第5話 TWINS

眼が馴れると、大きなソファーの真ん中に上半身裸で40歳くらいの男が座り、その周りにフェアリーと思われるエロチックな衣装を着たプロポーションのいい美女が6人、まるでアラビアンナイトのハーレムのように男の頭や肩、腕や脚に絡みつくようにはべっていた。

その横の方に双子の子供のようなフェアリーが怯えたようにしゃがみ込み、その片方のフェアリーがミナの首を持っていた。

「これは、どういうことかな」

龍は本来なら同じ人間に出会えたと喜ぶところだが、ミナの首を取られ、腹の中が煮えくり返るほど怒っていた。


「おー、珍しいな。

 人間様が尋ねてくるなんて。

 おれっちは、モーリーと呼んでくれ。

 ところで、あんた、怒っている?」

「当たり前だろ」

龍は、フェアリーが持っているミナの首を指さす

「あちゃー!

 このフェアリー、お前さんのものだったか。

 すまん、すまん。

 この前偶然見つけて、なかなかの上玉だったんで、俺のコレクションに加えようとこいつらに命令していたんだ。

 お前さんの玩具だったか。

 なあ、こいつと交換しないか?」


男は足元にいた金髪で褐色の肌をした美人のフェアリーの髪を掴む。

「おい」

モーリーが何かを促すと、そのフェアリーはモーリーのズボンの前を開け、モーリーの一物を引き出す。

その一物は普通と異なり、先の部分が蛇に変わっていて、チロチロと舌を出していた。

ただし、プルートのような細い蛇ではなく、蛇以外は普通の成人男性のそのものの太さがあった。

フェアリーはモーリーの蛇に跨ると、蛇はフェアリーの中に入っていく。

途端にフェアリーはよがり声をあげ体をくねらす。

モーリーの蛇はフェアリーの体の中から何かを飲んでいるように、蛇の胴体が脈打つ。

「こいつ、この中で一番感度がよくて、味がいいやつなんだぜ。

 首をはねて箱に入れてやれば、綺麗な無垢な体で復活するだろ。

 な、いいだろ?」

モーリーはサニャの方をちらりと見る。

「じゃあ、こいつに、あのちっさいやつもつけてやるよ。

 お前さんの好みだろ?」

モーリーはサニャを見て龍にロリータ系の趣味があると誤解したようだった。


「ふざけるな。」

「おいおい。

 せっかくこの世界で復活したんだ。

 このセックスが気持ちよく、しかも味がいいフェアリーがいる世界でよ。

 ハーレムだぜ。

 捕まえて、こいつら馬鹿だから力でねじ伏せれば大人しく言うこと聞くって。

 ただ、定期的にプルートの食われるのが玉に瑕だけどな。

 でも、たくさんいれば一人くらい、復活するまで待てばいいのさ。

 な、いい世界だろう。

 男冥利に尽きるぜ」

モーリーは自分の言葉に酔っているようだった

「おい、早く持ってきたその首を箱に入れろ!」

モーリーはきつい口調でミナの首を持っている小さなフェアリーを叱咤するが、フェアリーはためらっているようで、龍の顔とモーリーの顔を交互に見る。


「龍。

 早く取り返さないと、時間がかかるとバクテリアが入っちゃう」

サニャは泣きそうな小声で龍に話しかける。

「他のフェアリーを渡してもらっても、交換する気はない。

 ミナは、そのフェアリーは、俺の大事な女性ひとだ」

龍がぴしっというと、小さなフェアリーは電気が走ったように、体を硬直させる。

その隙を見計らうように、サニャは猫のような素早さでミナの首を奪い返す。

「先に戻れ。

 僕も後から行く」

「うん」

サニャは、龍に頷いて見せると、そこから消えるようにいなくなる。

「お、おい。

 何しているんだ。

 おい、あのフェアリーを追え!」

モーリーが気色ばんでフェアリーを怒鳴りつけるが、龍に見つめられている小さなフェアリーたちは動くことが出来なかった。


そして、龍はゆっくりとモーリーの方を向く。

「て、てめぇ…」

そういったモーリーの顔が凍り付く。

モーリーの眼に映った龍は、先ほどとは別人のように全身闘気のようなオーラが燃え上がり、眼には殺気が宿っていた。

「ちっ、嘘だよ、嘘。

 悪かったよ。

 お前の大事な玩具だとは知らなかっただけだよ。

 もうさ、首、返したからいいだろ。

 用ないくなったんだから、とっとと帰ってくれ」

「わかればいい。

 二度とあの子たちに近づくな。

 それと、ひとつ質問に答えてくれ」

「な、なんだよ。

 何でも答えるから、早く帰ってくれよ」

モーリーは完璧に龍のオーラに気後れし、逃げ腰になっていた。


「そこに“フーマの穴”があっただろ。

 お前は、あそこから出てきたのか?」

“フーマの穴”と聞いてモーリーは顔をゆがめる。

「そ、そうだが…」

「他に出てきた人間はいなかったか?」

「し、知らねえよ。

 他の奴らなんて、みんなミイラみたいになっていたし…

 それに出て来て俺様のハーレムを邪魔されるといけないから、頼んで蓋をしただけだよ」

「な、なに?!

 じゃあ、お前が穴を潰したっていうのか?」

「そ、そうだよ。

 みんなミイラみたいに干からびていたって言ったじゃないか。

 か、可哀想に思って埋めてやったんだよ。

 生きている奴なんていなかったよ」

明らかに動揺しているのか、モーリーの顔から汗が噴き出ていた。


「なんて勝手なことを。

 お前がみんな殺したっていうのか?」

龍は呆れるとともに、抑えようのない怒りがこみあげてくる

「違うって。

 俺がやったんじゃねえよ。

 俺は、単に頼んだだけで、まさか、爆薬で吹っ飛ばすなんて思わなかったんだよ。

 俺は、単に蓋をしてくれと頼んだだけだよ」

モーリーの顔から汗が激しく噴き出す。

「それは誰だ。

 誰に頼んだんだ」

龍が一歩モーリーの方に踏み出す。

「ひ、ひい。

 く、来るな。

 そればっかりは、口が裂けても言えないことだ」

「いや、力ずくでも言ってもらう」

「い、いやだ…

 あ…が…」

モーリーは苦しそうにしゃがみ込む。

異変に気付いた近くのフェアリーが立ち上がって下がり始める。


「が、がぁ」

人とは思えぬ声をあげ、顔を上げたモーリーの顔は、すでに人の顔ではなく、豚の顔になっていた。

「プルート…」

龍の目の前でモーリーだった人間はブクブクと体が泡立つように横にも縦にも大きくなっていく。

「きゃあー」

傍にいたフェアリーたちは、パニックになって逃げ惑うが、モーリーだったプルートは近くにいた一人のフェアリーを捕まえ、すでに細い毒蛇に変化した一物をフェアリーの花弁に突っ込ます。

フェアリーは、悲鳴を上げすぐに絶命し、梳かされた内臓を啜られていく。

「モーリー…」

プルートの変化したモーリーには、もう龍の声は聞こえなかった。

フェアリーの体から液状のものを吸いつくすと、ぼりぼりと哀れなフェアリーの肩にかじりつき、食いちぎり、骨を砕いて飲み込んでいく。

骨の砕ける気味の悪い音が周りに響き渡る。

大きなフェアリーたちは逃げおおせたのか、いつの間にか姿が見えなくなっていたが、小さなフェアリーの二人は、お互いの体を抱き合いながら、その場でガタガタと震えていた。


「おい、こっちにこい。」

龍の鋭い一言に、小さなフェアリーたちは雷に打たれたように立ち上がると、龍の方に駆け寄って来るが、途中で足がもつれて倒れそうになる。

「ちっ」

龍はフェアリーたちを小脇に抱えると急いで建物から出る。

外はまだ明るかったので、モーリーだったプレデターは追ってこれなかった。

ただ、最後の人としての感情が入ったような悲し気な咆哮が建物の中から聞こえ、そして、静かになった。

龍は、モーリーが完全にプルートになったことを感じた。


建物を後にし、小さなフェアリーたちを抱えたまま走って建物から遠ざかり、井の頭池を挟んで反対岸にたどり着いたところで、立ち止まると、抱えていたフェアリーたちを下すと、フェアリーたちは、龍に何をされるのか恐怖でその場にへたり込んだ。

二人のフェアリーは、身長が80cmくらいで、ブロンド色の長いまき毛に濃紺の瞳、20代手前のような若さで、クリッとした目、小さな鼻、薄い唇、白い肌とかなりの美人だった。

体形は、グレーシーソフィをスケール縮小したようなもので、女性らしい丸みを帯びていた。モーリーがロリータ体形だといっていたが、それはなぜか体にコルセットのようなものを着て、わざと丸みを見せないように締めていただけで、龍に抱えられてそのコルセットがずれて、体の丸みを帯びた線が露出していた。

服装はモーリーの趣味なのか、白いレース柄のワンピースで、背中からはセミの羽のような茶色で硬そうな羽が生えていた。

二人は、一卵性の双子のように全く同じ顔、同じ体形をしていたが、片方だけ羽に龍の投げた石で穴が開いていた。

二人は小柄だったのとコルセットを巻いていたので、よく見なければ小学生に思え、そのためモーリーからは性欲を満たす玩具としてみなされず、身のまわりの世話をやく下女としてひどい扱いを受けていたようで、手足や首など素肌が見えるところには、蚯蚓腫みみずばれや青あざが随所にあった。

恐怖に震える二人のフェアリーを、龍はじっと見下ろし、そしてゆっくりと近づき、腕を伸ばす。

そして、その小さなフェアリーたちの哀れな悲鳴が響き渡った。


龍は、茂みの中から一人で出てくると、サニャとミナが心配で、二人の住処に足早に戻った。

部屋の入ると、サニャが驚いた顔をしたがすぐに龍だとわかると、へなへなとその場にしゃがみ込む。

「サニャ。

 ミナは?」

サニャは、見覚えのある大きな旅行ケースの方を指さす。

「うん。

 たぶん大丈夫。

 ちゃんと綺麗にして中に入れたから」

「そうか」

「怖かった…」

「サニャ?」

「何もかも、怖かった。

 ミナの首を同じフェアリーに持っていかれたこと。

 フェアリーに命じていたのがフーマだったこと。

 あのフーマは、そのあとどうなったの?」

「モーリーか?

 あいつは、結局、目の前でプルートになってしまった。

 もう、フーマには戻らないだろう」

「プルートが増えた?

 それもいやだ。

 フーマも怖い。

 龍は、大丈夫だよね?」

恐怖で体を震えさせながら、サニャは涙目で龍を見つめる。


「ああ、そのつもりだ」

龍はサニャに近づくと、その体を強く抱きしめ、唇を吸う。

サニャも頬に涙を流しながら、夢中になって舌を絡め龍の舌を吸う。

そして龍はサニャから恐怖を忘れさせるように、裸にすると、より強く、より激しくその体を舐め上げ、そして、より深くサニャの体と結びつく。

サニャも今まで以上に、龍を求め、快楽に酔いしれ、龍の体液が体中に回ると、何度も、その華奢な体を痙攣させ、龍にしがみついたまま離れなかった。

龍を離すまいとしがみついたまま、サニャは上がった息で龍の耳元で囁く。

「龍…

 お願いが…あるの…

 もう少し…ここにいて…

 せめて、ミナが…出てくるまで…」

体が再生するのは個人差があり、サニャで3週間ほど、ミナで4週間ほど。

そして、再生し箱から出て来ても、体がなじむまで約1週間かかるのが普通だった。

それに比べれば、今回サニャが箱から出て来てその日で4日目で、普通に動けるまでに回復するには異常な早さだった。

ミナの場合どうだかわからないが普通に考えれば1か月くらい経たなければもとには戻らない計算だった。


「お願い…

 違うフェアリーたちが…龍を心配して…待っているのは知っている…

 でも…怖いの…

 心細い…の

 お願い…」

サニャの声がまた涙声になって来る。

「わかった。

 いいよ。

 傍にいてあげる」

龍は、サニャの髪をなでながら優しい声で囁く。

「本当?!」

「本当だ」

「う、うれしい」

サニャは喜びを爆発させ、そのせいで体温が上がり、蒸気となったブルームネクタの中にいつも違った龍の性欲を掻き立てるような香りが混じり龍を刺激する。

その香りに刺激され、サニャの中で小さくなりかけていた龍の花糸が再び大きくなり、花柱を広げる。

「あ…」

それを感じサニャは小さく声を出し、体をぴくっと痙攣させ、龍を再び奥に迎え入れていく。

サニャと龍は何度も求め合い、結局、眠りについたのは夜中過ぎだった。


翌日

サニャは元気と笑顔を取り戻していた。

昼間、サニャは心配そうに龍の顔を覗き込む。

「なに?

 どうしたの?」

龍が何事かとサニャに尋ねる。

「うーん。

 私だけだと、龍のエネルギーには全然足りないし。

 ミナと私を合わせても足りないから、あとは食事を作って栄養と取ってもらわないといけないってミナが言っていた。

 でも、私、果実や木の実、野菜など採りに行ったことないし、どこに行けばあるかわからないし…

 困ったな」

「じゃあ、井の頭公園に行ってみよう。

 ミナが、あそこに美味しい木の実があるって行ってたよ。」

「うーん。

 あそこは怖いからしばらく行きたくない。」

(無理もないか)

龍はそう思う。

「じゃあ、北にある善福寺池に行ってみよう。

 あそこならきっと木の実や果実がなっている木があるはずだよ」

「うん。

 じゃあ、そこに行こう。

 入れる袋を持ってくるね」

サニャは機嫌を取り戻し、部屋から出ていく。


「きゃっ!」

直ぐに隣の部屋からサニャの小さな悲鳴が聞こえ、龍が駆け付けると、サニャは部屋の隅でぺたんと座り込んで、放心状態だった。

「どうした?」

サニャが部屋の中央辺りに落ちている黒い紐のようなものを指さす。

「え?」

よく見るとそれはサニャの尻尾だった。

龍は尻尾を拾い上げてみる。

根元の方は千切れた後のように赤い体液が滲んでいた。

「前かがみになったら…

 前かがみになったら、ブチって…」

サニャはいつも尻尾をズボンやスカートの腰のあたりから出していて、前かがみになった時に何かの拍子で千切れたようだった。

「今朝起きた時から尻尾に力が入らなかったの…

 それどころか感覚がなくて。

 でも、体の調子は良かったから気にしていなかったの…」

「痛みは?」

龍はサニャの傍で腰を下ろす。

「ピリピリする」

サニャのズボンのあたりからブルームネクタのような匂いが強くするのを感じる。


「ちょっと、向こうに行って診せて」

サニャを抱き上げ、寝室に運ぶとうつぶせ寝にさせ、ズボンを脱がす。

「恥ずかしい」

ズボンを脱がされ恥ずかしがるサニャを気にせず、龍は怪我の状態をチェックする。

ズボンや下着にはちょうど尻尾の生え際のあたりにピンク色の体液が付着していたが少量だった。

サニャの可愛らしいお尻の割れ目の少し上の部分の尻尾が生えていたところは、千切れたのではなく綺麗に切り取られたような跡があり、体液の流出は止まっていたが10円玉のような穴が開きピンク色の肉が見えていた

「どう?」

サニャが心配そうにたずねる。

「大丈夫。

 まるでメスで切ったように綺麗に切れているし、血も止まっているよ。」

「よかったぁ~

 …

 ひゃっ!」


尻尾のあった部分に何か温かいものが触れ、ピリピリと刺激があったので、サニャが声をあげ、振り返るようにしてみると患部を龍が舐めているようだった。

「龍…」

ピリピリしたのは初めだけで、直ぐにいつも龍に舐められると気持ちよくなる、その感覚に襲われてくる。

「龍…だめよ…おかしくなっちゃう…」

龍が構わず舐め続けると、目の前でどんどんと傷が消えて行く。

数分舐め続けると、傷は跡形もなくなり綺麗になる。

「よっしゃー、綺麗になったよ」

「ほ…ほんとう…?」

舐められ続けてうっとりしていたサニャは最初なんのことだかわからなかったみたいだったが、急に飛び起きると鏡で尻尾の後を確認する。

鏡に映ったそこは、初めから何もなかったように綺麗だった。

「や、やったぁ!

 尻尾がなくなったぁ!!

 嬉しい、嬉しいな!」

サニャは喜びを爆発させ、下半身裸のまま、小躍りするように龍に飛びつくと、そのまま二人で倒れ込み、龍の上の乗って、龍の口にしゃぶりつき、舌を吸う。


「そんなに嬉しいの?」

サニャが口を離すと龍が尋ねる。

「うん。

 だって、寝るとき邪魔だし、服着るとき邪魔だし、何するときも必ず気を付けないといけなかったから、邪魔で、邪魔で仕方なかったの」

「そっか。

 じゃあ、いいことは?」

龍は体を入れ替えて、サニャの上になる。

「龍に舐めてもらえる部分が増えた!」

そういうとサニャは下から龍の首に手を回し抱き着くと、唇に再びしゃぶりつく。

龍も負けじとしゃぶりつき、舌を絡め合う。


それから二人が起き上がったのは日が傾き始めたころだった。

「いけない。

 今から捜しに行くと暗くなっちゃう」

「そうだな。

 危ないから明日にしよう」

胡坐をかいて座っている龍の膝の上にサニャはちょこんと座って、窓の外の風景を眺める。

外は太陽が大分傾き、オレンジ色の光に変わっていた。

「大丈夫?

 龍、お腹空かない?」

「大丈夫だ」

そう言いながらも龍は空腹感を覚えていた。

(確かにサニャだけだと足らないか。

 でも餓死はしないだろう)


ゴト

住処の入り口付近で何か音がした。

二人は見に行くと、入口の入ったところに野菜や果実、木の実や卵などが乗っている大きな笊が置かれていた。

「これ、全部食べられるの?」

「う、うん。

 でも、誰だろう」

不思議がるサニャ。

龍は笊に巻き付いている1本のブロンド色の巻き毛を見つける

(おや、おや)

そして果実らしいものを手に取るとかじってみる。

周りは堅い皮だったが中はプチプチと種があり甘い果実だった。

「こりゃ、うまい」

「あ、それ。

 中身は甘くておいしいの。

 種がプチプチしていて、私の好きな果実だ」

サニャは龍が手に持っているかじりかけの果実にかぶりつき、嬉しそうな顔をする。

「さて、これだけ材料があるから、今晩はどうする?

 お!

 なんか、鶏肉みたいな肉もあるぞ」

「え?」

サニャは顔を曇らす。

「どうした?」

「ごめんなさい。

 私…料理したことないの…」

「…」

その晩、二人の夕ご飯は生野菜と果実をかじって終わりだった。


そのあと、サニャの身に異変が生じる。

「どうした?」

急に頭を抑え込んでしゃがみ込むサニャに龍は声を掛ける。

「な、なにかが頭に浮かんでくる。

 たくさんたくさん。

 大きな点、小さな点。

 …

 この大きな点はプルート?

 じゃあ、小さな点はフェアリー?

 ほかにも小さな点がいっぱい

 頭が破裂しそう」

苦しむサニャの話を聞いて龍はサニャにレーダーのような能力が開花したと瞬時に判断した。

そして、サニャを自分の膝の上に座らせ、後ろから抱きしめる。

「大丈夫だよ、サニャ。

 きっとサニャの頭は、今、ここの周りの生き物が全て天として頭の中に浮かんでいるんだ。」

「え?

 私、頭がおかしくなったんじゃないの?」

「ああ、よくわからないけど、そういう能力が目覚めたみたいだ」

「そ、そんな…」

「大丈夫だって。

 僕がそばにいるから、その能力を使いこなせるように練習すればいいのさ」

「練習?」

「そうだ。

 まずは、見たいものを絞る練習からだね。

 きっと、今、サニャの頭から超音波見たいのが出て、周りの生き物に当たって反射し、戻って来たものを頭の中で映像として組み立てているんだろう」

「蝙蝠みたい?」

「そんなものじゃないよ。

 もっと高性能だと思うよ。

 だって、この建物を突き抜けて行くんだから。

「ふーん」


龍の膝の上で、龍の体温を感じていることで、サニャのパニックは治まり、冷静になっていく。

「まずはプルートだけに集中して、他の点が気にならなくなるように」

「うん。

 やってみる。」

サニャは目を閉じて、子の能力を自分のものにしようと必死な様子だった。

何十分か経ち、サニャは興奮したように口を開く。

「できた。

 プルートね。

 近くに1体。

 離れたところに2体」

サニャはそう言いながら、方向を指さす。

「あら?

 もう一体いる。

 あっち…」

サニャの指さす方は井の頭池のある方で、モーリーが変化したプルートであることに間違いなかった。

それから一晩掛かってサニャはいろいろなことを習得していく。

大事なのは、何も感じなくすること。

四六時中何らかが頭に浮かぶと落ち着かないので、能力を抑える方法。

あとは、種類によって索敵対象をしぼる練習。

すべて習得したのは明け方近くで、疲れ切ったサニャは、龍の腕の中でぐっすりと眠りについていた。


昼頃。

今日こそは食糧を調達しようと意気込んで用意をしている時、また、入口付近でゴトっという音とともに野菜や果実、木の実に肉などが乗った笊が置かれていた。

「私に任せて!」

サニャは、食料を運んできた者を昨日身に着けた探知能力で捜しているように、目をつぶってじっと気配を探っているようだった。

「いた!

 フェアリーが2人。

 2階の奥の教室に向かっているわ。

 でも、フェアリーにしては、小さいわね…」

「行こう」

「うん」

住処は4階の東側の奥の教室で、二人は住処を飛び出し、2階に降り立つ。

そして、サニャが示した西側の奥の教室までそっと近づいていく。

「龍。

 知り合い?」

「たぶんな」

教室の入口の前で2人は気配を探るが、気配は感じられなかった。

龍はサニャを見ると、サニャはまた眼を閉じて、探索してようだった。

そして、小さく「いる」とつぶやく。

2人はうなずき合うと、龍が先頭で入り口をふさいでいる鉄の扉を動かし、中に踏み込んだ。


「!」

「!」

中では少女のような小柄なフェアリーが2人、手を取り合って、怯えた顔で龍とサニャを見ていた。

「あら?

 あなたたちはミアの首をはねたフェアリー?」

それを聞いた途端、二人の小柄なフェアリーは泣きそうな顔をした。

「ああ、そうだ。

 二人ともプルートに変化したモーリーに殺されようとしていたので助けたんだ。」

そのあと、龍は助けた時のこと、二人の体の傷からモーリーに虐待され、言うことを利かされていたのだろうと説明する。

そして、二人ともモーリーの命令で仕方なく同族の首をはねたことに、物凄く後悔していたことを付け加える

サニャは龍の話を聞き、二人の顔を見つめ、納得したようだった。

「私はサニャ、こっちは龍。

龍とは知り合いみたいね。

あなたたち、名前は?」

「アクア」

「フレイ」

アクアとフレイはおどおどしながら小声で名前を言う。


2人は運んできた笊を作る材料に自分たちの髪の毛を使ったのか、長かった髪は短くなっていて、地面に切り取った髪が束になっておかれていた。

それと、羽も使ったのか根元から切り落とし、やはり地面に切り取った羽が置かれていた。

もう一つ、この前と違う点は、二人ともコルセットをしていなかった。

そのため、体の線が、特に胸のあたりが丸みを帯びていた。

サニャは目ざとく、その地面に置いてある髪の毛の束や羽を見つける。

「あなたたち。

 私たちに食べ物を運ぶ笊を作るために髪を切ったり、羽を切り落としたの?」

2人は平然と頷く。

「なんてことを…。

 羽根はまた生えてくるの?

 再生の箱は?」

「私たち、失敗作なので再生の箱は渡されていないの。

 失敗作はそのまま野に放たれて、プルートの餌なんだって。」

「だから羽は生え変わらないし、食べられたら死んじゃうの。

 私たちの姉妹は10人以上いたの。」

「でも、残ったのは私達二人だけ」

「小さいからなのかわからないけど、プルートの誘惑は私達にはないの。

 きっと、おやつ代わりにしかならないのね。

 だから、誘惑がなくても見つかって捕まれば食べられてしまう。」、

「この前、モーリーがプルートになった時、明らかに私たちを食い殺そうとしたわ」

「私たち、食べられてしまうんだ、死ぬんだとおもって怖かった。

 そしたら、龍が助けてくれた」


2人は龍の顔を見てほほ笑む

「龍が、私たち二人に来いって」

「龍たちの大事なフェアリーの首を、いくらモーリーの命令だからと言っても、許されない」

「なのに、来いって」

「そして、私たちを両手に抱えて逃げて、安全なところで離してくれたの」

「でも、動けなかったら、優しくしてくれて」

2人は恥ずかしそうな顔をする。

「それで、危ないから動けるようになるまでと、草木で隠してくれたの」

「私たち、直ぐ動けるようになったから、急いで龍の後を追ってきたの」

「なんでもいいからお礼をしたくて」

「そうしたら、食べ物がないっていう話が聞こえたから」

「あなたたちがとって来てくれたの?」

二人はサニャに頷いて見せる。

「私たち、食べ物を見つけるの得意」

「木の実や果実をとるのが得意」

「鳥を落としたり、ウサギを捕ったりするのが得意」

「捕ったもので料理をするのも得意」

「え?

 料理も得意?」

サニャの眼がきらりと光る。

「う、うん」

サニャの反応に戸惑いを見せる二人。


「龍。

 二人に一緒に来て、料理を作ってって、お願いできないかしら」

「え?」

今度は龍が戸惑う。

「アクアにフレイ。

 あなたたち住処も行くところもないんでしょ?」

「うん」

「私たちは、いつも逃げているから、特に行くところがない」

「じゃあ、一緒に居ましょう。

 私じゃ、龍に食べさす料理を作ることなんて出来ないから。

 一緒に暮らして料理を作って。

 龍からお願いしてね」

「サニャ、いいのか?

 特にアクアは、ミナを」

サニャは龍の言葉を遮る。

「いいの。

 手を出したのはアクアだとしても、それは命令され仕方なかったことだし、アクアは結局ミアの首をモーリーに渡さなかったでしょ。

 それに、ミナは死んではいない。

 再生するから大丈夫。

 まあ、ミナが復活したら、ちょっとだけ怒られるかもしれないけど、わかってくれるよ。

 それでも気まずいと思うなら、たくさんあるから部屋を分ければいい」

「本当にいいの?」

「本当よ」


アクアとフレイはお互いの顔を見合わせ、何かを確認した後、龍の方を向く。

「龍。

 本当にいいの?

 私たち、龍の言うことなら従う」

「ほら、龍。

 どうなの?」

いつしか3人から言い寄られる形になり、龍は頭をかく。

「サニャ、いいんだな?

 アクアにフレイもいいんだな」

3人は迷わず頷く。

「じゃあ、そういうことで決まりだ。

 3人とも上の部屋に戻るぞ。

 アクアとフレイ。

 お腹が減ったから、上に行ったら何か作ってくれ。

 たのむ」

「はい!」

3人は嬉しそうに返事をする。

部屋に戻ると、早速、アクアとフレイはミナが入っている再生の箱を見つけると、箱の前に座り、深々と頭を下げ、それから料理にとりかかる。


ミナが使っている調理器具を見て、器用に火をおこし、肉を焼いたり、卵を焼いたり。

また、木の実を潰し、生地にして、まるでナンのように焼く。

食べ物の良い香りが部屋に立ち込める。

「いい匂い。

 ミナの作る料理は、いつも大体、同じものだから楽しみ」

サニャは上機嫌だった。

食事は豪華で美味しく、4人は楽しく食事をすます。

食べ終わった後、寝室でサニャは龍の傍で横になる。

「昨晩、寝ていないから眠くなっちゃった。

 二人の料理、おいしかったしね。

 お腹いっぱいになったし、龍にエネルギーたくさん分けてあげられる」

「でも、僕もおなか一杯になったし十分だよ」

「え?

 龍、聞いていなかったの?

 フーマは、食事からとる栄養は、あくまでも栄養補助なのよ。

 主は私達から分泌されるブルームネクタなのよ。

 だから食事だけだと、どんどんエネルギーがなくなっていくのよ」

サニャは起き上がると、龍に抱き付く。

サニャの体からブルームネクタが体温で蒸発して良い匂いのする気体が立ち上り、それを吸い込むと龍は気分がよくなっていく。

「グレーシーソフィもそう言っていたな。」

「でしょ」

「でも、どうしてだろう…」

「あ、アクアにフレイもそこに立っていないで中に入っていらっしゃい」


サニャは寝室の入口でどうしたものかと立ち尽している二人を見つけて声を掛ける。

「いいの?」

「うん」

サニャに手招きされて、二人はおどおどしながら寝室に入り、龍の近くで座り込む。

「私たちも、少しは龍のエネルギーになります」

二人からも、サニャやミナとはまた異なった良い香りがしていた。

「昔、フーマに襲い掛かったウィルスが、最初はフーマの肺を攻撃して酸素を取り込めなくしたの」

「それで、多数のフーマが亡くなったそう。」

アクアとフレイが唐突に話し始める。

「え?」

龍は驚いて二人を見つめる。

「でも、そのウィルスは、実は肺を攻撃するだけではなかったの」

「人工心肺装置で酸素を供給して治療したり、ワクチンが開発され、治療薬も出てきたわ」

「ウィルスを作った国は、ワクチンや治療薬でお金を稼ごうとしたのだけど、思った以上に他の大国が短時間でワクチンや治療薬を開発し、出回ったので、思ったほど稼げなかったのと、世界のリーディングカントリーになれなかったの。」

「だから、次にウィルスを変異させていき、今度はフーマの体に生命エネルギーを維持させる栄養が取り込めなくなるようなものを作り出した。」

「広めたの」

「ちょっと待った。

 あのウィルスは、やはり人工的に作られたものなのか?」

龍の問いに二人はうなずく。

「生物兵器」

「なんでそれを知っているんだ?

 作ったのはやはり中国か?」

「私たちを作成する段階で、誤っていろいろな情報が流し込まれたの」

「誰が作ったかは、ロックが掛かっていてわからない」

「すまん。

 話を進めて」

龍はいろいろ聞きたかったが、ともかく話の先を聞こうと思った。


二人はうなずくと、続きを話し始める。

「二重のトラップ」

「肺を治すために躍起になっている水面下で、こっそりと生命エネルギーを作り出す機能を破壊していく」

「誤算だったのは、その変異したウィルスに壊されたその部分を修復する治療薬の開発に失敗したこと」

「ただ、フーマ同士なら生命エネルギーの交換ができることに気が付いた」

「それは、他のフーマから生命エネルギーを吸収すること」

「そこでクローン技術に目をつけ、純粋なフーマに生命エネルギーを供給するためだけの存在を作り出した」

「それが、私たちフェアリー」

「副作用として、私たちの生命エネルギーを取り込むと、大半のフーマはプルートになる」

「100人に一人」

「ううん、10人に一人」

「もっとかも知れない。

 エネルギー、私たちのブルームネクタを体に入れて平気なフーマ」

「自分のエネルギーに変換できるフーマ」

「私は、龍が初めて。

 平気で一緒に居られるのは、龍だけ」

横からサニャが口を挟む。

二人はうなずく。

「ずっと命をつないで来たフーマは上級フーマ。

 その生命エネルギー供給用に作られたフェアリーは上級フェアリー。」

「フーマの穴から出てきたフーマは、実験用フーマとして生かされる。

 そのフーマに餌として与えられるのが私たち下級フェアリー」


「フェアリーには生殖機能はないの」

「だから、龍が不思議なの」

「いままで、フーマがフェアリーから生命エネルギーを吸収するとき、フェアリーは何も感じないし、何も感情が起きないのが普通」

「え?

 ちょっと待って。

 モーリーのところにいたフェアリーは、よがっていた…

 コホン

 気持ち良さそうだったじゃないか」

「あれは演技」

「モーリーから言われ、DNAの中から探し出し、モーリーの希望に合わせただけ」

「そ、そうなんだ…」

それを聞いて龍は、サニャやミナ、もっといえばグレーシーソフィやヴィヴィがしがみついてきたのは演技だったと思うとショックを受けた。

(そうだよな。

 別に恋人でもなんでもなく、いきなり気持ちいいなんて、演技に決まっているか)


「龍がサニャから直接生命エネルギーを採取している時、サニャが本気で喜んでいるのが不思議なの」

「え?」

その一言で龍は顔を上げ、サニャを見る。

サニャは恥ずかしそうにはにかんだ顔をしていた。

「私たちも、初めての経験…」

「あんなに良い気持になったのは、初めて」

「え?」

龍が二人を見ると、二人とも目を潤ませていた。

「それに、そのログ。

 機能は聞いていたけど、実際書かれているのを見たのは初めて」

「しかも、内容が…」

「アクア、フレイ!」

サニャが二人を制する。

「ログって?」

「何でもないわ。

 フェアリー同士の話。

 龍には関係ないから大丈夫。

 気にしないで」

サニャは、そう言うと龍の口を自分の唇でふさぐ。


舌を絡め合って、サニャの香りを嗅ぐと、龍の体はサニャのブルームネクタを吸収する行為を開始する。

ブルームネクタの吸収が終わると、サニャは満足したように笑みを浮かべて寝息を立てる。

フレイが、おずおずと近づいて来て、胡坐をかいて座っている龍をじっと見つめる。

龍が両手を広げると、顔に万遍の笑みを浮かべ、抱き着いて来る。

龍はフレイをしっかり受け止めると、そのままお仰向けに寝かせ、上から大かぶさる。

フレイは、小柄だったが、どちらかというとミナの体形がそのまま縮小されたようで、サニャよりもふくよかで、柔らかかった。

腕の中でフレイからサニャと違う魅力的ないい香りが湧き上がり、龍を夢中にさせる。

ブルームネクタもほのかに甘く、サニャとは違った味がする。

サニャよりさらに小さな花弁に挿入するとき、さすがにフレイは痛がり顔をゆがめるが、直ぐに、気もしよさそうな顔に変わっていく。

狭く締め付けられた間隔の中でフレイの中に体液を放出し、フレイはすべてを吸収するように受け入れていく。

ぐったりしたフレイから体を離すと、フレイは気持ちよさそうな寝息を立て始めていた。


「あっ」

声の方を向くと、アクアが怯えたような顔をして龍を見ていた。

アクアも龍に採取されるのは2度目で、どうなるかはわかっているのだが、やはり怖いという頭があるようだった。

龍はアクアに近づき、腕を掴むと、力を入れて引き寄せ、強く抱きしめ、口を吸う。

「うーうー」

アクアは、初め抵抗したが、舌を絡められブルームネクタを吸われていくうちに、夢中になり、龍の舌から体液を舐めとり始める。

その後、龍は少し手荒くアクアを横にすると、服を脱がし、裸にする。

顔や姿かたちはフレイと全く変わらなかったが、体から湧き上がって来る匂いは、いい香り

だったがフレイと微かに異なっていた。

そして、全身からにじみ出たブルームネクタを舐めとり始めると、すぐにアクアは手で口を言押さえ、まるで声を漏らさないようにしているようだった。

また、舐めるたびに体をぴくぴくと痙攣させ、捩っていく。

その動きはフレイよりも激しいようだった。

アクアの柔らかな乳房を舐めたあと、乳首を口に含み、軽く噛む。

「い、痛い…」

アクアが抗議とも思える声を出すが、すぐに、噛まれたところを舌で舐められ、大人しくなる。

龍にとってアクアはいじめたくなった初めての相手だった。

しかし、本気で痛がらせる気はなく、ちょっかいだす程度だった。

全身くまなく舐めあげ、龍はアクアの両脚を広げ、内腿しゃぶりつく。

「くぅ」

アクアが可愛らしい声を上げる。

内腿をしゃぶりつくした後、ゆっくりと花弁に近づく。

アクアは気配を察し、恥ずかしいのか、両手で顔を覆う。

アクアの女陰からは良い匂いのするブルームネクタが滴るほど、にじみ出ていた。

龍はたまらずにしゃぶりつき、啜るように舐め上げる。

「嫌ぁ…」

アクアは体を捻じるが、本気で逃げようとしているわけではなかった。

刺激をするとにじみ出て来て、それを啜る。

その繰り返しだった

「嫌ぁ…、うっ…うっ…」

アクアは嗚咽を漏らす。

あまりの気持ちよさに、何度も痙攣させ、体を反らす。

しかし、龍がアクアの脚から体の下を通し、アクアの肩を掴んでいたので、ずり上がることはできなかった。

その押さえられている閉塞感が、アクアを余計の欲情させていた。

アクアがぐったりとすると、龍は巨大化した花糸を片手で持ち、アクアの脚の間を上がっていく。

アクアは腕を胸の前で交差させ、目線で近づいてくる龍の葯を追う。

そして龍の葯がアクアの花弁に触れると、ビクビクと体に電気が走ったように痙攣する。

ヌッ

龍の葯がアクアの花柱を押し広げ、入って来る。

それだけでも身体が裂けそうな痛みがアクアを襲う。

「ぎっ」

アクアは、歯を食いしばり痛みに耐えるがゆっくりと入って来る龍の葯と花糸に痛みが絶頂を迎えたその時、ふっと、痛みが消える。

そして、防波堤を突き破って強引に入って来る龍を感じ、後から快感が子房いっぱいに広がっていく。

この感覚は2度目で、アクアが夢に見た感覚だった。

それからアクアの小さく狭い花柱が龍の大きな暴れん坊のような葯に蹂躙される。

「いやー!

 だめー…」

アクアは涙を流しながら龍にしがみつき、必死に体を捻じらせる。

小柄なアクアは龍にいろいろな姿勢を取らされ、蹂躙されるが、精一杯龍を迎え入れ、そして襲ってくる快楽に翻弄されていた。

「ぐぅ」

そして体を突き抜けるのではないかと思うほどの勢いで放出される龍の体液を小さく悲鳴を上げながらすべて吸収していく。

なぜだかアクアの眼からこぼれた涙を龍は舐めとる。

アクアは笑顔を見せると、抱き着き、顔を龍の胸に埋め、顔をこすりつけ喜びを爆発させているようだった。


その夜、龍の腕の中にはサニャが収まるように眠り、その横にアクアが寄り添うように、反対側には龍にくっつくようにフレイが寝る。

サニャ、フレイ、アクアの体から沸きあがるブルームネクタが混じり合い、さらにいい香りになって龍の口や鼻から吸い込まれていき、エネルギーがチャージされているかのように、体がほんのり赤みをさしていた。

サニャは何かに気付いたのかピクリと顔を上げ、しばらく様子をうかがっていたがすぐにもとの龍の腕の中に戻っていく。

それはサニャを誘うプルートの誘惑だったが、すでにサニャはプルートの誘惑から開放されていた。

それから、4人はミナの入っている再生の箱を中心とした生活を始める。

食事や起きている時は、再生の箱の近くでミナが一緒にいるかのように過ごす。

食料の調達と調理はフレイとアクアの役目。

龍は吉祥寺駅周辺、フーマの穴やテラスハウスのあった井の頭公園や鈴とよく行った善福寺公園や西荻窪など、なにか鈴の手がかりがないかというのと、モーリーの言っていたフーマの穴を塞いだ人間の手がかりを探しに、日中はほとんど出歩いていた。

サニャは、再生の箱の番をするように傍から離れなかったが、フレイとアクアがいるときは龍に合流する。

「今日も手掛かりなしか」

何の手がかりもつかめぬ日々が続き、龍の顔にも落胆の色が見える。

「龍…」

サニャは、慰めの言葉が見つからず、黙り込む。

フレイもアクアも同じだった。

「なあ、フレイ、アクア。

 もう一度、知っていることを教えてくれないか?」

龍は、何か手掛かりはないかと、フレイとアクアに尋ねる。

フレイとアクアはロックがかかった情報を日々解除しているらしく、話す内容が詳しくなっていた。


「はい。

 ことの発端は、生物兵器研究所で開発中のウィルスが手違いで漏れたこと。」

「その研究所はカモフラージュのため、人口の多い都市の、しかも人の集まる市場の地下に作られていたの。」

「そのウィルスに感染するとインフルエンザのよう発熱と肺炎を起こすけど、死亡率はインフルエンザよりも少し高い。」

「怖いのは、そのウィルスは肺炎を起こしても起こさなくても悪魔の抗体をフーマに植え付けること。」

「RAVID211(ラビッドニィイチイチ)は、その目的のため、感染性が高く、飛沫感染、フーマ通しの社会生活で感染する。」

「RAVID211は、あっというまに中国から他の国へと広がっていく」

「騒ぎを恐れ、ウィルスを開発した組織は研究所を移転させ、感染拡大の警鐘を鳴らそうとした医師などを暗殺」

「WHOにもパンデミックの発信を遅らせるために、多額の金額で買収を行った」

「その結果、RAVID211は全世界に蔓延する」

「本当であればRAVID211は、熱も肺炎の起こさない、感染したのかもわからないウィルスにするはずだった。」

「その特徴を消去する前に漏れてしまった」

「しかし、その爆発的感染力と抵抗力が弱い者、基礎疾患のある者については、死亡するリスクが高かった」

「僕や鈴が感染したが、熱と咳だけだった」


フレイとアクアは黙ってうなずく。

「そのため、世界各地で騒ぎはじめ、WHOもごまかし切れなくなっていった」

「世界の眼は、中国の最初にウィルス感染の起こった都市に注目が集まる」

「その注意をそらすため、RAVID212を世界各地で散布した」

「え?

 違うウィルス?」

龍は最初のウィルスが変異したものと聞いていたので、違うウィルスという情報は初耳で驚くべきものだった。

「うん。

 RAVID212は、RAVID211の抗体と作用し、フーマの肺の機能を奪う致死率が高い殺人ウィルス」

「な、なんだって」

「思惑が通り、世界は犯人探しよりも治療薬、治療薬よりも早く作れるワクチンの開発に躍起となる」

「中国はRAVID212の情報を入手していたため、ワクチンの開発に先手を打てた」

「ワクチン外交で金儲けと世界をリードする立場を狙った」

「ちょっと待った。

 ウィルスは中国が作ったのではないのか?」

「それは、トップシークレットで私たちも知らない」

「…」

「世界各国のワクチン開発は早く、中国の思惑通りにいかなかった」

「日本ではワクチンの他にSSTP細胞を使用した治療法を開発したが功を奏さなかった。」

「しかし、藁をもつかむ思いのフーマたちは、失敗するとわかっていても、こぞってそれにずがり死んでいった」

「おい。

 僕と鈴はその開発のための実験に使われたのか。

 被検体になったということか。」


「もう一つの誤算」

「…」

「RAVID212も不完全だった」

「開発したワクチンで防げたと思ったが、実は感染していて、もう一つの作用」

「フーマの生命エネルギーを作成する機能を徐々に低下させていく」

「食物を摂取しても、栄養素のなかの一部を吸収できなくするもの」

「そのため、普通に食事をしていても、徐々に弱っていく」

「そして死滅していく」

「その吸収できなくなった栄養素の代わりが君たちフェアリーだって言っていたよな?」

「正確に言うと、私達ではなく、サニャやミナ」

「私たちだと小さすぎて採取しても足りない」

「私でも足りないのだけど」

サニャが横から口を挟む。

「ミアであれば、ほぼ十分足りる。

 私は補助。

今は私とフレイとアクアでぎりぎり。

他の栄養素はきちんと食物からとらないとダメよ」

サニャは龍の横に来ると、龍の首に手を回し、抱き着くとフレイが反対側から、アクアが背中から龍に抱きつく。

三人のほのかな良い香りに包まれ、龍は何となくほっとする。


違う日

「え?

 腕相撲?」

サニャが不思議そうな顔をして聞き直す。

「腕相撲って知らないか?」

「うん」

「フレイとアクア。

 腕相撲知ってる?」

「はい」

フレイとアクアは頷き、肘をまげて恰好を見せる。

「フレイとアクアって、何でも知っているのね」

サニャが呆れた顔をする。

「はい。

 私たち、作成されていく段階で、手違いで様々な情報がインプットされて。」

「ばれると真っ先に抹消されてしまうので、姉妹で内緒にしていました」

「そうか。

 姉妹ってフレイとアクア以外に何人いたの?」

「私たちは、まず、同じDNAを使い10体作られるの」

「だから、10人姉妹」

「問題があれば、それで終わり」

「私たちは、体の大きさに問題があったの」

「だから、中止。

 失敗作として、プルートや肉食獣の餌として、野に放たれるの」

「野に放たれる前に、特殊な加工を受ける」

「上半身からプルートや肉食獣を引き寄せる匂いがでるように」

「あ、それでか。」

龍は二人がコルセットのようなものをしていた意味が分かった」


「そう。

 あれは、匂いを漏らさないように二人で作ったの」

「他の姉妹たちは?」

フレイとアクアは首を振る。

「残ったのは、私たち二人。」

「コルセットは、間に合わなかった」

「そうなんだ。

 じゃあ、今、コルセットしていないっていうのは、危ないんじゃない」

サニャは顔色を変える。

「ううん。

 今は匂いが出なくなった」

「あの気持ち悪い匂い」

「え?

 匂いしないの?」

「はい。

 その日からしなくなったの」

「龍に助けられて、搾取された日から」

「え?

 中々戻ってこないって、不安になっていたのに…」

サニャは横目でちらりと龍を睨む。

龍は慌てて顔をそむけ、咳払いをする。


「さ、じゃ、じゃあ、腕相撲やろう!

 腕相撲

 フレイ、ほら!」

龍は、その場をごまかすようにテーブルのようなところで、腕相撲の姿勢をして、フレイに声を掛ける。

「私、やる」

アクアがフレイを押しのけ、龍の前に座り、腕を出し姿勢をとる。

「じゃあ、やるぞ。

 いいな?」

「うん」

アクアは頷く。

「いっせーの、せ!」

グッと二人は力を入れ、アクアの腕に一瞬力が入ったが、直ぐに抜ける。

「どうした?

 アクア」

「私たち、フーマに…」

「大丈夫だから、力を入れてみて」

龍がやさしく言うと、アクアは気を取り直し、頷いて見せる。

「じゃあ、いくぞ。

 いっせーのせ!」

今後はアクアの腕に力が入り、龍と互角にになる。

龍が必死になってもアクアの華奢な腕はぴくりとも動かない。

「ひ、引き分けだ。

 反対側は?」

反対の腕も同じだった。

それから、サニャと腕相撲をしても同じ結果で、二人の顔色からすると、力を入れたら龍が負けるのではと思うほどだった。


「やっぱりな」

「?」

サニャやフレイ、アクアは不思議そうな顔をする。

「フレイにアクア。

 木の実やウサギを捕って来るじゃないか。

 あれって、どうやるの?」

「え?

 うん。

 下に落ちている石を投げて取るの。

 ウサギら鳥も、走ったり飛んでいるところに石を投げて」

(この子たち、基礎体力は僕と同じ、いや、僕以上だ。

 きっと、なにか暗示のようなもので、人間に危害を加えないように抑えられているんだ)

「次。

 外に出て鬼ごっこをやろう」

「鬼ごっこ?」

サニャが不思議そうな顔をする。

「鬼と呼ばれる人が、他の人を追いかけタッチするの」

「タッチしたら、鬼が交代」

「そうなんだ。

 面白そう。」

フレイとアクアに説明されサニャは興味津々の顔をする。

4人は外に出るとじゃんけんをして鬼を決める。

鬼はフレイだった。

そして、鬼ごっこを始めると龍は唖然とする。

石や泥、草木のが生えていて足場の悪い中、フレイ、アクア、サニャはまるで豹のように身軽に、また、凄い速さで走り回る。

当然、龍はあっという間に捕まるし、鬼になると、3人を触れるどころか、追いつくことさえ出来なかった。


「は、速い。

 三人ともこんなに速かったんだな」

龍は、腕力だけでなく全てが人間よりも優っていると薄々そうではないかと思っていた。

「私は、今日、初めて。

 気持ちよかった」

サニャは、汗一つ掻いていないような顔でにこりと笑う。

「私たちは、いつもこのくらい」

「嘘。

 いつもより体が軽くなかった?」

アクアがフレイをつついて言う。

「あ、そうね。

 そう言われれば、いつもより軽かった…」

フレイは、しみじみと実感したようだった。

(この子たちは、いや、フェアリーたちは、本質的に人よりも優っていて、プルートにも負けない体力があるんだ。

 あの暗示とプルートの誘惑さえなければ、餌にならなくて済むんだ。

 フレイとアクアは暗示だけだったけど、それも薄れてきている。

 サニャは、プルートの誘惑を克服している。

 そう言えば、グレーシーソフィたちもプルートの誘惑を克服していたな。

 なんでだろう…)

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