第2話 Temptation of monsters
明け方、龍は目を醒ますと龍の左腕をグレーシーソフィが、右腕をヴィヴィが枕にして二人とも龍に寄り添うようにして寝ていた。
二人ともしっかりと頭を乗せているのにもかかわらず、龍には綿が乗っているのではと思うほど軽かった。
それよりも二人から瑞々しい甘いいい香りが漂い、龍は交互に吸い込むと、体に力が湧いてくるようだった。
(これが、言っていた発散されるブルームネクタというものなのだろうか)
朝、目が覚めるとこの世界に来て一番体調が良かった。
「調子がいい。
これも、グレーシーソフィとヴィヴィから元気の素を貰っているせいかな」
グレーシーソフィもヴィヴィもすでに起きているのか、二人の姿は見えなかったが隣の部屋から二人の話し声が聞こえていた。
「ヴィヴィ、大丈夫?
これで10日連続なんだから、もう今日は止めたら?
もう、龍もすっかり元気になっているよ」
「いいの。
もっともっと龍には元気になってもらいたいの。
それに、グレーシーソフィの言うように、龍はブルートにもならなかったし、何か違う気がして。
何か、ワクワクするの」
「私もそうだけど。
そうだ、今日は私がやるわ」
「だめよ。
グレーシーソフィのブルームネクタでは龍に刺激が強すぎるわ。
昨日も危なかったじゃない」
「そうだけど、きっと、もう大丈夫よ」
「いいの。
私のブルームネクタを飲ませてあげるの。
本当は私を食べさせてあげてもいいんだけど、きっと嫌がるだろうし」
「そうね。
あの驚きようだと、嫌がるわね。
じゃあ、今日もゆっくり、あの中で休んでいてね」
「うん。
あ!
でも、今夜あたり、あの日じゃない?」
「う、うん…」
グレーシーソフィは沈んだ声で答える。
「二人ともどうしたの?」
そこに洋服を着た龍が入って来る。
「きゃ!
龍、もう起きたの?」
ヴィヴィが驚いた声を上げる。
龍がヴィヴィを見ると、ヴィヴィは自分の腕に太いストローのようなものを突き刺していた。
そして、ストローの様な管を赤い液体が流れ、それを受け止めているコップの三分の一ほど溜まっていた。
「ヴィヴィ、何をしているの?」
龍が真顔で問い詰めると、ヴィヴィも傍に居たグレーシーソフィもしまったという顔をする。
「う、うん。
私のブルームネクタをいつものように龍に飲んでもらおうと思って」
ヴィヴィが小声で答える。
「毎朝、こんなことをしてくれていたのか。
これは、ヴィヴィの血じゃないか」
そう言いながら龍はヴィヴィに近づくと、手に刺さっているストローをすっと抜き、ストローの刺さっていた穴が痛々しく開いた腕に口を付ける。
「龍!
な、何をするの?!」
龍はヴィヴィの腕の傷を舌で舐めるようになでる。
ヴィヴィにとってその感覚は痛くなく、全身に電気が走ったような初めての感覚だった。
そして体の芯に火が付いたように熱くなるのを感じた。
「い、いや
龍、離して」
「あ、ごめん。
痛かったかな?
なぜか、こうしないといけないと思ったから…」
龍が口を離すと、ヴィヴィの腕の傷は綺麗に無くなっていた。
(あ、傷がなくなっている。
そう言えば、昨日も私の胸の傷も無くなっていたっけ)
グレーシーソフィはヴィヴィの傷が綺麗になくなっているのを見て思った。
「あ、暑い。
汗かいちゃった」
ヴィヴィはそう言いながら羽を広げてどこかへ飛び立とうとする。
その腕を龍は掴んで、“グィ”と自分の方に引き寄せ、抱きしめる。
龍はヴィヴィの甘い汗の匂い、ブルームネクタの匂いに我を忘れていた。
「め、めめめ」
あまりのことで、ヴィヴィは声にならない声を上げる。
「本当だ。
ヴィヴィ、汗をかいている。
でも、これ、汗じゃなくてヴィヴィのブルームネクタなんだろ?」
ヴィヴィの首筋が湿ったように光る。
龍はそれを吸うようにヴィヴィの首筋に吸いつく。
「ひぃ」
ヴィヴィはたまらず声を上げる。
ヴィヴィは体の芯がドンドンと熱くなり、滲み出るブルームネクタを全て龍に吸い取られているような錯覚に陥っていた。
そして、それが今まで感じたことのなかった快感に変わっていく。
「だ、だめぇ。
龍。
私、おかしくなっちゃう。」
ヴィヴィは腕の外側から龍に抱きしめられ身動きが取れず、眉間に皺を寄せて、切なそうな声を上げる。
グレーシーソフィはそのヴィヴィの顔を自分も同じように感じていると言わんばかり、潤んだ瞳で眺めていた。
「い、いやー。
だめ、だめぇ。
いっちゃう、いっちゃうってば。
あっ、ああ~」
ヴィヴィは龍の腕の中で激しく身体を痙攣させると、くたっと、力を抜いてすべてを龍に預ける。
ヴィヴィの重さを感じ、龍は我に返ったようだった。
「わ、いけない。
ヴィヴィ、大丈夫か?
つい、夢中になってしまった」
「ば、ばか…」
ヴィヴィは緩まった龍の腕から自分の腕を引き抜き、龍の首にその手を回し抱きつく。
「もう、知らない…」
ヴィヴィは乱れた息でそう言うと、龍の首筋に顔をうずめ大人しくなる。
「あ、どうしよう…」
龍は自分がやり過ぎたことを初めて理解した。
その時、背中を指で突っつく感覚がして、ヴィヴィ抱き上げたまま振り向くと、呆れた顔をしたグレーシーソフィが立っていた
「もう、龍ったら。
もう少し、自制心を持たないと、私たちが壊れちゃうわ。
さあ、ヴィヴィを休ませなくちゃ。
こっちに連れて来て」
心なしかグレーシーソフィの瞳も興奮したように潤んでいた。
グレーシーソフィは先程まで龍が寝ていた寝室代わりに使っている部屋に運ばせ、背中に羽のあるヴィヴィを横向けで寝かせるように指図する。
龍がそっとヴィヴィを横向きで寝かせると、グレーシーソフィはヴィヴィの横に座り、優しくヴィヴィの金髪のストレートヘアを撫でる。
「ブルームネクタもそんなに抜いていないし、今日は秘密の場所じゃなくて、ここでゆっくり休めばいいわね。
顔色もいいし、ストローを差した傷も綺麗になっているし、何よりも嬉しそうだし、ね。」
グレーシーソフィは、龍の方を向いて微笑むが、龍はグレーシーソフィが何を言っているのかあまり理解できていなかった。
「秘密の場所?
そういえば、昨日言っていたけど、君たちは頭が残っていれば再生するって。
どうやって再生するの?
その秘密の場所に何かあるの?」
「龍、それは大事な秘密なの。
今度、教えてあげるね。
それより、向こうに行ってご飯にしましょう。
折角、ヴィヴィが龍のためにと痛い思いをして抜いたブルームネクタだから、正体がわかっても無駄にしないで、今回だけは飲んであげてね。」
「ああ、わかった」
龍は、毎朝、ジュースだと思っていたものが実はヴィヴィのブルームネクタだったことと、実際に抜いているところを見て気乗りはしなかったが、グレーシーソフィの言うことを大人しく聞くことにした。
食事はパンのようなものに目玉焼き、木の実や果実、そしてヴィヴィのブルームネクタだった。
「私もヴィヴィも、動物を捕るのが下手で、滅多に肉は食べれないの。
代わりに、鳥の卵を捕ったりするのは得意なのよ。
あとは、食べられる木の実や野菜が多く生えているから、それを食べているの。
口に合うかわからないけど、召し上がれ」
龍にとっては、久しぶりの固形食で、また、グレーシーソフィの料理の腕か、食べるものすべて美味しく感じた。
「うまい。
パンも木の実もフルーツも、なんて美味いんだろう
グレーシーソフィは料理の天才だね」
「まぁ!」
美味しそうに食べる龍を、グレーシーソフィは笑顔で眺める。
(これなら、龍は、絶対にプルートなんかにならないわ)
ずっと
「大丈夫?」
「ああ。
ずっと顎を使っていなかったんで、疲れたみたいだ。
それに内臓も固形物が入ってきたので驚いているみたい」
「ゆっくり食休みしてね。
そうしたら、また、龍の話を聞かせてね」
「ああ、いいよ」
一度は封じ込めたと思った新型ウィルスは、形を変え再度、人類に襲い掛かる。
一度罹った人間は、免疫ができ二度と罹らないのではと思われていたが、そのウィルスは一度かかった人間でも再度発症し、発症すると肺の機能を破壊し、死に至らせるという致死率が高いものに変わっていた。
また、初めて罹患する人間に対しても、肺に相当なダメージを与え、日用生活を送るのを困難にさせるものだった。
そのウィルスに世界中の人々は恐怖し震撼する。
当初、飛沫感染だということで、マスクの着用、人と人との距離を開け、手荒いうがいを推奨していたが、その後、空気感染することがわかり、人々を余計パニックに陥れる。
ただし、中国を除いて。
中国は、いち早く治療薬と予防のワクチンを開発し、ウィルスに打ち勝ったと宣言をする。
その夜。
夜も更けた頃、いきなりグレーシーソフィは目を醒まし、起き上る。
「グレーシー…?」
その気配に龍も目を醒まし、グレーシーソフィに声をかける。
「…」
何も言わずに龍の方を見たグレーシーソフィは無表情で、瞳の光が消えていた。
「龍。
グレーシーソフィは、話したようにブルートに呼ばれているの。
こういう状態になったら、何言っても聞こえないし、止めようとしても凄い力で跳ね飛ばされ止められないの。
可哀想だけど、食べられている時に首から上だけを無傷で持ち帰って再生させることだけ。
それしか、私たちにはできないわ。」
「そ、そんな。
グレーシー…。」
龍はグレーシーソフィ―の華奢な肩を掴んで押しとどめようとするが、どこにそんな力があるのかと思うほどの力で、龍の腕は振りほどかれる。
「無理よ、龍。
グレーシーソフィ―は、催眠状態で誰にも止められないわ。」
「でも、止めないと食われてしまうんだろ?!
そんなこと、じっと見てられるか。」
「大丈夫だって。
首から上があれば、何度でも生き返るから。」
「そういう問題じゃない!」
龍は、話に聞いたブルートの股間から生える蛇が、可愛いいグレーシーソフィを犯すように体の中に入り込み、動き回るのを想像しただけで許せなかった。
そうこうしているうちに、グレーシーソフィはムートンの寝具の上に立ち上り、ブルートの待つ暗闇に歩き出そうとしていた。
「ちぃ、破れかぶれだ!
グレーシーソフィ、ごめん」
「龍、何をするの?!」
龍は起き上がると、背後からグレーシーソフィを抱きしめる。
しかし、グレーシーソフィの怪力で振り飛ばされそうになった時、龍はグレーシーソフィの胸元から湧き上がるブルームネクタを吸い込む。
その途端、理性が吹き飛ぶ。
グレーシーソフィの襟元のブラウスを引きちぎるように広げ、透き通った白く柔らかそうな綺麗な肌の首筋から肩にかけた平らなところ、肩甲上部に力いっぱい噛みつくと、裂けた皮膚からグレーシーソフィの赤く甘いブルームネクタが口の中に広がる。
口の中に広がったそのブルームネクタを飲み込むと、龍の野生の本能が目を醒ます。
「!」
グレーシーソフィは肩に走った激痛と、噛まれたところに龍の舌の先から注入されたたり液体で激痛の次に全身電気が走るような快感を覚え、目を醒ます。
「龍?」
噛まれたところは、確かに皮膚が裂けたはずだが、すぐに何もなかったように治癒していた。
しかし、振り向いたグレーシーソフィの目の前では悪夢のブルートになることを必死に拒んで苦しんでいる龍がいた。
「私のブルームネクタを…濃いブルームネクタを直接飲んでしまったの?」
龍は両手で激しく頭を抑えるように苦しみ、抗っている。
「龍、がんばって」
グレーシーソフィは励ますように、目の前で苦しんでいる龍の髪を撫でる。
グレーシーソフィは龍がブルートになろうが、どういうふうに変貌を遂げようが全てを受け入れる決心をしていた。
「ぐるぅ…」
両手を頭から離し、だらんと下げ、龍はゆっくりと顔を上げる。
龍の顔はブルート化特有の鱗や、醜い獣のような顔には変わっていなかったが、まるで静電気を帯びた様に、髪の毛や産毛が逆立ち、光っているようだった。
ただ龍の瞳はフーマとは全く違う獣の目、狼の瞳のような獰猛な肉食獣の瞳に変貌し、グレーシーソフィを見下ろしている。
そして、「グォー」と吠え、体に力を入れると、全身の筋肉が膨れ上がり、身につけていた衣服が中から引き千切れるように破け、中から逞しい筋肉質の裸体が現れる。
筋肉質といってもボディビルダーのような作られた筋肉ではなく、引き締まり、力の伝道がすぐに身体中を走り、いつでも臨戦態勢に入れるような鋼の体で、顔だけでなく全身のうぶ毛が電気を帯びたように光っているようだった。
そして、龍の股間から生えている花糸は棍棒のようで葯はさらに大きくなっていた。
その葯は小刻みに上下に動いていたが、ブルートの股間の蛇とは違い、龍の意思で動かしているようだった。
二人から離れて龍を呆然と見ていたヴィヴィは、ハッと我に返り、鋭利な細い剣を持つとグレーシーソフィを見る。
ヴィヴィは、これから何が起こるか、変貌した龍がブルートのようにグレーシーソフィを無残に殺し、食い尽くすと思い、悲惨な目に合う前に首を切り落とし、頭を持って逃げようかとグレーシーソフィの顔色を窺う。
グレーシーソフィはヴィヴィの視線を感じ、軽く笑みを漏らし、ヴィヴィに大丈夫だというサインを送る。
「グ、グォルル」
龍はグレーシーソフィがヴィヴィに送った笑顔を見て、体に力を入れ、天に向かって吠えると、グレーシーソフィを仰向けに倒して、その華奢な体に馬乗りになる。
そして、ゆっくりグレーシーソフィのブラウスの襟を掴むと、強引に引きちぎり、形のいい乳房を露出させる。
グレーシーソフィは抵抗をしなかったが、上半身裸になると、腕で胸を隠した。
龍は、グレーシーソフィの足元に体をずらすと、今度は半ズボンをフライの上部を掴み、左右に引きちぎり下半身を露出させる。
グレーシーソフィは、慌てて片腕で胸を隠し、もう片手で股間の辺りを隠す。
緊張からか興奮からかグレーシーソフィの皮膚はしっとりと潤い、その体から目に見えない蒸気のようなブルームネクタのいい香りが立ち上り、龍の鼻を擽る。
龍は、その香りを胸いっぱいに吸い込むと、荒々しく体の秘部を隠していたグレーシーソフィの両手を掴み、引き剥がすようにして頭の上まで持ち上げ、そのまま、指と指の間に自分の指を入れて抑え込む。
「龍…うっ」
何かを言おうとして開いたグレーシーソフィの唇を龍の唇が塞ぎ、太く熱い舌がグレーシーソフィの口の中に侵入し、グレーシーソフィの舌を探すようにうごめく。
グレーシーソフィの可愛らしい舌が、獰猛な龍の舌を迎え撃つように絡まりあう。
龍はグレーシーソフィの口を貪るように舌を絡めながら吸いあげる。
グレーシーソフィも負けじと太い龍の舌に自分の舌を巻きつけ、一生懸命に絡め合う。
そして、龍の体液を飲み込むとグレーシーソフィは自分の体が内側から熱くなるのを感じ、今まで感じたことのない興奮を感じ、酔いしれていく。
(私…おかしい…
こんなの…初めて…
体中、ぞくぞくする…)
いつのまにかグレーシーソフィは龍の手を力強く握り返していた。
暫くお互いに舌を絡め、啜り合った後、龍は満足したようにゆっくりとグレーシーソフィの唇から離れる。
残されたグレーシーソフィは放心状態のように荒い呼吸で目を閉じ、全身、濡れたように光っていた。
龍は、押さえつけていたグレーシーソフィの絡めた指をほどき、手を離すが、グレーシーソフィは手を上げたまま動けなかった。
龍は片手でグレーシーソフィの顔を掴むと、横を向かせ、髪を指でどかせて、首をあらわにさせる。
顔に滲んだブルームネクタを舐めとり、動かないように抱きしめると、じっとりと濡れているグレーシーソフィの首にしゃぶりつく。
「ひぃ」
グレーシーソフィは首を吸われ、悲鳴に似た声を上げると、全身を痙攣させる。
龍は、反対側の首も同じように、荒々しいが、決してグレーシーソフィを傷つけたり、痛い思いをさせないように丁寧に扱い、グレーシーソフィを快楽の嵐の中に沈めていく。
全身を舐めとられ、その度に、体を痙攣させるグレーシーソフィ。
「あっ、あん…」
その顔は、うっとりと、そして唇から嬉しそうな声が漏れる。
(グレーシーソフィ。
あなた、そんなに感じまくっているの?)
二人を呆然と眺めているヴィヴィもいつしか、体の芯が熱くなり、全身じっとりと濡れてきていた。
龍はグレーシーソフィの両足の細い足首を掴むと、大きく開かせ内腿から足の付け根、そして花弁をあらわにさせると、内腿から舐め上げていく。
「だ、だめ…
龍…、そんなところ…舐められたら…死んじゃう…」
そう言いながらグレーシーソフィは龍の頭を掴み抵抗を試みるが、腕に力が入るわけではなかった。
そして龍の舌が内腿から付け根、そして花弁へと上がっていく。
龍の息遣いが、息が花弁のあたると、花弁の真ん中から甘い香りの透明なブルームネクタが溢れ出る。
「いや…恥ずかしい…
ひ、ひぃー」
龍が花弁にしゃぶりつき、ブルームネクタをすすり、また、舌を、花弁の中心部に入れていく。
グレーシーソフィには初めての経験で、全身震わせながら両手で口を押させ、体をのけぞらせる。
龍はお構いなしに、グレーシーソフィの臀部の下に手を回し、持ち上げるようにし、花弁を舐め、出てきた甘いブルームネクタを啜り続ける。
「あ、ああ…」
グレーシーソフィたまらず、小さく声を上げ、体を大きく痙攣させると、力を抜いて大人しくなる。
龍は、顔をあげ、グレーシーソフィの脚を大きく開かせたまま、体の位置を変えていく。
グレーシーソフィは茫然としながら、自分の花弁に向かってくる龍の大きな葯を眺める。
(あんな大きなもの…
体、避けたりしないかしら…)
それは、プルートのような気味の悪い蛇とは全く違い、心から向かい入れたいものだったが、初めて龍に犯された時のものよりも、一回りも大きく見えた。
そしてその先から光る体液のようなものが漏れていた。
その葯が迫って来てもグレーシーソフィは体に力が入らず、龍のおもちゃのようになっていた。
葯が花弁に触れる。
それはとても温かだった。
龍の両手がグレーシーソフィの両肩を抑えるように掴むと、大きい葯が狭い花弁を通り花柱に侵入してくる。
「い、痛い…」
グレーシーソフィは小さく悲鳴を上げ、眉間に皺をよせ、必死に耐える。
龍は、手を緩めることなく、壁を破壊していくように、締め付けの厳しい花柱の中を奥まで侵略していく。
グレーシーソフィも最初だけひどく痛みを覚えたが、なぜかすぐに痛みはなくなり、龍の大きな葯の形が感じ取れるほど押し広げられ、侵入してくる感じが気持ちよく思える。
(ああ…、そんなに奥まで…)
花弁の奥の子房に龍の葯が入って来る感覚があった。
龍にとってもグレーシーソフィの中は温かく気持ちの良い場所だった。
それから、龍は大きく腰を動かし、抜き差しを始める。
侵入してくる時は、中を広げられ、壁をこすられていく快感、抜かれるときは先端にこすられる快楽と出て行ってしまうという切なさ、その繰り返し。
また、突き上げられる時、龍の力が全身を稲妻のように走り抜けていくしびれに似た感覚。
全てがグレーシーソフィを狂わせ、龍にしがみついたり、のたうち回る。
(す、すごい…
そんなに…気持ち…いいの?)
ヴィヴィは自分の花弁を触りながら、しゃがみ込んで二人の営みを食い入るように見つめていた。
「うっ、うっ、うっ…」
二人の動きが激しさを増し、そして、龍はグレーシーソフィの中に、子房の中に、自分の体液を勢いよく注ぎ込む。
「あ、あー!!」
注ぎ込み始めると、グレーシーソフィは両膝を上げ、より奥へと密着度を強くし、そしてまるで龍の体液の全てを飲み込むように受け取っているようだった。
その感覚は龍にとって至福の感覚以外他ならなかった。
(妖精とのセックスはこの世のものとは思えないくらいの快感だと本で読んだな)
龍の頭の中にふと過る。
グレーシーソフィは龍の体液が飛び込んできたとき、まるで雷に打たれたような、しびれるような感触、そして、全身を駆け回る、温かくうれしくなるような感覚に酔いしれ、しばらくしがみついたままでいた。
全てグレーシーソフィの中に放出した龍は、そって体を離す。
しかし、龍の花糸は全く萎えてはおらず、まるで次の獲物を探しているようだった。
その時、周りの空気が一変した。
待てども待てどもやってこないグレーシーソフィに焦れて、プルートがターゲットをヴィヴィに変え、ヴィヴィを呼び出す何かを発信していた。
(ひっ!
こんな時に、体が…
グレーシーソフィがこんな状態だと、私の頭を回収してくれない…
だめ…)
ヴィヴィは必死に抗うが、徐々に意識が遠ざかっていく。
そしてヴィヴィは龍と目を合わす。
龍は獲物を見つけたように、全身から喜びのオーラを発し、なにか声にならない奇声を発したようだった。
すると、ヴィヴィに纏わりついていた呪縛が消滅したように意識がはっきりした。
龍は、何も言わずに、ずんずんとヴィヴィの方に近寄っていく。
ヴィヴィは腰が抜けたように、その場にしゃがみ込んだまま、自分に近づいて来る龍とその巨大な葯から目を離すことが出来なかった。
そして龍が何をしようとしているのか、即時に認識した。
(む、無理よ…。
そんな、そんな巨大なモノ…、私の中に入るわけ…ないじゃない。
体が、裂けちゃうよぅ…)
逃げようにも、自分の羽を使って飛んで逃げようにも、蛇に睨まれた蛙のように、その場を動くことが出来なかった。
龍は、ヴィヴィの目の前に立ち、ヴィヴィを立ち上がらせる。
ヴィヴィは、のろのろと立ち上がると、まるで催眠術にかかったかのように、自分から服を脱ぎ始める。
全裸になったヴィヴィは、グレーシーソフィと同じように金色の産毛が湿り、きらきらと輝いていた。
龍は、子供のようにヴィヴィを抱き上げると、ヴィヴィの唇に吸い付き、舌を差し込んで、ヴィヴィの口の中を吸い始める。
ヴィヴィは、パタパタと羽を羽ばたかせ逃げようと最後の抵抗を試みるが、直ぐにおとなしくなり、羽が垂れる。
その代わりに、ヴィヴィの腕が龍の首に巻きつき、自分から龍の舌に自分の舌を絡め、吸い始める。
龍の体液を飲み込むたびに、ヴィヴィは体の芯が熱くなり、全身毛穴が開き、ブルームネクタが汗のようににじみ出るようだった。
グレーシーソフィと違い、小さなヴィヴィは、すぐにぐったりとする。
小さく軽いヴィヴィを龍は持ち上げたまま器用に全身ににじみ出たブルームネクタを舐めとっていく。
ヴィヴィはうっとりと、全身力を抜いて、龍のなすがままだった。
「あっ!
いや…
恥ずかしい」
龍がヴィヴィの乳房を舐めている時、ヴィヴィは小さな声を上げる。
そしてヴィヴィの下半身を支えている龍の腕に何か温かい液体のようなものを感じる
それは、ヴィヴィの花弁から流れ出たブルームネクタで、グレーシーソフィとはまた違った透明で甘いいい香りの液体だった。
龍はヴィヴィを高々と担ぎ上げると、正面から左右に開かせた両脚を自分の肩に置き、顔の前にヴィヴィの花弁が見える位置に向きを変えると、しゃぶりつく。
「きゃ、きゃぁ。
だ、だめぇ~
そんなこと、そんなことされたら気が狂っちゃう
やめてぇ」
しかし、その声で龍はやめる訳はなく、グレーシーソフィの時と同じように、舌で刺激し、溢れ出てきたブルームネクタを舐め上げる。
「やめてぇ…」
ヴィヴィの口からはすすり泣くような声が漏れ、体を小刻みに痙攣させながら、龍の頭にしがみつく。
ヴィヴィが再びぐったりとすると、抱き上げたまま龍は腰を下ろし、胡坐をかく。
そして、そこにゆっくりとヴィヴィを下していく。
ヴィヴィの下には、疲れ知らずで凶暴な形をした葯が待ち受けていた。
「ま、待って。
無理。
絶対に無理。
裂けちゃうよ~
助けて!
グレーシーソフィ、助けて!!」
見下ろすヴィヴィの眼に、迫りくる太い花糸とその先端にある巨大な葯。
ヴィヴィは、思わず恐怖を感じグレーシーソフィに助けを求めるが、グレーシーソフィは気を失っているのかぴくりとも動かなかった。
ヴィヴィの花弁に龍の葯の先端が触れる。
「ひぃ」
ヴィヴィが恐怖に震える声を上げる。
“ヌッ”
先端の光っている体液が潤滑油の役割を果たしているのか、先端がズズッとヴィヴィの花弁に狭い花柱を押し広げるように入り込む。
「い、痛―い!」
体が裂けるのではないかと思うほどの痛みが花弁から体の中心にかけて走る。
「痛いよ~。
やめてぇ」
ヴィヴィが泣き声で哀願するが、龍は聞く耳を持たないのか、ヴィヴィの体を強く抱き、そのまま花糸の根元に向かってヴィヴィの体を下していく。
「痛い、痛い。
だめ~」
龍の葯がヴィヴィの花弁から、壁を突き破って、奥まで入って来る。
ヴィヴィは痛みで気を失いそうになった時、急に痛みが嘘のようにかき消された。
「え?」
痛みの代わりに龍の葯がヴィヴィの花柱の中を強烈に刺激する。
「う、うそ。
な、なに…」
刺激が快感となって、ヴィヴィを襲う。
きつく、狭いところに入って来る龍の葯はヴィヴィの体の奥にある感じる部分を、グイグイとすべて強く刺激していく。
「や、な、なに、この感じ…
気持ち…いい…
いやぁ、私…どうにか…なっちゃう…」
自分を襲った痛みのことなど、すべて忘れたかのようにヴィヴィは快感に酔いしれる。
龍は、ヴィヴィの腰を持ち、上下にヴィヴィの体を動かし、翻弄する。
さすがに龍の花糸の根元までは入らなかったが半分くらいまでヴィヴィの中に埋め込むことが出来た。
「あ、あん。
あ…、ああ…」
ヴィヴィもグレーシーソフィと同じように、抜き差しで強い快感と切なさで我を忘れ、龍の肩をぎゅうっと掴み、顔をしかめ、快感に満ちた声を漏らしていた。
動きが激しくなると、ヴィヴィはまるで天にも昇るような快感に溺れていく。
そして、下から火山が噴火するように龍の体液がヴィヴィの体の中、子房の中に飛び込んでくる。
「きゃん」
ヴィヴィは小さく悲鳴を上げると、必死になって龍の全てを体の中に受け入れようとする。
グレーシーソフィの時と同じように龍の体液は、全てヴィヴィに吸い取られていくようだった。
そして、ヴィヴィは激しく痙攣すると、息を切らし、くったりと龍に寄りかかり動かなくなる。
龍は、ヴィヴィを持ち上げ、そっと葯を抜き、横抱きにすると、寝ているグレーシーソフィの横に運び、そっと横向きにして寝かす。
そして龍自身は二人を守るように、二人の可愛らしい寝顔が見えるところに胡坐をかき、番犬のように飽きることなく二人の寝顔を眺めていた。
明け方。
空が白々としてくる頃、プルートの狩りの時間が終わり、ねぐらに戻っていったのか、禍々しい空気は一変し、明け方の澄んだ空気に入れ替わる。
それを感じ、龍は安どのため息をつくと、膝を抱え、眠りに落ちていく。
ほどなくして、朝日が辺りを照らし始めたころ、グレーシーソフィは目を覚ました。
「え?
私、ここで寝ていた?」
プルートの誘惑で意識を失い、再び、意識が戻った時には目の前に不気味で悪臭を放つ大きな躰、牛や鰐といったたけり狂った動物の頭、不気味に光る黄色い目をしたプルートが迫り、恐怖した瞬間、プルートの股間に生えている蛇が自分の花弁の中にヌルヌルと侵入してくる。
その蛇が、下腹部の中を激しく動き回り、噛みつき、毒を注入され、激痛と苦しさの中、絶命していく。
1か月後、狭く真っ暗なところで目が覚め、這い出てきても、数日は体の不調に悩まされる。
そして体が完全に復調し、平穏な生活に戻ったころ、再び、プルートに誘惑される。
そんな辛いことの繰り返し。
いつプルートが誘惑しに来るのか、痛く苦しい思いはしたくない、そんな恐怖におびえる日々、所詮、自分はプルートの餌でしかないのかという絶望と諦め。
その最悪な状況でも「いつかは」とグレーシーソフィとヴィヴィは健気に生きてきた。
そして、この日。
プルートの誘惑がある日は、いきなり周りの雰囲気が禍々しく息苦しいものに一変し、気味の悪い声を聴き、気分が悪くなり、意識を失う。
昨晩、確かにプルートの誘惑があったはずなのに、何で自分はここで眠って、朝を迎えられているのか。
しかも体は少しけだるいが軽く調子がよく、心も幸せに満ち足りている
(私、昨日…
そうだ!
プルートに呼ばれたんだ。
でも、なぜ、ここにいるの?)
グレーシーソフィは飛び起きる。
「しっ!」
横で寝ていたヴィヴィが声を出し、人差し指を自分の唇の前に立てる。
「ヴィヴィ?」
グレーシーソフィは怪訝そうな声を出すが、ヴィヴィは人差し指を立てたまま目線で合図する。
その目線の先には、膝を抱えて眠っている龍の姿があった。
「ねえ、私たち、プルートの餌にならなくて済んだの?」
「そうよ」
ヴィヴィが嬉しそうに頷くと、グレーシーソフィは喜びを爆発させ、勝手に涙がこぼれてくる。
「やった…ね…。
あの…嫌な思いを…しなくて…すんだの…ね」
グレーシーソフィは泣きじゃくりながら、嬉しそうにヴィヴィに話しかける。
それを見てヴィヴィも涙を流しながら頷く。
二人とも、プルートの餌になるという現実を回避できないと諦めていたが、心の中では嫌で嫌でたまらなかった。
「でも、どうして?」
グレーシーソフィは我に返ってヴィヴィに尋ねる。
「あなた、グレーシーソフィは覚えていないの?」
「え?」
グレーシーソフィは反射的に龍を見て、見る見る顔を赤く染める。
(龍だ。
プルートの誘惑から私を救ってくれたんだ。
痛くて目が覚めたら、目の前に龍のたくましい体が…
温かくいい匂いがして、その力強い腕に抱かれ、痛みじゃなく…いい気持に…
龍)
ふと見るとヴィヴィも赤い顔して目を潤ませ龍を見ている。
「ヴィヴィ、あなたも?」
ヴィヴィは、グレーシーソフィの問いかけに、こっくりと頷いて見せる。
「すごかったね」
「うん」
「気持ちよかったね」
「うん」
「私、龍が大好き」
「私も、大好き」
いつものヴィヴィと違って、恥ずかしそうに答える。
「そうだ!
龍を休ませないと」
グレーシーソフィは、膝を抱えて転寝している龍の傍に行き、耳元で囁く
「龍。
ありがとう。
私とヴィヴィがプルートに誘惑されないように見張っていてくれたんだよね。
もう、朝になってプルート出てこないから大丈夫。
横になって休んで」
龍が声のする方を見ると、優しく微笑んでいるグレーシーソフィがいた。
グレーシーソフィは全裸で、産毛が朝日に光って、全身神々しい光を放っているようだった。
「ほら、こっちに来て。
ここに入って」
横になっているヴィヴィが毛布のような布を持ち上げ、龍を呼ぶ。
ヴィヴィも全裸で、グレーシーソフィと同様に全身光り輝いているようだった。
「ほーら」
グレーシーソフィに促され龍は、グレーシーソフィとヴィヴィの間に仰向けで横になる。
「龍。
ありがとう。
大好き」
二人はそういうと、龍の肩に頭を乗せ、抱き着く。
龍は二人の柔らかさ、温かさ、いい香りで幸せそうな顔で眠り込む。
「たくさん、私たちのブルームネクタを吸収してね」
二人は龍の胸の上で手を握り合うと、龍の胸の顔をうずめるようにして寝息を立て始めた。
龍が次に目を覚ましたのは、太陽が真上に上がった正午近かった。
目を覚まし、起き上がると、グレーシーソフィとヴィヴィはいなかった。
立ち上がり、腕に力を込めたり腹筋に力を入れてみる。
昨日より体に力が入るようだった。
(これも、彼女たちの…妖精のブルームネクタのおかげかな…
しかし、俺は一体どうしたんだろうか。
グレーシーソフィのブルームネクタを飲み込んだ途端、あんなことを)
龍は、昨晩、グレーシーソフィやヴィヴィに対し、同意を得てもいないのに、彼女たちの体を弄んだことについて、鮮明に覚えていた。
(体が勝手に彼女たちを…
自分も喜びで興奮していたし、感触も味も香りもすべて覚えている。
…
もしかして、グレーシーソフィとヴィヴィ、怒って出て行ったんじゃないだろうか。
いくらなんでも、命の恩人たちに俺は…)
龍は頭を抱えるほど自責の念に駆られていた。
ただし、龍の下半身は昨晩のことを思い出してか、反省とは裏腹に最大膨張していた。
「龍、起きてた?
…
きゃぁ!」
部屋の入って来たグレーシーソフィが、膨張した龍のモノを見て悲鳴を上げ、目を手のひらで覆う真似をしたが、指を開き、覗き見をする。
「なに?
どうしたの?」
グレーシーソフィの後ろからヴィヴィが入って来る。
その瞳は、龍の猛々しくそそり立つ一物を凝視し、動けなくなる。
暫く微妙な雰囲気の沈黙が流れ、3人とも化石のように立ち尽したが、その沈黙を破ったのはヴィヴィだった。
「龍!
いつまで裸でいるのよ。
これを着なさい!」
ヴィヴィは真っ赤な顔をして手に持っていた衣服を龍に向かって投げつける。
「あ、すまん」
龍は衣服を受け取ると、急いで着始める。
下着に黒いズボン、ティシャツにフードの付いた濃紺のパーカーで、龍が生活していた時代と同じデザインだった。
「へぇー、こんな男物の服があるんだ」
何もないと思っていた龍には意外だった。
「どう?
たぶん、こんな服を着ていたんだろうって、ヴィヴィと二人で作ったの」
「え?
作ったの?」
「そうよ。
変?」
作ったという割には商品タグまで付いていて、龍は不思議な感じがした。
しかも、服は真新しく、龍の体に合わせたように丁度いいサイズだった。
「さあ、着替えたら、食事にしましょう。」
龍の着替えを見届けてから、グレーシーソフィが声を掛ける。
「グレーシーソフィ…」
龍が思い込んだような声を出してグレーシーソフィに声を掛ける。
「はい?」
「それに、ヴィヴィ」
「なあに?」
「そ、その…」
グレーシーソフィとヴィヴィは言い出しにくそうな龍の顔をまじまじと眺めながら、出てくる言葉を待つ。
「昨晩は、ごめん。
君たち二人を無理やり…
特にグレーシーソフィは2度も…
その…」
龍が言葉に窮していると、ふわっと軽やかなステップでグレーシーソフィが抱き着く。
グレーシーソフィの柔らかな体と甘いいい香りを感じ、龍は無意識にグレーシーソフィを抱きしめる。
グレーシーソフィは龍の首に腕を回し、抱き着き、そして耳元で囁く。
「龍。
龍が謝ることは、何一つないわ。
むしろ、感謝しているの」
「え?」
「私達ね。
昨晩、初めてプルートの誘惑を跳ね除けることができたの。」
いつのまにか傍に寄って来たヴィヴィが龍の腕を触りながら話す。
「誘惑」
「そう。
プルートの餌にならなくて済んだの。」
「プルートの誘惑は絶対で、私たち抗うことなんかできなかったの。
それで、いつも餌にされて、殺されて…。
仕方ない。
それが私たちの存在意義だからってあきらめようとしていたんだけど…」
「痛いの嫌!
怖いの嫌!
気持ち悪いの嫌!
ヴィヴィが怒ったような声を上げる。
「その絶望から、たとえ昨晩だけでも、龍、あなたが助けてくれた」
「しかも、龍はプルートにならなかった」
「そして、私たちを天国に上るようないい気持にしてくれた」
グレーシーソフィは顔を赤らめ、小声でささやく。
「大好き」
ヴィヴィは羽を羽ばたかせ、龍の顔のあたりまで飛び上がると。龍の首に手を回し抱き着くと、頬にキスをする。
龍は、二人に嫌われていないとほっとするとともに、二人が喜んでいること、特に自分と交わったことで喜んでいると知り、何となく自分を誇らしく思った。
「ねえ、龍。
お願いがあるんだけど」
グレーシーソフィが躊躇しながら話しかける。
「なんだ?」
「もし、今晩も…
いえ、今晩もきっとお腹を空かせたプルートがやって来ると思うの。
もし、お願いが出来るなら、今晩も…
今晩も助けてほしい。
私、食べられたくない。
昨晩、食べられなかったら、もう、絶対に食べられるのが嫌になって。」
いつしかグレーシーソフィは涙声になっていた。
「グレーシーソフィ…」
「ヴィヴィだって嫌でしょ。
あんな化け物たちに食べられるのは」
「それは…嫌。
でも、化け物って言ったら…私たち…」
「え?
あ…」
何かを思い出したようにグレーシーソフィもヴィヴィも黙り込む。
その沈黙を破ったのは龍だった。
「?
なんだかわからないけど、いいよ。」
「え?
龍、いいの?」
「当たり前だろ。
食べられたくないんだろ?」
「うん。
でも、私達…
私たち、嫌じゃない?」
「え?
なんで?」
龍にはグレーシーソフィの言う“嫌じゃないか?”の意味が分からなかった。
その日から1週間。
毎晩のようにプルートの誘惑がグレーシーソフィとヴィヴィを襲う。
最初の2日は、初日と同じように強引に二人を押さえつけ、行為に及ぶことで誘惑を回避する。
3日目を過ぎると、徐々にグレーシーソフィとヴィヴィの催眠を跳ね除ける抵抗が目覚めてきたのか、抗い始める。
「りゅ、龍…
来た…
プルートが…
龍、お願い…
キスをして」
必死で抵抗するグレーシーソフィを抱きしめ、キスをする。
二人にキスをして、舌を絡め合うだけで十分興奮状態に陥り、そのせいかプルートの呪縛が解けた。
その後は、グレーシーソフィもヴィヴィもより興奮状態が激しさを増し、龍の腕の中に飛び込んでくる。
7日目になると、グレーシーソフィもヴィヴィも、プルートの誘惑を自らの意志で跳ね除け、龍の腕の中に飛び込んでくるようになった。
龍は、相変らずグレーシーソフィやヴィヴィのブルームネクタを直接飲むと荒々しい獣人のように変貌し、二人を抱きくが、決して傷つけることはなかった。
龍の方は、二人に世話をされ、筋力や体力も回復し、歩き回ったり、普通の生活が送れるくらいに回復していた。
グレーシーソフィやヴィヴィも、プルートの誘惑の恐怖から解放され、精神的に楽になったのと、龍の体液を取り込むうちに、今まで以上に体の調子が良くなってきているようだった。
そんなある日、ヴィヴィが浮かない顔をしている。
「ヴィヴィ、どうしたの?
体の調子が悪いの?」
グレーシーソフィがヴィヴィの顔を覗き込む。
「うーん。
調子はすごくいいの。
体も軽いし、力も漲って来るの。
でも…」
「でも?」
「羽が…
背中の羽が動かなくなったの」
ヴィヴィは体に力を入れ、一生懸命、羽根を動かそうとしているようだったが、その羽根は垂れ下がったまま、ピクリとも動かなかった。
「二人ともどうしたの?」
筋肉トレーニングをしていた龍が部屋に戻って来て、浮かない顔をしている二人に声をかける。
グレーシーソフィは、ヴィヴィについて、調子が悪いわけではないのだが体に現れてきている変化を龍に話して聞かせた。
「ふーん。
そうなんだ。
でも、生まれてから、ずっとその姿だっただろ?
すぐに戻るんじゃないか?」
「ううん。
今まで、こんなことはなかったの。
それと、生まれた時は、こんな体じゃ…」
「グレーシーソフィ!!」
「ヴィヴィ、もういいじゃない。
本当のことを言っても。
もう、龍もいざとなったら、私たちは必要ないし」
「え?」
龍は二人が何を言い出すのかと聞き直した。
「龍。
今まで黙っていて、ごめんなさい。
私たちの本当のことを言うと、きっと気味悪がっていなくなっちゃうと思って言えなかったの。
体力も随分回復してきたみたいだし、もし、ここを出て行っても、もう大丈夫そうだから私たちのことを話すね」
「…」
龍が怪訝そうな顔をしていると、いつのまにか席を外していたヴィヴィが、どこからか人が一人入れるくらいの大きな旅行ケースを持ってきた。
「私たち、実は、目が覚めた時…
生まれた時と言った方がいいかしら。
その時と、今の体が違うの。
ヴィヴィは、今と同じ小さな女性だったけど、羽根なんかなかったの」
「え?」
龍は、改めてヴィヴィの背中に生えている羽根を見る。
でも、絵本で見ていた妖精が皆ヴィヴィのような羽根をはやしていたので、特に不思議に思っていなかった。
しかし、今となっては、目が覚めてから見てきたもの全てが異常だと初めて気が付く。
「それとね。
私には触覚があるの」
「え?
触覚?」
グレーシーソフィは、額の生え際の奥の髪を掻き分けると、髪の毛10本ぐらいを束ねたくらいの太さで10cmくらいの長さの2本の触覚を見せる。
「空気の流れや温度の変化が普通よりも良く感じるくらいかしら。
これも、最初はなかったの」
「じゃあ、その耳は初めから?」
「ええ。
これがなければ、外見はフーマと変わらないわ。
それで、目が覚めたら、目の前にその大きな旅行ケースとその上に、光る鋭利なナイフが置いてあったの。
そしてその横に、ヴィヴィが座っていたの」
「私も目が覚めたら目の前にグレーシーソフィが寝ていたから、起きるまでじっとしていたの」
「そうしたら、いきなり頭の中に声がして、旅行ケースの使い方、ナイフの使い方、そして自分たちはフーマやプルートの餌だと教えられたの」
「声が聞こえた?」
「うん。
目が覚めたら、自動再生のように女の人の声で。」
「私たちは、フーマやプルートの餌として生み出されたものなんだって。
いろいろなDNAや薬品を混ぜ合わせて作られたものらしいの。
難しくって細かくは説明されていないわ」
「次にプルートがどうやって私たちを食べるかの説明。
ぞっとするけど、そうなんだと理解させられたわ。
ただ、涙が勝手に出たけど…」
「そういえば、再生するって…」
「そう。
私たち、首から上が残っていれば、再生ができるわ。
でも、放っておいても勝手に再生できるわけではないの。」
「秘密の部屋?」
「ええ、それがここ」
ヴィヴィはそう言うと旅行ケースをポンポンと叩く。
「プルートは、胴体、肢体と順に食べていくの。
で、頭を食べられる前に、このナイフで胴体から頭を切り離すの。
どんな構造になっているかわからないけど、非力な私たちでも、紙を切るように軽く切り離すことが出来るの」
「プルートが食べることに夢中になっている隙に、さっと頭を切り離して、大事に持って帰って、そのケースに入れるの。
そうすると1か月くらいで元の体に戻るってわけ。」
「1か月経つと、ケースが開いて目が覚め、出てくるの。
体の大きさが少し関係するかしら。
私もヴィヴィも同じ1か月くらいだけど、3,4日、ヴィヴィの方が早いわ。
出て来ても1週間くらいは、体がぐにょぐにょで力が入らず、ひどく気分が悪いのよ」
グレーシーソフィが不快なことを思い出し、顔を曇らす。
「でも、信じられないな。
SFの世界で、確かに首から上があれば遺伝子情報をもとに体を培養できるというものがあったけど、それには、大きな研究所が必要だし、体だけ作り物、サイボーグとかの物語もあったけど、君たちは生身だし…。」
龍は改めて話を聞いて、にわかに信じられないという顔をする。
「そうだ。
その旅行ケースの中を見せてもらえる?」
龍の問いかけにグレーシーソフィとヴィヴィは顔を見合わせたが、お互い頷くと、ヴィヴィが旅行ケースを開いて龍に見せる。
あからさまに龍にケースの中を見られたくないというように、二人は龍とケースから顔をそむける。
そんな二人の態度を知らない龍は、興味津々でケースの中を覗き込んだ。
ケースの中は真っ暗で、まるでブラックホールのように底が見えないと錯覚するほどだった。
また、ケースからは人の体温に近い温かな空気と甘い果実のような、それも毒々しいと思えるほどの強い匂いが漂ってくる。
何よりもケースの中はまるで生き物のように、脈打っているように思えて仕方なかった。
「もういい?」
「え?」
真顔で龍を見つめているヴィヴィの顔があった。
そして、龍が頷くと、パタンとケースの蓋を閉める。
龍は背中に悪寒が走るのを感じた。
「信じられない…。
そうだ。
君たちは、最初は普通のフーマだと言っていたけど、その羽は?
その耳は?」
龍の問いかけに、二人は“とうとうきたか”と言わんばかりに、初め怖い顔をしたと思ったら、次に寂しそうな顔になる。
「頭を…頭を持ってきて…ケースに入れるんだけど…」
「大事に持ってきて…綺麗に…埃は払うわ…」
「でも、どうしても…土や埃…外だから…昆虫の死骸や動物の…目に見えない何かが付着していることが往々にしてあるの…」
「まさか」
龍は二人が何を言おうとしているのか分かった気がした。
「まさか、再生するときになにかと融合した?」
二人は、コクンと頷く。
「私とヴィヴィは、耳の長い動物の遺伝子を持った何かが一緒に混ざって再生したみたいなの」
「私は、それにプラスで、ウスバカゲロウのような昆虫の何かが混じって、ある時、背中に羽が生えていたわ」
二人は俯いて、拳を力一杯握っているようだった。
「ほかに、表面に現れていないだけで、体の中に何が入っているかわからない…化け物なの…」
「龍、ごめんなさい…
あなたのためにと思って飲ませていた私たちの体液だけど、フーマ以外の何が混じっているかわからないの。
決して、騙したわけじゃないの。
信じて…」
「…虫…」
「龍、確かに私には羽が生えているからわかるけど、グレーシーソフィはそんなの混じっていないわよ。
私が保証する。
もし…もし、嫌なら私だけいなくなるから」
「だ、だめよ、ヴィヴィ。
私たち、いつも一緒よ。
いなくなるなら私も一緒よ」
しかし、龍にはそんな二人のやり取りは耳に入ってこなかった。
昔、10歳くらいの時、まるまる太った足の長い大きな昆虫を誤って踏んで殺したことがあった。
その感触と、足元で飛び散った黄土色の体液を見て、それ以来、龍は昆虫が苦手になり、大きく太った虫を見るたびに恐怖で体が強張るほどだった。
龍はヴィヴィの言った昆虫という言葉で、昔のことを思い出し、思考が混乱していた。
「グレーシーソフィ…」
「え?」
ヴィヴィが、龍の様子がおかしいことに気が付きグレーシーソフィに声をかけ、顔を龍の方に向ける。
それに合わせ、グレーシーソフィが龍の顔を見ると、龍の顔は恐怖と苦痛に歪み、目は虚ろになっていた。
「グレーシーソフィ…」
ヴィヴィは再度グレーシーソフィに声を掛けると、この場から立ち去ろうとドアの方を指さし、歩き始める。
グレーシーソフィは、もう一度、龍を見たが、龍は相変わらず放心状態だった。
それを見て仕方なしに立ち上がると、うなだれながらヴィヴィの後を追って部屋を出て行った。
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