第27話 聖女 茜は夢の中でも戦う(中編)
夢モニターの画面で戦う女2人。激しく拳がぶつかり合い、壁や地面に亀裂が入っている。
「……何か大変な事になっているが……これ、夢なんだよな?」
「うーん、もしかして夢の次元を移動する人に当たってしまったかなぁ。テスト段階で発見出来るとは思わなかったね」
「やっぱただの夢じゃないのか? だとすると負けたらヤバイんじゃ……」
「話の流れからすると勝っても良いとは限らないけどねぇ」
『キャアアアア!!』
激しい破壊音と共に女の悲鳴が聞こえたので画面を見ると、対戦相手の服がビリビリに破け下着姿で吹っ飛んでいた。
「これはこれは、負けると服が破ける不思議な勝負なんだねぇ」
「こんなん見てて良いのかよ……」
★★★
「キャアアアア!!!」
茜の拳がチサの鳩尾に思いっきりヒットすると、何故か服がビリビリに破けて下着姿でチサは吹っ飛んだ。
「……何で服が破けるの?」
「先に説明した通り、そういうゲームだからですよ。そもそもこのゲーム、夢の中が舞台ですからね。夢の中の仮想の恋愛都市では冴えない主人公は強く、女達が寄って来てお色気シーンもある。というのがこのトキハキ都市のコンセプトです。なので服も破けます」
「ちょっと全然分からないけど内容については分かったわ」
「……お姉ちゃん……私の負けね」
下着姿で倒れているチサがむくりと起き上がった。目はトロンとして頬も心なしか赤い。
「やっぱりお姉ちゃんには敵わないや。ねぇ、チサと結婚――」
「する訳ないでしょうが。とっとと帰れ」
チサは驚き泣き出した。泣いて茜にすがりつく。
「えー! やだやだ! お姉ちゃんと結婚するー!」
「なっ、しつこい!! ちょっと、話が違う! 全然断れないんだけど!!」
何度断ってもチサはゾンビのように縋り寄ってきた。
「断る為には縋り寄って来る攻略対象を空の彼方まで吹っ飛ばさないといけません」
「何なのよそのクソゲーは!!!!」
茜はチサをジャイアントスイングで吹っ飛ばした。
「それで、どうなったら終わるの……? このゲーム。」
2人はボロボロになった路地を離れ、街中へと歩き出した。
「ゲームを終わらせる方法ですか……相手を打ち負かして幸せなキスをするか、あとは負けて奴隷になるか……全員打ち負かして吹っ飛ばすエンドはちょっとやったことがないので分からないですけど」
「実質、全員吹っ飛ばすエンドしか無いじゃない」
「……何でせっかくゲームの世界に来てるのに、まともに恋愛しようとする人は居ないんですかね」
「百歩譲っても主人公の性別違う時点で恋愛エンドにはならないでしょう」
茜は知らないが話だが、前に騎士団長も乙女ゲームに巻き込まれていた。何故主人公の性別がことごとく設定と違うのかとルビーは首を傾げる。
「何ですかねコレ。何かのバグかなぁ」
「何でもいいけど全員吹っ飛ばさなくちゃいけないならアンタもそうしなくちゃいけないって事?」
茜が握り拳を温めるのを見てルビーは慌てて首を振った。
「いえいえいえ! 私は2週目以降の攻略キャラなので殴らなくて大丈夫です!」
「そう……」
茜は何故か残念そうだった。拳でぶつかり合い恋愛するこのゲームもまあまあ狂っているが、目の前の戦闘狂も中々におかしいとルビーは震えた。きっとその辺りの波長とか利害とかが一致してこのゲームに巻き込まれてしまったのだろうと無理矢理納得する事にした。
「それで、次の敵とやらはどこに……」
道の角を曲がろうとした時、向こうからパンをくわえた女が走ってぶつかってきた。
「なっ!」
咄嗟に避けるが、当たっていないのに服の一部が切り裂かれていた。
「気を付けて下さい! その女は転校生のみゆき! 武器はそのカラっからに乾いて服をも切り裂ける食パンです!」
「どんな武器よ……っ!?」
今度は後ろから薙刀を振り下ろすロングヘアーの清楚な女が現れる。茜はそれをかわすと、今度は避けた先に注射器が何本も飛んで来た。それを蹴り上げて壊す。
「うそ……生徒会長の麗華と保険医の京子先生……3人同時に襲ってくるなんて有り得ない!」
3人はザザッと茜を取り囲んだ。
「ふん、何人でも構わないわよ……こっちは早く全員吹っ飛ばしたい位だからね。纏めてかかってきなさい!」
3人が同時に茜に向かって飛び出した。
★★★
暗い路地裏、倒れている何人もの女達。それらを踏みつけながら歩く1人の女がいた。
纏ったオーラは黒く、ピンク色の目は仄暗く笑っていた。負けた女達は起き上がって求愛する事も出来ない程重圧に押し潰されていた。その場の誰もが恐怖に顔を上げることが出来なかった。
歩き出した女の後ろからずるずると闇が追いかけて行く。女の目には闇の刻印……
★★★
3人の女を下着姿にして吹っ飛ばす茜の姿をモニターで見ているアッシュとシルバー。
アッシュは茜の強さがある程度分かっていたので、このくらいでやられるような女では無いと思っていた。最初は下着姿の女性に驚いたが、4人目ともなるといい加減見慣れてしまう。
「なぁ、一体何人いるんだろうな?」
「全員倒さないと出て来られないと言っていたからねぇ。ほらコレ、気づいていた?」
「ん?」
シルバーが指差す画面の角に小さなマップと光の反応が描かれていた。青い点が茜で、その周りにある3つの赤い点が攻略対象者。
「いつの間にこんなんが現れたんだ……まぁ、それは置いといて。て事は赤い点が全部無くなれば終わるって事か」
「そういう事みたいだね。ただ、これ……何か集まっているよね」
青い点ではなく、端の方にある紫の点。その周りに沢山の赤い点が集まっていたが、それが一気に消えて無くなった。
「何だこれ?」
紫の点が移動すると赤い点が画面から次々と無くなり、そのまま青い点に近づいて行くようだった。
ついに全ての赤い点が無くなった時、紫の点は青い点の近くまで来ていた。
「おい! 聖女! 何か近づいてるぞ! 気を付けろ!」
茜の視界にその紫の点の正体が映った。
「……これは、他の子とは違う。魔法学園の制服だねぇ」
「……え?」
茜の視界はその女を見てそのまま固まった。
★★★
「え? だ、誰? このゲームにこんな女の子……出てないけど、え?」
ルビーが驚いて指差すその女は、明らかに他の攻略対象とは違う雰囲気だった。
攻略対象とは違う制服……その服は茜と同じもの。
ピンク色の髪と目。その身から湧き出る黒いオーラは闇のもの。光の反射で薄っすらと見える目の刻印……
「……どうして……ここに……」
下着姿の女を地に伏せて近づくその女は、もう2度と会うはずではなかった存在……
闇の魔法使い、ノエル・フォルティスだった。
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