第8話



 ハドレー国からチェアドーラ国まではちゃんと舗装された道がなく、少し険しい山道を通っていかなきゃいけない。

 私はノヴァの背中に乗ってポーンと飛び越えていけるけど、他の人はそうもいかない。飛翔系の魔法特性を持っている人もいるけど、それはかなりのレアスキルだ。山に籠ってる私は残念ながらお目にかかったこともない。ゲーム内でもそういうキャラは出てこなかったし。

 まぁ、聖獣なんかもゲームで見たことはなかったんだけどね。だから最初は驚いたけど、ノヴァが良い子で助かった。


「……それにしても、魔法があるのに馬車で移動ってのも不便よね」


 この世界における魔法は、私が知ってる魔法のように便利なものじゃない。

 その特性に関するものにしか使えない。だから私は自分の姿を晦ますことにしか使えないし、シャルもそう。確かあの子の特性は癒し。その名の通り、傷などを癒す力だ。実にヒロインらしい力よね。私みたいに人の目を騙すようなものじゃない。


「……あ、いたいた」


 シャルを乗せた馬車を見つけた。崖下のでこぼこ道を通っているのね。これは時間がかかりそうだわ。

 私は少し離れた場所から馬車の後ろを付けることにした。気配を悟られないように気を付けながら、シャルが無事に隣国に着くのを見届ける。

 もう少し道がちゃんと舗装された街道を通っていければ私もそんな心配はしないんだけど、場所が場所なだけに不安が尽きない。


 そう。例えば崖の上から岩が落ちてきたりとか。


「…………ん?」


 上を見ると、何かパラパラと小石が落ちてきてる。

 なんで。どうして。私は目を細めてジッと上を見た。何か、見える。あれは人影?


「……フラグ回収するの早くない?」


 私は慌てて飛び出した。

 馬車目掛けて大きな岩が落とされそうになってる。さすがに阻止するのは難しい。だったら、馬車の上に落ちる前に砕けばいい。


「はあ!!」


 馬車の上に飛び乗り、落下する岩を蹴り砕いた。

 さすがに痛い。そりゃあ落下した岩を足一本でどうにかしようとした私が悪いんだけど、さすがベルの体。鍛えたおかげで見事に岩を砕いてくれたわ。


「きゃああ!」

「な、なんだ!?」

「姫、ご無事ですか!」


 馬車の中から慌てふためく声がして、急停止した。

 岩の直撃を防いだとしても、砕いた岩で馬車には多少のダメージが出る。それに破片が馬に当たってしまった。大丈夫かしら。シャルの力で治してあげられるだろうけど、ゴメンなさい。

 砕いた岩を除去しないと先に進めないだろうから、暫くは足止めね。

 とりあえず私はこの場を離れないと。そう思って馬車の上から降りて物陰に隠れようとした。


「あの! 待ってください!」


 おっと。思わず足を止めてしまった。

 後ろから聞こえてきたのはシャルの声。無視して逃げた方が良かったのに、何で止まっちゃったの私。


「昨晩も私のことを助けてくださった方ですよね」

「……」

「二度もお救いくださってありがとうございます! あの、お礼を……どうかお名前を教えてくださいませんか!?」


 チラッと後ろを見る。

 メッチャこっち見てる。ダメ、後ろを振り返ったら。あのキラキラの可愛いお顔で真っ直ぐ見つめられたらドキドキしちゃう。

 それに私がベルだってバレるわけにもいかない。逃げなきゃ。てゆうか、なんで昨日と格好も違うのに同一人物ってバレてるの。昨日はローブで顔も隠してたのに。これがヒロイン力ってやつかしら。


「……あ、貴方に名乗る名はない」

「あっ! 待って、仮面の方!」


 それだけ言って、私はその場を走り去った。

 去り際にもう一度だけシャルの顔を見ると、物凄く知ってる顔をしてた。


 ヤバい。このパターン。今の私ってヒロインがピンチの時に助けに来る謎のキャラクターみたいなものじゃん。正体は実は他国の王子さまでした、みたいな。まぁ正体は貴女のお姉さんなんですけど。


 何かすごく嫌な予感がしまくってる。私のセンサーが危険を知らせてる。

 だってシャルのあの顔、ヒロインが王子に恋をしたときにする立ち絵の顔と全く同じじゃん。


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