人物紹介・用語・生物解説(第一章)

ここでは第一章に登場した人物や用語、魔法生物を簡単に紹介します。抜け漏れ、誤った表現等ありましたら申し訳ありません。随時修正・加筆しますのでよろしくお願いいたします。


尚、本編をお読みになる際、このページを読まなくても一切問題ありません。登場人物の確認や、もう少しこの世界を知りたいという方のために補足として用意させていただきました(とは言いましたが9割自分自身のために書きました)。

よろしければご一読いただけますと幸いです。

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【登場した人物】

《ユングの丘の民》

・アルメルト・サフラン(アリー)

 主人公。白磁病を患う「塔の国」の貴族出身の錬金術師。自己肯定感が低く、鬱病を患っていた16歳の少女。王立研究所を追放され、不慮の事故で塔の国から落下するも奇跡的にユングの丘に流れ着いた。


・ランネ・アングレカム

 父が所属する調査班に憧れる活気ある少女。魔物や自然環境のことを理解しようとし、同時に母のような立派な治療師ヒーラーになることを目指す。16歳。


・ケイディ・オーク

 狩猟班に所属する無粋な青年。塔の国の民や貴族を嫌う。18歳。


・シイナ・アマウミ(シーナ)

 牧場で家畜の世話をする亜人族獣人種の美しき少女。農作班に属すが魔物専門の調教師テイマーとして故郷のリーベルト共和国から旅をしていた経歴を持つ。20歳。


・コテツ・エンジュ

 亜人族獣人種(虎型)の少年。かつて盗賊に飼われていた奴隷だったが、シイナに助けられ今に至る。ちょっぴり反抗期だがシーナには敵わない。13歳。


・ルミィ・バルビエ

 心優しい農婦。ランネをはじめとする子どもたちを気にかけ、おすそ分けをよくする。40代。


・ミンミン・イーリュウ

 料理屋の店主を務める気の強い女性。人には「ミン」という名前で通っている。美人であり、男性陣に人気。20代らしいが年齢不詳。


・イッチ・ジュピター

 小太りの壮年男性。発酵屋として食糧の保存と酵母の開発に務める。


・ニキ・ニーチャル

 イッチのマブダチのひとり。帽子が特徴の中肉中背の壮年男性。技術班所属の道具屋として物を作り、管理・修繕・売買することを生業とする。


・ワイト・シンク

 イッチらのマブダチのひとり。土木班所属の建築屋を務める細身の中年男性。ツーブロックヘアと眼鏡が特徴。加え細身で背が高いことからノッポ眼鏡というあだ名をつけられている。


《名前だけ登場》

・ダイマン 錬金術士。研究班のひとり。塔の国で錬金術師になることを目指している。

・モノン 錬金術士見習い。ダイマンと共に錬金術師になることを目指している。

・オリビア 洋裁師。塔の国で貴族の服をデザインし、織っていたことがあるらしい。

・ヨハンナ 牧場で務める夫妻。それぞれの名前はまだ不明。40代半ば。

・村長 ユングの丘の村を治める。村人に厚く信頼されており、最終決定権をもつ。


《塔の国アンヘルカイドの住民・王立中央錬金術研究所等》

・シェスカ・ライプニッツ

 第4プロジェクト主任を務める女性。29歳。アリーの実力を評価している。


・マラック・クライゼン

 第4プロジェクト研究員。貴族の出の錬金術師だからか、横柄な態度で人に接する。29歳。


・レニー・カニッツァロ

 第5プロジェクト研究員。錬金術ギルドから抜擢された波風のない男。若く見えるが35歳。


・ルドベック・ベロウソフ

 第1セクター部門長。国内の各研究所で幾度も研究成果を挙げてきた敏腕の錬金術師。44歳。


・リーヴァン・ミラー

 塔の国のある大学府に所属していた錬金術師兼准教授。アリーにとっての恩師の一人だが、自宅にて家族ごと焼死した。その原因は不明。享年39歳。


・ウォーレス・ハギンス

 王立研究所に所属していた錬金術師兼特任名誉教授。アリーのもうひとりの恩師だったが、退職し、取り組んでいた研究「プロジェクトPS1」を彼女に引き継がせた。


・トラス・サフラン

 アリーの父。かつては国の騎士団に所属し、男爵の地位を得ている厳格な人物。兵として征西し、ガンヴルグ東西戦争に参加していた経歴を持つ。40歳。


・ケイト・サフラン

 アリーの母。旧姓はスクラピア。アリーを産んでから不妊症を患う。不幸をもたらすアリーとトラスを恐れ、離婚し家を出ていった。36歳。


・オーリア・サフラン

 アーリアの弟にあたるサフラン家の養子。孤児院にいたときからなんでもそつなくこなし、現在は婚約者もいる。しかし原因不明の植物状態に陥っている。



【現在公開できる用語】※随時追加しますが、第一章内のみに留めます。

・異世界

 我々ホモサピエンスの生きる現実世界とは根本的に異なる宇宙に存在する地球型惑星を指す。水と緑、そして多様な生命に溢れた環境であり、人類という高度な知能を有する文明生物が惑星の大半を支配しつつある。現実世界と異なる点は複数あり、魔法という超高反応性現象を引き起こす魔素ないし幻子の存在、それらによる独自の物質や生物、生態系、果ては人族が現れるようになった(こちらでいう魔族やエルフ等も含むが、人間族も遺伝子レベルで魔法の影響を来している)。神話上では女神ニクラスの生誕から9千年以上経過しているといわれており、人間族以外の文明種族がその頃から栄えていたそうな。


・塔の国

 異世界のとある大陸の北西端に位置する小国。正式名はアンヘルカイド王国。名の通り天をも衝くピラミッド型の巨大な塔そのものが一つの国として発展している(形状は三角漏斗に似る)。その外壁に幾層もの町が建てられている。

 標高によって階層エリアが分かれ、全13の階層が存在する。第1層は王族が住まうとされ、第2~4層は貴族区、第5~8層は上層区、第9~12層は下層区、第13層は郊外区として分類。貧富の差が大きく、下層に行くほど人口は多い。

 他国と比較し技術水準は非常に高く、飛空艇といった航空技術はじめ、熱や電気、魔法による効率的な動力機関、錬金術(合成と精製、分析技術等)、リレーコンピュータの開発が著しい。そのため、世界有数の技術大国と評価されている(それでも上は存在するが)。しかし技術を独占する傾向にあり、同時に軍事にも力を入れているためか、王立研究所がいくつも設立されている。

 とはいえ、国際支援や輸出入のパイプは比較的細く、第13層の存在による土地的隔離が原因とされている。尚国外へとつながる国際鉄道は1本しかない。

 

・第13層

 塔の国の郊外区にあたる危険地帯アネクネメ認定の土地。塔の国の周囲に該当する。

 というのも、無数の魔法生物(魔物)が蔓延り、また不安定な気候ないし危険度の高い魔法現象も発生することから開拓が困難とされているためである。しかし国の発展と脅威の排除のため、冒険者ギルド(魔物狩猟・土地開拓業、あるいは対魔物猟団)が開設されている。彼らの多大な貢献も功を奏し、徐々に開拓はされているが、落とした命の数は計り知れないだろう。

 尚、永住不可能とされるはずの土地に、ユングの丘という集落が人知れず存在する。


・ユングの丘

 第13層に存在する村。ユングの丘はそこに住む人々が名付けたものであり、守護神ユングが守っている地だとされている。人口500人程度の小規模な村だが、農工や土地開拓、狩猟等の文化水準は充実しているように見える(アリー曰く、ひとつ前の時代の世界にいるよう)。塔の国の住民と異なり、魔法を道具なしで使える魔術師の体質を有する者が多い。温厚な者がほとんどだが、この土地ならではか、魔物の対処法を熟知しており、農民や子どもでさえも魔物を駆逐・処理する能力をもっていることが多い。尚、村から西の方角に塔の国がある。


・天時計

 ユングの丘の頂上に聳え立つ白磁の機械仕掛けの時計塔。芸術作品のような姿形をしており、いくつかの宇宙の流動や星々の軌道周期を時刻として示していると云われている。この塔を中心に村が開拓されているも、誰が設計したのか不明。


・ウェルテル河

 村の南側に位置し、北西から南東へとなだらかなカーブ型を地図上で描いている大きな河。村の人たちはそこから大きめの魚を獲ったりしていた。塔の国がそこに排水を流すようになってから深刻な水質汚染が起きており、ヘドロまで蓄積した死の河と化している。それによる土壌汚染も発生しており、生態系は勿論、村の農作物も徐々に影響を来している。

 過去は13層の驚異的な浄化力で事なきを得ていたが、国の飛躍的な技術発展と人口増加によって浄化しきれなくなったといわれている。尚、村の方で対策を施していたようだが、いずれも上手くいっておらず、日に日に悪化していく一方である。

 水深最大6m, 流量200~250㎥/s


・ヘルマン川・ドロテア川

 村の北側に位置するふたつの綺麗な川。流量も流域もウェルテル河より小さいが、村の水資源はここから確保することが主体となっている。生活用水以外にも灌漑によって農作物を育てたり、畜産にも重宝されている。


・魔法

 異世界特有の不可思議な現象。物理化学や量子力学的な法則を基盤とするこの世界で、その常識を凌駕することから、悪魔の力が働いているという意味で「魔」と称された(神は物質を創造し、悪魔は魔法を創作したという)。魔力というエネルギーによって引き起こされる超高速かつ甚大な反応はまるで無から有を生み出すかの如く超常的な現象を発生させる。その魔力は魔素という粒子によって構築されており、その最小単位に幻子があると学説で唱えられている。現在その唯物論が立証されているが批判も少なくない。


・魔術

 ヒトの思念や感情、演算によって超常的な物理化学現象を発生しうるシステムを指す。また、魔法を技術として応用したものを指すことが多いが、近年は魔法と混同して使われつつある。道具や装置、詠唱で魔法を制御することと同義。四大元素や五行思想のもと魔術の傾向は分類されており、相関を明らかにすることで適切な魔術を利用することができる。


・魔物

 魔法生物の略称。基本的にここ異世界に存在する全生物(微生物含む)は学術的には魔法生物に分類される(魔素の最小単位である幻子によって生体分子の骨格の一部を構成しているため)が、一般的に魔物は動植物とは別種と扱われがちである。それは体内に存在する魔石の有無で判断されるためである。

 真核生物圏の中に有核類と無核類とで分かれており、前者は魔法生物ファーディ、後者は神術生物カラマシと呼ばれる(退ける創世のの綾錦繡から解けた糸が、命の神によって新たな命へと生まれた意味からその名がついた)。ただ、稀だが個体によって有核類でも分泌されることはなかったりする。何を以て魔石を作る生物が現れるのか、なぜ体内に貯蔵するのか、どのような生成メカニズムを有するのか等、謎は多い。

 尚、そのどちらでもない精霊的存在を妖精霊類エレミンと呼ぶ(現実世界で言うウイルス的存在も現在はここに分類されている。遠い未来、ウイルスが発見され、エレミン説が否定されるのはまた別の話)。


・錬金術

 唯物論に基づき物質を扱う学問。それは魔法でさえもひとつの物質のやりとりとみなし、万物の真髄や仕組みを解明ないし素材の研究開発をする。それをもとに、科学の発展に貢献する。初期は哲学や心理学の色が強く、精神や魂の質を問う観点が重視されていたが、近年は物質から生命への学術的展開がなされており、国によって人工生命や黄金錬成、不老不死の研究をしているところもある。


・数術

 数学を扱う学問。この学問があってこそ、この世界は成り立つとされる。ただ本編ではほぼ扱わない予定。


・占星術

 星を読む学問の総称。星詠みとも。天体を扱うのか、医術や錬金術、魔術に貢献するのか、運勢を占うのか等、同じ占星術でも目的によって詠み方はさまざまである幅広い学問ともいえるだろう。


・狩猟班

 魔物を狩猟することを専門とし、ユングの丘の防衛、または食材調達を行う調達班の補佐ないし生態・土地調査を行う調査班の護衛を務める武装集団。特に戦闘に優れており、強いものならば竜をも狩る実力を有する。ケイディが若くもここに所属している。


・調査班

 摩訶不思議な13層の土地や地下空間ダンジョンを調査し、新たな生物種の発見や生態系を観察するフィールドワーク集団。6~24か月は遠征し、未知が多い13層の土地を解明することでユングの丘の永続と発展に貢献する役割を有する。そこそこ戦闘能力は高くとも、狩猟班や治療師の動向が必須とされる。ランネの両親がここに属する。


・ギルド

 国内の総合産業者間職業別組合局。集会所とも。国によってその意味合いは様々だが、ここでは多様な職業をひとつの巨大な組織として運営し、仕事を斡旋してもらう組織である。互助会とは異なり、各塔層主の管理下にあり、かつ手に職をもつ民の生活保護や作業の安定化のためにお互いが手を取り合って助けているまた、15歳以上の雇用機会を確保するための施設でもあるので、職業訓練・職業安定所としての役割もある。登録費と市民権があれば会員として登録できる。尚、土木や機械、商業、錬金術等、ギルドの種類は多い。市民の誤解が多いが、金融機関や騎士団(軍事機関)はギルドとは別である。

 また第13層の開拓と魔物の討伐を主とする冒険者ギルドは特殊ギルドともいわれており、騎士団(対人軍)に匹敵する戦闘能力が最低限必要とされる(尚治安は良いとは言えない)。


・教会

 王家教部省のもと設立された宗教機関の呼称。国の地盤でもある巨塔そのものを神像とし、崇拝する。天界に住む神アーケネア・ピルゴスが9つの魔物を一本の巨剣で貫いて、塔の国ができた(一説では、巨人族が建てたなにかしらの建造物あるいは墓と考古学的に論じられているが)。その際、アーケネアと共に戦った英雄の末裔がいまの王族とされる。

 尚、9つの魔物を生み出していた地母神(あるいは母なる魔女)サムエルの呪いにかけられた者は白磁病を患うと信じられてきており、科学が進んだ現在でも尚、その名残は払拭しきれていない。他にも歴史があるようだが……。


・研究所

 塔の国では錬金術や機械工学等の産業的学問を取り扱う研究機関として機能。王立研究所の名前で国内に7か所設立されており、それぞれ特化した専門分野にわかれている。また、第一層に宮廷研究所(通称)という王家直属の研究者が所属する特殊かつ最高峰の研究機関が存在する。ハギンスがかつてそこに所属していたことがある。

 大まかに理事会、局長含む運営統括という上層部の経営戦略のもと、研究所は運用される。その下に部門長、主任が現場の管理を行う。


・プロジェクトPS1

 ハギンスとアリーが着手していた先端的研究事業。ルドベック曰く、事業化及び産業化に成功すれば国は大きく発展するといわれているが、研究内容は本編ではまだ明らかになっていない。


・照明石

 外部刺激により光を長時間発する石。熱電機関が発展する前から重宝されており、火がなくとも光の役割を果たした。蓄光タイプと発光タイプとがあり、質のいいものは長寿命。中でも、鉱物をエネルギー源として強く発光する微生物分解タイプが現在よく使われている。


・ケノンポンプ

 物質の根源アトムを取り除き、無限の空虚な空間を作り出す装置。いわば真空ポンプのこと。真空の存在と簡易的な技術は古くからあったが、熱電機関とポンプ技術の発達により実現した。国内では吸引に用いられることを主とするが、研究所での利用が特に多く、減圧による乾燥はもちろん、酸化や加水による副反応を抑制する役割をもつ。


・錬金炉

 錬成を促すための加熱攪拌かくはん容器。素材はセラミックとも金属とも言い難い。錬金術には必要不可欠なもの。ガラス容器での攪拌(系内の反応)とは異なり、魔法的な反応を引き出すために使うことがある。単系調合法ことポーカス法では、錬成釜と錬成炉は必須。昔は開放系の錬成のみだったが、専用の錬成蓋による閉鎖系での錬成が可能になったため、作れるマテリアルのバリエーションは増えた。


・熱電機関

 蒸気機関の次世代を往くメカニカルテクノロジー。熱力学や魔動力学、エネルギー変換工学等の進展により、化石資源由来動力より熱や電気、真空、プラズマ等の発生を可能とした。再変換により運動や光、魔法等の仕事へと応用できる。魔術や力学的な仕事で動力を得る例もある。


・白磁病

 髪や瞳、肌が白磁の如く白く濁る病。感染性は皆無。後天的に患うことはなく、遺伝病だとされるが、その条件は明らかになっていないため、突然変異ともいわれる。アリーがこれになっており、宗教的・社会的に忌み嫌われてきた。外見以外の症状としては特筆することはなく、謎が多い。かつてこの病を究明する研究団体がいたが、禁忌に触れたと教会側は激怒し、その結果は闇とともに葬られた。尚、アリーは比較的虚弱体質であり風邪もひきやすく、日光に対し刺激を強く感じたりもするが、白磁病との関連性は不明。


【魔法生物】

・ランブリシナ・ターモリシス

 環口竜蟲類(メミエズ)の一種、いわばミミズに近い魔物だが進化系統的に竜の仲間であり、竜から二次的に単純化して進化したもの。大きさは種類によってさまざまであり、数センチ程度の紐程度の大きさから、長さ数メートル太さ数十センチの個体もいる。本編では局所的な地震を起こすほどの巨体がランネの家の真下を通過した。村では豊穣の守護霊とされている。


・羽兎(レピトラガス)

 兎に似た体型に蛾のような形状の毛羽をもつ魔物。大きな目は凝視すると複眼である。尾は魚のようなスペード型だが、毛と鱗のような外殻があるので、見た目だけではどの生物に分類されるかは不明。夜行性であり、直射日光を嫌う。鱗粉が薬の素材になる。寒冷期になると毛量は増える。尚、肉はとろとろしており焼きにくく、鼻につくような味がするので食用にはならない。かわいい。


・猫獣類(フェリス)

 骨格、外見共に猫に似た獣型の魔物。どこにでもいる雑食。下層区では食用として扱われているが、貴族区では愛玩動物として買う者もいるが、それを是とするかは賛否両論である。ただ気持ちを落ち着ける香りを放つことは報告されており、飼育したり毛皮が売られたりしている。


・狼牙類(バルカノカニス)

 骨格、外見共に狼に似た獣型の魔物。近似種に犬に似た魔物も存在するが、この世界でも飼いならすことはできるようで、狩猟の補佐として活躍する種もいる。


・鳥獣(シルダリア)

 鳥の上半身と獣の下半身をもつ魔物。グリフォンに近い。抱えられるサイズがほとんどだが、中には馬と同等の大きな個体も確認されている。騎士団で新たな搭乗獣として開発しているという噂がある。

 希少性は高くなく、探せば街中でも見かける。本編では真っ白な個体が登場した。獣型の魔物に共通するが、真っ白な体表や毛をもつ個体は総じて珍しいとされる。上記2種よりかは食べられる部位も多くおいしいとされているが、逃げ足は速い上、力も強いので一般市民程度の実力だと取って食おうとは考えない。


・齧歯類(ミョモルファ)

 ネズミに似た魔物であり、習性もそれと同じ。街の地下に何種類もの齧歯類が派閥を組んで島を作っているという調査報告がある。国民の人口より多いため、裏の支配者とも例えられている。たまに巨大な個体が町中に出てくることがあり、人の子どもを食らう事件が発生するなんてこともあった。その際は国内の狩人が派遣されることもあるが、場合によっては騎士団が討伐することもある。


・蚕

 この世界にも蚕の名前が称された近似生物が存在する。生成する絹糸の質や遺伝情報等、厳密には異なるが、翻訳的には蚕と同義で捉えてほしい。他にも現実世界と同名の生物が登場するが、あくまで近似種として受け取っていただけると幸いである。塔の国でも養殖がおこなわれており、絹糸を産生している。食べるものによって糸の質が大きく変わる性質をもっていることを発見されて以来、鏡面光沢度の向上や劣化を抑える他、難燃性や導電性、高強度や伸縮性等の機能を付与することが可能になっている。ちなみに錬金術で人工的に糸を作る試みが王立研究所でなされているが、機能性絹糸ほどのグレードには到達していない。


・酵母

 イーストとも。有機物を食す真菌類の総称であり、特定の種を指すものではない。酵母による恩恵は異世界のどこでも与えられており、塔の国も例外ではない。ただ、酵母を利用した技術の展開を意図的に行っている国は少なく、塔の国ではパンを作る以外でも栄養価の高い保存食や防腐剤、効率的な酒の製造等に活用している。食品以外でも薬の作製や火薬成分の培養による軍事応用、香料、特定金属の精製など、あらゆる分野で役立っている。尚、品質改良も容易である。


・縞模様の細長い獣

 ユングの丘の村でちらちらと見かける種族不明の毛並みが綺麗な魔物。成体で子どもの腕程度の大きさ。個体によって縞模様や斑点模様、市松模様や唐草模様とバリエーション豊富。なぜそうなっているかは不明。動きは齧歯類よりも速く、家の中にも当然のように出てくるのでばったり見かけたら軽くビビる。ただ埃やカビ、草の露や汁等を好んで食べるので家の掃除屋として貢献している。害もなく、目がかわいらしい。尚水生生物。川や池で泳いでいる群れの姿が目撃されている。


・空鯨蹄類(ポリロセタシン)

 マークラウ島類に分類される巨大生物。現実世界でいうクジラに似た浮遊生物であり、光学的にその姿はほぼ透過している。が、体調や気分でその調整をしているようで、危機にさらされる以外で透明になったりならなかったりするのは求愛行動かメンテナンスだといわれている。2~4頭程度で群れる。


・粘球刺胞類(アラクノチンダル)

 土の中から膨らむように出現する直径2メートル程度の粘球型魔物。プルプルとしたゲル状であり、ネコのような耳がありかわいらしい。しかし捕食する際は全方位へ触手を伸ばし、一瞬にして丸呑みし、一気に溶かす。熱と動きを感知するが、認識まで時間がかかるので、ゆっくりとした動きで熱を遮断するようなものの裏に隠れることが最適だとされる。本編より、アリーのとった行動は偶然とはいえ正解だった。ただ乾燥に弱く、地表に長時間滞在できないため、すぐに萎み、根状の形となって地中に潜る。

 また、地下に深く根を張っており、ダンジョンの天井から玉糸をいくつも垂らしたり蜘蛛の巣状に光る粘性の細い根を張り巡らせたりする。光につられた虫を吸着させ捕食する。刺胞スライムの仲間にあたる。


・極彩蝶

 極彩色を放つ手のひらサイズの蝶型魔物。残光のように自らの発した色の光を残すことから空間の画家と言われている。放つ光の色は常に変わり、煌びやか。故に非常に目立つので他の魔物に捕食されやすいが、あえて食べてもらえるようにしている。というのも寄生性であり、捕食者の中で数百個もの卵だけが消化されず、腸内で孵化する。幼体期は餌として内部を貪る他、血中を移動し脳に達すれば宿主をコントロールし、捕食してもらいやすい巣の近くで死ぬように操る。宿主の肉体は腐る際、蛹のように変色しては硬くなり、後に大量の蝶がそこを破って羽化する。その瞬間は一種の芸術性を誇るが、生活サイクルを考えるとおぞましいものである。


・黄金鳥

 金の羽をもつ怪鳥。気配を察知すると透明になり、空に溶け込むように消える。赤子でも人間大の大きさであり、最大個体で8,000平方メートルもの屋敷が背中に乗るほどの巨体を誇る。その羽は大変希少であり、冒険者はもちろん、塔の国の間でも高価素材として取り扱われる。ただ金の成分は含まれていない。ある糖鎖の濃度が向上すると無色透明に変色することが明らかになった。

 驚くべきことに声帯が存在しない。そのため鳴くことがないが、特定の波長の種類と強度を精密に感知する器官が眼球にあり、黄金鳥から発する電磁波がコミュニケーションとして機能しているようだ。透明化も含め、居場所が知られれば瞬く間に襲われる環境で生きてきたからこその進化だろう。


・壺腸草(ディオネペア・ジムノテラクス)

 トラップ草とも。地中に潜み、振動と圧力で地表へ向け2メートル大の捕食弁を広げてはバクンと丸呑みし、餌を包み込む。内側に分泌する溶解液は神経麻痺と皮膚を壊死させる効果があるが、1時間以内に脱出し、ただちに水で洗えば問題ない。内部の支柱針を折れば簡単に花弁が開く。分厚い捕食弁の肉質はぶよぶよしており、水処理すれば栄養豊富かつ美味な食材となるので、見つけ次第刈り取るのが良い。根は乾燥・粉砕し抑鬱効果の薬に使われる。

 この植物型魔物は3形態でのライフサイクルを有しており、遊泳期・植生期・揮発期に分かれる。ある程度の栄養を得られたら地中にある胚珠が膨張し、色鮮やかな細長い瓜状の果実(1メートル程度)へと変わる。地面から一本だけ生えたそれの表面から揮発性の高い液体を微細種子とともに分泌する。その液体は直ちにガス化して種子を風に乗せやすくする他、遠方の虫でも誘われて果実に集まるように誘導する疑似フェロモンの役割をもつ。他の花や植物に微細種子が付着すると、日光と温度、酸素濃度の条件が一致すると発芽し、植物の中に潜り込む遊泳期に入る。対象の植物の導管を伝い、根に移動しては栄養をある程度得てから、根を食い破り、移動する間に徐々に大きくなる。ミミズ程度まで大きくなると、土の環境や振動、地表からかかる圧力の変動性が高い場所を探して、最適な場所で根を生やして自らを固定化する。そこから植生期として壺腸草へと成長する。

 

・馬獣類(エクルス)

 馬に似た魔物だが、馬竜類と似ている馬獣も確認されているため混同されやすい(作者自身混同してます)。四足型の駄獣は馬獣と馬竜を採用している。前者は長距離や足取りの悪い地形の移動に向いており、後者も長距離移動に使われないこともないが、パワーがあるので牽引したり戦闘に長けている。


・竜原目(ドラゴン)

 あの有名なドラゴン。生態系の頂点に君臨する魔物の王であるも、多種多様で強さも習性も千差万別である。果ては蟲も竜の一種とされる論文が報告されているので、スライムに並ぶ謎の多い魔物である。変異や進退化に寛容であり、一世紀の間に形質変化する種類が多い。基本的に強いことに変わりないので、どこの国でも会ったらまずは逃げることを最優先としている。種類によるが、大型竜を討伐した者は英雄の資格があるものとして一目置かれるとされる。対魔物を専門とする冒険者ギルドでも竜を狩れる人は限られている。


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次回、二章に入ります。

二章に登場した人物や用語、生物は章末に掲載する予定です。

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