第4話 ARK ROYAL
「ありがとうございましたー」
入り口ドアに掛かった鈴がガラゴロと鳴る。錆がついてしまっているのだろうか。年季の入った喫茶店。
「お客さん、少ないですね。マスター」
常連客を見送り、振り返った先。
カウンターには、白髪交じりの髭がマスクからはみ出た初老の男性。
「う~ん、そーだねぇ」
うだつの上がらないこの店の
時代はよく分からないウイルスによって混乱。未だ収まりそうにはない。
「あ、でも大丈夫だよ。今月分のバイト代はしっかり払えるから」
ヒラヒラと力なく手を振る。
適当な感じを醸し出してはいるが、マスターの入れるコーヒーは美味しい。
「ピーク時でもないし、お客は来ないし、休憩いいよ~」
「……分かりました」
休憩は嬉しいが、喜べない。
複雑な気持ち。
休憩室に入ってスマホを出す。
NEWS欄に、近所で起きてる連続放火事件が載っていた。
「……今回で三件目、物騒」
呟くように言う。
六畳ほどの店の事務室。
「……」
店長はバイト代は心配しなくて良いと言ってたが、決して店の経営状態が言い訳では無いはず。このバイトもかなり長い。
何人かのバイトは辞めていった。今は私一人しか居ない。私自身は調理の専門学校で学んだことを活かすため、新メニューを提案しているのだが。
「うーん、美味しいけど。俺が作るのは難しいなぁ」
私が焼いたケーキは材料費ともども抑えることを目的に味を落とさない物を作ってみた。
「……お店の為になると思ったのにな」
事務所のパイプ椅子に座ってボーッとしてたら時間が経った。休憩時間は終わりだ。店内に戻る。
「戻りました~」
「お。じゃ、しばらくお願いね」
「あ」
マスターの手には煙草の箱。
「また吸ってるんですか?」
「あ、えっと。んー」
歯切れの悪い回答。
「身体に悪いですよ」
「まぁ……ね」
都合が悪くなると、苦笑いして誤魔化す。この人の癖だ。独身のマスターに私からアプローチしたときも断るでも無く誤魔化され、そろそろ一週間経つ。
「お店、そろそろ終わりですよね。一服なら、私もご一緒しても?」
「え?」
驚くと、固まってしまうのもこの人の癖。
「ダメですか?」
私より、少し身長の高いこの人は上目遣いに弱い。
「あぁ……んー、でも受動喫煙とか良くないし」
「私にも、一本ください。そうすればいいでしょ?」
「……二十歳だっけ?」
「はい、今日二十歳になりました。お祝い、くれても良いんですよ?」
「……ハハ、敵わないな」
店を出て、一本もらい咥える。
マスターも咥えている。
「火、お願いします」
「ほい」
黒い、百円ライターを渡される。
「……」
店長の襟元を掴み、引き寄せる。
「ん?!」
マスターの目に、私が映る。
近づけた煙草、至近距離の顔。
「火を点してくれ」
困ったように、彼が言う。
二本の煙草に、火がつく。
「フーッ。あ、これモカに合いそうですね」
「あ、分かる?」
嬉しそうに微笑む彼とすれ違った目のクマが酷い青年も、口の煙草を咥えていた。
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