第10話 テレビ局員さんとのご対面
おぉ綺麗だな。
地下鉄から降りて地上の景色が目に入る。
なんというか揺れている柳の木?でいいのだろうか、その近くのベンチで話すカップルや、ランニングに勤しむおじいさんなどが、初めての地に来たということを感じさせる。探せば東京でもそんな風景を見ることは可能だろうが、雰囲気というものである。
「すみません、四月一日さんで間違いないですか?」
視線の先に写った男性と目が合い、声をかけられた。
「そうです。本日から宜しくお願いします!」
首にかけたテレビ局員の証明証が視界に入った。それに伴って心臓の鼓動が自分でも分かった。
ついに仕事が始まるのだと実感する。
「中尾と申します、こちらこそ宜しくお願いします。とりあえずメイクを軽くして、衣装は多分このまま大丈夫だと思うんですけど…。一旦あちらへいいですかね」
おぉ…これがテレビ収録。久しく味わってこなかったこの感じ…。
嘘です、見栄を張りました、初めてのテレビ収録です。めちゃくちゃ緊張しています。
とりあえず深呼吸しよう。
「一応これが台本です。話とかは四月一日さんの好きなようにしてもらって大丈夫ですので、流れだけこの通りにお願いします」
「は、はい」
緊張するけど、コンビニバイトで培った厄介なお客の無茶振りへの対応を思い出せば少しは落ち着くことができる。ありがとう厄介なお客様。よし、とりあえず内容を覚えよう。
「すみません、私、久保がメイクさせていただきますね〜」
「あっお願いします!」
集中しすぎて周りが見えなくなるのは良くない。現場での人間関係、そして何を求められているのかを考えないと。
「四月一日さんってずっと東京に住まわれてるんですか?」
「そうですね。九州に来るのが今回初めてなので、すごい新鮮な感じです」
「じゃあこことか、是非いってみてください。ラーメンが美味しいんですよ」
「あっ…ここさっき行ってきました。評判いいお店だったので」
「まじですか?じゃあうどんとかどうです?時間があるとき一緒に行きません?」
「是非お願いします」
何故か久保さんにめちゃくちゃ気に入られた気がする。そういえば、メイクさんって会話はするけど、一緒にどこか行くかなんて言われたことないな。まぁテレビ収録の場じゃないし、ちっさいイベントだったから言われなかっただけなのか?
「四月一日さん、プロデューサーの橋本です。今日から1週間ほどですが宜しくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「とりあえず現場は私含めて10人満たないくらいですので、あまり緊張せずに、ベストが尽くせるように私たち全員で頑張ってやっていきましょう」
「はい…!」
大体の流れは覚えたし、この地に対する知識が全くない私がするべきことは、新鮮な反応。前もって収録場所が教えられなかったのは多分知識はつけてくるなということのはず。
まずはフレッシュさを出して…あとは何がある?
今できることといえば、下手くそな九州弁で場を和ませることくらいかな。いや…なんだその方言は、ってキレられたら不味い。先に確認とっておこう。
「すみません、私の下手くそな方言を番組内で使うことって大丈夫ですかね?」
「そうですね、問題ないと思いますよ。どうせなら定期的に出していって徐々に上手くなっていく姿を収めたり、撮影先の人に方言を出して貰うのもいいかもしれませんね」
「わかりました。ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ番組のことを考えてもらってありがとうございます。四月一日さんって九州初めてなら、色々と知らない言葉を聞くことになると思いますし、新鮮な反応楽しみにしてます」
よし、許可もとれたしプロデューサーの考えとも合致してる。大丈夫、私はできる。軽く震える右手にぎゅっと力を入れた。
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