第10話




 というわけで、翌日の私です。

 本日もハドレー国の城に忍び込んでシャルの様子を見守っています。裏庭の木の上から。


 不審者とかストーカーとか言わないでください。可愛い妹をハッピーエンドに導くための行動なのですから。

 なんて言うか、シャルの周りであの子を殺そうと暗躍する奴らの行動が過激になりすぎてる。

 これは仮定だけど、ゲーム本編でその役目を担っていたのはヴァネッサベルだった。ベルが王位継承者になりこの国の女王になるためにシャルを亡き者にしようとしていたけど、この世界のベルはそれをしなかった。

 この世界のヴァネッサベルとして生まれてきた私は、その未来を回避するために家出をして極力シャルの人生に関わらないように徹した。

 それにより、この世界の未来が大きく変わった。シャルを亡き者にしようとする人物がベルから他の誰かに変わったのではないかと私は思ってる。

 この仮定で話を進めると、この世界は恋100でいうところのバットエンドの世界線になってしまうのだけど。


 もし私の予想が当たってしまったら、シャルは死んでしまう。そうなったら、このハドレー国は滅ぶ。もしくは、他の誰かに乗っ取られてしまう。

 それは嫌だ。せっかく平穏に山暮らしをしているというのに、その穏やかな日常が崩れてしまう可能性だってあるわ。

 だって、もしそんな未来になってしまったら、完全に私が原因ってことになるじゃない。私が物語通りにシャルを虐めなかったから、悪逆非道の限りを尽くさなかったからってことになる。

 そんなのゴメンよ。私はこの世界の未来をハッピーエンドにしてみせる。

 そう。この世界の未来は、バットエンドなんかじゃない。シャルが王子様と結婚して幸せになるのよ。


 それに、きっと私のこの予想は当たったりなんかしないわ。

 だって今朝からハドレー国へシャルの護衛任務にやってきたキアノがあの子を守ってくれてる。

 それに、あの二人ったら結構良い雰囲気だと思うのよ。

 キアノの堅物なところを、シャルのほんわか優しい雰囲気が包み込んでくれているようだもの。

 本当にゲームのシーンを見てるみたいだわ。音声が欲しいところだけど、さすがに部屋の中には入れない。

 ここは脳内でイベントシーンを思い出しながら補完するしかないわね。


「……がう」

「な、なによノヴァ」

「がう、がう」

「覗きはよくないって言いたいの? 仕方ないじゃない、昨日も一昨日もあの子は命を狙われてるのよ。心配でしょ?」


 ノヴァったら、呆れた顔してるわね。確かにちょっと、ほんのちょっとだけ余計なことも考えたけど。ちょっとだけよ。

 だって仕方ないじゃない。ゲームとは違う展開が起きてるのよ。私の知らないイベントが目の前で繰り広げられているのよ。そりゃあ見たくなるでしょ。

 ついでに護衛も出来て一石二鳥じゃない。



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