍は慣れているように舌で刺激し、ブルームネクタがにじみ出てくるとそれを舐めとる。

繰り返すうちに、ミナは体をぴくぴくと震わせ、腕をがくがくと震わす。


「だ、だめ!!

 あ、ああ…」

声を漏らすと大きく体を震わせ、腕が支えきれなくなり、上半身が倒れてくると、龍は支えるようにして上半身を起こす。

龍の花糸はすでに太く、大きくなった葯が濡れて光っている。

そして胡坐をかき、その中に脚を広げたミナをゆっくりと下していく。

葯が花弁に触れると、ミナは花弁の入口に葯がくるように体をずらす。

龍はミナの背中に手を回し、抱きしめるようにして、ゆっくりと大きい葯を花弁に沈めていく。

「い、痛い…」

花柱は狭く、裂けるのではと思うほど広げて葯が潜り込んでいく。

「ひ、ひぃ」

ミナはたまらず声を上げるが、龍はひるまずに押し入っていく。

花柱の中は昨日と違って壁があり花糸を葯を締め付けていく。

そして、途中で何か抵抗にぶつかるが構わず奥へと押し込んでいく。

「だ、だめ…い…」

痛みが頂点を迎えた瞬間、いつものように傷みがさっと消え、代わりに快感が襲ってくる。

そして、龍の葯が奥まで入りきると、ミナは切なそうな顔をして龍に抱きつく。

それから龍は何度も何度も下から突き上げ、また、少しミナの体を持ち上げ、また、深く突き刺していく。

龍が動くたびにミナは快感に襲われ、その度に体を震わせ、龍に抱きつく腕に力を入れる。

湧き上がって来るミナの魅惑的な香りが、龍に活力を与える。

そして、火山の噴火のように体液をミナの中に一気に放出する。

「きゃん!

 うぅう

 あっ、ああ…」

ミナはそれを感じて、小さく喜びのような悲鳴を漏らし、体を震わす。

龍は葯ごとミナの中に吸い込まれるような感じがした。

二人はその後、横になり抱き合うようにして微睡まどろむ。

ミナからは相変わらずいい香りが漂い、それを呼吸とともに吸い込んでいる龍は体中に活力がみなぎって来ることを感じていた。


「そう言えば、三人は?」

龍は、サニャとフレイ、アクアがいないことに気が付いた。

「サニャたちは、美味しいものを私に食べさせてくれるって、向こうで料理しているわ」

ミナがそう言うと、確かに料理のいい匂いが部屋に漂ってきた。

5人は顔をそろえて、食事をとる。

その前に、フレイとアクアはミアの前に神妙な顔をして並び、本意ではなかったがミナを傷つけたことを心から詫びていた。

特に、実際に手を下したアクアは、可哀想なくらい体を縮め、泣きそうな顔で何度も何度も頭を下げる。

その二人をミアは笑って抱きしめる。

「理由はサニャから聞いていて知っているわ。

 大丈夫。

 気にしていないから。

 それに少しだけ聞こえていたのよ。

 アクアが『ごめんなさい、ごめんなさい』って何度も私に言っていたことを。

 それと、最後は私を守ってくれたんでしょ。

 もう、元に戻ったし、気にしていないからね。

 これからは、一緒にいてくれるんでしょ?

 二人より四人の方が賑やかで楽しいし、それに何かと頼もしいしね」

その一言が、フレイとアクアを小躍りさせるくらい喜ばせた。

ただ、アクアは一瞬微妙な顔をしたのを誰も気が付かなかった。


その日は、サニャはミナの傍から離れず、フレイとアクアはいつもより張り切って食料の調達に料理作りに精を出す。

「ミナ。

 龍には、ミナの尻尾が取れるまでここに居てくれるように頼んであるのよ」

「ねえ、サニャ。

 本当に自然に尻尾が取れるの?」

「うん。

 私と同じだったら、2,3日もかからないんじゃないかな」

「でも、取れたらすぐに龍は…」

ミナは言葉を濁らすと、二人は口を閉ざす。

その夜、龍へのエネルギーチャージはミナとサニャが行い、フレイとアクアはつまらなそうに見ていた。

翌日、ミナの体に変化が起きる。

「ミナ、どうしたの?」

サニャが戸惑っている顔をしているミナに声を掛ける。

「う、うん。

 それが、尻尾に力が入らないの。

 それどころか、感覚がなくて…」

「私と一緒よ!」

サニャの顔が明るくなる。

その日の午後、尻尾に全く間隔がなく、生え際がむずむずするとミナが言い出す。

「ねえ、ミナ。

 ちょっといい?」

サニャが声を掛ける。

「なぁに?

 サニャ」

「ちょっと、後ろを向いて。

 龍、お願いね」

「え?

 ああ」

龍はサニャからミナの尻尾が取れたら、自分にしてくれたように傷の手当てをしてほしいと頼まれていた。

ただ、龍にはサニャの時に手当した覚えがなかったので、何とも言えなかったが、サニャにしたことをすればいいのかとおぼろげに思っていた。


「えい」

掛け声とともにサニャがミナの尻尾を掴んで引っ張ると、ビリッと何かが切れた音がしてミナの尻尾が根元から取れた。

「痛い!」

驚いて声を出したが、そんなに痛いわけではなくピリピリと痛むくらいだった。

それよりも尻尾が取れたことが驚きだった。

「サニャが言った通り。

ほ、本当に取れた。

きゃっ」

呆然とサニャの手にある千切れた自分の尻尾を見ていると、いきなり龍に抱き上げらえる。

「り、龍?」

「寝室で仰向けになって傷を見せて」

ミナの腰に回した腕に温かな液体のようなものを感じる。

それは良い香りのするミナの体液だった。

龍はミナをうつ伏せに泣かせると、ズボンと下着を脱がす。

「や!

 龍!

 恥ずかしい」

ミナが抗議の声を出すが、龍はお構いなしに、尻尾の取れた後に顔を近づける。

尻尾の取れた後は丸く皮がむけたように赤くなり、体液が滲んでいた。

そのいい香りに龍は舌を出す。

「ひゃっ!」

ミナは驚いて上半身を上げるが、龍に舐められているところが熱くなる。

「龍…

 熱い…

 尻尾があったところが熱い…」

龍の目の前で、ひと舐めするごとに傷が塞がっていく。

「もう少し、我慢して」

「う、うん…」

ミナはそう答えると口をぎゅっと閉じ、我慢する。

しばらくして、熱かったところが急に気持ち良くなってくると龍の目の前で、傷が完全に塞がり、何もなかったかのように綺麗になっていた。


「よし、綺麗になった」

「本当!」

「嘘みたい」

「よかった」

サニャ、フレイ、アクアがミナの尻尾のあったところを覗き込み、口々に驚きの声を出す。

「ほんと?」

それを聞いてミナは懐疑的な声を出す。

「ほら。

 自分の目で確かめて」

サニャは鏡のような板を持ってきて合わせ鏡のようにして、ミナに尻尾のあった部分を見せる。

「ほ、本当だ!

 自分で切らなくても、勝手に取れて、まるで初めから尻尾がなかったみたい…」

「ね」

「サニャの言う通りだわ…」

そういうと、今度は潤んだ瞳で龍を見る。

「龍、ありがとう。

 私の…、好きなだけ龍に分け与えてあげる。

 大好き!」

ミナはそういうと、龍の首にかじりつくように抱き付くと、唇に吸い付くようにして、舌を絡める。

龍もそれに応じながら、ゆっくりとミナを仰向けに寝かせ、じっくりとミナの全身を舐めていく。

ミナにとっては、夢のような快楽と喜びの時間が流れて行った。


翌日、龍はグレーシーソフィやヴィヴィの待つ、中野に戻ることをミナたちに告げる。

「そう。

 戻るの。

 仕方ないわね。

 サニャと私の尻尾が取れるまでという約束だったんだものね」

「いつでも戻って来ていいからね。

 戻ってきたら、私のブルームネクタをあげるから」

ミナとサニャは引き留める訳でもなく、すんなりと了承する。

その横では,フレイとアクアが何か話し合っていた。

龍としては、引き留められることを少しは期待していたので、なんとなく拍子抜けだった。

特にサニャ、フレイそれにアクアは1か月以上、毎日一緒に寝食を共にしていたので龍の方が感傷的になっていた。

そして、出発しようとした時、ふわっとアクアの手が龍の手を握る。

「龍。

 私も一緒に行く。

 私を龍の傍に置いて」

「え?」

アクアの澄んだ瞳に見つめられ、龍はたじろぐ。

「私、きっと龍の役に立つ。

 いざという時の非常食にもなる」

龍は、この世界のことをいろいろと知っているフレイとアクアは、たとえ片方でも十分役に立つと思った。


「非常食は不要だ。

 それより、アクアの知識は確かに必要だが、フレイはどうする?

 ここに残していくのか?」

「ええ。

 フレイは、ここに残ってミナとサニャの手伝いをするの。

 これから、この二人はたいへんだから」

「え?

 たいへん」

「大丈夫。

 龍は心配しなくて」

「でも…

 それに、中野までは5km以上あるよ。

 確か君たちは住処から3km以上離れられないのではなかったか?」

「それは、ミナとサニャの場合。

 まあ、この二人も今ではその呪縛から解放されたみたいだけど」

アクアが言うと、ミナとサニャは意味深な笑みを浮かべる。

「解放…」

「いいの。

 あとで説明するわ。

 それに、私とフレイは、もともとすぐ捕食されることを目的としているのか、その制限はないの。

 だから、どこまでも龍についていける。」

「いいのか?

 フレイと別れるけど」

「大丈夫。

 フレイとは、離れていても、どこにいても、一緒だから」

「一緒?」

「いいの。

 それも今度説明するから。

 大体、龍はこの世界のことを知らなさ過ぎます。

 私が傍にいていろいろと教えてあげないと、生きていけないわ」

「ちょっと、アクア。

 アクアだけじゃ、だめだからね」

ミナが笑いながら声をかける。

「はーい」

アクアは少し悔しそうな顔をする。


「でも、龍。

 アクアの言うことは当たっているわ。

 私たちよりアクアたちの方がこの世界のことや、いろいろなことを知っているし、アクアがついていきたいと言っているのだから、絶対に連れて行った方がいいわ」

アクアはミアの言葉を聞いて嬉しそうに頷く。

「わかった。

 アクア、本当にいいのか?」

「いいに決まってます」

アクアは嬉しそうに龍の腕にしがみつく。

しがみついたアクアの温かさと柔らかさ、そして香るいい匂いで龍はまんざらではない気分になる。

龍とアクアを見送った後、ミナとサニャの頬に涙がこぼれる。

「ずっと、一緒にいてほしかったな」

「私も。

 気持ち良いだけじゃなく、龍って優しくて、私たちのことを、ちゃんと考えてくれたものね」

しょげ返る二人をフレイは明るい笑顔で励ます。

「大丈夫ですよ。

 また、会えますって。

 アクアが傍にいる限り、いつでも私たちとつながっていますから。

 それより、行動に移すんでしょ?」

「そうね」

「でも、私たちで出来るかしら」

「大丈夫。

 二人なら出来ます。

 そのためにも、私が残って、アクアが龍についていったんだから。

 絶対に大丈夫です」

「そうよね。

 わかった。」

「ミア…」

ミアとサニャの眼に決意の光がともっていた。


龍とアクアが吉祥寺を出発する2日前。

グレーシーソフィとヴィヴィの住処に5人の男たちが乱入する。

「だ、誰?!」

まず、男が4人、グレーシーソフィやヴィヴィのいる部屋にずかずか入って来て、部屋の中や、グレーシーソフィ達をじろじろと見る。

4人は、170cmくらいの中肉中背で、その内二人は七三に分けた髪形で黒っぽいスーツを着た、まるでボディガードのような男たち、もう二人は、ジャケットを着て最初の二人より格下と思われる男たち。

4人からは殺気のような異様な気配と生臭い匂いがしていて、不気味な感じがしていた。

「どうだ?」

その四人の背後から凛とした男の声が聞こえ、四人は真ん中を開け、声を掛けた男のために道を開け、頭を下げる。

入ってきた男は、髪をオールバックにして、洒落たスーツを着こなし、端正な顔立ちのまるでギャング映画に出てくる美形のボスのようだった。

その男を見た瞬間に、グレーシーソフィとヴィヴィは凍り付く。

「上級フーマ…」

ヴィヴィが声を漏らす。

「やはりプルートの餌レベルのフェアリーの住処は汚くて、臭くて仕方ないな。

 早く用事を済ませよう。

 おい、どっちだ?」

男は息もするのも嫌だと言わんばかりの嫌そうな顔をして、スーツ姿の男に声を掛ける。


「はい。

 あの小さいほうです。」

「ほう。

 連れて来い」

「はい」

二人の男は、金縛りにあったように身動きできない二人に近づくと、無造作にポケットからピストル型の注射器を取り出し、ヴィヴィの腕に突き刺し、入っている液体を注入する。

「な、なに…」

ヴィヴィは何かを言おうとしたが、まるで糸の切れた人形に用に崩れ落ちる。

「ヴィヴィ!」

グレーシーソフィがヴィヴィの名前を呼んで近づこうとしたが、男たちに睨まれ、まるで蛇に睨まれた小動物のように身動きができなくなる。

男たちは、ヴィヴィを抱えると、ボスと思われる男の前にヴィヴィを引きずっていく。

「どこだ?」

ボスの男がそういうと、男たちはビリビリとヴィヴィの服を破き、背中を男に見せる。

ヴィヴィの背中は、羽の生えたいたのが信じられないように、綺麗な背中をしていた。

「こいつが、例の羽が取れたフェアリーか?」

「はい。

 ある日突然、羽が捥げたようになくなりました」

「例の吉祥寺のいる自分で尻尾を切り落としたフェアリーみたいに、自分で羽を捥いだわけじゃないんだろうな?」

「はい。

 カメラには、そんな仕草は一つも映っていませんでした」

三人の男たちが話している間、格下の男二人はニヤニヤと残忍な笑みを浮かべ、グレーシーソフィにねちっこい視線を送っていた。


「わかった。

 じゃあ、連れていけ」

ボスらしい男が、ヴィヴィを抱えている男たちに声を掛ける。

「ま、待って。

 ヴィヴィを、どこに連れて行くの?」

グレーシーソフィは、やっとのことで声を絞り出すが、ボスの男は、その声を無視する。

代わりにスーツ姿の男の一人がグレーシーソフィを睨みつける。

「お前。

 プルートの餌のくせに、この方に声を掛けるんじゃねえよ」

凄みの利いた声で、グレーシーソフィは震えあがる。

「おい、後始末はわかっているな」

ボスがスーツの男に耳打ちする。

「は、わかっております。

 おい、お前たち。

 後は任せた」

スーツの男は格下の男たちに声をかける。

「へい、わかっています」

格下の男たちは、蛇のような笑みを浮かべ、うやうやしく頭を下げ、横目でグレーシーソフィの体を舐めるようにして眺める。

ボスらしき男とヴィヴィを担いだ男たちは、グレーシーソフィにまったく興味ないように背中を向け、意識のないヴィヴィを連れて部屋を出ていった。


「ま、待って。

 ヴィヴィを何処に…」

後を追おうとしたグレーシーソフィの前に、格下の男たちが立ちふさがる。

その格下の男たちを後目にヴィヴィを担いだ男がボスらしき男に話しかける。

「ボス、あいつら、そろそろまずいです。

 大分、プルート化が進んできてます」

「そうか?

 まあ、変わりはたくさんいるからいいよ。

 この地区、先月、プルートが1匹くたばっただろ?」

「ああ、蛇を潰されたやつですね。

 再生する前に胸に空いた穴からバクテリアが入って、食い殺されたって」

「あ!

 この地区、プルートの割合が減っているっていうことですね」

「そうだ。

 あの二人がプルート化すれば、ちょうどよくなるんじゃないか」

「確かに…

 そう言えば、吉祥寺のモーリーがプルート化したので、吉祥寺のエリアの密度が上がっています」

「モーリー?

 ああ、あのくずか。

 人に取引を持ち掛けて、屑ネタで人に苦労を掛けさせた奴か。

 失敗作をばらまいて、それでもだめなら、奴を処分しろ」

「はい」

男たちは話しながら外に出て行った。


「お前の相手は俺たちだぜ」

男たちの眼は爬虫類のような不気味な目をしてグレーシーソフィの体をねっとりと見つめる。

そして、体からは、まるでプルートのような悪臭が放たれていた。

「きゃっ」

一人の男が、グレーシーソフィの髪を掴み、引きずり倒し、仰向けに横たわったグレーシーソフィの両腕を抑え込む。

もう一人の男は、目の前で着ている服を脱ぎ、全裸になる。

その股間からは、プルートよりも太く大きな蛇が生えていた。

「プ、プルート?!」

グレーシーソフィは男の股間の蛇を見て声を漏らす。

「プルートだって?

 失礼な奴だな。」

「俺たちは、フーマだぜ。

 さてと、これから、時間をかけてじっくりと、お前の体液をこいつで吸い取ってやるからな。

 せいぜい、よがって、体液をぶちまけてくれよな」

そう言って、股間に生えている蛇を見せる。

蛇は、チロチロと舌を出していた。


「俺たちの蛇は、プルートと違って毒はない。

 その代わりに生きたままお前の体の中から、その体液を吸ってやるよ」

「この前のフェアリーは何日かかったっけな。

 体中の体液を吸いつくすのに」

「確か二日だっけな」

「これから、俺たちが交代交代で少しずつ、お前の体液を吸い取ってやる。

 一気に吸い取ると、さすがの俺たちもプルート化しちまうからな」

「さて、無駄話はここまでだ」

「おい、一時間交代だぞ」

「わかっているって」

グレーシーソフィは、男たちの話から、男たちがプルート化しないように、少量ずつ自分の体液を吸って、時間をかけ、自分のことを殺そうとしていることがわかった。


「や、やめて…」

体を捻じって、逃げようと試みるが、しっかりと手を押さえられグレーシーソフィは逃げることが出来なかった。

「さあ、楽しませてもらおうか」

全裸の男は、グレーシーソフィの服やズボンを手荒くはぎ取ると、細く白い両脚を掴み、乱暴に脚を広げさせ、その間に体を割り込ませる。

グレーシーソフィが顔に恐怖の色を浮かべ、押しかぶさって来る男を見つめる。

そして、花弁に冷たく、うねうねと動く何かが当たったと思った瞬間、それが、グニュグニュと花柱に入って来る。

「いやぁ」

男の蛇は、グレーシーソフィの花柱の中でうねうねと動きまくり、そして、所かまわず噛みつき、体液を吸いはじめる。

グレーシーソフィは、痛みはあまり感じなかったが、不快感がひどく、意識がぼやけていく。

「あれ?

 こいつ、よがんねえぞ。

 それに、こいつの中、いつものフェアリーとなんか違うみたいだ」

グレーシーソフィから体液を吸っている男が、もう一人の男に声を掛ける。

「ちゃんとインプットしているはずなんだがな。

 ち、やっぱり低級品か。

 まあ、その内、よがりだすんじゃねえか?」

「そうかな。

 ま、時間があるから、ゆっくりと楽しませてもらおう。

 味は、そんなに悪くないしな」

「へえ?

 じゃあ、早く代われよ」

「馬鹿言うな。

 今始めたところだろうに。

 1時間待っていろって」

それから、グレーシーソフィには拷問のような時間が始まった。


龍とアクアはミアたちと別れ、昼頃、高円寺を抜けて中野に入る。

アクアは崩れたコンクリートやアスファルトの塊、飛び出た木の根や雑草など荒れ果てた道をまるで飛び跳ねるように進んでいく。

龍は、そんなアクアに追いつくはずはなく、少し離れるとアクアは龍が追いつくまで待つ。

その繰り返しだった。

「アクアたちの体力は、思った通りすごいもんだな」

サニャやフレイ、アクアの基礎体力の高さに目を付けた龍は、1か月間、遊びと称してその運動能力の高さと、それを押さえている暗示の解放を試み、本人たちに気が付かれないままに解放に成功していた

解放と言っても、できないと言われていたこと、腕力がある、脚力があることを実はできるんだと植え付けただけだった。

解き放たれた運動能力は、フーマを凌ぎ、プレデターをも凌ぐ。


「龍、大丈夫?

 エネルギーをチャージする?」

「いや、大丈夫だ」

「無理しちゃって。

 まあ、向こうにつけばグレーシーソフィっていうフェアリーからたっぷりチャージしてもらえばいいもんね」

「こ、こら!

 アクア!」

「はーい」

アクアに揶揄われ、龍はグレーシーソフィとヴィヴィのことを、特にグレーシーソフィの体の温もりと香りを思い出していた。

(グレーシーソフィ…)

グレーシーソフィの笑顔が頭に浮かび足が自然に速くなる。

(二人とも、元気かな。

 1日のつもりが1か月以上、心配しているかな。

 それとも、僕のことを忘れてしまったかな)

龍の頭には期待と不安が入り混じっていた。


グレーシーソフィとヴィヴィの住処のマンションにたどり着くと、龍は胸騒ぎを覚える。

マンションは内も外も昼間なのにひっそりとしていて、何の音も聞こえなかった。

そして、見上げると住処につかっている5階の部屋が厚手のカーテンのような布が掛かっていて、内をうかがい知ることが出来なかった。

「龍、言っちゃ悪いけど、何か変。

 雰囲気が悪い。

 それに、プルートのような悪臭がする」

アクアも龍と同じように何かを感じたようだった。

そして、アクアの視覚、嗅覚、聴覚は龍よりも数段発達していた。

「わかるのか?」

「ええ。

 特に建物の中から匂うわ」

「わかった。

 ともかく中に入ろう。

 アクアは僕の後ろからついてきて」

「はい」

アクアの緊張が龍に伝わって来る。


二人はマンションの中に入り、階段を上っていく。

5階の踊り場に就くと、アクアは顔をしかめる。

「龍、ひどい匂い。

 プルートがいるわ」

アクアが指さす方を見ると、グレーシーソフィ達の住処にしている場所だった。

龍は、背後にアクアを回すと、ゆっくりと住処にしている部屋に入っていく。

部屋の中は厚手のカーテンが引かれ薄暗かったが、少しするとその薄暗さに眼が馴れる。

部屋の中では龍でもわかる、プルートの悪臭が充満していた。

「…」

「…」

隣の寝室にしている部屋から獣の唸り声のようなものが聞こえる。

龍たちは、足音も立てずにその声のする部屋に入る。

部屋に入ると豚の顔をした巨大な肉の塊がせわしく腰を動かしている。

そのわき腹の辺りから白く細い足が出ていて、腰の動きに合わせ、虚しく宙を蹴っていた。

そしてその豚の化け物の前に牛の顔をした化け物が口から涎を垂らし、豚の化け物に早く代われとせっついているようだった。

むごたらしくプルート達に犯されているのはグレーシーソフィだった。

そのグレーシーソフィと龍は目を合わす。

グレーシーソフィの眼から涙が流れた時、その顔が苦痛でゆがみ、眼から光が消えて行く。

「プルートよ。

 それも2体も。

 グ、グレーシーソフィが噛まれて毒が回ったわ。

 もう、だめ。

 食べられている!!」

アクアが悲鳴のような声をだすと、牛の化け物がジロリと龍たちを睨む。


「こ、このー!」

アクアのグレーシーソフィが食べられているという言葉を聞いて龍は怒りで一気に頭に血が上る。

「龍!」

アクアが龍の名を呼ぶと、手にした石をカーテンに投げつけ、カーテンを外すと、陽の光が部屋中をまんべんなく照らす。

ギャー!

陽の光を直接見た豚の化け物は顔を覆って立ち上がると、ゴトッと音がして、グレーシーソフィの無残な肢体が転がり落ちる。

二人の格下がグレーシーソフィを食べ始めてから一日半。

明け方までは、二人とも1時間ずつ交代してグレーシーソフィの体液を啜っていたが、その内、どちらからともなくプルート化が始まり、腕力で勝った方がグレーシーソフィの体液にありつくようになっていた。

そして、腕力で勝った豚の化け物は長々グレーシーソフィの体液を啜っていたが、とうとう、蛇が毒蛇に変わり、龍たちが部屋に入って来た時にグレーシーソフィを絶命させ、内臓を溶かし、飲み込み始めるところだった。

豚の化け物は直接陽を浴び、苦しそうに立ち上がっていた。

その体めがけ、龍は思いっきりタックルするように体をぶつけ、跳ね飛ばす。

豚の化け物は体の割には、龍のタックルを受けそのままの勢いで後ずさると、窓の縁に踵を取られ、悲鳴を上げながら落下していく。

グシャという肉がつぶれたような音がして、悲鳴がやむ。


牛の化け物は、まだ完全にプルート化をしていなかったようで、龍とアクアを眺め、アクアに襲い掛かる。

しかし、アクアは牛の化け物が伸ばした手をするり抜け、龍の背後に隠れる。

牛の化け物が大勢を立て直し立て直したところに、今度は龍のラリアットが炸裂する。

牛の化け物は後頭部が地面にめり込むような形で逆さになると、どさっと倒れ、そして、よろよろと起き上がると窓の方に2,3歩歩き出す。

その背中に、龍はドロップキックを見舞う。

牛の化け物は、背中を反らしながら勢いで窓から外に悲鳴を上げながら転落していく。

そして、グシャっと同じように肉がつぶれる音がすると静かになった。

「!」

アクアは外に何かを見つけると、ポケットから小石を出し、その何かに投げつける。

「なんだ?」

龍は、まだ怒りが収まっていなかった。

「あとで。

 それより、グレーシーソフィが先。

 早く、毒が頭に回る前に切断して再生の箱に入れないと。

 龍、箱はわかる?」

「ああ、隣の部屋だ」

「わかった。

 箱を…いえ、水を持ってきて」

「ああ」

龍はアクアに言われたように水瓶から水を桶に入れて持ってくる。

「そのまま。

 私の頭から水を掛けて」

アクアは何かを大事に抱えるようにして、龍に背中を見せる。

龍は言われた通りに後ろからアクアの頭に水を掛ける。

アクアは滴る水で何かを綺麗にしているようだった。


「龍、箱はどこ?」

アクアの逼迫した声に、龍は冷静さを取り戻す。

「ここ」

「わかったわ。

 いいというまで、後ろを向いていてね」

龍が言う通りに後ろを向くと、アクアが箱を開けて何かをしている音が聞こえる。

「もう、いいですよ」

しばらく何かをしている音が聞こえ、最後に箱が閉まる音が聞こえてからアクアが話しかける。

アクアがグレーシーソフィの首を再生の箱に入れた音だった。

「グレーシーソフィは大丈夫か?」

龍が心配そうに尋ねる。

「大丈夫。

 毒は首まで到達していなかったから、問題ないわ。

 ミナで4週間だったから、グレーシーソフィも4週間で出てこられるわ。

 それより…」

アクアが真剣な顔をする。

「?」

「龍が持つかどうかなの。

 グレーシーソフィと一緒にヴィヴィというフェアリーがいたはずなんだけど、何らかの理由で、今はいないみたい。

 私だけだと、龍に十分なエネルギーを上げられない。

 そうなると、龍の命にかかわって来る。

 ねえ、龍。

 いざとなったら、私を殺して、体を食べてね。

 そうすれば…え?」

最後まで話させず、龍はアクアの口を自分の口でふさぐ。

しばらくアクアがうっとりとしていると、ゆっくり口を離す。

「アクアを殺して食べるなんてことは、たとえ、僕が死ぬとしても絶対にできないし、やらない。

 アクアの肉を食べるくらいなら、僕は自分で命を絶つ」

「龍…」

アクアは龍の気持ちを涙が出るくらい嬉しかった。

しかし、いざという時、何とかして自分を食べさせなければならないと決心する。


龍とアクアは、2体のプルートが落ちた辺りを探索する。

死体は、バクテリアによって見る見るうちに土に返っていった。

「すげえな、バクテリアって」

龍はバクテリアの恐ろしさを改めて痛感する。

「何言っているのよ。

 このバクテリアがいる水を飲んだんでしょ?

 よく生き残ったわね。

 ミナのブルームネクタを飲まなかったら、今頃、このプルート達と同じになっていたわよ」

アクアは眉間に皺を寄せて、龍を叱るように話す。

「面目ない。

 しかし、何も無いな」

「上の部屋に、このプルート達が脱いだ服があるんじゃないかしら。」

「そうだな。

 戻ろう」

「そうだ」

アクアは何かを思い出したのか、近くの茂みに入って、何かを持って出てきた。

手にしていたのは機械仕掛けの鳥だった。

「それは?」

「ロボットバード。

 木の枝にとまっていて、あの部屋を監視していたの。

 たぶん、そうだろうと思って、さっき、石をぶつけて叩き落したのよ」

「監視?」

「ええ。

 この前、偶然に、食事の材料にしようと石で落とした鳥がロボットバードだったの。

 フレイと食べられないねとがっかりしたんだけど

 目のところがレンズになっていて、映像を記録し、定期的にどこかに送っていたみたい。

 これで監視し、プルートやフェアリーの割合を常にチェックしていると思う」

「誰が?」

「それは、私たちを作ったフーマたち。

 上級フーマよ」


「上級?

 上級国民ってやつか…」

「上級国民?」

今度はアクアが不思議そうな顔をする。

「あ、なんでもない」

「ううん。

 聞いたことがあるかしら。

 犯罪を起こしても、罪が免除され、丁重に取り扱われるとか。

 他人に自粛を強要しておいて、自分は平気で銀座のクラブで飲み歩いたり、高級割烹で食事をしたり。

 咎めるものなら、逆切れするとか」

「まあ、当たらずとも遠からずか。

 でも、アクアは、本当にいろいろなことを知っているんだな」

「そうですね。

 まだまだプロテクトされている情報など、何をどのくらい知っているか、私自身、わからない。

 でも、龍と出会ってから、知らず知らず、いろいろなことを思い出してきているのよ。」

「そうなんだ」

「さあ、何もないのがわかったから、早く戻りましょう。

 あまり、箱の中に入ってるグレーシーソフィを一人にしたくないし」

「そうだ。

 戻ろう」


二人は部屋に戻ると、再生の箱に異常がないことを確認し、男たちが脱ぎ捨てた服の中を確認する。

「ん?」

龍は男の脱いだズボンのポケットにカードのようなものが入っているのに気が付く。

「なんだろう?」

取り出してみると男の顔写真が付いたIDカードの様だった。

写真の男の顔は、質の悪そうな顔をしていた。

その男たちが代わる代わるグレーシーソフィの可愛らしい花弁に股間に生やした蛇を突っ込み、体液を吸っていたかと思うと、今更ながらに怒りが沸いて来る。

「これ、あのプルート達のIDカードね。」

横からアクアが龍の手にしたカードを覗き込む。

「ATUGI LABO?

 厚木研究所の所属ね。

 作業員でランクは最下位…

 使い捨てって奴だわ」

「厚木研究所?」

「ええ。

 龍の頃で言うと、厚木市の相模川の川岸にある研究所。

 広大な敷地でクローンとフェアリー、プルートの研究開発を行っているわ。

 たぶん、私やフレイ、ミナ、サニャ、それとグレーシーソフィ達はその研究所で作られ、この地域に投下されたの。

 研究所は開発するだけでなく、投下したフェアリーの管理、プルートの餌として適正数いるかとか、あと、フェアリーやプルートが想定外の変化を遂げた時、回収し分析しているの…」

アクアは何かに思い付いたようだった。


「龍。

 ここには、グレーシーソフィとヴィヴィというフェアリーが住んでいたのよね。

 ヴィヴィはどうしたの?」

「え?

 ああ、僕も気になっていたんだけど、どこにもいない。

 どうしたんだろう」

「ねえ、ヴィヴィに変わったところがなかった?

 外見で…

 例えば、サニャやミナのように尻尾が生えていて、それが自然に取れたとか」

「外見…」

1か月以上前のことを龍は一生懸命思いだしていた。

“ヴィヴィ、ご機嫌ね。

 …が無くなったのがそんなに嬉しいの?“

“そうよ。

 これで、仰向けに眠れるし、好き勝手に寝返りが打てるわ“

「あ!

 そうだ。

 羽だ。

 ヴィヴィの背中に生えていた羽、それがある日、自然に取れたんだ」

アクアは確信したようだった。

「それね。

 何かのタイミングで、羽が取れたのが研究所にバレたのね。

 それで、分析のために回収された。

 元々フェアリーは二人1セットだから、ヴィヴィがいなくなったグレーシーソフィはお払い箱…」

「じゃあ、連れていかれたヴィヴィは?」

「わからない。

 でも、グレーシーソフィをお払い箱にしようとしたんだから、きっと、ここには戻ってこれない」

「そんな…」

龍は可愛らしいヴィヴィを思い出し、胸が締め付けられる気がしたが、ふいに違う心配が頭をよぎる。


「なあ、それが確かなら、ミナやサニャも危ないんじゃないか?

 あの二人も、自然に尻尾が取れて、特にミナはあのふさふさの大きな尻尾だったから目立つだろう?」

「うん。

 私もそう思った。

 でも、二人にはフレイがついているし、サニャは覚醒しているし…」

「え?

 覚醒?

 ああ、あのことか。」

「うん。

 だから大丈夫だと思うんだけど。

 それに、暗示も取れているから」

「暗示?」

「うん。

 プルートの誘惑や3km縛り、それと無力でか弱いぶりっこ」

「そうそう、プルートの誘惑や3km縛りが取れたのは、あの黒い液体?」

龍は“ぶりっこ”を軽くスルーすると、アクアは少し残念そうな顔をする。


「確証はないけど、たぶんそう。

 サニャがそう言ってたわ。

 体の中の嫌なものが出て行ったって。

 だから、龍はグレーシーソフィが箱から出て来たら、まず最初に“する”のよ」

アクアがニヤニヤする。

「ちょ、ちょっと。

 わかっているけど…。

 あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」

「?」

「今まで、エネルギーチャージと割り切っていたけど、やっぱり、あれは、その…

 セックスなのか?」

龍は顔を真っ赤にする。

「うーん、龍の言うセックスとは違うはね。

 あの行為はあくまでもエネルギーチャージよ。

 本来は、ここから…」

そう言ってアクアは胸を触る。

「それと、体温とともに体から蒸発してくるもの、あとは、直接抜き取って飲む方法。

 ここは…」

アクアは下腹部を触る

「プルートの搾取用の口。

 それと、フーマの玩具用…」


そう言いながらアクアは龍に近づき、首に手を回し、膝の上に座る。

「まれにあるって、聞いていたけど…

 私たちには今言ったところ以外に2か所、ブルームネクタを出せるところがあるの。

 一つは、ここ」

アクアはそういうと下腹部の下を指さす。

「本来、プルートの蛇が入って来るところ。

 それと、フーマの玩具で、潤滑液もどきは出るけど、ブルームネクタは…

 “この人なら”と思わなければ中から出てこないのよ。

 もう一つは舌下腺。

 普段は唾液なんだけど、“この人なら”と思う人と…」

アクアは、龍の唇に自分の唇を軽く重ねる。

「…すると、舌下腺から唾液じゃなくてブルームネクタが出るのよ。

 この二か所から出るブルームネクタは、他から出るものに何かがプラスアルファされているんだって。

 それが何かは、今はわからない。

 それに“この人なら”と思う人に…されると、演技じゃなく凄く気持ちいいの。

 それが、その2か所の口を開ける呪文かしら」

普段は少女っぽいアクアだが、たまに龍がドキッとするほど色気が顔に出る。

まさに今のアクアの顔がそうだった。


「さ、プルート達に荒らされた部屋の片づけをしましょう。

 グレーシーソフィが箱から出てきたときにくつろげるように、ね」

「ああ。

 でもグレーシーソフィは大丈夫なんだろうか」

龍は心配そうに再生の箱を見る

「大丈夫よ。

 あの箱は、再生できない状態だと蓋が閉まらないの。

 ぴったりと閉まっているでしょ?

 だから大丈夫。

 龍も頑張って4週間、私だけで耐えてね」

「う、うん」

恥ずかしそうに頷く龍にアクアは笑顔を見せる。

「あと、念のために明日、日中ミアのところに行って話をしてくるね。

 だから、今晩は、明日の日中の分もチャージしなくっちゃね」

それから二人は、荒らされた部屋を片付け始める。

布団代わりに使っていたムートンは、プルートの生臭い甥がついていたのと、プルートの体液で濡れていた。


ただ、ある場所を触っていたアクアが顔を曇らす。

「どうした?」

「ううん。

 グレーシーソフィ、大変な目にあっていたんだなって思って」

「?」

「ここ、濡れているのはプルートの体液じゃなく、グレーシーソフィが体を、花柱や子房を守るために出した分泌物なの

 こんなに濡れているということは、長い時間、たぶん一日以上、ずっと体液を吸われていたのね。

 どんなの嫌だったか。

 特に、龍に出会った後だから尚更…。

 出て来たら、嫌がらずに優しくしてあげてね」

「それはそうだけど、何で嫌がる?」

「ううん、なんでもない」

(フーマは自分の異性と思った人が他人と性交すると不潔だと触りもしなくなるらしいけど、龍は大丈夫か)

アクアは少し安心した。

それから、どこから持ってきたのか、アクアはカーテンやムートンを取り換え,換気して、部屋の中を綺麗にした。

それからグレーシーソフィの入った再生の箱を守るようにして、龍とアクアの生活が始まる。


なるべく龍の体力を使わせないように、アクアは気を使っていたが、体力に関係なく龍の生命力を維持するエネルギーは日々減っていく。

二週間目になると、龍は「大丈夫だ」と言いながらも、やつれ具合が目立ってくる。

アクアは、ミアたちのブルームネクタを抜いて瓶に入れ龍に飲ますが、ブルームネクタは痛みが早く、常温で持って来る頃には、すでに大半がダメになっていて、効果が上がらなかった。

ミアは自らこっちに来ようとしたが、サニャが克服した3kmの壁をまだ克服できていなかった。

三週間目に入ろうとした時、龍は動けなくなっていた。

「龍、お願い。

 私を食べて。

 生で気持ち悪いかと思うけど、きっと元気になるから」

アクアは泣きそうな顔で龍に哀願するが龍はきっぱりと首を横に振る。

「絶対に嫌だ。

 アクアを食べてまで生き残ろうとは思わない」

その龍の言葉は、アクアにとって嬉しいものだったが、現実はそう言ってられなかった。

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