第7話 SevenStars

「嘘だろォ……」


 今朝、ギター・ボーカルのあいつがバンドを辞めた。未来が見えなくて疲れたらしい。そういえば最近練習の時も元気なかったっけ。


「俺を誘ったのお前じゃん……」


 一緒にバンドをやろうと、神曲作ろうぜって声を掛けられた。声に自信が無く、でもベースに自信があった俺には願ってもないチャンスだったんだ。


 何とかいうウイルスの所為でバイトも激減。しかも連続放火事件まで起きる始末。今回でもう六件目だそう。


 それでも頑張っていこうと、誰かを元気づけられるくらいの歌を作ろうぜって言ったばかりだったのに。


「俺が、追い詰めちまったのか」


 分かりゃしない。

 元々、口数の少ない奴だった。


 あいつの声はジャック・ブルースみたいにイカしてた。俺じゃ絶対出せない声。俺がどれだけ歌っても……


 クソ狭い四畳半の自室。

 シミだらけの天井を見つめ、曲の旋律を口ずさんでみる。低く、野太く、野蛮な響き。あいつの声には届かない。


「チクショウが……」


 寝返り、部屋の隅に違和感。


「ん?」


 白っぽい入れ物の煙草。


「あいつの……」


 忘れていったのか。七つ星の名前を冠した煙草。


「……あっ」


 俺たちのバンド名は、『セブンスターダスト』。もしもメンバーを流れ星に問えるのならば、あいつと俺とドラムのやつ。言い出しっぺのあいつが、一番最初に燃え尽きやがった。


「……」


 おもむろに、残っていた煙草を咥える。ライターは……無かったからコンロで火を付けた。


 初めての煙草は、そんなに美味いもんじゃない。ふつふつと腹の底から、何かが湧き上がる。


「……っくそ」


 部屋のゴミ箱に突っ込まれていたノートを引っ張り出す。開くとびっしりと書き込まれた無数の歌詞。ごちゃついた荷物をかき分け、スペースを確保。


 一心不乱に、心の中をぶちまける。

 煙草の灰はすっかり落ちきり、ノートの端を汚した。


 書く。書く。書く。

 あいつが『やる』と置いてったギターを手に取る。


 奏でる。奏でる。奏でる。

 気付いたら涙が溢れてた。


 何でか分からない。

 でも、止まれない。止っていられない。


 気付いたら、夜が明けていた。

 気付けば、日が暮れていた。


 それを何度か繰り返し、久しぶりに鏡を見た。


 目にはクマ、髭は伸びきり酷い有様。

 髭だけ剃って、ギターを持って河原に出る。


 練習。

 思うままに、歌い奏でる。


「どうか、火を点してくれ」


 最後のフレーズを歌いきった時、隣に男が座っていた。


「ブラボー」


 そう言って拍手をしてくれた大学生くらいの男。


「良い曲ですね」


 MEVIUSの煙草を咥えていた。






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