第3章
第1話 親の顔が見てみたい1
学生にのみ許された長期連休――夏休み。この耳心地の良い言葉を嫌う学生は果たしてこの世に存在するのだろうか? 十中八九いないと思われる。
夏を忌み嫌うこの俺ですら夏休みは嫌いになれない。唯一、夏に感謝できる点だ。
だが勘違いするなよ? 感謝というのはあくまで学生の内だけの話であって、俺が社会人になったら夏――お前を褒めるべき点が一切なくなる。つまり完全に俺の敵となるわけだ。
その時は容赦しないから覚悟しとけよ?
なんて下らないことを考える平日の昼下がり。誰もいない家、リビングで一人、俺はソファーに寝転び午後のロードショーを観賞している。
夏休みに突入して1週間と少々が経過。俺レベルになると長期連休の最初から最後まですべて満喫した日々を送ることが可能だ。こちとら長い間学生をやってきてるんだ、年数だけで言えばベテランの域に達している。
伊達に学生やってるわけじゃないんだよ…………え? なにを以て満喫としてるんですかって? んなもん、ポテチやじゃがりこといった菓子類とカルピス、それからゲームとスマホ、涼める家がありゃ完璧だろ、満喫できんだろ、レッツエンジョイだろ。
あ? 言ってて悲しくならないのかって? …………〇すぞ。
とにかく、この過ごし方こそ毎年研鑽を重ねたどり着いた境地。誰にも否定させないし、なんぴとたりとも邪魔はさせない。
故に、さっきから〝本人〟を表しているかのように騒々しいスマホ……
――――――――――――。
午後のロードショーも終わり、おやつ時。映画を見終わった後なのに内容をまったく覚えていない。
覚えていないと言うより、真剣に観ていなかったと言った方が正確か。
――午後のロードショーは流しておくことに意味がある……つまりはそういうこと。花火や祭り、蝉や風鈴といった夏の風物詩と一緒なのだ。
ピンポーン。
と、来訪を知らせるチャイムが。俺はソファーに寝たまま息を殺す。
居留守を決め込もうか? なんて考えが頭をよぎったが、これがもし宅配便だったとしたら配達員さんに迷惑をかけてしまうわけで。
来訪者を確認すべく、俺は重い腰を上げインターホンの元へ。
「あ……やっぱこれ居留守安定だわ」
カメラに映っている人物が柊と知り、俺は決心する。
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