良い奴
もしもの話は現実となった。ソフトボール2年の部で俺達……いや、両国率いるAチームが見事優勝を飾った。
迎えた放課後。クラスの連中は教室の前の方に集まり『どごにする?』『何時から?』『食べ放題とかよくない?』などと盛り上がっている。内容は球技大会の打ち上げについて。文化祭や体育祭ならともかく、球技大会で打ち上げってどうなの?
クラスの連中が全員乗り気なのを横目に俺は一人、静かに教室を出て行く。
お前は参加しないのかって? 参加するわけないだろ。誰からも声かけられてないんだから……いや、仮に声をかけられたとしても行かないけどね? ホントだよ? ……泣いてなんか、ないからね?
教室が冷えて快適だっただけに、廊下の籠ったような暑さが気持ち悪い。眼鏡かけてる奴は曇っちゃって大変だな、こりゃ。
なんて死ぬ程どうでもいいことを考えながら俺は歩む。
そして階段に差し掛かったところで俺の足は止まる。正確には止められた、だ。
右肩を誰かに掴まれている。不思議なことに、その誰かが俺にはわかった。
「……どうしたよ」
俺は後ろを振り向き、ムスッとした表情をしている〝柊〟に短く訊いた。
「どうしたじゃないでしょ。打ち上げ……あんたも参加しなさい」
柊の思わぬ言に俺はドキッとする。
こんな俺にもお誘いの言葉がッ――――いや、違うよ? べ、別に喜んでなんかないんだからねッ!
「わざわざそれだけのために抜け出してきたのか? つか、俺のステルス・ゴーホームを見破るとか……なに? まさかお前、俺のこと好きなの?」
「……………………」
柊の視線が鋭さを増し、俺は早々におどけるのをやめる。
「俺は行かねーよ」
「どうして?」
「参加する資格がないから」
「資格ってなによ。あんたもクラスの一員じゃない。それに優勝チームのメンバーでもあるし」
「形式上はな…………とにかく、俺は行かない。せっかく声かけてくれたのに悪いな……それじゃ」
俺は一方的に会話を終わらせて、柊に背を向けた。
「もし、次があったらその時は――来なさいよね」
後ろからの不器用な優しさに、俺は片手をひらひらさせて見せた。
良い奴だな……ホントに。
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