第7話 過去

…私のアイドルとしての初活動は中学校に入学した頃に遡る。アイドルとして入った場所は、小さな事務所だったが周りは優しくて、最年少ということもありそれなりに楽しくやっていたと思う。

ただし、全く注目を浴びることはなかったが。

当時の私なりに考えてこのままじゃ駄目だと思い、次に入った事務所…それがガーベラプロダクションに入る前まで、私が所属していて、4年前になくなった事務所だ。


まぁこの事務所で起きたとある出来事が私の心の傷になってる訳である。


その後、心の傷を負った私は少しの間アイドル活動に励む気が起きず、このまま就職しようかなと思っていたときだった。ふと開いた雑誌に載っていたヤツを見つけた。そのページを食い入るようにみて、イラッとした。


「あなたがこの世界に入ったきっかけは?」



私は知っている。彼女とは同じ事務所で、中学の同級生だから。お互いの名字が特徴的で仲良くなったのだ。2人合わせたら十二月二日だね〜なんて言って、売れないまま大学生になってもこの世界から抜けずに一緒に頑張ってきた仲だから。よく話してたからきっかけについて聞いたこともあった。そのとき彼女が本気で語っていた言葉が、そのページには載せられていなかった。


そんな彼女は、たまたま大手のプロダクションの人の目にとまって、スカウトされて、事務所を移籍してメディア露出が増えた。

それは喜ばしいことだった。私たちの事務所全員で喜んで祝賀会を開いて応援したし、私にとっては、少し悔しい思いもあったが、彼女みたいに頑張ろうと思っていた。


あのときたまたま彼女が移籍先の事務所のマネージャーと話している姿をみるまでは、だが。


「まさか売れないメンバー置いてきぼりにして私がスカウトされるなんてラッキーよねー。特に四月一日のやつがすっごい悔しそうなのに無理して笑ってて超ウケたんですけど!」


「八月一日さん腹黒いな〜!ずっと一緒にやってきた仲じゃなかったの?」


「それはそうだけど?まぁアイツ無駄にいい子ちゃんの癖に変わり者だからこんな私の引き立て役になってくれたことには感謝してるかな」



その後の記憶は曖昧だ。たしかその場から早く離れたくて、走って家に戻って引きこもって泣いたのは覚えてるけど、しばらく彼女とどう接すればいいのかわからなくなった。結局その後彼女とどう接していたのか…あまり思い出せない。多分その時は怒りよりも悲しみが強かった。今は怒りの方が強いが。


後に、中学生時、私が好きだった男の子に、私の悪口を言ってたことや、その後その子と彼女が付き合っていたみたいな話もでてきて、その時は本当に人間不信になりそうだった。


まぁ、何が言いたいかというと、いつか同じ番組で共演したならば、暴言のひと言は言ってやりたいし、あの落ちこぼれがここまで来たのかと、ぎゃふんと言わせたるからな首洗って待っとけや!

テーブルに350ml分軽くなった缶をバンっと叩きつけた。



「結局飲んじゃったよこの子…。まぁ泥酔してるわけではないから話すけど、今後のあかりちゃんの活動についてなんだが」


過去の話を思い出したら飲みたくなるものだから、許してください。ほら、同窓会とか忘年会とか過去の話で飲みまくるじゃないか。


「えぇと…何かあったんですか」


今後の活動内容…売れているアイドルならば番組収録やら雑誌のインタビュー、CD収録などなど忙しいものとなっているだろうが、私の活動内容は「特になし」である。

笠井さんには私のスケジュールはいつでも抑えてもらっているのだが、スケジュール帳は真っ白である。残念ながらバイトの予定しかないので!


このままじゃいけないと思ってはいるんだけど、頑張れば結果がでるという考えはこの世界では通用しない。

人一倍、いや人十倍努力してる子が売れないのが当たり前なのだ。


「まぁ喜ばしいことに、社長の営業の甲斐あって、ようやく仕事がとれたんだ」


「…本当ですか」


この事務所に入って以降、やった仕事は地元のお祭りやヒーローショーやらの司会進行くらいしかない現状だったけど、ついに仕事が…!


ここから私のシンデレラストーリーが始まる…?

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