第23話 三つ子の1人、トルテのバイトの話

 

 ・三つ子の騎士ガトー、ザッハ、トルテ

 ショコラティエ伯爵家の三つ子の騎士。第1部隊のモブ。鑑定でも見分けが付かない位似すぎていて、見分けられるのは今のところルーカスしか居ない。

 見分けられない事で悩んでいた時もあったが、今は3人一緒でいいと吹っ切れている。3人力なのでナイスなサポート力を発揮する。


 ・魔塔

 世界中の魔法使いが憧れ、最高峰の魔法使いが集まる場所である。その塔の始まりはハッキリとは分かっていないが、古くは神秘のダンジョンだったとも言われている。


 ・魔塔の主人シルバー・サーペント

 魔法を愛する魔法使いが集まる魔塔の責任者である大魔法使い。化学や超常現象、異世界にも詳しい。

 魔法を愛するあまり全然知らない強い魔法を受けて死にたい願望がある真性の魔法マゾ。略して魔ゾ。


 ※本編131話、トルテに化けていたシルバーが実はトルテとは知り合いだったと言っていた、過去のバイト編になります。


 ―――――――――――――――――――



 三つ子の騎士達は、見分けられない人生を脱するべく故郷のショコラティエ領を離れる事を決意した。

 成人してすぐのまだ幼さが残る年頃。少しの資金と荷物を持ち、それぞれ違う場所へと旅立った。


 その中の1人、多分末っ子であるトルテは魔法使いが沢山居るというアンデヴェロプトへと旅立った。


 魔法都市と魔法学園、魔塔があるアンデヴェロプト大陸は魔石が豊富に資源として採れ、更に魔法都市は様々なバイトがあると聞いたからだ。

トルテには魔力は無かったが、働き口があるならばそれに越した事は無いと安易な気持ちで足を踏み入れた。



「えーっと……とりあえず何処に向かったらいいんだろう……」


 トルテは魔法都市を歩いた。住む所やバイトはどうやって何処から探したら良いのか悩み、魔法都市をウロウロと見て回る。

 街中の何処を歩いていても1番高い建物である魔塔はずっと見えていた。


「魔塔かぁ……」


 魔塔がアンデヴェロプト大陸を管理しているという話を聞いた気がしたので、トルテは何となく魔塔へ行ってみた。

 魔法使いは変なヤツが多いと聞いたが、話を聞くくらいなら大丈夫だろうと。


 だが、トルテはまだ知らなかった……魔法使いはトルテが想像するよりもかなり変人ばかりだという事を。



「……何処から入るんだ?」


 トルテは魔塔の下まで来たが、何処を探しても入口は無かった。


「やっぱ魔塔って位だから魔法で入ってんのかなぁ……でもなぁ。ここまで来たのにまた魔法都市の方に戻るのもなぁ……」


 誰か魔法使いが近くに居ないかと周りをキョロキョロ見渡すと、フード付きのローブを被った人が木陰で寝ているのが見えた。


「あの〜、すみません、魔法使いの方ですか……うわっ!!」


 木陰に寝ている人を覗き見て思わず叫んでしまう。その人は寝ているというか、全身黒焦げで水浸しで地面から木が絡み付いていて、しっちゃかめっちゃか過ぎて状況がイマイチ分からなかった。

 もしや死んでいるのかと焦ったが、その人はトルテに気が付いてむくりと起き上がり木や焦げ付きを払ってローブの水を絞った。


「あの……だ、大丈夫なんですか……?」


 何事も無かったようにトルテの方を向いた男は、ニコニコと笑った。


「ん? ああ、君は魔塔は初めてかな? 驚かせて済まないね。見た目より全然大丈夫なんだよ。何故なら自分でやったから」


「自分? え?」


 トルテはあまり強い魔法使いに出会った事が無いので、目の前の魔法使いが何を言っているのか、何をしてたのかいまいちピンと来なかった。


「それで、見たところ魔法使いじゃないようだけど魔塔に何か用があって来たのかい?」


「えーっと……あの、俺……故郷を出て働きながらやりたい事を探そうと思って……バイトとか住む所とか探してんスけど、魔塔に来れば何かいい話聞けるかなーと思って……」


「なるほどなるほど。あまりそういう理由で魔塔に来る人は居ないけど、良かったら私が力になってあげようか?」


「え?! いいんスか?!」


 パァと明るい顔になるトルテに、男はニコニコと笑った。


「ああ。住む所も、バイト先も心当たりがあるんだよねぇ。まぁ、まずはこちらについて来て。魔塔を案内してあげよう」


 そう言うと、男は塔の壁に手を入れた。体がそのまま壁に入って行く。


「大丈夫だよ、君もついて来て」


 驚いているトルテの手を引っ張り、その身体を壁に埋れさせた。

 壁に埋まった時はまるで水に潜ったような圧迫感があったが、すぐに建物の内部の空間に出た。


「さ、こっちだよ」


 ニコニコと笑いながら男が歩き出したのでその後に続いた。


 魔塔の内部では魔法使い達が忙しく働き走り回っていた。その間をすり抜けて階段を上っていく。

 男の後ろを歩きながら、トルテは少し不安になった。フードから時折はみ出てチラチラ見える長い髪は紫のようなピンクのような光が走り、先程少し見えた目は変な模様が入っていた。

 他の魔法使いと明らかに違うし、他の魔法使いが慌しくしている横を平気ですり抜けて行くのも何だか怖い。一体この人は誰なのか。


「あのーそれで、バイトって一体……」


「ああ、それはね――あ、ごめん」


 男が急に振り向いてニヤニヤし出した。


「え?」


「始まっちゃった」


「何が――」


 男が止まった階段の横の壁が急に爆発した。

 驚いて皆がそちらを見たが、周りの魔法使い達は「あー、また始まった」「仕事中断ー!」「退避ー」と口々に言いながら一斉に消え始めた。


「え……? え? 何スかこれ……」


「あー、そう言えば君、名前何だっけ?」


「え? トルテですが……」


 男はニヤニヤと笑いながら腕を引っ張った。


「ふふ、トルテ君。バイトの前に面接と行こうじゃないか。採用条件は……私と一緒に居ても大丈夫な精神力、それだけだよ」


「え? ええええええ?!!!!」


 腕を掴まれたまま、トルテはひたすら引っ張られた。男は塔の内部の階段を飛び出して壁に手を付いた。壁には魔法陣の道が出来、そこを男は駆け抜けて行く。

 その端から壁が爆発し始めた。


「な、な、何なんスか!!???!!」


「いやぁ、ただの追跡型の爆炎地雷の魔法だよ。折角だから色々防御魔法試してみようかなと思って。ついでに君がどの位私と一緒に居てくれるか試せて一石二鳥じゃないかと思ったんだ」


「何の為にそんな事試すんですか?! て言うか、バイトって何なんスか!!!」


「ふふふふ、丁度お手伝いが欲しいと思っていたんだよね。バイトは私の助手さ。バイト料ははずむよ。住み込みで構わないし」


 壁の爆発が止むと、今度は天井から炎の壁が落ちて来た。男が壁から足を離すと空中に投げ出され、2人して落ちて行く。凄いスピードで炎の壁が上から迫り周りが火に包まれたが、何故か熱さは無く、まるで海の中を泳いで登るように火の中を上がって行った。

 炎から這い上がると、今度は2人の体がスライムに包まれる。動けずに居ると上から巨大な脚が落ちて来てスライムごと潰しに来たが、男の頭にかかった瞬間にまるで針を踏んだかのように痛がった。

 スライムは砂のようにサラサラと溶けて無くなっていく。


「あのー……すんません、1つ聞いていいッスか?」


「質問は何でも大歓迎だよ」


「さっきから防御魔法使ってんスよね……?」


「ああ、そうだね」


「1個も意味分かんないんスけど……」


 先程から男の使う防御魔法は意味の分からない魔法が多かった。すると男が嬉しそうに笑っって説明し始めた。


「分かるかい? アレらはあまり使われない魔法なんだよ。意味が分からないだろ?? 最後のなんて身体を固くする魔法プラス髪の毛を逆立てて針にする魔法なんだよ?? あんなの上から足が落ちてくる以外の何処に使うんだろうね。ふふふふ」


「いやだから分かんねッス。そもそも足が降って来るのが既に意味不明なんですが……」


 足が消えたと思ったら今度は竜巻が沢山の洗濯物を撒き散らして襲って来た。洗濯物がバサバサと顔に当たって周りの視界が見えなくなる。

 更に粘つく雨が降って来て洗濯物がどんどん重く巻きついて来たが、男が冷静に1つずつタライに入れて行くとその横にいるアライグマが洗濯物を洗っていた。


「……いやどっちも何の魔法なんスか」


 その後も訳の分からない魔法に訳の分からない防御魔法が続き、途中からトルテも慣れを通り越して突っ込む気力も無くなっていた。


 このままでは魔塔が壊れるのでは? と思い始めた辺りで襲撃犯らしき魔法使い達が疲れた顔で倒れていた。


「あのー……」


「ふふ、君の疑問は分かるよ。この魔塔はね、襲撃不意打ち下克上おおいに大歓迎なのさ。魔法使いが切磋琢磨してこそ魔法の発展に繋がるからね」


「……もしかして、魔塔で1番偉くて強い人なんスか?」


「まぁ、そうだね。ああ、そう言えば私の事を何も話していなかったね。私の名前はシルバー・サーペント。この魔塔の責任者さ」


 シルバーはニコニコしながら手を差し出して来た。この手を取れば絶対に変な事に巻き込まれるような予感がしたが


「……バイト料って、どのくらいなんスかね?」


 帝国の騎士を目指すトルテはお金も欲しいし修行の場所も欲しく、こんなに面白そうでお金が稼げて住む所もあるならば受けて立とうと思った。


「所で……こんなに攻撃受けても傷1つ無いのに、何でさっき外で倒れてたんスか?」


 魔塔の入り口を探していた時、シルバーはボロボロになっていた。だが、今は服に汚れすら付いていない。


「ああ、あれはね、自分の攻撃魔法と自分の防御魔法だったらどっちが強いか自分で試していた所なんだよ。やっぱ盾より矛の方が強かったみたいでね。あははははは」


「ハンパないッスね。それは」


 凄い変な人だと、トルテは思った。

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