第7話 過干渉
あれから一週間が経った。柊の言いつけ通り、俺は毎日欠かさず片瀬とのLINEを続けている……向こうが即返信なのに対してこっちは半日に一回のペースだけども。
そのせいあって日数の割にやり取りは少ない。故に片瀬という人物がどういった性格をしているのかも全然わからない。わかりたくもないけど。
まあでも柊がいちゃもんつけてこないところからして、最低限のラインは守れているんだと察せられる。
このペースでいいなら正直そこまで苦ではないし、徐々にフェードアウトしてけばいいだろうと俺は楽観的に考えていた……今朝方までは。
というのも昨日の夜――正確には日付が変わった深夜なのだが、片瀬からこんなメッセージが送られてきていたのだ。
『今週の日曜日暇だったりするかな? もし暇なら一緒にお出かけしない?』
いわゆる遊びのお誘いというやつで、片瀬は俺に休日返上してあたしに付き合ってくれない? と尋ねてきたのだ。
こういったケースが出てくると話が変わってくる。ただ断るのも楽じゃないのだ。まだ一回ならいい、だが今後も誘われるようなことがあるならその都度罪悪感が蓄積されていく……そんなの苦でしかない。
今回のは既に『暇じゃないです』と丁重にお断り済みだ。休日に学校のヤツと関わるなんてごめんだからな。
因みに俺が中学の時、女子に『✕日暇かな? もし暇ならその日遊びに行かない?』と送ったところ、指定した日の翌日に『ごっめ~ん、今気付いた!』と返ってきたことがあるので、それに比べればちゃんと返事してる分、俺はまだマシな方。もちろん、本当は暇なのに暇じゃないと噓ついた点を含めてもだ。
ただこう予感がするというか、断ったって事実だけで〝お節介人間〟がしゃしゃり出てきそというか ……。
「―――ちょっと顔貸してくれる?」
んで往々にして嫌な予感とは当たるもので――。
肩を掴んで離さないその〝お節介人間〟に、俺はただただ
***
放課後の空き教室、対面には柊が……先週とまったく同じシチュエーションだ。
「どうせ暇なんでしょ? 日曜日」
腕を組んで座している柊から
「どうせってなんだよどうせって……俺にも予定ってもんがあるんだよ」
「友達いないのに?」
「いや、友達いないから暇ってさすがに偏見がすぎるだろ。友達100人いるような奴にも予定がない日くらいあるように、友達いないボッチにも予定がある日くらいあんだよ」
「ふぅん……じゃあなにするか教えて?」
「そりゃあれだよ……主に積みゲーの消化とか……後は、部屋のお掃除とか……」
「……………………」
ほらやっぱりとでも言うように呆れた表情をする柊。予定と呼べる予定がなくてまったく思いつかなかったぞチキショウめ!
「ま、花厳が暇なのは最初からわかってたんだけどね…………だからこっちで勝手に予定組ませてもらったから」
「…………は?」
聞き捨てならない話に俺は思わず威圧的に聞き返してしまう。
「やっぱ日曜行けるわって花厳言ってたよ……そう沙世に伝ええてあるからよろしくね」
「ちょいちょいちょい待て待て待て――なにサラッととんでもねーこと言ってんだよ! やっぱ日曜行けるわなんて言った覚えないぞ!」
勢い余って前のめりになる俺を、柊は微動だにせず瞳だけを動かして捉えてくる。
「そりゃそうでしょ、私が勝手に決めたんだから」
柊があまりに悪びれる様子なく言うもんだから『あれ? 俺が間違ってるのかな?』と一瞬迷ってしまったが、やはり彼女がおかしい。
呆気に取られている俺を見てなにを勘違いしたか、柊はフフッと柔和な笑みを浮かべる。
「そう不安にならなくても大丈夫。私もついていくから」
「え、なにをもって大丈夫と仰ってるの? 柊がいようがいまいが最悪なのは変わらないんだけど」
「なによその言い方。人がせっかく気を遣ってついていってあげようとしてるのに――感謝されることはあっても恨まれる筋合いはないわ!」
「いや筋合いしかねーよ! つか気を遣ってとかどの口がほざいてんの? まるで遣われてないしむしろ逆効果だからね?」
「男なんだから決まったことにいちいちグダグダ言わない!」
「え、お母さん? じゃなくて――勝手に決められたからグダグダ言ってんだろーが!」
なんと不毛な言い争い。100人いれば100人が俺を味方してくれるだろう。それぐらい柊は理不尽だ。
しかし理不尽なこと言ってる人間が理不尽なこと言ってると認めるわけもなく、故に不毛。意地になってるのかなんだか知らんがこっちからしてみればいい迷惑だ。
そう考えると視線でバチバチ火花散らしあってるのも馬鹿らしくなってくるわけで、俺はゆっくりと椅子に腰を下ろす。
「……お前さ、なんでそんな片瀬に肩入れすんの?」
力が抜けると共に俺の口から疑問が零れ出た。
やたら俺と片瀬を仲良くさせようとしたがっている柊。だからこそ彼女に〝お節介〟や〝過保護〟という印象を抱いていたのだが……どうもそうじゃないような気がする。
ただ純粋に『友達のため』に必死になっている、とするよりも――『友達のため』というのは体の良い建前で、打算で動いているとした方が俺としては頷けるし、そっちの方がよっぽど人らしい。
実は彼女もそれなんじゃ……そう思えてきたのだ。
「……大切な友達だから。それだけよ」
顔を横に逸らし冷めた声音で答えた柊。怪しくないと言えば嘘になる。だが、反応だけ見て判断するのも軽率というものだろう。
「ほ~ん……友達がいないからそういう感覚がわかんねーけど、それが普通なんかね」
「普通よ」
柊はそう短く返し、鞄を手に立ち上がる。それ以上は踏み込んでくるなとひしひし伝わってくる。
「――日曜日、もし集合場所に現れなかったら、沙世連れてあんたの家に押しかけるから。そのつもりでいて」
「おいちょ、それは反則じゃ――」
釘をさしてきた柊は俺の返事を最後まで聞かず、足早に教室を出て行った。
え、ボッチに人権てないの?
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