多宰府高校生徒会執行部
第壱話 荒ぶる心は凪ぐ哉
桜の花がここ東北の地宮城でも見ごろを迎え始める卯月。宮城県
生徒会長にこの度当選した私、千坂碧は校舎4階左端にある生徒会室へと歩みを進めている。
「あ、アオ君」
2階から3階の間の踊り場に来たところで下の階から声をかけられた。
「お、凪」
声の正体は
一つ下の高校一年生であり、生徒会執行部書記。
そして、
艶めく黒髪が目を引き、顔の輪郭にそって美しくゆるく弧を描きながら、肩に触れるか触れないかの位置で切りそろえられているボブが印象的である。
制服の着こなしも校則を遵守しており、動作や所作からも真面目でおしとやかな雰囲気が感じられる。
「今から生徒会室ですよね? 一緒に行きましょ」
「それはもちろんいいんだけどさ、まだ時間に余裕あるからわざわざ走ってこなくてもいいのに」
凪は階段を駆け足で登ってきたからか息を切らしている。
「いや、これはですね別にアオ君を見かけたからとかではなく、一年生だからなるべく早く生徒会室にはいたほうがいいかなと思ったからでして」
わたわたとせわしなく両手をぶんぶんと顔の前で左右に振っている。
「アオ君と言葉を交わしたかったからとではないですから」とかなんとかぶつぶつ言っている。
何をそこまで焦っているんだか。凪は昔からこうである。
真面目で頭も良いのに一人でテンパることが度々ある。
「一回落ち着きなさい。それじゃあまるで俺にすぐにでも会いたかったと言ってるもんだぞ」
「べべべべ別にアオ君に会いたかったとは一言も言ってないじゃないですか。邪推しないでください」
凪は唇を尖らせる。
普段は真面目でおとなしい凪だが、親しい人にはこのようなかわいらしい一面を見せる。
俺にも見せてくれるのは素直にうれしい。
だが、凪のこのような仕草は俺のなかの一つの面影と重なる。
「今の澪にめちゃくちゃそっくりだったぞ」
「なんですかそれ。まあ、お姉ちゃんに似ているってアオ君が言ってくれるってことは褒めてくれていることですもんね。素直に受け取っておきます」
凪は一瞬目線を下に向けてからもう一度笑顔を向けてくれた。
「アオ君」
「なに?」
凪は立ち止まり、少し間をあけて遠慮がちに聞いてきた。
俺よりも20センチほど小さい凪が見上げながら不安いっぱいの面持ちで俺に問う。
「汐璃さんとやっていけそうですか……」
一瞬言葉に詰まりそうになる。
だが、ここで言葉を詰まらせたら凪に心配をさらにかけることになってしまう。
「うまくやっていかなきゃいけないそう思ってるよ、それこそ凪は大丈夫なのか?」
「私は大丈夫です。この前の引継ぎのときにはじめて会いましたが、一見クールに見えますが、その奥に優しさがあって良い人だってすぐにわかりました」
「凪が大丈夫なら俺だって大丈夫です」
そう言って歩きだそうとしたが、凪がついてくる様子はない。
真剣でかつどこか寂しい表情で俺を見つめている。
「大丈夫だって言ってるでしょ。心配してくれてありがと」
俺はそういって凪の頭をなでる。
艶やかな黒髪はなでても絡まる様子はなく、なでるたびにシャンプーのにおいが鼻腔をくすぐる。
「もう恥ずかしいからやめてくださいよ。もう高校生です」
「ごめんごめん。ついね。昔からの癖が治ってないかも」
小学校まではこうやって凪が寂しそうにしている姿を見ると頭をなでていた。
凪も頭を撫でられると嬉しそうにしてくれていた。
あの表情が印象的で今もそのときの癖でついついなでてしまう。
さてとそろそろ生徒会室に行かないとな、会長が初日から遅れるのはよくない。
「……もうずるいです……」
「ん?何か言った?」
「なんでもないですー」
「ならそろそろ行くよ。早く生徒会室に行きたかったんでしょ。それとも本当に俺に会いたかったとか?」
「あーあー何も聞こえません。遅れても知りませんよ、会長!」
凪が俺を追い越していく。
凪との会話のリズム・テンポは昔から変わらない。だからこそ、落ち着く。
不安は凪が吹き飛ばしてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます