第2話 この生意気なロリっ子に復讐してやる!
「っ……!?」
「? どうしたの? レナ」
「あ、あ……」
はっと気が付くと、目の前にテンがいた。懐かしい。幼いテン。私より背も低くて、可愛いテン。頬を染めていて、生意気そうにこちらを見上げているテン。
さっきの言葉を思い出す。
『私とレナに特別な関係が結ばれた状態でないとできないんだ。だからレナが告白を受けてくれた瞬間に戻ることになるけど、私のことは構わず振ってくれていいから』
つまりこれは、告白されて、受けた瞬間だ。そうだ。この頃はまだテンも新人で、個人の研究室が与えられてなかった。共同の研究室を使っていたから、告白されたのは人の来ない第二倉庫。
埃っぽい匂いと、夕方の日差しが差し込む光景。すっかり忘れていた光景。
「ちょっと、何ぼーっとしてるの? 私に告白されたのが、そんなに嬉しかったの? まあ、レナなんか好きになるの、私くらいだろうし、びっくりするのはわかるけど」
いらっ。そうだ。特にこの頃なんて生意気で仕方なくて、いつも上から目線で物を言っていた。いつだって自分勝手で、他人を気遣うって言う意識がまずなくて。こんなやつ、振ってしまえばいい。
そう、この時の私は血迷ってしまった。別に本気で年の離れたこの子を好きだったわけじゃない。
でも私は研究者になるにはあまりに幼い彼女の世話係も兼ねていて、まずテンが絶対出世するのも目に見えていたし、嫌われても面倒で私の出世にもかかわるって打算もあった。どうせ子供だからそのうち気が変わるだろうし、私もすぐ結婚する気なんてなかったから、しばらく相手をしてあげようって。20歳くらいまで恋人ごっこに付き合ってあげようって。そう思って告白を受けたんだ。
でもそれは間違いだった。年の離れた彼女に本気になるべきじゃなかった。まして制度上結婚できるのに、同性でも子供ができるような魔術ができたら結婚しようなんて言うまだ成人したてのテンの口約束で32まで待つなんて、本当に私は馬鹿だった。
あれからそれを研究しているそぶりだってなかったんだ。もしかして本当に、籍を入れる気なんてなかったのかもしれない。私のことは好きだったろうけど、籍とか子供とか、面倒なことはしないと思ってたのかもしれない。
とにかく、こいつと付き合ってもいいことなんてない。言われたとおり、即刻振ってやる。
「テン、あのね」
「! い、いきなり呼び捨てするね。ふーん……いいけど。私のこと、心の中ではそう呼んでた? もしかして、その……レナも、前から、私のこと好きだったりするの?」
「……」
真っ赤な顔でもじもじしつつも、隠し切れないにやにやでそう聞いてきた。
か、可愛い。え、なにこれ、ほんとにテン? え? 可愛すぎる。そっかこの頃はまだ、一応形は上司だからテンさんって読んでた。うん、その……私のこと好きすぎるね。くっそ生意気だった記憶なんだけど、よく考えたら私も18なのに、11歳のテンに真正面から付き合いすぎなんだよ。今見たら、普通に可愛い。生意気なのも可愛い。
本気になったのいつだっけ。一線超えたのは15のテンの誕生日だけど、それより前にはもうその気になってたよね。そうか。……べ、別に、ロリコンとかじゃないけど、ちょっとくらい付き合ってもいいかも?
告白受けてすぐ断るとか、からかってると思われて印象最悪になっちゃうし、とりあえず転職するつもりはないんだし、当初の予定通り、私が成人するまでは付き合ってあげてもいいかな? それから振ったほうが、テンへ私を振った仕返しにもなるし……?
「ま、まあ……えっと……可愛いとは、前から思ってたし。その……好きは好きよ」
「そ、そうなんだ……じゃあ、その、よかったね。まあ……レナのことは、幸せにしてあげるから。その、安心していいよ」
「んん、うん。その、よろしくお願いします」
可愛い。お、落ち着け私。可愛いし、好きだけど。でもさすがにまだ、本気になる年齢じゃない。まだ子供すぎるし?
ていうか、本気にはならないし。こいつ今はこんな可愛いけど、最後は自分勝手に結論出して私のこと振るわけだし。折角時間が戻ったんだし、ちょっとくらい可愛いロリっ子なテンを堪能するけど、今度は私がこいつを振ってやるんだから。
絶望するがいいわ! まあ言っても職は失わないだろうし私以上の絶望はないだろうけどね!
「ん」
「うん……」
私はそっぽをむいてだされたテンの手をそっと握った。恋人になった握手。そんな純情なやり取りに胸がきゅんきゅんしてしまったけど、でも、絶対、今度こそ手遅れになる前にテンを振ってやるんだから。もう二度と! 本気になんてなってやらないんだから!
○
と決意して、数年後。以前とは違って、ロリだろうとテンではあるので性的な目で見るまで時間はかからなかったし、こいつどうせ私のこと自己都合で振るしな。と言う怒りは常にあったので成人を待たずに手を出したし、ちょっと無知なのをいいことに前回はお互い手探りで純情路線だったのを好奇心のままにちょっと色々してみたりした。
結論。可愛い。テン、めっちゃ可愛い。基本的には前のままなんだけど、ちょっとエッチな面で私にリードされてるからそれを盾にすればちょっと気弱な感じなったりして、可愛い。すごい可愛い。本気にならないとか無理。
前のテンも好きだったけど、この可愛さ極振りのテンも好き。どっちも基本テンのままだけど、ちょっと年下らしい甘えた感じだしてるのも可愛いし、こんなの、好きになるでしょうが!
「テン、好きよ」
「あ、うん。私も好き。どうしたの急に」
「成人したでしょ? 昨日」
「うん。したね」
「責任取って結婚して」
寝起きすぐ、ベッドに裸で寝転がったままおはようの言葉もなしに言った私の言葉に、テンはぱちくりと瞬きをしてから呆れたように半目になりつつ掛布団を引っ張って顔を半分隠した。
「……どっちかと言うと、責任取るのレナじゃない? 昨日なんて、成人するからって、い、今までのもあれだし、ていうか、私がよく知らないのをいいことに、だいぶアブノーマルなこと、いや、今更だし、その、私も、嫌いじゃないけど」
あれ、いつのまにその手の知識を仕入れたんだろう。前回では成人した時に初めてだし、そんなアブノーマルとかって知識もなかったのに。ちょっと色々してるから、前より好奇心あるのかな? 可愛い。
今回付き合い始めた当初、いずれ振ってやる! と思っていた私だけど、無理だった。だってこのテン、可愛すぎるんだもん。
でも考えたの。私だって馬鹿じゃない。どんな理由で振られるのかはわからないけど、結婚しちゃえばさすがに横やりだって入りようがない! ここは法治国家。それに結婚すれば魔術研究者の身内として国も保護してくれるはず!
テンが私を好きなのは間違いないんだから、結婚しちゃえば別れることはない。私って天才ね。
「まあ責任とかはどうでもいいじゃない。結婚したいわ。しましょう」
前回、子供を作れるようになったら結婚しようって話になったのは、テンが成人して関係を結んですぐのことだ。法律上は同性婚も許されているけど、子供ができる異性と結婚した方がよかったって私が後悔したら可哀想だから、ちゃんと子供を産めるようにしてから結婚しようとテンが言ったのだ。
私は別に、絶対子供が欲しいなんて思ってたわけじゃなかった。前は漠然と思ってたけど、テンと結ばれた以上無理だと思ったし、テン以上に大切な物はもうなくなっていたから、子供とかどうでもよかった。
ただ籍をいれようがいれまいが関係ないと思ってたから、一緒に暮らせば結婚してるのと同じだし、制度上の物にはそこまで拘ってなかった。でも今回は違う。簡単に別れられないよう、籍をいれてもらう!
「……うん。しようか。全く、しょうがないね。レナは、私のことが大好きだからね」
「生意気ー。そんなこと言う口は、塞いじゃうんだから」
私はちゅっとキスをした。テンを盛大に振ってやろうなんてたくらみはかなわないけど、でも、一緒にいられるなら幸せだから。これでよかったんだ。
それからすぐに、私はテンと正式に結婚した。テンの保護者の許可をとるのはちょっとごたごたしたけど、前回同棲しよってなった時も一回あった流れなので攻略法はわかっていたからなんとかした。
と言っても、成人したてだし、成人前から手をだしていたのがバレてちょっと揉めたけど、テンが本気なのを主張してくれたのでなんとなかった面は大きいけど。
「レナ……愛してるよ。私が幸せにしてあげるからね」
「……うん」
この言葉は、前回も言ってもらっていた。式の時じゃなかったけど、一緒に住むときに。自信満々で、私がいなきゃ駄目だからね、みたいに上から目線で。本当に幸せそうな顔で言うから。だから、私が幸せにしてあげたいと思った。
なのに、私を振った。どうしてなんだろう。あの時、15年を返してなんて言わなかったら。ヒステリックにならずに落ち着いて話を聞けば、理由がわかったんだろうか。
だけどあんな大魔術、いくらテンが天才でも私の発言で思いつきでできるわけない。私に話をした時にはもう、考えていたはずだ。なら、何か、もっと大きな理由があったんじゃ?
……もう、終わった話だ。今ここにいるのも、テンなんだ。テン本人であることに間違いないんだ。私の愛しい、テン。
もういい。もう前回のことは忘れよう。私はテンと、幸せになるんだ。
○
そう、思っていた。今度こそ一生を共に過ごすのだと。私は一切疑わなかった。テンが些細なことで世界が変わるかもしれない、なんてことを言ったから、未来の知識を仕事にだすようなことはしなかった。ほんの少し先回りして効率よくするくらいにした。
前回と同じように、テンと少し街中から離れたところの可愛い家に住んだ。前回と同じように、テンは王様に直接謁見するのが許されるほどのエリート魔術研究者になった。
「え? なんて?」
「だから……、別れよう」
そして前回と同じように、同じ日、別れを切り出された。
「な、なにを軽く、離婚するって? なに、あの、う、浮気なら一回くらい大目に見てあげてもいいわよ?」
二回目だけど、今度は絶対そんなことないと思っていた。だってあれからもう15年なのだ。日付まで忘れていた。だから最近少し浮かない顔をしていたのも、そんな予感は全然感じてなかった。
だけど二回目だから、すぐに思い出して、怒鳴りつけるのは我慢した。そして器の大きいふりをして、冷静に話し合おうとした。
「浮気って、そう言う発想されるのは腹立つんだけど」
「なによ、結婚してるのよ? 他に理由でもあるわけ? 私のこと好きなくせに、離婚する意味がわからないでしょうが」
「いや……好きじゃなくなった。だから別れよう」
だから嘘つくな! とあとちょっとで口から出てしまうところだった。危ない。落ち着け、私。前回と違う、結婚しているのだ。
「ふー……あのさ、世の夫婦が全員ずーっと恋愛状態保ってると思ってるの? 年寄りになってもラブラブカップルなんてごく一部。ほとんどは恋から愛になって、惰性もこみでいっしょにいるの。浮気もしてないのに、恋愛感情なくなったから離婚なんてありえないの。わかる?」
そう、なにせ結婚しているのだ。恋人ではないのだから、そんな簡単に、飽きたから別れるなんて理屈は通じないのだ。
これで二回目。テンの気持ちではなく、何らかの事情があるのは明らかだ。ここは冷静に、その理由を聞かなければ。
「……それは、子供もいる場合でしょ。子供もいないのに、無理に婚姻関係を続ける意味ある? もう好きじゃないんだから、レナにとっても別れて新しい人を探した方が幸せになれるよ」
「っ、黙りなさい! 幸せになれるよ!? あんたが、私を幸せにするんでしょうが! 好きじゃなくなっただあ!? だったらもう一回私を好きにさせてやるわよ!」
人ごとのように言われた、幸せになれる、の言葉にあっさり切れてしまった。だって、だってそれは、あんたが言っちゃ駄目でしょうが!
思わず机の上のコップが倒れてしまう勢いで立ち上がって机をたたいて怒鳴りつける私に、テンはびくっとしながら座ったまま私を見上げ、じんわり頬をそめた。
「そ、そう言うところが……くっ。とにかく、別れるのは決定事項だよ。でももちろん、情はある。おばさんのレナを放逐するなんてかわいそうだからね。ちゃんと、保証してあげる」
「ちょ……っ!?」
か、体が動かない!? は? こいつ、情があるって言いながら人のこと拘束するってどういうこと!? 文句を言いたいけど、口を動かしても声が出ない。指先しか動かない。これ、痛みとかないけど麻痺状態になってるんじゃ? 実務演習でも身内に使わない魔法使うか普通!?
テンはよっと、などと掛け声を口にしながら私の腰を抱くように持ち上げ、ダイニングを出て歩き出しながら話をつづけた。
「お詫びに、レナを過去に戻してあげる。お馬鹿なレナには理屈はわからないだろうから端的に言うけど、私と恋人になった瞬間まで戻してあげるから、そこから私と別れて、私以外の好きな人と、好きに幸せな人生を歩めばいいよ」
「!?」
前回より馬鹿だと思われてる!? 何故、前回より研究のアドバイスしてあげたりして知能指数高めムーブしてたはずなのに。ってそれはどうでもいい!
いやまじかこいつ! どんだけ自分勝手で強引なの!? もう会話すらする気ないってどういうこと!?
テンは倉庫に入って私をおろし、例の鏡を私に見せた。
「今から集中して魔法をつかうから、一回寝てもらうね。大丈夫。目を覚ましたら、そこはもう過去にもどってるはずだから。……ふふ、ずっと怒った顔してるね」
あんたが私を固めたからだろうが! なにを普通に、昨日までと同じような優しい顔で笑ってるのよ。
「ごめんね、強引で。でも、これ以上レナと話したら、決心が鈍りそうだから。ごめん。最後まで、甘えちゃったね。……幸せになってね」
テンはそっと私にキスをして、私は眠気に襲われた。
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