第25話 聖女 茜は魔法学園に行く
※前回までのあらすじ
強い女と戦う為に旅立った聖女、雨宮茜は魔塔で魔女達と戦いその猛攻撃に打ち勝った。
魔塔主シルバーから買った景品として何か望みはあるかと聞かれた茜は、魔法学園に行ったノエルとの再会を願い出た。
―――――――――――――――――――
「あっ、茜さまっ」
魔法学園に連れて来て貰った茜はノエルの顔を見るなり走って抱きしめた。
「ふふ、茜様、この間帝国を出たばかりじゃないですか……茜様?」
笑いながら話すノエルだったが、茜の様子がおかしい事に気付いて心配そうに見つめた。
「どうしたんですか? 何かあったのですか?」
「……ノエルたんは……今、幸せ?」
「え? もちろんですよ」
茜はずっと不安だった。ノエルの運命を変えてしまった事は本当に正しかったのかと。
誰かが分かってくれる訳でもなく、未来のノエルを知っている者は自分のみ。
ノエルのメイドのナディアもゲームの事は知ってはいるが、あのノエルはもう自分しか覚えてない。あの掴んだ手の感触は自分しか知らなかった。
「こうして、心配してくれる茜様がいるから私……心強いです。茜様が何をそんなに不安になっているのか…私に話してもいい時が来たら、ちゃんと話してくださいね」
茜はノエルの言葉に驚いた。
確かに最初に会った時にゲームの物語で闇の竜や魔法使いのせいで悪役になる事は伝えていた。あの時のノエルはまだ小さくて難しい話を一生懸命に聞いていた。あれからまだ何年も経っていないはずなのにノエルはその間に少しずつ成長していたのだ。自分の事を理解しようと……そう気持ちをくれるノエルに茜は戸惑った。
1つ頷いて茜はノエルから離れた。まだあの時間までは遠い。それまでにノエルを全ての悪意から守れるまで強くならないといけない……力も心も。
彷徨っている場合ではないのだと自分に言い聞かせた。
そんな様子を遠巻きに見る1人の少女がいた。
少女は愕然としていた。目の前に起こっている事態が全く理解出来なかったから。
「な……何で……????『聖女の初恋kiss〜魔法学園は異世界のイケメン花園』の主人公の聖女が……何でここにいるの????」
『聖女の初恋kiss 2〜魔法学園は悪役令嬢の罠』の主人公ティナである。
★★★
ティナはノエルを探しに校内を歩き回っていた。魔塔主に呼ばれて出て行ってしまったっきり戻らないので、少し心配になった。
今のノエルは悪役ではないが、何がきっかけで悪い道へ足を踏み入れてしまうのかは分からない……決して彼女が普段めちゃくちゃ優しいとか、悪役じゃないノエルは意外と可愛いからとかそういうアレではない。とティナは首を振った。
だが、ノエルを遠目に見つけた瞬間ティナは凍りついた。あり得ない光景……そこに居たのは間違いなく初kiss無印の主人公だった。
2と違い無印は名前入力式なので誰なのかはティナには分からないが、あの長い黒髪や制服は、間違いなく見覚えのあるスチルと一緒だった。
ティナは疑問に思った。今が2の時間軸ならば主人公が出てくるのはもっと先のはずだから。
もしかしたら人違いかもと思いもう1度見ると、主人公の姿が無かった。
「え……?」
ビックリして辺りをキョロキョロと探すが、すぐ後ろから声が聞こえて一瞬にして血の気が引いた。
「アンタ……何で私らを見ているの?」
振り向いて改めて見ると、やはり1の主人公がそこに居る。
「ひっ、主人公!」
「主人……公?」
しまった、とティナは口を押さえた。その固まる肩に茜は手を回し、ガシッとホールドする。
「ねぇ、アンタ見覚え無いんだけど……もしかしてゲームの事知ってるの?」
「へ……もしかして……未プレイ……」
ティナは口走ってまた自分を責めた。
(あわわ……何故言わなくてもいい余計な事を次から次へと)
茜は明らかに不信がり、ティナの肩に指を食い込ませる。
「知ってる事、洗いざらい吐いてもらおうかしら……? 未プレイって事は、何か知らない続編があるって事よね???」
「は、はひ……」
ティナの逃げ場は何処にも無かった。
「……なるほどね。初kissに続編があったなんてね」
茜の前で正座をさせられるティナ。怖くて茜の顔を見る事は出来ず、ただ俯くだけだった。
「で、今はノエルたんの友達になっちゃっているわけね」
「あ、あの! 私、ノエルと争う気も無いし、こうして地味な格好で生活してイケメンとも恋愛せずに無難に過ごそうとしています!! 全然ノエルに危害を加えるとかこれっぽっちも思ってないので!!!」
ティナは何となく分かった。さっきの様子といい、何らかの方法で過去に飛んでノエルの運命を変えたのは目の前の主人公で間違いないと。ゲームの知識があるならノエルの運命を知ってるはず……ならば自分は無害だと涙ながらに訴えるしかなかった。
「……ゲーム履修者なら好都合だわ」
「へ???」
茜はティナに顔を近づけてニコニコと笑う。
「私ね、ノエルたんが入学してからずっと見てられなくて凄く心配だったのよ。ノエルたんに悪い虫が付かないよう追い払って貰ってもいいかしら?」
「え?? わ、悪い虫ですか??」
「あれだけ可愛いんだもん。ゲームのイケメンどころか変なヤツがわんさかノエルたんの事狙うに決まっているじゃない? ノエルたんが変なのに捕まって悪い方向に行くのはアンタも都合悪いでしょう?」
茜の言う事には一理ある。一瞬納得しかけたティナだったが、はたと自分はノエルと極力関わりたくない事を思い出した。そういえば何をホイホイと探しに来ているのだと。
「あの……私その……」
「ちなみにノエルたんに悪い虫が付いてたらアンタ諸共こうよ?」
茜が近くの壁を殴る。そこに大きなクレーターが出来て壁が粉々になった。
……ティナに最早拒否権は無く、選択肢はノエルを守り切る一択のみだった。
「はい……全力で……頑張ります……」
「あ! 茜様、こんな所にいらしたのですね? あれ? ティナ?」
茜を探しに来たノエルが2人を見つけてニコニコ笑った。
「茜様、私の友達なんです。ティナっていうの」
ノエルが照れたように笑うと茜が少しイラッとしていたので、それに気付いたティナが慌てて弁解する。
「あ! あの、友達というか、席が隣のクラスメイトというか、顔見知り程度でそんなに親しくはないかなーなんて……」
「え……そうなの……」
ノエルがしゅんとすると茜はまたティナを鬼の形相で睨んだ。慌ててティナが弁解し直す。
「あ! いや、そんな事は無く、友達! そう、友達だなぁ! 凄く友達! ノエルは可愛いから皆から好かれちゃうからねー!」
皆から好かれるという所が茜の琴線に触れたのか更に顔が般若のようになる。ティナは心の中で叫んだ。
「ああもう……これ以上困らせるなよ。そろそろいいだろ? じゃあな、ノエルたん様」
アッシュが聖女を引っ張って連れて行く。その後ろ姿にノエルは手を振り見送った。
ティナは無難に生きるはずだったのに、学園生活中ノエルを見てなくちゃいけなくなり頭を抱えて落ち込んだ。
「ティナ? 何処か具合でも悪いの?」
ノエルの優しさがティナの身に染みた。
★★★
「それで、俺達は何をする為に呼ばれたんだ?」
魔塔に戻ってきた茜とアッシュはシルバーに尋ねた。元々人が足りなくて呼ばれていたのだ。
「いやぁ、実はね……モニターになって欲しいんだよ。魔術具の」
「モニター?」
シルバーはニコニコと笑った。
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