第37話 ラブコメは望まない

 球技大会初日。うだるような暑さの中、男共が打って・投げて・走ってに全力を出している。


 本日予定されているのは2試合。試合数は少ないが学年別で行われるため、結構時間がかかる。


 トーナメント方式で2勝すれば明日の決勝に駒を進めてしまうことになる。1勝でも3位決定戦……つまり、初戦で敗退できれば明日は教室で快適に過ごせるというわけなのだが……どうにもうちのクラスのAチームはお強いようで、相手チームに圧倒的な点差をつけている。


 そんな今は最終回の裏。相手の攻撃で、指名打者の俺は日陰でお先に失礼します状態である。


 もちろん、チームメイトに声援を送ったりはしない。その役はクラスの女子達が勝手にやってくれているから。


 仮に女子達がいなかったとしても俺はなにもしない。あぶれ者の自覚はあるし、ヤツらもそう認識しているはずだから。


 チームが優勝したとしても、喜びを分かち合う場に加わったりはしない。空気を読んでとかではなく、単純にその資格がないからだ。汗もかかずに光を避けている俺が、彼らの青春を汚すわけにはいかない。


 チラと女子達がいる方に視線を向ける。キャーキャーと盛り上がっている集団の中に橘の姿はない。両国と結ばれて高熱にでもなったのか知らんが、体調不良で欠席とのことだ。


「――皆! しまっていこう!」


「「「おう!」」」


 ファーストを務める両国の掛け声に皆が反応する。チーム一丸、やる気に満ち溢れている。さすがはクラスのリーダー、すごいすごい。





『あまり、僕を馬鹿にするなよ』





「…………はぁ」


 昨日の言葉を思い出し、溜息が零れ出る。今日、これで何度目だろうか。


 馬鹿にしたつもりはなかった。俺なりに誠意を示したつもりだった…………けれど、結果としてそう受け取られてしまった。


 なにが気に食わなかったのか。わからないと言えば嘘になる……が、嘘のままでもいい。認めずにいる方が俺らしい。


 そう俺は自分に言い聞かせる。これも溜息の数だけしていること。


「……………………」


 俺は筋を通したつもりだ。だからこれ以上両国と話すことはないし、こっちも考えを曲げるつもりはない。片瀬と橘の件が落ち着き次第、すぐにでも切り出す。


「――花厳君。隣、いい?」


「…………ああ」






 このニセモノの関係を終わらせる――――ラブコメなんざ望んでない。







第2章 完

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