第弐拾四話 朱色の空に交わる自分哉
ひとまず無事運命の会議を乗り切ったことから生徒会室には安堵の空気が流れていた。
「
「いやー
言葉に合わせて紫水くんの背中を思いっきり叩く。
紫水くんは痛そうに背中をさすっている。
結構いい音したもんね……。
鈴望さんはニコニコしてとても上機嫌なのがうかがえる。
いつも以上にハッピーオーラが体中を包んでいる。
「鈴望先輩嬉しそうですね」
「プレゼンも特段悪いところ無かったし、うまくいったからな。今回は頑張ったと思うよ」
ナツさんも嬉しそうだ。普段は顔がこわばってる時が多いけど今日は柔らかい。
「それ本人に言ってあげないんですか?」
「言うと調子乗るからな」
鈴望さんはナツさんに褒められるの好きだからなー。
でも、今日のは鈴望さんプレゼン良かったし、ナツさんに褒められてもいい気がする。
たまには鈴望さんに報われてほしい。
「今回ばっかりはいいのでは?」
「水無月がそこまで言うならたまには素直に褒めてやるかー」
鈴望さんが上機嫌のままドヤ顔を携えてこちらに向かってきた。
「ナツよ。私の発表に恐れおののいたのであろう」
胸を思いっきり張って鈴望さんの背景には「ドーン」というオノマトペが見える
「だから無い胸張、もごぅ――」
私は鈴望さんの地雷を踏みぬこうとしていたのを慌てて引き留める。
「(ナツさんそれは言っちゃいけませんって)」
「(それはわかってるけど調子乗りすぎだろ)」
「ふふーん。凄すぎてどこを褒めたらいいかわからないのかー」
「なぁ水無月」
「はい……」
「さすがにうざいぞ。これ」
「もういいよな」
私は返事をしない。沈黙が返事。
ナツさんはさっきまでの菩薩のような顔が嘘のように変化している。
「おい、鈴望」
「なに~?ってあ、ああれ?なんでそんな般若みたいな顔してるのかな?」
「鈴望が調子乗ってるからだろっ!」
ナツさんお得意の手刀が鈴望さんの脳天に炸裂する。
「イッターーーーーーイ!!!」
悲鳴が生徒会室にこだまする。
鈴望さんは頭をおさえながら涙目だ。
「私、頑張ったのになんでこんな目に遭うの……」
「褒めて褒めてって言ってくるやつは褒めたくなくなる」
「うぅぅ」
さらにナツさんは追い打ちをかける。
「それにうざい」
「そんなに言わなくてもいいじゃん……」
肩をがくりと落とし、その場に女の子座りで座り込んでしまった。
ナツさんはそんな鈴望さんと目線を合わせるために膝を折りたたむ。
「鈴望、何か勘違いしてるぞ」
「勘違い?」
座ったまま首を傾げる。
「なぁ?
ナツさんは首を右にひねり、机で今日の資料を見ているアオ君を見る。
「今日の会議ではただ俺たちが提案したものが多賀城市側に受け入れられたにすぎないからね。これとあやめ祭りが盛り上がるはイコールじゃない。さらに言えばあやめ祭りを盛り上げるのは目標と手段の2つを含んでいるからね」
「というのは?」
「多賀城市の知名度を引きあげることが目標の1つなわけだから、それにあやめ祭りを利用するわけだからね」
アオ君は冷静に今の状況を説明する。
「た、たしかに……」
「まだ何も成功してない。ただその土俵に立ったに過ぎないってことよ」
アオ君は立ち上がり、こちらに向かってくる。
「でも、今日の会議で俺たちの案が受け入れられなければその土俵にすら立ってない。だから鈴望は大きな仕事をしてくれたって思ってるよ」
「お疲れ様、ありがとね」
流石アオ君。フォローを忘れない。
なるべく傷つけないように言葉を選び、声音を優しくしつつこの場を引き締める。
「まぁ、会長さんがそう言うなら」
ナツさんは顔を合わせないまま鈴望さんの頭をポンポンと撫でる。
鈴望さんも顔を下に向けたままのため表情はよく見えない。
けれど耳がどんどん赤く染まっていくことはここから確認できた。
「んん~~~~~~~~」
鈴望さんは声にならない声を上げ、今の状況に耐えられなくなったのかバっと勢いよく頭をあげる。
「ナツのバカっ!」
「なっ……」
「不意打ち禁止って約束したじゃん!」
「いつだよ!」
「中1のとき!」
「覚えてないわっ!」
「ばーか、記憶力なし男!脳みそダチョウ!」
「なんで褒めたのにこんないわれなきゃならんの……?」
鈴望さんも逆ギレしちゃってるけど、気づかないナツさんもナツさんだ。
にぶいなー。
生徒会室は今日も賑やか。
アオ君も笑っている。
けれど。
何かを隠そうとしている。
何か心にしこりを残している。
そんな気がする。
さっきの会議でのあの発言。
アオ君は本当は何か言いたかった、確実に言おうとしてた。
それをすんでのところでこぶしをぎゅっと握って抑えた。
私にはそれが見えていた。
「じゃあ今日はこれで解散ね。また来週から忙しくなるからそのつもりで。」
「「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」」
帰り支度をして、鈴望さん・ナツさん・紫水くんはもう帰ってしまった。
アオ君に今日のことを聞かないと。
そう直感で思った。
「アオく――」
「千坂君、今日一緒に帰らない?」
私の声と重なるように。
聞き慣れた声によく似た音。
「ん? 凪、何かあった?」
汐璃さんの陰から顔だけを出して反応してくれる。
「あ、いえ! 日曜日お母さんがご飯食べに来ないかって言ってたので」
「あー日曜日か……」
「今応えなくても大丈夫ですよ。また明日にでもいいので。都合付かなければ断って下さい。また別日に誘いますから」
「了解」
「じゃあ私はこれで」
私は逃げるように生徒会室を後にする。
姉さんなら……。
そう思う自分といつまでも変わることのできない自分に嫌気がさす。
空は朱色に染まり始めていた。
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