第15話
日曜日って何したっけな?
そんな事を思う月曜日。
モコモコのダウンを着込んで出社する。途中のコンビニで温かかいコーヒーとサンドイッチを購入して始まる一週間。さあ、働きますか。
着替えを済ましてタイムカードを通す。そして休みの間は動いていなかった機械の電源を入れる。
「さあ機械に火を入れろ!」
「うーッス」
…………いたの、後輩くん。
「あれだ、何か欲しいものはないかね? ん?」
「
「殺させてくれ」
「はははは! …………あれ、それって俺が死にません?」
同じ干支の誼みで黙っててくれよ?
切削油をタンクに入れて水で薄める。潤滑油もゲージ一杯に補充して、機械の電源を入れ素材をセット。刃具の磨耗具合を確かめつつ、試しに一つ削ってみる。寸法を計り、面粗を調べる為に纏めて他部署へ送る。
カチャカチャと二人で作業している途中、後輩くんが話し掛けてくる。
「そういえば、あいつ…………なんていったかな…………あー、あの、最近派遣で来た」
「あー、いたなー……いや、三人いるじゃん。どいつよ?」
「ちょっと、名前が……」
おいおい、一緒に働く仲間の名前ぐらい覚えとけよ後輩くん。
コメカミをトントンと叩いていた後輩くんが、閃いたとばかりにドライバーを振り上げる。あぶねぇ?!
「古賀だ! 古賀って奴、今日来ないっぽいッスよ」
「マジか……。あのロン毛」
「それは吉木です。古賀って眼鏡掛けた奴ですよ。ほら、休憩時間、やたら息切らしてた奴ですよ」
「あー」
「いや、名前ぐらい覚えてやってくださいよ」
「だって、あいつら回転率速くね? 俺だって古参は覚えてるよ?」
「まあ、確かに…………ぶっちゃけ半日もせずに仕事辞める奴もいますもんね。高校出たての頃は驚きましたよ。………………因みに俺の名前は覚えてますよね?」
「当然だろ? あ、俺が検査に持ってくから。お前は水道の点検しといて」
「ちょっ、名前、名前は?! 先輩名前!」
「
「それ先輩の名前!」
やあ、初めまして。
俺は名乗ったというのに名乗り返さない無礼な後輩を名前で呼ぶべきだろうか。否だね否。名乗り返すという礼儀を学ぶまで、後輩を後輩くんと呼ぼう。仕方ない、これは仕方ないことなんだ。
「マジッスか?!」
おお、マジさ。
俺は台車を押して素早くその場を後にした。
「先輩、本気で俺の名前知らないんスか? え、ガチで?」
逃げられる訳ないんだよ同じ職場なんだから。
今日に限って機械が止まらず後輩くんと一緒に昼御飯に行けた。
食堂の端の方で二人掛けの席を占領してのお昼御飯だ。俺は丼もの、後輩くんは定食。
「本当に来なかったねぇ、吉木」
「またそうやって……」
あからさまな話題転換に後輩くんも溜め息だ。ごめんね。後で名簿で確認しとくから。
「違いますよ、古賀です古賀」
それでもしっかり乗ってきてくれるんだから、いい奴だなぁ後輩くん。
「ああ、そうそう。確か眼鏡の」
「朝言ったまんまですね」
このかき揚げ丼美味いなぁ。
「いいですよ、もう。それで? 古賀、来るって言ってました?」
「いなかったんだって。電話に出ないから、派遣会社の方に掛けたんだけど、派遣の方で取ってる部屋を見に行ったらいなかったって」
何度も鳴らしたよコール。必死の思いで。出てくれ~出てくれ~、って。もしかしたら少し声に出てたかもしれない。通り掛かった部長のあの時の顔を考えると、可能性はあるね。
「マジッスか。またあそこの派遣じゃないッスか。あーもー……今日はこのまま交代で入りますか?」
「だなぁ。あーあー、俺、今週中に書類上げなきゃいけないのに」
「今週、臨出ッスかね? 俺、技能検定の練習するから旋盤の予約入れてるんスけど」
「いや、たぶん大丈夫。夜勤がマジで頑張ってくれたらだけど」
「絶望じゃないッスか」
「隔週じゃなくなったのが痛いよな。隔月ってそっちの方が体調崩さない?」
「俺、落ちたらマジであのチビメガネぶん殴りますからね」
たぶん止めないよ。
ガツガツと米を掻き込む後輩くんを横目に、たくあんをポリポリと食べていると、そういえばとまだ残っていた疑問に気付く。
「お前、なんで古賀が来ないっぽいって知ってたの?」
「あー、休み入る前にそれっぽいこと言ってたんですよ。月曜日は用事あるとか、なんだったかな? でも年休ってあいつじゃないし。だから朝、先に先輩に言っとこうって思ったんスよね。一応、っぽいって付けといたんで、もし来ててもあくまで予想ですからって言えるかなと。無断欠勤ぐらいかと思ったんスけど……」
「夜逃げだったな」
「ですね」
月曜日から
よくある。
その後、ラインを一緒に回してくれる戦士達に今週の臨出の可能性を告げたところ、闘志が有り余っているのか歓声が上がった。そうかそうか、嬉しいか。ははは、俺を睨んでも今週のノルマは変わらんよ。大丈夫、今週は俺もラインに入るから。夜勤がしくじらなければ、俺の帰宅時間が伸びるだけの筈だから。
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