第24話 帝国に来た11人の女達

 

 ・プレリ大陸

 竜の国ラヴィーンと獣人の国セリオン、未開の密林を持つ大陸。その広大な草原にセリオンがあり、様々な獣人達が暮らし動物達が飼育されている。大きく育った猫や犬やハムスターが交通手段として使われている。

 草原を囲む高い山々は竜の国ラヴィーンで、高く険しい為飛竜でしか行く事が出来ないが、谷間の1番低い所にラヴィーンに至る抜け道がある


 ・ラヴィーンに通じる小さな村

 かつてラヴィーンに住んでいたが、国が変わってしまった時に国を離れた竜族の女達が住んでいた。ラヴィーンへの抜け道を通る人を監視していたが、ある想いから国を捨てて外の景色を見ようと女達は旅立つ。今は村は閉鎖されている。


 ・竜族の11人の女達

 ラヴィーンを捨て、腐の国に足を踏み入れた11人の仲良し女子達。時折カップリングで喧嘩する。


 ※本編147話、竜族の女達がラヴィーン近くの村を出て帝国に向かった後の話です。



 ―――――――――――――――――――



 竜の国ラヴィーンへの抜け道を守る11人の女達……彼女達は村にあった資金を集め、やっと11人が帝国まで行ける程の旅費を片手に旅立った。


 変わってしまった竜の国に未練のある者など誰1人いない。

 皆の心は1つ……議長が胸に抱く大事な薄い本が11人を奮い立たせた。

 自分達は狭い所に在すぎた。竜は自由だ。もっと世界を飛び回り、想像力を高めなければ人生の答えなど見つからないのだ。

 とは言え、物理的に竜の羽を広げて飛び回ると竜族に見つかり国を捨てた事がバレてしまうと考えた村人達は人間の女に魔法で変身し、ゲートを利用して帝国へと向かった。



 ★★★



 帝国の皇帝ルーカスは仕事の合間があれば城下のカフェでお茶をしたり買い物したりするのが趣味だった。

 なかなか仕事を放り出して国外まではそう頻繁には行けないが、こうして首都を周れば割と話も聞けるし相談事があればすぐに声をかけてくれる。


「あ! 陛下! いい所にいらっしゃいました! ちょっとご相談が……」


「ん? 何?」


  この日も門番に呼び止められた。


「どうしたの、何かあった?」


「それが……首都に入ろうとした怪しい者達がいて……隠蔽魔法をかけていますが恐らく人間では無いかと思われます」


 ゲート都市から帝国への入国審査は、ちゃんと手続きさえ取ればすんなり通る事が出来る。だが、首都はそうは行かない。門番もちゃんと実力と鑑定レベルの高い者を採用しているのだが……その門番が曖昧な鑑定しか出来なくて困っているのだ。並の種族では無いだろう。


 門番に案内されるまま詰所に向かうと、そこには女達が居た。人数は11人。見た目は人間……だが――


「……下がっていろ。竜族だ」


「竜族?!!」


 門番達がざわついた。

 ラヴィーンの竜族は滅多に人前に姿を現さない。特に今の女王が人間を毛嫌いし、飛竜の貸し出しの媒介役となる商人を通す以外では絶対に会う事は無いと聞いていた。

 噂では内紛もあり、友好派だった古参の竜族は殆ど居なくなってしまったという。

 一体何故急に帝国に現れたのか。目的が分かるまでは下手に手は出せない。

 竜族は人によってはこの帝国を一瞬で火の海にする事が出来る者もいるからだ。

 ルーカスは心を落ち着け静かに女達の前に出た。


「……私は、この帝国の皇帝、ルーカス。君達は……竜族だね? 一体何をしにこの国に来たのか聞かせて貰おうか」


「「「?!!!!」」」


「返答次第では――ん?」


 驚いた表情を浮かべた竜族の女達だが、何故か先頭の女が倒れて、後ろの者達が支えて集まる。泣き出している者もいた。


「な、何……?」


「議長!!! 議長!! しっかりしてください!!!」


「うーん……美しすぎて目が……」


「う……うっ……私も涙が止まりません……」


「若い美しイケメンで皇帝とか……神か……神が与えた燃料か……」


 竜族の女達は次々と訳の分からない事を口にする。ルーカスも、門番達もドン引きしていた。


「議長!! みんな!! これじゃあ話が進まないわ!! 私達には目的があるのですよ!!」


「でも……私……直視出来ないわ……」


「これを!!」


 1人が魔法でサングラスを取り出すと、他の皆もサングラスを着け始めた。

 目の前に並ぶサングラスの女達……余計に不審度が上がっている。


「あー……えーっと……それで、君達は竜族だよね。一体帝国に何の目的で来たんだい?」


 すると議長と呼ばれた女が説明をし始めた。


「私達は、ラヴィーンに入る事が出来る抜け道を監視していた小さな村から来ました。信じて貰えるかは分かりませんが……竜の国に嫌気がさして麓に降りていたのです。そして、大きな目的が出来たので村を閉めて帝国に来ました」


「うーん……信じるか信じないかは、その目的を話して貰わない事には……」


「……それは」


 議長が困っていると、他の竜族達が口々に抗議する。


「議長!! 目的を……目的を話すのはギルティでは……!!」


「そうですよ! 殿方に話すのなんて」


「議長、ダメです!! 絶対に!!」


 皆は反対していた。そんなに重要機密なのだろうか、とルーカスは益々怪しんだ。


「……貴方達の気持ちも言いたい事も分かるわ。アレは日陰の存在。アンダーグラウンド……決して表に出してはいけないもの。……だけど、私達はどうしてもあの御方に会わないといけないのよ……」


「議長……」


 決心したらしい議長は、目の前に本を差し出した。それは異様に薄い本だった。

 ルーカスは何となく嫌な予感がしたが、彼女達の目的が分からない事にはどうにもならないので、恐る恐るそれを受け取り開いた。


 それは……やはり想像通りのアレだった。

 いくら禁止しても勝手に広まってしまう薄い本……BLと呼ばれる小説が書かれた書物。

 なんなら名前や身分を色々伏せているが、どう考えても自分とジェドの本だった。

 何でそんな物が国外まで広まって、しかも竜族が持っていて、何故ルーカス自身が見せられているのか……何1つ状況が分からなかった。

 ルーカスはそっと本を閉じる。


「……で、これが何か?」


「先日、私達の村に3人の男が現れました」


 竜族達は神妙に語り出した。


「1人は獣人、1人は魔族、そして1人は……何故か裸にタオル1枚の人間でした」


「??? うん?? 最後の1人、何?」


「……それが、私達にも分からなかったのです。どんなに想像力を働かせても……一体何があったのか……狭い村にしか居なかった私達の想像力では限界だったのです。だから帝国に来ました」


「うん……? 帝国に来た下りをもうちょっと詳しく……」


「それこそがその本なのです! その本の創造主、神……レイジー先生であれば、私達の納得が出来る答えを出して頂けると信じ……私達は国を捨てて帝国まで来ました!! どうか…私達にこの街に入る許可を……先生に会わなくてはいけないのです!!」


「………」


(ダメだ……全然よく分からない)


 ここは国の事は民に聞こうと、ルーカスは門番達を振り返った。


「君達はどう思う……?」


「いや俺達に聞かれても……まぁ、帝国に害が無いならいいんじゃ無いですかね」


「何か必死すぎて気の毒になってきましたし……」


「……じゃあ……まぁ、許可という事で。ただし、少しでも人に危害を加えたら容赦しないからね」


「!?! ありがとうございます!!!」


 竜族の女達は喜び合った。しかし……その裸にタオルの人間は結局何だったのかは分からなかった。最近ルーカスが聞いた話の中でも群を抜いて不可解な事件であった。

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