第15話 レイジーとルナのBL妄想2 〜その集会の成り立ち


 

「レイジー先生!! 大変です!!」


「どうしたというの? ルナ」


 レイジー・トパーズとルナ・トピアスは夏の集会に来ていた。

 先日、新たに生まれた妄想を文字に起こし終わり、無事に夏の集会に来ることが出来た2人は待っていたファンの為に薄い本を配布していた。


「……これを!」


「こっ……これは……」


 他の本を探しに出かけたルナが持ち帰ったのは――1冊の本だった。

 その本は作りも簡単で文章もぎこちなかったが……それは他のどの文章よりも詳細に描かれていた。



 ★★★



【皇室騎士団の秘密】


 ※この物語は作者の妄想です。実際の団体とは一切関係ありません。


 皇室騎士団、副団長ロックは勘付いていた。

 騎士団員達が……騎士団長ジェドに対して良からぬ想いを抱いている事に。

 着替えの時も夏の遊泳の時もそう……皆がいやらしい目でジェドを見ていた。


 先日、ジェドが呪いの力で倒れた時……誰が目覚めのキスをするかで争いになった。

 あの時の野獣のような目……忘れられない。確実に狙っていた。

 だが、男同士でそんな事が有っていいはずがない。他の奴らはともかく……自分だけは汚れた想いを抱くなどとは……絶対にない。

 神聖な騎士に憧れて騎士団を受けた時…あの誰よりも強い団長に追い付こうと、それだけを考えて鍛錬に明け暮れた。しかし、いつになっても追い付けない……そんな余分な想いなど抱いている暇はないのだ。


 廊下を歩いていた時、一室から物音がした。何かが暴れているかのようだった。


「何をしている?!」


 異変を感じ扉を開くと……1人の者が数人に取り押さえられていた。

 その者を助ける為かき分けて入ると、男達は血相を変えて逃げて行った。


「お前……」


 ロックは目を疑った。そこに居た無抵抗で衣服の乱れていた者……それは自分が憧れていた騎士団長のジェドだった。


「なっ、何故! 抵抗しない! お前なら……」


「関係無いだろ。ロック、お前には分からない」


 ジェドは闇に溶け込むような暗い目をしていた。


「関係無い事は無い! 俺は……俺は……」


 ロックが苦しそうに声を出した。


「俺は…お前が好きなのかもしれない」


 ジェドが驚いて目を見開く。ロックも自分の口から出た言葉が信じられなくて手で覆った。

 そう、思えばジェドは自由だった。誰かに寄り添うかと思えば……気ままに何処かへ行ってしまう…靡かせようにも、決して捕まえる事の出来ない、その気ままな猫のような彼に……惹かれていたのだ。


「お前は……猫のようだな。愛さずには……いられない」


 ロックは羽織っていた上着をジェドにかけようとしたが、それを突っぱねて服を整えて出て行ってしまった。


「ジェド……」


 その後ろ姿をロックは見送った。そこに手を伸ばそうとするが……まだ手は届かない。



 ★★★



 本を見終わったルナとレイジーは目を押さえて空を仰いだ。


「……っかーーー!!! 凄いわこれ……皇城内の情景といいまるで実際に見たかのようなリアル感……本当にそう言う事があるみたいじゃないのコレ……」


「そうでしょうそうでしょう! 私も何かこう光る物を感じて手に取ったんですが、素晴らし過ぎました……新規参入者さんみたいですが、これは人気が出ますよ」


「うん、間違い無いわね。要チェックね!」


 ルナとレイジーは思わぬ好敵手の出現に胸が高鳴った。


 その2人が知らぬ謎の作者だが、実は皇城で働くメイドであった。

 自身が見た不可解な物を自分なりに色々分析しているうちに……薄い本に行き着いてしまったのだ。

 そして、実際にこの分析がどう思われるのか気になり、同じような物を好む集会で出してみた。

 これが思いの外好評で、やはり自分の分析は合っていたのかとホッとしたそうだ。


 だが、安心したのも束の間、次から次へと新たな疑惑が浮上する……

 メイドはその謎に重なる謎を分析する為、覆面作者として薄い本を書き続けることになったのはまた先の話である……。



 ★★★



 集会の大盛況を感無量で見つめる令嬢が1人いた。


 元は自身の推しの為にグッズを作る事が目的だった。その為には金も異世界の知識も何もかも惜しまない。

 最初は推しを応援する為のペンライトだった。

 誰しもがただ7色に光るだけのペンライトに難色を示したが、魔塔の主人だけが興味津々で聞いてくれた。

 完全した時は泣いた。泣いてそれを振った。


 単なる自己満足であったはずが……何故かその後、次々とそれを作りたいという依頼が殺到したらしい。

 魔塔からは特許料みたいな謝礼金が送られた。金に糸目はつけないはずだったのに、何故かお金が増えてしまったので今度はそれを元手に様々なグッズを作る工房を設立した。

 アクスタ……ポストカード……抱き枕……等身大パネル……。夢は尽きなかった。


 どうやって再現すればいいかについては魔塔の総力を上げて解決してくれた。異世界とは現代の知識で無双するものだと思っていたが、彼女の要望は金と交換にファンタジーが全て解決してくれた。異世界って凄い、と彼女はつくづく思った。


 ある時、豪商のビーク・イエオンから相談を受けた。

 そういう物を作りたいという人が沢山居るので、大規模な売買イベントを開きたいという事である。


 巷では推しのイケメン騎士や魔法使い、詩人等のグッズを作り広めたい人が沢山出てきた。しかし、そういう物を商売として売って経営したいという訳ではなく、ただ作って広めたいという人達の相談が多すぎて困っていたそうだ。


 彼女は頷き、ビーク・イエオンと握手をした。


 そして、年に3回……春と夏と冬に大きな売買集会が開かれた。

 ここでは商人の資格を持たない者でも申し込みさえすれば自由に売買する事が出来た。推しグッズでなくとも、自身が創作した本や小物でも何でも良かった。

 ただ、余程法に触れる物は取り締まった。昨今は、皇城の者達で妄想する薄い本が流行っているので、これについては皇城では一切許可してない…が、全てを取り締まる事が出来ない為、グレーゾーンとして黙認していた。


 賑やかな風景を見てアリアは呟いた。


「うん、これ……完全にアレね……」


 あの、海沿いの大きな建物で開催されるイベントを思い出してアリアは懐かしくなった。


 ―――――――――――――――――――


・悪役令嬢アリア・レアリティ

『ファンタジー世界でアイドル育成☆革命スターコズミック〜歌って踊って戦って……そして愛して』の悪役令嬢。魔王推しで、魔王を一目見たくて魔王領に乗り込む。念願叶い、魔王推しを布教する為に生きる。


・元悪役令嬢没落メイド パティ

遠い異国の地で悪逆非道を働いて没落した元悪役令嬢。今は心機一転真面目にメイドとして働くが、度々見てはいけない物を目撃してしまう。

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