第9話
物陰に隠れ、私は大きく息を吐いた。
危ない。早いところ王子様に会ってもらわないと、私があの子の攻略対象になりかねない。男装が悪かったのかな。
とにかく、こんな怪しいヤツよりカッコイイ王子の方が良いに決まってる。キアノ王子は恋100でも一番最初に出逢うキャラ。無愛想だけど自国愛があって誇りを持った騎士でもある。人気投票は二位だったかな。
キアノ王子に護衛をしてもらって、二人の距離を縮めてくれればあっという間にエンディングよ。
ハドレー国とチェアドーラ国は友好関係もある。これで国も安泰。万々歳。
十分くらい経ち、瓦礫を退けた兵士達が馬車を再び走らせた。怪我をした馬もシャルのおかげで回復したし、これで元通りね。
気が動転したせいでノヴァに崖の上から岩を落とした犯人を追わせるのを忘れてたけど、仕方ない。
この山道を越えれば、キチンと舗装された道に出る。そうなれば、チェアドーラ国は目と鼻の先だ。
さすがに他国に侵入する訳にはいかない。関所を抜けたのを見届けたら、私は帰ろう。
ゴメンね、シャル。私は貴女を見捨てた姉であり女なのよ。だから貴女の王子様にはなれないの。
馬車を見守ること一時間。ようやくシャル達はチェアドーラ国の門を潜り、中に入っていった。
ヒロインと王子様の初対面。正直見たい。見たいけど、ここは騎士の国だしきっと警備も厳重だろうし、私の能力でも危険かな。
でも見たいなぁ。だってここ、一枚絵確定のシーンでしょ。スチルコンプしたいじゃない。
「……よし。ノヴァ、塀を越えるわよ」
「がう!?」
「ちょっとだけよ! 二人がちゃんと出逢ったのを確認したら帰るから!」
「がぅ……」
ノヴァの目が呆れてるような気がする。
ええ、分かってるわ。こんなの完全に出歯亀。野次馬根性よ。それでも見たいの。
私は周囲の視線を他へ誘導させ、こちらへ向かないように姿を晦ます。
中に入り込んだら、魔力感知されないように気配も消して、馬車を追いかける。
チェアドーラ国は騎士の国。ハドレー国のように城はなく、その代わり中央に騎士団協会本部というものがある。自衛隊の屯所みたいなものだと私は勝手に思ってる。
派手さはない。この国の人達は国は人、自身を守るために強さを求めた者たちが集まって出来た国だ。
つまり、かなりの強者達が集まっている。魔法特性も攻撃に秀でたものを持っている人達が多いし、見つかったら完全にアウトだ。
馬車は管理局の前で止まった。
兵に支えられながら、シャルが馬車から下りる。さすが、一つ一つが絵になるわ。
シャルが出てくると、周りの空気も変わる。殺伐とした雰囲気を、あの子の柔らかなオーラが和ませているようだ。これぞヒロイン。
周囲の騎士たちがシャルを見て頬を染めている。モブの兵達なんて瞬殺ね。
「お待ちしておりました、シャルロット姫」
このお腹の底から痺れるような甘い低音ボイス。
シャルを出迎えに来た一人の騎士。いえ、この国の王子、キアノ。美しい黒髪に切れ長の瞳。長身で脱いだらムキムキの細マッチョ。騎士服がとても似合う。
現物はメチャクチャかっこいいわ。あの高身長がシャルの前に膝まづいて手を取るシーンが最高に好きなの。まぁそれはもっと後なんだけど。実際にそのシーンが現実に起こるかも分からないんだけど。
「お初にお目にかかります。ハドレー国第二王女、シャルロット・ハドレーと申します。この度は我が国のお願いをお聞きくださってありがとうございます」
「いえ。昨日の話は聞いております。姫にお怪我がなくて良かった」
「はい。それで、私の護衛についてですが……」
「申し出の通り、この私が貴女の周辺警護を務めさせて頂きます」
「ありがとうございます。白銀の騎士である貴方がいてくだされば、心強いですわ」
おっと。ついゲーム内のイベントを見てるような気持ちでいたわ。いやはや、美男美女は本当に絵になる。
白銀の騎士。この国における騎士の階級だったわね。白銀は最高ランクで、キアノはその白銀の中でもトップの騎士団長。
ゲームではベルが彼を取り込もうとあの手この手とやっていたわね。バットエンドはシャルを庇って死んじゃうの。もちろん殺すのは私なんだけど。
この世界ではそんなことしないわよ。私は常に安心安全を心掛けているんだから。
ともかく、二人の出逢いをちゃんと見れたし、今日はこのくらいでいいわね。
私はコソコソとその場を離れてチェアドーラ国を出た。
誰にも見つからず、大事にならなくてよかった。
ノヴァの背中に乗って帰宅しながら、ホッと安堵の息を吐く。
これでシャルがキアノのことを気に入って、キアノルートに入れば私の役目も終わるわ。
そういえば、キアノルートにはベル以外にも二人の邪魔をしてくるキャラがいたはず。もう少し様子を見た方がいいかもしれないわね。
明日、またシャルのことを見に行きましょう。
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