第2話 親の顔が見てみたい2

「ったく、スマホが静かになったと思えば今度は家凸って……俺は債務者かなにか? やってることほぼ闇金じゃねーか」


 柊が映っているカメラに向かって俺は小声で愚痴をぶつける。


 もちろん、向こうには届いていない……届いていないはずだが、あたかも聞こえているかのように柊の表情が不機嫌そうに曇る。


 ピンポピンポピンポピンポピンポーン。


 そしてこの連打である。両親が不在だったから良いものの……いやよくよく考えたら全然よくないわこれ。ひ――――じょうに鬱陶しい。迷惑行為以外のなにものでもないわこれ。


 ピンポピンポピンピンピンピンピピピピピピピピピピピンポーン。


 しかも徐々に連打が速くなっていってるし。終いにはリズム刻んで一曲演奏するんじゃなかろうか?


 常人は一回鳴らして反応なかったら諦める。しつこい人でも3回ぐらいまで。連打は以ての外、普通の神経ではまずやれない。


 となると、家に俺が居るという確信があってピンポン連打しているか、はたまた気が狂ってるかのどちらかになるわけで。


「……………………」


 うん。見た感じ後者の方が説得力あるな。


 鬼気迫るとまではいかずとも、夏の暑さに負けないぐらいの気迫が画面越しの柊から見受けられ、決意がさらに固まる。


 鳴り響くピンポンを俺は無視してソファーへと戻る。経験によって鍛え上げられたボッチはちょっとやそっとのことで感情を起伏させたりしない。仮にしたとしても表には出さない。


 ああ……全人類が俺みたいな性格してたらきっと、争いごとなんてなくなるのに。


 いや、同族嫌悪なんて言葉があるし完全にはなくならないかも? …………なにを真剣に考えてるんだ俺は。


 俺は音をたてないように静かにソファーに寝転がり、両手をお腹の上に乗せて目を瞑る。


 ………………………………帰ったか?


 程なくして耳障りな音が鳴り止み、室内に静寂が舞い戻る。瞼は依然、閉じたまま。


 お昼寝するには丁度良い時間。少しばかり眠ろうか?


 ガチャリ――――ガチャン。


 ウトウト微睡まどろむ俺を飛び起きさせたのは遠くから聞こえてきた重厚感ある〝開閉音〟だった。


 その音の発生源は『いってきます』と『ただいま』の境――――そう、〝玄関〟だ。この家に長く住んでいるこそ断言できる。


 え……帰ってなかったの?


 状況から鑑みても一人しかいない。


 俺が家に居るからと親は鍵をかけずに出て行ったのだろうが……問題はそこじゃなく、勝手に入られたことであり、もはや居留守どうこうの話じゃない。


 いやいやいや――ダメでしょ! 絶対ダメでしょこれ! 親しき仲にも礼儀ありって言うぐらいなんだから俺達の関係上、礼儀は当然でしょ! あり得ないでしょ! さすがにこれは!


 俺は駆け足で玄関へと向かい――そして、


「――あ、やっぱ居るんじゃない」


 土間に立っていた柊は俺を見るなり悪びれる様子もなく、むしろ俺が悪いみたいな口調でそう言ってきた。


 俺史上初かもしれない……『親の顔が見てみたい』とここまで強く思ったのは。

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