第13話 続・続・パンツ!!



 そして屋上である、絶世の美少女と黒ギャルは息を荒げて手すりに寄りかかった。


「――――はぁ、はぁ、いきなり何なのよ水仙さん」


「ごめん、貴女を神明くんの幼馴染みと見込んで、助けて欲しくてつい…………ところで、普通の話すのね?」


「いやアレは身内用だから、まあ水仙さんにもそのうちそうなるかもだけど、緊急なんでしょ? 普通に話すわよ」


「本当にごめんなさい、いきなりで。……でも私、どうしたら分からなくて」


 眉根を下げて、しおらしくモジモジする咲夜に。

 同性である絵里も、ぐっと来る何かを感じた。

 普段はクールな美少女のギャップを堪能したい気持ちはあったが、こと大切な幼馴染みに関係しているなら別である。


「いいわ、クラスメイトだし大五郎の幼馴染みとして力になってあげる。――その代わり、条件があるわ」


「何でも言って、この危機を脱出するためなら。この美貌を多少露出させても構わないッ!!」


「いやそんな童貞男子みたいなこと言わないから、友達になってってだけだから」


「え、ホント!? やったわ! これで人生二人目のお友達よ!!」


「…………ちなみに、一人目は?」


「勿論、神明くんだけど?」


 さらっと出された言葉に、絵里は非常にツッコミたくなった。

 どう見ても二人はラブラブな恋人そのものだが、あれで友達とぬかすのか。

 だが咲夜の目は本気でそう告げていて、絵里としては複雑な顔をするしかない。


「…………まあ今はいいわ」


「はい?」


「それで? ピンチって何よ咲夜、大五郎の幼馴染みとしての協力がいるってどういう事?」


「それは…………うん、言うわ、ちゃんと言う。だから神明くんには何も言わないで欲しいの」


「わかった、大五郎には何も言わない。でも、場合によっては協力できないわ」


「ありがとう、それで、とても言いづらいのだけど…………」


 咲夜はおずおずと説明を始める、そして、絵里は頭を抱えそうになった。

 だってそうだろう、どうしろと言うのだ。


「浮かれきって朝から突撃した挙げ句!! 使用済みパンツを盗んできてしまったって!! それをアイツに気づかれずに返すですって!! ばっかじゃないの!? ば~~かじゃないの咲夜!? あの子でも!! 藍でも流石にそこまで変態じゃなかったわよ!! いやでも大五郎の髪の毛食べるようなバカだったけども!! どっちもどっちよ!!」


「ううっ、言い返せないのが悔しいッ!! ――――ところで、藍さんって誰?」


「あ、口が滑った。っていうか大五郎から聞いてない?」


「何を」


「藍はいっこ下の妹なんだけど、まぁ、その? アイツと付き合ってたのよ」


「…………付き合って『た』? 付き合って『る』じゃなくて?」


「……………………そっか、まだそう言ってるんだやっぱり、ごめん忘れて――は無理か、時が来たら大五郎から話すと思うから、今は何も聞かないで」


「わかったわ…………」


 絵里の言葉の奥に、何か不吉なものを感じて咲夜は追求を止めた。

 聞いてしまえば、彼との関係が変わってしまう、彼と離れることになってしまう、そんな不安に襲われたし。

 ――――何より。


「じゃあ話を戻すわ、……どうやってこのパンツを神明くんに返せばいいと思う?」


「うわっ!? 今出さないでよ汚い!! いくら幼馴染みでも男の使用済みパンツとか触りたくも見たくもないんだから!!」


「そんなコトを言わないで助けてよ!! これを持ってから何か嗅いでみたくなるし、ちょっと宝物にしようとか変な気持ちになるのよ!! 分かる!? こっちは迂闊に動けないのに手を繋がれてドキドキしてる気持ちが!! 私達は友達なのに!!」


「え、その妙な相性の良さは何? …………そう言えば藍が昔…………となるとまさかアレはマジで? え? え? そうすると、それを承知で大五郎は咲夜と? あ、ごめん、今のは何も聞かなかった事にして」


「意味深なコトばっか言わないでよ!? すっごく気になるじゃない!? 神明くんが何なのよ!?」


「まぁまぁ、でも――見えたわ、とっておきの道が!!」


「流石幼馴染み!! 私の新しい友達!! ズッ友!!」


「ズッ友判定早くない? チョロくない?」


「え、そうかしら? …………迷惑、だったかしら?」


 しょぼんとした咲夜に、絵里は慌ててその両手を握る。

 その際、大五郎の使用済みパンツも一緒に触れてしまったが気にしない事とする。


「わたしらはズッ友よ咲夜!! わたしの事は絵里って呼んで!」


「絵里と私はズッ友!! うう……美しすぎてボッチの私に、こんな短期間で親友ができるなんて……後はこのパンツを返せばパーフェクトだわ!!」


「あ、うん、そうね……。もう持って帰っちゃったら? 大五郎の幼馴染みとして許…………あ、ダメだわ、これ藍が選んでプレゼントしたパンツだわ」


「…………不思議、それを聞くと今すぐ破って燃やしたくなってきたわ、とても汚く思える」


「けっこう独占欲……いえ、嫉妬……違う、前カノことが気にな――、…………綺麗好きなのね?」


「そう? 美しいさには清潔さも必要だから」


「まあ実際問題、破って燃やしたのがバレると復讐が面倒だから素直に返そうよ」


「恋人からのプレゼントだものね、流石の神明くんも怒るわよね…………そういえばさっき思いついたようだけど?」


 絵里はそうだった、と頷いてあらためて咲夜を見つめる。

 妹である藍とはある種、正反対ともいえる容姿。

 明るい亜麻色の髪ではなく、ぬばたまの黒。

 姉として羨む凹凸の持ち主ではなく、スレンダー。

 太陽と月、他にもきっと違う所が。


(正反対、だからなのかな? 正直ちょっとは複雑だけども、……アンタが悪いんだからね、藍…………)


「ちょっと絵里? もしかして勢いで言ってた?」


「めんごめんご、すこしボーッとしてた。ま、簡単な方法よ、――――咲夜、アンタは大五郎を誘惑して時間を稼ぎなさい! その隙にわたしがアイツの鞄にパンツを入れておく!! これしかない!!」


「わ、私が神明くんを誘惑ぅッ!?」


「そうよ! 肌色たっぷりでね!! さっきアンタ言ったわよね、多少なら脱ぐって! それが今! もとい昼休み! 決行は昼休みよ!!」


「ふええええええええええええええええ!?」


 大五郎に肌色たっぷりの色仕掛け、その光景を予想してしまい。

 咲夜は顔どころか首筋まで真っ赤になって、顔を両手で隠して叫ぶしかできなかった。


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