第28話 冗談は笑えるものでなければならない
「あかり姉さーん、一緒に食べよ〜」
「うん、いいよ。どうぞ」
両手に皿を持って私に近寄ってきたので、椅子をひいて座るよう促す。
「それにしても6日間もホテルでの食事になれちゃうと、明日から大変だよー…質素な食事は嫌だぁ」
皿にのっていた料理をハイペースで食べている姿をみて、私も食欲が湧いてきたので料理を取りに席を立つ。
「私も持ってくるから、ちょっとまってて」
たしかに私も明日からは、自炊の安い料理になってしまうので、美味しい料理が食べられる分は食べておこうと、食欲に身体をまかせることにしよう。
「橋本さん、お疲れ様です」
好きな料理を取りに行った先に橋本さんがいた。 さっきの気になる件についてはどうしようか。
「あぁ、四月一日さんこそお疲れ様です。少しだけ時間大丈夫ですか?」
「え?まぁ大丈夫ですけど」
そう言われたら断れない。食事は一旦諦め、2人で食事場から出る。
出たすぐ外にあった椅子に腰をかける。
「…実は今回の企画の視聴率がとれなかったら、プロデューサー降りることになってたんですよね」
「…その話を私に聞かせる意味ってなんですか…」
「君のせいで僕はプロデューサークビだ…」
「…それは本当にすみません…やっぱり私じゃ力不足でしたよね」
なんて重い話なんだ。しかも私のせいなのか。やはり無名の底辺アイドルを使ったから…?
「…というのは冗談です」
と言うと軽く笑って、会話を弾ませようという意思が感じられたので、一安心だ。
「言っていい冗談と悪い冗談がありますからね…私の寿命が1ヶ月くらい縮みましたよ」
「1ヶ月しか縮まない強心臓でよかったですよ。とまぁこれくらいにして、さっきの話は本当です。ただ、プロデューサーをクビになることはなくなりましたけど」
「話が見えてこないんですが」
「四月一日さんのせいで、クビになると思ってたんですけど、結果として四月一日さんのおかげでプロデューサーのクビが繋がりました。本当にありがとうございました」
「え?あっ頭下げられても困ります!」
「まさかそちらの社長の直談判で、いやいや使うことになったタレントがこんなに優秀だったなんて。たまたま最下位の人気馬の単勝に10万円つっこんだら1000万円的中したようなもんですよ」
「よく分からない例えでしたが、私の評価が低かったことはわかりました。どうせごり押しで使ってもらっただけですよー」
ついさっき感謝されたと思ったら、すぐに下げられた。やっぱりこの人自体がジェットコースターみたいなものだ。
「そんなに拗ねないでくださいよ。本当に感謝してるんですから。めちゃくちゃいい番組になったと思います。編集とかまだですけど、確信しました。放送楽しみにしていてくださいよ」
「ふふ…こちらこそ本当にありがとうございました。初めての収録でたくさん学ばさせていただきました。今なら多分東京でもネット番組でみれますよね、私もすごく楽しみにして待ってます」
手を差しだされたので私も手を出した。初日の夜のホテル以来の握手となったが、それよりも力強い握手だった。努力、友情、勝利…まさに少年漫画の展開では。
まだ視聴率的な面での勝利は決まってないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます