第15話 久保さんの過去、そして

ホテルのカーテンから差し込む朝の光で目が覚め…なかった。私の隣から吹きかけられた息によって目が覚めた。

これが恋人だったら、というシチュエーションは中学高校のときに、布団の中でちょっぴりしてた。思春期ならあるでしょう。


まあ、隣にいるのは恋人ではなく久保さんである。



とりあえず、一晩経ってもう一度状況を整理するために、昨日の夜から起床に至るまでの一部始終を振り返ってみたい。





昨晩、何故か同衾を求められ、パニックになってしまった私は拒否することもなく「どうぞ」と受け入れてしまった。

私以上にあたふたしていた久保さんをみてひとまず冷静になったので、私から声をかけた。


「一緒に寝るだなんて修学旅行みたいですね〜。流石に同じベッドってことはなかったですけど」


「その、さっきのは慌てちゃって、一緒に寝るっていっても変な意味じゃなくてですね…」


「大丈夫ですよ。一緒に寝たい理由とか…あればお聞きしたいんですが」


年長者として対話しやすいように間を取りながら言葉を紡ぐ。



「…実は私には姉がいたんです。自分で言うのもなんですけど昔から姉にべったりで…でも姉は3年前に亡くなってしまって…。もう吹っ切れたつもりだったんですけど、四月一日さんが姉に見た目が似てるわけじゃないんですけど、会った時、なぜか姉のように感じてしまって。その収録の合間とか、食事のときとかすごい迷惑でしたよね?それに今も変なこといって迷惑かけてしまって…本当にごめんなさい…」



…少し間をおいて話し出した久保さんの言葉が途切れた。なんて言ってあげればいいんだろうか。

私には姉妹はいない。家族という点でいえば、父はいないが、それは物心つく前からだったので家族を失ったときの心情について理解して、適切な応えを返してあげるなんてできない。


でも、目の前で泣く年下の女の子をほったらかしにするほどダメ人間にはなれないわけで。



「全然迷惑じゃないよ。久保さんが話しかけてくれたから私すごい楽しい時間が過ごせたし、久保さんみたいな妹がいたお姉さんはすごい幸せだったと思う。私なんかがお姉さんの代わりっていうのは烏滸がましいけど、久保さんがよかったらいつでも甘えてくれていいんだよ」


とりあえず抱きしめて言葉をかけたけどこれでよかったのだろうか。ドラマとかで見ると臭いシーンだなんて思ってたけど、実際に自分がその立場になるとそれに近い行動をとってしまった。

でも実際泣いてる久保さんをみて抱きしめたくなったのは事実だし、久保さんのお姉さん代わりになるのだって全然嫌じゃない。


「あっそういえば、おすすめのうどん屋さんがあるんだよね?今から…はちょっと無理かもしれないけど明日収録前に食べにいこっか」


さっきから敬語は辞めて話しかける。距離感は詰めすぎな気がするし、少し引かれてないか不安だった。

なぜなら久保さんが私の腕の中から出てきたから。

しかしその心配は直ぐになくなった。


「…うん」


涙はでているものの、辛そうな表情は消え、少しかもしれないが、今日見てきたような笑顔を含ませてくれた。そのまま久保さんから抱きついてきた。


「…あかり姉さんって呼んでもいい…?」


「…うん」


微かに震える久保さんを再度抱きしめ、頭を撫でる。

気づくと私の頬も濡れていて、久保さんに気づかれないようにさらに強く抱きしめる。


何分ほどが経ったか、徐々に久保さんの呼吸も落ち着くのにつれて私も腕の力を弱めていく。



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