第3話
どこからツッコめばいいのやら。
「それではニャンコはこれにてニャ!」
「おう、またんかい」
帰れると思ってんのかワレ?
咄嗟にギュッと握りしめたのは無駄に長い尻尾だ。再び魔法陣的な何かが浮かび上がってきたので、飛び込まれる前に引っ張ると消えた。
「フニャア?! 痛いニャ痛いニャ! 尻尾はほんとにやめてほしいニャ!」
「なに勝手に認定して帰ろうとしてんだよ。つーか間違いみたいだぞ? 魔法少女って。年齢とか宗教とかの前に性別が違うだろ」
分かれ。
このまま帰しても良かったのだが、こういう誤認定とか誤当選とかに敏感なのがおじさんだ。怖くてスマホも碌に活用できない。認証ボタンってなんなの?
そんな中年おじさんに不思議生物がおめでとうを告げて帰っていくとか、嫌がらせとしか思えない。今から寝たいって言ってるのに。
尻尾を掴んでいるせいで、離れると引っ張られて痛いのか近寄ってきた黒猫が、鼻面に皺を寄せて見つめてくる。
「……雄なのかニャ?」
「どう見ても男だろ」
おじさんだろ。
しかし間違いと分かれば幾分かホッとしたというのも本音。良かった。『俺じゃない』という醜い自己保身的な考えだが、保守的なおじさんなんてそんなもの。間違いで結構。
出来れば品行方正な若者の所にでも行ってくれ。二軒向かいはダメだ。
黒猫はクリッと首を傾げていたが、フンフンと頷く。
「なるほどニャ。でも人間ってみんな同じに見えるニャ。ニャンコもよく間違われるけど雄ニャ」
「……ああ、確かに」
人間的な動作に騙さていたが、こいつは猫だ。人間の顔や体の作りなんかは理解し難いのだろう。言われてみると、俺も黒猫が雄か雌かなんて分からなかった。専門知識でもあれば違うんだろうけど、パッと見じゃ分からないのも無理ない。
でも流石に個体の識別は出来る。体の模様だったり、大きさだったり、形だったり。色々と違うもんな。喋るとこが特に。
しかしこんなおじさんと少女を見間違えたんじゃ、少女は泣くぞ? ガチで。黙っててやれ。
「しかしこれで分かったろ? その第何代目だかは俺じゃないって」
「うニャ? なんでニャ? 第六十四代目魔法少女は、間違いなくあんたニャ」
どういうことだよ。
「いや、まず少女じゃないだろ? どんな判断基準なの? なんで俺なの?」
多分もっとたくさん候補がいるよ。ていうか絶対に勘違いだって。上司に確認してこいよ。
「うニャー、そんなこと言われてもニャ。魔法少女っていうのは今風に分かりやすくしてるだけニャ。昔はフゲキとか呼んでたニャ。正確には『呪い』の受託者のことニャ」
おい。呪いってなんだよ話の流れ変わり過ぎだろ発言に気をつけろよ今後の生活の為なら小動物程度の犠牲は甘んじる心積もりだぞ。
……待て待て待て待て。キュっとするにはまだ早い。戻るボタンを押してもタブを閉じない限り無駄な可能性もあるぞ。そういうの苦手なおじさんだから。タッチパネルに慣れてないタイプだから。
「……えー、あー、まず……少女じゃないんだけど、問題ないと?」
「ないニャ」
なんでだよ。
「…………あー、断ったり出来る?」
「ことわる、ニャ? 『呪い』は既に受け継がれてるニャ。どういうことニャ?」
こっちのセリフだよ。
「………………え、俺もう呪われてるの?」
「『呪い』は受け継がれてるニャ」
了承した覚えがない。詐欺かな?
「……………………その呪いって解けたりする? つか、いらない場合ってどうすればいいの?」
クーリングオフって分かる?
「もう受け継がれてるニャ」
「いや、だからあ」
イラッとするんだけど。
なんだよこの猫。どこの始まりの村だよ。不親切なNPCか。
不毛だ。とりあえずこの黒猫は殺して山にでも捨てるとして、今の内にもっと建設的な…………。
「…………………………あ、そういえば前任者がいるとか言ってたな。そもそも前に六十三人いるし」
「そうニャ。第六十四代目魔法少女ニャ」
魔法少女いいから。
「そいつらってどうなったん? いや、どうすれば次に回るの?」
そうだ。最悪次の方に行ってもらおう。つーか前任者に返還したい。なんか前の奴って若者っぽいし。六十四ってことはたらい回しにされてるんじゃないの? というか呪いってどうなるの? 運が悪くなるとか縁がなくなるとかだよね。…………いや、まさか……。
呪いと聞いて直ぐに思い浮かんだ想像を、笑い飛ばそうとしたが引きつった笑顔しか出てこなかった。
そんな俺に追い打ちを掛けるように、黒猫が至極あっさりと告げる。
「全員死んだニャ。死ねば次に受け継がれるニャ」
おいいいいいいいいいいいいい!!
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